Ryzachat:AI ~異世界の少女と秘密の夢~ 作:#NkY
「それにしても、今日はユイカに助けられちゃったなぁ……」
ブルネン邸から戻る帰り、ライザさんが頬をかきながらわたしに話しかけてきた。
「あのモリッツさん相手に一歩も引かないユイカ、とってもカッコよかったよ!」
「あ、あれは、ただ……わたしの考えたことをそのままモリッツさんに言っただけで……それに、これはわたしの考えた企画なので。ライザさんは、それに協力してくれているだけで……」
「いいじゃん。今日くらいは素直に褒めさせてよ。実際、ユイカの最後の一押しがなかったら、説得させる材料がもっと必要だったんだよ?」
「……ライザさんはいつも褒めすぎです」
「ふふ、そんなに照れなくてもいいんだよー?」
「は、はやく戻りますよ、ライザさんっ」
わたしは歩く速度を速めてライザさんの前に出た。
わたしが何かしたあとのライザさんはいつもこうだ。過剰なくらいに褒めて、わたしがどうすればいいのかを分からなくさせる……。
「あいてっ」
「うおっ」
前をあんまり見てなかったせいで若い男の人とぶつかってしまった。しかも、なんだか怖そうな……!
「ご、ごめんなさい!」
「おい、ちゃんと前を見て……って、なるほど。ライザの魔の手から逃げてきたんだな」
「失礼ね!?」
まあ、さすがにもう驚かないけど……この人もまた、ライザの知り合いらしい。
というか、青みがかった銀髪といい、鋭い目つきといい、立ち居振る舞いといい、おそらくこの人がモリッツさんの息子さんじゃないだろうか……?
「こいつはいつも無茶ぶりをして、周りを振り回すのが得意な生物だからな。まったく、気の毒だ」
「こ、このーっ! 言いたい放題言ってくれるわね……!」
にしてはライザさんの嫌味ばっかり言ってくる。とはいえ、お互い本当に嫌ってるわけではないらしいけど。
「ユイカ。このイヤーなヤツがボオス。覚えておいてね」
「は、はい……?」
「フン、まあいい……」
ボオスさんという名前は前に聞いたことがある。あれは、琥珀の軽槍を作るときの素材集めの際に、小妖精の森でランバーさんに出会ったときだったっけ。
あの時は縁談がどうだ、とか言ってた記憶だった。実際、恋愛にまったく興味なさそうな感じだし、まあ……なんというか、実はいろいろと苦労人なのだろうか。
「オレはボオス・ブルネン。……ユイカ・ナカヒラといったか。お前のことは父さんを始めとしていろんなところから聞いている」
「え、そうなんですか?」
「ああ。見ての通りここはド田舎だからな、噂はすぐに島中に回るさ。ましてや、ライザが異世界から来た少女を連れまわしてる、なんて事件は大ニュースだ」
ボオスさんはどこかあきれたような表情でライザさんを見た。
「ちょっと、あたしを不審者扱いしないでよ!」
「……オレとしては、出会ってすぐにユイカを元の世界に帰す方法を探すべきだったと思うんだがな」
「う……まあ、それは……そうだったかも」
思えば、わたしはライザさんに拾われて、元の世界に帰るための方法を探す提案を一回も受けていない。まあ、ライザさんと一緒にいるのが今は楽しいから、全然いいんだけど。
「お前、オレの父さんに島を盛り上げるよう頼まれたらしいな」
「父さん……モリッツさんのことですよね」
「ああ、そうだ。島のためを思う気持ちは分かるんだが、父さんも異世界人を都合よく利用しすぎだ。ましてやこんなに若いヤツを……」
ボオスさんは見た目とは裏腹に、かなり真面目で常識的な考えを持った人のようだ。そして、隠しきれない優しさがにじんでくる。
「いいんです、ボオスさん。わたし、今、楽しいですから」
「……どうしてだ」
「ライザさんと一緒にいると、毎日が新しい発見で満ちていて退屈しないんです。わたしのいた世界とは何もかもが違うから……」
「こんなド田舎でもか?」
「ふふ、いうほどド田舎じゃない気もしますけどね」
ボオスさんはライザさんを見る。
