相も変わらず凄まじい長さの上り坂を上って、わたしとライザさんはブルネン家の屋敷の前にやってきた。
その屋敷の前で、モリッツさんは何やら難しそうな顔をして考え事をしていた。
「モリッツさん!」
ライザさんが声をかけると、モリッツさんは顔を上げてこちらに会釈をした。
「む、ライザに……ユイカか! その様子だと、島を盛り上げるための妙案を思いついたようだな?」
「はい、えっと……」
わたしは緊張しながらも、しっかりとモリッツさんに今日あったことを伝えた。
ライザさんの家で野菜とクーケンフルーツをいただき、それがとてもおいしかったこと。
カールさんが島の外に特産品をアピールしたがっていること、ミオさんが何か大きなイベントを開催してほしいと希望していること。
それを踏まえての、わたしの意見。
「クーケン島で、グルメフェスというものやってみませんか!」
「ふむ、グルメフェス……とな?」
モリッツさんもグルメフェスのことをあまり知らないようだったので、軽く説明をした。こういった概念を持ち込めるのは、異世界出身であるわたしの強みなのかもしれない。
「なるほど! ユイカ、お前のアイデアには全面的に賛成だ。……しかし、それだけでは少々面白みに欠けるな」
「……というと?」
「やるからには、村の頑固な連中を黙らせるような、何か大きな目玉となるものが必要だ。これぞクーケン島、と言わしめるような目玉がなければ、このモリッツからの許可は出せんぞ」
それはそうだ、わたしは今、クーケン島に訪れに来る人向けの企画を立てている。
もし思ったよりイベントがしょぼかったら、クーケン島の面目を傷つけてしまうことになる。モリッツさんはそういうのには敏感であり、一切の妥協を許さないような人だった。
でも、わたしには……いや、クーケン島にはライザさんがいる。
「ふふん、それならあたしに任せてよ! モリッツさんをびっくりさせるようなものを作ってみせるんだから! ……もちろん、ユイカも手伝ってね!」
「はい!」
いったん、モリッツさんと別れた。完全な協力を取り付けることはできなかったが、かなりの好反応をもらえた自覚はあった。
……とは、言ったものの。
「目玉……目玉、かぁ……」
いくらライザさんがいるとはいえ、わたしとライザさんだけではアイデアに限界があった。
長い長い下り坂を一緒に歩きながら、考えるが……あまり、ピンとくるものがない。
「んー……困ったときは、誰かに相談してみる? たとえば、クラウディアとか……あ、そういえば今、タオが戻ってきてるって噂を聞いたんだっけ!」
タオさん。ライザさんの幼馴染のひとりということはこれまでの会話で知ってはいるけれども、わたしはまだ詳しいことを知らない。
「タオさん……どんな人でしたっけ? 幼馴染の一人なんですよね?」
「そうそう! 昔はひょろっとしてて、いつも本を抱えて逃げ回ってたいじめられっ子だったんだけど……今は王都を中心に活動している、考古学の立派な学者さんになったんだよ!
