ライザさんから手渡された、二人がかりで引き抜いた、極めて丈夫なツタ。
わたしはそれを、なぜか最初から持っていたカゴにしまった。
このカゴもどうやらただのカゴではないらしく、普通はしまえないような大きさのものも、そのままの形を保ったまま入れることができてしまう。
まるで某四次元ポケット。とんでもないカゴだ……。
わたしは、ライザさんに導かれ、さらに森の奥へと進んだ。ツタは拾えたが、舟本体の材料となる手頃な木材がまだ見つかっていない。現在は斧とかも持っていないので、倒木から拾うほかない。
そもそも、斧で木を切り倒すなんてこと、わたしにはできる気がしないのだけれど……。
「よし、この辺りなら、いい木材が拾えるかな」
ライザさんに連れられた場所は、大きな木が重なり合うように倒れている不思議な広場だった。とても都合がいいことに、舟の材料として耐えうるような丈夫さを維持しているものばかりだ。
「ライザさん、すごい……やっぱり、ここならこれが拾える、とか、そういうのを知ってるんですか?」
「まあね。あたしは何回もこの森で採取してるからね。だいたいの場所は頭に入ってるよ?」
ライザさんは得意げに胸を張った。大きな胸が強調されて、ちょっとドキッとして目をそらした。当の本人は気にしてないらしいから、やっぱりその身体のスタイルにも慣れというのか、そういうものがあるのだろうか。
「よし。それじゃあユイカ、良さそうな木材を手分けして探そう!」
「わ、わかりました。やってみます……!」
わたしとライザさんは木材を一緒に探す。しかし、どれもこれも丈夫そうで、ひとつに決めるのは難しかった。
何せ、こんなにも多くの木材の中から、いいやつをひとつだけ選ぶという経験、わたしはしたことがない。木材の目利きなんてできようがなかった。
「うーん……何もわかんない……」
ギブアップ。何をどうやったって全部同じように見える。知らないアイドルグループの顔が全部同じに見えるような感じだった。
わたしはライザさんに助けを求めた。
「ライザさん、ごめんなさい。全部よく見えちゃって、分からないです……」
ライザさんは困り果てたわたしの顔を見て、にっこり笑い飛ばした。
「あはは、そうだよね! 最初は全部同じに見えちゃうかも」
ライザさんがわたしの近くに寄ってきて、いっしょにかがんだ。そして、ぽんと軽く肩を叩き、目線を合わせて微笑んだ。
「でも、大丈夫。ちょっとしたコツさえつかめば、すぐに見分けがつくんだから。たとえばこれとか……」
ライザさんは木材を一つ指さし、手に持っているおしゃれな杖で軽く叩いた。すると、この木材からは軽快で澄んだ木の音が鳴った。
「表面にうっすら艶もあるし、叩くとコンコンっていう高い音が鳴ったでしょ? 逆にこっちは……」
一見同じように見える木材。しかし、こっちの木材からはさっきの木材と比べて、ややくすんだような音が鳴った。
「よく見るとささくれとかあるし、艶もそれほどじゃないし……音もなんか、濁ってるでしょ? ユイカ、どっちの方がいいと思う?」
すごく分かりやすい説明だった。
「さっきの木材のほう……ですか?」
「そう、その通り!」
「なるほど……目でなんとなく眺めてみるだけじゃなくって、触ってみて、叩いてみて、よく観察して……身体の色んな所を使って、感じるんですね?」
「さっすがユイカ! もしかして、採取の才能あるかも!」
「ほ、褒めすぎですよライザさんっ! ライザさんの教え方がうまかっただけで……!」
そして、わたしとライザさんは協力して、一番品質がよさそうな木材を一本決めた。
「一緒に持つよ。せーのっ!」
中身が詰まっているような、ずっしりとした重量感。2人がかりで持っても、見た目以上に重さを感じる。
だけど、その重さが、今は心地よくて、達成感を感じている。
「採取大成功だね、ユイカ! こんなにいいものが手に入ったのはユイカのおかげだよ!」
木材の前の部分を持つライザさんが、笑顔でこちらに語り掛けてきた。
わ、わたしのおかげ?
「そんなことないですよ、ライザさん。わたしなんて、ただライザさんに教えてもらったことを実行しただけのことで……ほとんど、ライザさんがやったようなものじゃないですか」
「ううん、それは違うよ」
ライザさんは首を横に振り、優しく語り掛ける。
「ツタはユイカが見つけたものだし、この木材だって、一緒に協力して見つけたものでしょ? わたしは採取のやり方を教えたり、アドバイスはしたけど……実際にやったのはユイカだよ。
それに……人に教えながら採取するのって、貴重だから。あたし自身もいい刺激になったんだ。一緒についてきてくれてありがとう、ユイカ」
「ライザさん……」
一切の混じり気がない、ライザさんの真っ直ぐな言葉に動揺して、わたしはせっかく拾い上げた木材を落としそうになった。
「う、うわっ!」
「あはは、大丈夫? それじゃあ、一緒にアトリエに戻るよ!」
「そうですね。……わたし、ライザさんと出会えてよかったです」
「うおっとぉ!?」
今度はライザさんがバランスを崩した。
「も、もう! そんなこと言われたから……でも、あたしも、ユイカと出会えてうれしいよ。もう立派な仲間なんだし!」
「仲間……」
多分、ライザさんは、平凡未満なわたしの何倍ものいろいろな経験をしてきている、すごいひとなんだと思う。言葉の節々、振る舞いの節々から、それを感じた。
そして、今、わたしはそんなすごいひとから、『仲間だ』って言われた。嬉しくないはずがない。
「ふふっ……ありがとうございます、ライザさん!」
わたしの人生史上最高の瞬間のひとつ、なのかもしれない。
2人で木材を担いでいる、この時が。