「あの、ライザさん!」
夕暮れになった村を歩きながら、わたしはライザさんに話しかけた。
「今のわたしって、全然戦えないんです。元の世界には魔物のような怖い存在がいなかったから……でも、わたしはこの世界の色んな事を知りたいし、ライザさんの役にだって立ちたい。
ライザさんはそんなこと気にせず、戦えないわたしのことを守ってくれるかもしれないけど、わたしだって、いつまでも守られてばかりじゃいられないんです。
だから、ライザさん……わたしが戦えるようになるお手伝い、してもらえませんか」
ライザさんは少し驚いたような顔を見せた。
「ユイカ……」
思い返すと、自分からこれがやりたい、と言い出したのは、これが初めてなのかもしれない。
ライザさんに向けてだけでなく、わたしの生涯すべてさかのぼってもそうかもしれない。
だいたいは、大人に言われたことをおとなしくやっていた人生だったから。
「だめ、ですか……?」
「ううん、ユイカ。自分からそう言えるなんて、すごくかっこいいじゃん! その意気だよ!」
ライザさんはニッと笑って、わたしの背中をばんっと叩いた。
「わっ!? ちょ、ちょっとびっくりしたじゃないですか……!」
「あはは、ごめんごめん。今のユイカ、すごくまぶしくって、つい! ……でも、今のユイカは武器がないから、どうにかして調達しなきゃいけないね」
「それなんですけど、武器にもちょっと希望があって……」
わたしは魔法は使えない。遠距離武器……たとえば、弓だって、たぶん簡単に使えるものじゃないと思う。
となれば、選択肢は自然と近距離の武器に絞られる。ファンタジーの定番といえば剣だけど、実は剣はしっかり接近しないと攻撃できないとかなんとか、という話を歴史の授業で聞いたことがあった。だから、日本でも刀はあくまでも接近戦用のサブで、中世ヨーロッパでも剣はやっぱり接近戦用のサブだった、らしい。
そこで、わたしが手に取ろう、と思っているのが……
「わたし、槍を使ってみたいです。槍なら、リーチが長いはずだから、敵の攻撃が届かない場所から攻撃しやすいかな、って」
「なるほど、確かに……ユイカって、慎重でしっかり者なんだね!」
「そ、そうですか?」
とはいえ、結局なんにも武器は持っていないことには変わりない。
「じゃあ、明日はユイカの武器を作るために採取に出かけよう! 槍なら……丈夫な木材と、石とか金属があればできると思う。それで決まりだね!」
「はい、ありがとうございます! ……ごめんなさい、またライザさんに頼りっきりですね」
「いいのいいの。ユイカはあたしの大切な仲間なんだから!」
気が付けば、日もだいぶ傾いてきた。
「……もうだいぶ暗くなってきたね。とりあえず、今日はアトリエに戻ろっか」
わたしとライザさんは、舟に乗ってクーケン島からアトリエへと戻った。
帰りの景色もまた新鮮で、とってもきれいだった。心なしか、朝来た時とは風の香りも違っていたような気がする。舟の揺れに対しての恐怖に関しては……だいぶマシになった、かな。
ふと気になって、わたしはアトリエの近くに落ちていた木の枝を拾い上げた。
「どうしたの、ユイカ?」
「えっと……ちょっと、イメージトレーニング? 槍を作るうえで、何か参考にならないかな、って……」
えっと、前になんか敵がいて……多分、寄せ付けないようにこうやって、突き出して……
「えい! えい!」
……自分でも分かる。全然ダメだ。動きが素人丸出しだと思う。
「ごめんなさい、全然だめだ……」
異世界に来たら都合よく戦えるなんて、そんな法則はわたしには適用されなかったみたいだった。
「あはは、最初から上手くできる人なんていないよ。あたしだって、最初は失敗ばっかりだったしさ」
「それは、そうかもしれないですけど。……でも、頑張ってみます、ライザさん」
「うん! あたしもついてるからね、ユイカ!」
アトリエの中に戻る。二日目なのに、なんだかとっても落ち着く感じがした。
やっぱり、材質が自然のものだからなのかな。
椅子に座ると、今日一日ずっと活動していた疲れがどっと押し寄せてきた。それだけ、今日もまた充実した一日だった、という証拠だった。
「クーケン島、いい場所だったなあ……」
「ふふ、でしょ?」
「色んなひとにも出会えましたし、一気にわたしの中の世界が広がった気がします。……いつか、ライザさんにお返しできたらなぁ……」
「お返しなんて気にしなくていいよ。あたしも、ユイカと一緒に島を舞われて、すっごく楽しかったし!」
ライザさんはやはりまだ元気いっぱいみたい。すごいなあ、本当に。疲れという辞書は、ライザさんの中にはないのかな。
「外から来たユイカの視点って、あたしたちにはすごく新鮮なんだ。島のみんなも、きっと新しい風を待ってると思うよ?」
「わたしが、新しい風……」
「うん!」
……思い返してみる。わたしは島一番の有力者、モリッツさんに直々にお願いされた身だ。
たぶん、相当、期待されている。ちょっと前まで、平凡以下の、モブ同然の女子高生だったのにな。
「……まずは、わたしが戦えなきゃ。島を盛り上げるのは、わたしが引き受けたことだけど……戦えるようになるっていうのは、わたしが決めたこと。また明日、頑張ろう」
直近の大きな目標が一つできたところで、わたしはこの世界での二日目を終えた。