ライザさんはとんでもないことを言い出した。
「ユイカ。あのクーケン島に帰りたいんだけど、舟が壊れちゃってて……一緒に、舟の素材を集めるの、手伝ってくれない?」
「ふ……ふね、ですか? 作れるんです、それって……」
「『錬金術』ならあっという間だよ!」
錬金術。え、今、錬金術って言った?
「錬金術で、舟……? わたしの世界だと、そんなもの非科学的だって、とっくのとうの昔に否定されたものなんですけど……」
意外なものを持ち出されて、わたしはつい、思わず口にしてしまった。
しまった、と思ったけど、ライザさんはそんなことは気にしていないようだった。
「ひ、ひかがくてき? なんだか難しい言葉だなぁ……。 でも、否定なんてされてないよ。錬金術は、あたしたちを助けてくれる、すごい力なんだから!」
ライザさんは、やたら目立つ大きな釜を指さした。
「見て、これが錬金術の必須道具……錬金釜だよ。ここに素材を入れて混ぜれば、どんなものだって作れちゃうんだ。もちろん……舟だって」
「それって、ミニチュアの舟、じゃないですよね? どう見たって、大きな舟がここから出てくるわけないのに……」
「それができちゃうんだ! あたしとユイカが乗れる、ちゃんとした舟が!」
そんな、手品みたいなこと、果たして可能なのだろうか?
確かに、錬金釜からはなんとも形容しがたい、変な香りが立ち上っているし、いかにもなにか物理法則外のことが起こりそうな、虹色の液体が渦巻いているんだけど……。
「あはは、ユイカはまだ信じられていないみたいだね?」
「あ……ごめんなさい。顔に出てました?」
「ううん、大丈夫。誰でも最初はそうだったから。でも、やってみたら分かるよ!」
すると、ライザさんはわたしの手を取って引き、アトリエ……っていってたっけ? この家のドアを、元気よく開け放った。
「まずは舟の材料を集めよう、ユイカ。森に行って、木材やツタを一緒に集めよう!」
「木材と、ツタ? ……わ、わわっ!」
アトリエの外は、本当に異世界だった。
わたしが現実世界ではまるで見たことのないような光景が、眼前に広がっていた。
朝霧の中に、ふわふわと光る、不思議な玉。神秘的で、幻想的で、まるで夢のような――。
「う、うわあ……わたし、本当に、異世界に……」
「あはは、びっくりしすぎだよ、ユイカ。大丈夫、あたしがついてるから」
ライザさんに肩をぽん、と叩かれた。
何もかもすべてわからないわたしが、正気を保っていられているのは、間違いなくライザさんの明るさのおかげだった。
わたしはライザさんに手を引かれて、森の奥へと踏み入る。たしか、小妖精の森、って言ってたっけ。
森の中には、背の高い、青々とした木々が風にざわざわと揺れていた。
足元には鮮やかな色をした草花があちらこちらに生えていた。どれもこれも、見たことのない光景。
「こんなに森っぽい森、はじめてです。わたしのいたところに、こういう自然あふれる森、全然なくって……」
「そうなんだ? あたしにとっては、なんてことない、見慣れた光景なんだけどな」
「ライザさんが住んでいるところって、やっぱり全然違うんですね」
他愛のない会話を交わす。あれ……いつぶりだろう、こんな会話を交わしたのって。
「あ、ほら! あそこの太い木を見て。あんな感じのきれいな木材が、舟の材料に適してるんだ」
ものすごく太い木。神社にあった木よりも、二回り以上も太い。
「足元に生えている丈夫なツタも、パーツを縛る材料に使えるよ。これとか!」
片手で握っても、両手で握っても、指同士が届かないような太いツタ。
ライザさんはそんなツタを、慣れた手つきで抜き取り、そのままカゴに入れた。
「こんな感じで、いいやつを選んで拾っていくんだ。ユイカもやってみようよ!」
「やってみよう、って言われても……」
「大丈夫! ユイカの直感を信じて!」
ライザさんは、とことん実践主義らしい。
らしいといえばらしいんだけど……意外とスパルタなのかもしれない。
「丈夫な木……ツタ……ん?」
わたしは木に絡むひときわ目立つツタを見つけ、それを指さした。
とても太く、弾力とつやがありそうな、わたしの直感で立派に見えたツタ。
「これとか、どうですか? なんか、よさそうな気がしたんですけど……」
「お、筋がいいね! ユイカ、初めてなのに見る目あるじゃん!」
ライザさんがめちゃくちゃほめてくれる。なんというか、お世辞じゃない感じがして、とてもうれしい。
「これなら重い木材もしっかり縛れそう……よし、一緒に引っ張ってみよう! ユイカ、こっち!」
「は、はい!」
わたしが前で、ライザさんが後ろ。太くて弾力のあるみずみずしいツタを、わたしはしっかりと握った。
「せーの、で行くよ。……せー、のっ!」
ぐっと力を込めて、二人がかりで引き抜いたツタ。我ながら、手ごたえは抜群だった。
「とれたね、ユイカ! うわあ……これ、すごく丈夫でいいやつだよ! 見てみてよ、ユイカ!」
ライザさんはわたしにツタを渡した。ライザさんの眩しい笑顔につられ、こっちも頬が緩んでしまう。
「ほんとだ……こんなに立派で丈夫なツタ、初めて見た……」
「でしょ? 錬金術で使う素材は、見た目以上に力を持ってるんだ。ただの植物に見えても、実は物凄いパワーを秘めてたりするんだよ。採取って、楽しいでしょ?」
「ライザさんと一緒なら、楽しいかもしれません」
「ええ、照れちゃうな、もう……」
ライザさんの照れた笑みが、妙に脳裏にこびりついた。
お姉さんだと思ったら、子供っぽくて、なんというか、とっても不思議で、素敵な人……。