「さあ、できあがり。新鮮な野菜とパン、それとクーケンフルーツを使ったシュタウト家特製の料理だよ!」
出てきたのはシンプルなサラダとパンだった。それでもおいしそうに見えるのは素材が本当にいいんだろう。
サラダの葉物野菜には細かな水滴が浮いていて、シャキシャキとした感じが見るだけで伝わってくる。パンもまたきれいな茶色のグラデーションをしていて、サラダと一緒に食べたときのおいしさが容易に想像できる。
パンとサラダの組み合わせってなんでこんなにそそられるんだろう。身近すぎて気が付かなかった。
「うわあ、おいしそうだねユイカ!」
「はい……!」
そして、目を引くのは見たことのない果物。少し赤みがかった大きな実。これが、クーケンフルーツなんだろうか。
カールさんが言う。
「ユイカさん、このクーケンフルーツはうちの畑で大切に育てたものなんだ。ぜひ、味わってもらえると嬉しいな」
「はい。わたし、初めて食べるのでちょっとドキドキしてます。いただきます、カールさん!」
普段は果物は最後に食べるものだけど、今回は特別。
未知の果物、クーケンフルーツを一口かじってみた。
「んんー……!」
一口かじった瞬間、シャキ、と小気味いい音が鳴った。甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がって、幸福感をわたしが包み込む。
思わず目を閉じて、頬を抑えた。奥歯で果肉をかみしめる。すぐに飲み込むのがもったいない……。
「おいしいぃ……はっ」
はっとして目を開けると、わたしのリアクションを見た3人がにこにことしていた。特にライザさんはちょっといやらしい感じの笑みを向けている……。
「ふふふ、ユイカって結構わかりやすいよね」
「う……だ、だって、おいしかったから……」
……かくして、素朴ながらとてもおいしかった昼食をとり終えた。
さあ、本題だ。わたしは今、モリッツさんから島を盛り上げるお願いをされていることを話した。外の人間のアイデアが欲しいとは言われているが、今のところ何も思い浮かんでいない。
この島のいい所を上手く生かした何かをやりたい、とは思っているんだけれども。さっきのクーケンフルーツをはじめとした料理とか、自然豊かなところとか、水がきれいなところとか……いろいろ、断片的なものはあるんだけど。
カールさんもミオさんも、島の現状に何らかの思うところはあるみたいだった。
「そうだな……農家の視点から言えば、この丹精込めた作物を島の外の人間にもっと知ってほしいな」
「あたしは……そうねえ。最近の村はちょっと静かすぎる気がするんだ。なんか大きなお祭りや行事みたいな、みんながワクワクする何かがあればいいのにね」
島の作物を外の人に知ってもらうお祭り……。うん。わたしも、こんなにおいしいものがクーケン島の中だけで閉じているのは本当にもったいないと思う。
断片がつながって、わたしの中で一つのアイデアが思い浮かぶ。
「そうだ……クーケン島のグルメフェスみたいなことを企画するのはどうですか?」
「グルメフェス……何それ、すっごくワクワクする響きじゃん! ユイカ、それってどんな催しなの?」
わたしはグルメフェスが何なのかを3人に説明した。
簡単に言えば、たくさんの屋台を並べて、対外向けにクーケン島の名産を味わってもらう企画。
それだけでは工夫がないので、そこでライザさんの出番だ。
「え、あたし……?」
「ライザさんの錬金術って、この世界でもきっと珍しいものなんですよね? だから……ライザさんの錬金術にしかできない、このイベントの目玉となるものを、食べ物とはまた別のもので作るっていうのはどうでしょう!」
ライザさんは一瞬きょとんとしたけれども、すぐにスイッチが切りかわった。
「あたし、ユイカの意見に大賛成! お父さんたちはどう?」
「ああ、すごくいいアイデアだと思うよ。さっそくほかの農家や漁師の連中にも声をかけてみるよ!」
「ちょっとあんた、話が早すぎるよ! 第一、ちゃんとしたことはまだ何も決まっていないじゃないか……まあでも、ユイカさんの提案、実現できたらすごく面白そうだねえ!」
この場にいる人はわたしに全員味方してくれるみたいだった。わたしでも、なかなかにいいアイデアなんじゃないかと思う。
実現させるには結構大変かもしれないけれども、わたし一人でやる仕事じゃない。島全部を巻き込んだ一大イベントにするんだから。
……きっと、前までのわたしなら、まずはできない理由を探していたんだろう。でも、今は違う。
ライザさんと一緒だから、何でもできそうな気がする。
結局やってることはライザさん頼りかもしれないけれど……でも、今回は頼ってばかりにはならない。
なぜなら、わたしは元の世界では大人しい優等生で通していた故、乗り気ではなかったけど色んな行事の委員を務めされられたからだ。その経験が、まさかこうも生かせる場面が来るなんて。
わたしが企画して、わたしが物事を進めるエンジンになる……!
「そうだね、お母さん。本当にこれが開催されるのかとか、そういうのはまだ何も決まってない。だから……ユイカ、本格的に動くのなら、モリッツさんに相談しに行こう。きっと協力してくれるよ!」
「そうですね、元はといえばモリッツさんからの依頼でしたもんね。……よし、行きましょうライザさん!」
わたしとライザさんは、ライザさんのご両親に見送られて家を後にした。
広々とした麦畑に挟まれた小道を並んで歩く。
青い空、照りつける太陽。そよぐ風と、木や葉がこすれる音。そして、いたるところから聞こえてくる虫や鳥の鳴き声。
目を閉じて、耳を澄まし、全身にクーケン島の息吹を感じて……ライザさんとともに、歩き出した。