「……なんだかんだ、こいつはライザに拾われて正解だったかもな」
「え? 珍しい、ボオスがそんなに素直に褒めるなんて」
「オレだっていいものはいいと言うさ。……ただ、さすがに元の世界に帰る方法はちゃんと探せよ。家業や島のことで今は忙しいが、できる範囲ならオレも協力する」
「ありがとう、ボオス。……探したい、といいたいところなんだけど、正直手掛かりが皆無なんだよねえ……」
ライザさんは小妖精の森でわたしを見つけた経緯について軽く説明した。
いわく、ライザさんがわたしを発見した時には異界をつなぐゲートらしきものや、その痕跡は一切見当たらなかったらしい。
「異界をつなぐ門とも違うし、『竜の風あと』とも仕組みが違うみたい。実はタオにも聞いてみたんだけど、ユイカのように突然現れた異世界人、というのは古い文献にも全く出てこないらしいんだ」
「そうか、タオですらお手上げか……」
「
「なるほどな……」
ライザさんとボオスさんの言ってることがあんまりわからなかったが、とにかく、わたしの異世界転移の原因を掴めるきっかけが全く無さそうというのは分かった。
もうしばらくはこの世界でライザさんと一緒にいることになりそうだ。
「さて、ユイカはグルメフェス、ってのを計画中なんだってな。今日タオから聞いたぞ」
「は、はい。さっき、モリッツさんから正式に許可が下りて、明日から本格始動するつもりです」
「なるほど。……コイツ、ライザよりできるんじゃないのか?」
ことあるごとにライザさんに鋭い弓矢が飛んでくる。もしかしてライザさんに対して競争心みたいなのがあるのだろうか?
……ありそう。たぶん、この人プライドが高い。有力者の息子なんだもん、そりゃそうなるよね。
「……まあ、否定できないかも。正直、モリッツさんとの話し合いにはかなりユイカに助けられたし」
「いやいや、わたしもライザさんのおかげで思い切った提案ができたわけですから。それに、助けられた回数で言えば、わたしさんの方が圧倒的に上です。
そもそも森で倒れてたところを助けてくれたのも、今のわたしの居場所を提供してくれているのもライザさんですし……」
「でも、異世界から一人で流れ着いたのに、色んなことに前向きで挑戦するユイカもすごいと思うよ。あたしがユイカの立場だったら――」
「……あー、もういいぞ二人とも。つついたオレが悪かった」
ボオスさんに話を遮られ、わたしとライザさんとで顔を見合わせた。
「まあ、なんだ。グルメフェスの件、オレも協力してやってもいいぞ。父さんの、ユイカを使う、という点には同意しかねるが……クーケン島を盛り上げたいという気持ちは一緒だからな」
「ホント!? やったね、ユイカ!」
「はい! ありがとうございます、ボオスさん!」
わたしはボオスさんにおじぎした。何だかんだ、結局みんな優しい。
「……外の人間を呼ぶんだろう。人が多くなると混乱が予想される。当日の警備や人員整理はオレに任せておけ。護り手たちも動員させる」
「おおー、さすがボオス」
「あとは、多くの人を呼びたいのなら王都や他地方への宣伝も打つべきだろう。クラウディアやロミィさんたち行商人に話をつけて、広報役になってもらえるよう交渉する」
「すごいなあ、ボオスさん……」
有力者の息子なだけある。この人、やるときはちゃんとやるし、頭が回る。信頼感がある。
「……フン、ブルネン家の跡取りとして当然のことだ。それに、オレ自身はグルメフェスの中核には関わらない。正直、この手の祭りを盛り上げるのにオレは不向きだからな……
ユイカ。祭りの主催は忙しいだろうが……最後までやりきれよ」
「もちろんです。わたしが言い出したことですから」
「……覚悟のこもった、いい眼をするな。ライザは……大人しくしとけ。じゃあな」
そう言い残すと、ボオスさんはそそくさと退散した。
「ちょっ!?」
去り際、ほんの少しだけボオスさんの口角がくっと上がっているのをわたしは見逃さなかった。