タオなら、昔の文献から何かお祭りのヒントを得ることができるかも!」
「なるほど、すごい人なんですね……! わたし、会ってみたいです!」
「よし、決まり! さっそくタオを探しに行こう!」
やっぱりライザさんの周りはすごい人が集まる……というか、むしろライザさんの周りにいた人がすごい人になるのかもしれない。
タオさんは今、旧市街と呼ばれている場所にある、憩いの広場というところにいるらしい。どうやら女の人も一緒に来ているとのことで、ライザさんはそれを聞くや否やにんまりと笑った。
「……彼女持ちなんです?」
「ふふふ……二人は否定してるけど、あれはもう、ねぇ?」
噴水の近くにあるベンチのようなところで、それらしき人は見つかった。
いかにも若き学者といった出で立ちの、眼鏡をかけた金髪の男の人が本に何やら書き込んでいる。そして、その隣に寄り添うように座っている、薄い青と白の混じった細長いポニーテールが特徴的な、凛とした雰囲気のある若い女の人。
「距離、近いなあ……」
「ふふ、二人は気づいてないかもだけどね? ……邪魔して悪いけど、話を聞いてみよっか」
「は、はい!」
ライザさんとわたしは、二人のもとに歩いて行った。ほどなくして、二人はわたしたちの方に気が付き……女の人がライザさんに会えたことに感激したように、立ち上がってこちらに駆けてきた。
「ライザさんっ! やっと、やっとお会いできました……っ!」
わたしが隣にいることも気にせず、その女の人はライザさんに抱きついてきた。
ライザさんより一回りくらい若い印象の人だった。わたしよりかは年上なのは間違いないのだけど、とはいえそんなに年が離れている印象もなかった。
「う、うわあ、どうしたのいきなり!?」
「会いたかったです、ライザさん! お父様との約束を守って、ずっと王都で頑張ってたんですよ……!」
「パティ……! うん、あたしも会いたかったよ! また会えて嬉しいよ、パティ!」
再開のテンションにひとり取り残されたわたし。パティとライザさんに呼ばれた女の人と一緒にいた男の人が、わたしの様子に気が付いてフォローを入れてくれる。
「もう、パティ。ライザの隣にいる子が困っているだろ? ライザに会えて嬉しいのは分かるけどさ」
「あ、ごめんなさい、つい……」
「あはは、いいのいいの。……紹介するね、ユイカ。あの眼鏡をかけた人があたしの幼馴染のタオ。そして、さっきあたしに抱き着いてきた女の子がパトリツィア――あたしはパティって呼んでるんだ」
タオさんと、パトリツィアさん。わたしは二人に軽く自己紹介をした。
「僕はタオ・モンガルデン。ライザからは新しい仲間ができたって聞いてたよ。ライザの無茶に巻き込まれて大変だろうけど、よろしくね」
「ちょっとタオ? ユイカにはそんなに無茶はさせてないんですけどー」
「……ライザさん、ごめんなさい。結構無茶ぶりされてます。槍を持ったばかりのわたしにいきなり実戦で練習しようって言ってきたりとか……」
「ほらやっぱり!」
「う……」
タオさんの鋭いツッコミでたじろぐライザさんを横目に、パトリツィアさんが挨拶してくる。
「先ほどはごめんなさい……初めまして、私はパトリツィア・アーベルヘイムです。よろしくお願いします、ユイカさん」
パトリツィアさんはわたしに丁寧にお辞儀をした。所作が非常にきれいだ。気品もあるし、きっといい所のお嬢様なのだろう。
「いえ、全然気にしてないです。改めてお願いしますね、パトリツィアさん」
パトリツィアさんは少し照れたように、タオさんの隣に戻っていった。
そのスキをライザさんは逃さなかった。
「ふふーん、それにしても二人は相変わらず仲良しだね。もしかして、ずっと二人っきりで調査してたの?」
ライザさんが爆弾を投げ込んだ瞬間、二人は一気に挙動不審になった。
「ちょ、ちょっとライザ! 変な言い方しないでよ、パティが手伝ってくれているだけなんだから……!」
「そうですよライザさん! タオさんは根を詰めすぎるので、私が見守ってないと……!」
と、糖分がすごい。ライザさんの家で味わったクーケンフルーツ並みだ。
タオさんがごまかしてるのにパトリツィアさんが台無しにしている。自覚なさそうだけど。
「ふふっ、ライザさん。あの二人はやっぱり、そういう関係なんですね?」
「ユ、ユイカも何言ってるの!?」
「違います、これはその、学術的なサポートなだけで! 別にその、何もやましい関係じゃありませんっ……!」
わたしはライザさんに聞いただけなのにこの慌てぶり。これで何もないという方がおかしい。
「あはは、もう認めちゃえばいいのにね? 2年ほど前からずっとこうなんだ」
「もう、ライザ……そんなことより! 僕たちに会いに来たってことは、何か理由があるんだろ? 僕たちのことより、そっちの話をしようよ!」
さすがにこれ以上茶化すのはかわいそうなので、本題を相談することにした。
……まあ、また糖分を摂取したくなったらその時聞けばいいし。