いきなり、この島を盛り上げろ、と!?
ライザさんお手製の舟で、クーケン島へとたどり着いたわたしとライザさん。
桟橋を渡って、活気あふれる村の入り口にたどり着いた。
「ユイカ。ここがラーゼンボーデン村の、ボーデン地区っていう場所なんだ」
「うわぁ……すごい……」
石造りの広場の周りに、中世的な家が並んでいる。
そして、何より目を引くのは……とてもきれいな、水。高くそびえたつ石の塔から、水がとめどなく噴き出ていた。
コンクリートとアスファルトに囲まれた世界で生きてきたわたしにとっては、まったくの別世界だった。
「この水路はブルネン家っていうところが管理していて、島のみんなの生活を支えてるんだ」
「ぶるねんけ……ですか? それって……貴族のような方なんですか?」
「貴族……というよりかは、島一番の有力者、って感じかな」
「村長でもないんですか?」
「うん、それも違うかな。島中に流れる水を管理してるから、みんなブルネン家には頭が上がらないんだ。見ての通り、ここは田舎の島だから、農業が盛んなの」
たしかに、あらゆる場所から麦や土の匂いがしてくる。
「農業には水が必要だから、それを管理しているところが力を持つ……ってことなんですか?」
「うん、そういうこと。……で、これから、そのブルネン家の当主、モリッツさんにあいさつに行くんだ」
「モリッツさん、ですか?」
「そう。あ、でも、そんなに怖い人じゃないから安心してね。ちょっと話が強引なだけだから」
ライザさんに連れられて、わたしはブルネン家のお屋敷に行くことになった。ものすっごーく長い上り坂と階段の上に、その立派なお屋敷は建っていた。お屋敷の前には、きれいな噴水とお花畑。
「おお、錬金術士殿!」
屋敷の大きな門の前に、恰幅のいい男性が立っているのが見える。威厳のある白髪とひげを生やした中年の男性。黒と紫と金を基調とした服装は明らかに豪華で、ほかの人とは別格であることを感じさせた。
あと、何気に声がめちゃくちゃいい。
「あ、モリッツさん! お久しぶりです。今日は新しい仲間を紹介したくて来たんですよ」
そんな人でも、ライザさんはわりと気さくに挨拶をした。どうやら、身分を気にするような、本当に怖い人ではないらしい。
でも、緊張することには変わりない……!
「は、初めまして。わたしは中平唯花……ううん、ユイカ・ナカヒラといいます。
島の対岸にある森でライザさんに助けてもらって、そこからいろいろあって……今はライザさんと一緒に行動させてもらっています。
よろしくお願いします、モリッツさん」
わたしは緊張から深く頭を下げて、自己紹介を完遂した。緊張しているにしては、なんとか、できた……かも……!
「ほう、これは礼儀正しい……外から来た者と聞いたが、教育が行き届いているようだな」
モリッツさんの様子から、大きく失敗はしていないようだ。わたしはほっと胸をなでおろした。
「ユイカ・ナカヒラ、か。歓迎しよう。このクーケン島をより良くしようという志があるのなら、客人として遇そう」
隣でライザさんが、あはは、あたしも見習わなきゃ、と小さくつぶやいたのが聞こえた。
モリッツさんはわたしを見て満足げにうなずくと、大きく腕を広げる。
「今、この島には新しい風が必要なのだ。外の知識や、柔軟な発想を持つ者がな!
ユイカよ、この島をさらに盛り上げるため、お主の力を貸してくれ。期待しておるぞ!」
え? 今来たばかりの、わたしが?
この島を盛り上げろ、と?
「つ、ついさっきライザさんに連れられて、来たばっかりですよ!? 頼る相手がわたしなんかで大丈夫なんですか……!? しかもわたし、ライザさんみたいに、すごいことは何もできないのに……」
モリッツさんは首を横に振った。
「特別な技術だけが力ではない。外の世界からの視点、それ自体がこの島にとっては得難い宝となり得るのでな。まずは焦らず、この島の空気になじみ、人々と触れ合うことから始めるがよい」
話が強引……ではあるけど、この人、多分ちゃんとできる人だ。
「この島の空気になじみ、人々と触れ合う……そこから見えることも、あるってことですね」
「左様。……とはいえ、生活するには路銀も必要であろう」
「路銀……あ」
そういえば、お金がないんだった。いくら何でも、ずっとライザさんのすねをかじっているようじゃだめだ。
「若者らしく、まずは汗を流して稼ぐことだ。村人の困りごとを解決したり、珍しい素材を採取して売ったり……方法はいくらでもある」
モリッツさんは、これをやれ、という方法を提示してこなかった。あくまでも、例示だった。
「村のために働いて、稼いで……そうやって村の空気になじんでから、どうしてらもっとここがよくなるのかを、わたしならではの目線で考える……か」
目を閉じた。正確な答えのない、難しい課題。学校ではまず教えてくれないような問題。
でも、それって、裏を返せば……盛り上げさえすれば、あとは自由、ということでもある。
ちょっと……面白そう? ライザさんもいるし。
横目でライザさんを見ると、なんだか含みのある笑みで返してきた。
……よし、決まっちゃった。
「わかりました、モリッツさん。やってみます!」
こうやって、明らかに難しくって、大きなことをやる! って自分から決断したのって……今までなかったよね。
「その意気だ! お主の働き、楽しみにしておるぞ!」
でも、だからといって、わたしは悲観的じゃない。
むしろ、満ち溢れている。道なき道を、非日常を生きてるって……強く感じている!
ぱん、と強く肩を押される。
横を向くと、ライザさんがにっこりと笑っていた。
「一緒に頑張ろうね、ユイカ!」
「はいっ!」
「ふふ、今のユイカ、すごくキラキラしてる……」
わたしはこれから始まるここでの暮らしに、心躍らせていた。
その要因の半分……いや、8割くらいは、隣にいるライザさんによるものだった。