“コッチへ・・・”
―――――――いやだ・・・嫌だ・・・!
“ドコヘイク・・・恐レテハナリマセヌ・・・”
――――――――嫌なんだ、もうたくさんなんだよっ・・・!!
“サァ・・・オイデ・・・!!”
来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「・・・・・ッ!!!ハァ・・・ハァ・・・!!」
月明かりが障子を通し、部屋の形を浮き上がらせる。
突然掛け布団をはねのけた、己の身に起こった状況を冷静に保とうとする隻眼の竜。額から汗が吹きだし、着流しも湿って気持ちが悪い。まるで全力疾走した後だ。肩で息をするなんていつ以来だ?
「shit!たかが夢だろ・・・」
“オイデ・・・!”
頭を抱えた瞬間、脳裏に浮かんだのは夢の断片。
「くっ・・・!」
くそ・・・!
日に日に酷くなってきやがる…!
小十郎が勘付くのも時間の問題だな・・・
ただの夢に悩まされるなんざ、大将として示しがつかねぇ・・・!
ごくりと生唾を飲み込む政宗は起き上がり、帯を締めなおした。
「フー・・・cooldownが必要だな」
手ぬぐいで汗をふき取りながら、部屋を出て井戸に向かう。
桶を井戸の中へ放り投げる。月光も届かない暗闇が続く底から、鈍い水音が鳴り響いた。淵に手をかけて、また深いため息をつく。
掌からひんやりとした石積みの感覚に、一段落を覚える。
shit…一体どうしたってんだよ。
戦も暫く起こってねぇ、平穏で十分すぎるってほどのどかじゃねぇか…
小十郎なら考えすぎだと説教してくんだろーが、この胸の内につく嫌なわだかまりは隠しきれねぇ・・・
・・・乱世か。
嵐の前の前兆としちゃあ、しまらねぇ始まり方だな・・・
放り込んだ桶をくみ上げながら思いにふけっていると、くみ上げている縄に違和感を覚えた。
「なんだ?いやに濡れて・・・」
ピチャリ・・・
そこには縄に濡れて絡まる、黒い髪の毛がまとわりついていた。政宗の手にも絡まり、一気に悪寒が全身に駆け巡った。
「ぅわああああああ!!!」
急いで手に絡みついた髪の毛を振り払おうとした。しかし、いくら振り払おうが引きちぎろうが、髪は離れず、それどころか腕へと這っているように見えた。
「ッ・・・!?嘘だろ?!なっ・・・!?」
また足元を見ると、いつの間にか井戸から大量の髪の毛が這い出て政宗の足元へと絡みついている。ゆっくりと蠢きながら政宗の身体を侵食していく。
「よせ・・・やめろ、やめろぉ!!やめろぉぉぉおお!!!」
“オイデ・・・オイデ・・・!”
「やめてクレェェエエエエエ!!!!」
“愛シイ我ガ子・・・・・”
「・・・むね様…!政宗様!!」
「・・・ッ!?」
「やっとお気づきに為られたか…」
政宗が目を覚ますと、目の前に小十郎と背後で心配そうに見る足軽たちがいた。
「お前ら・・・なんで…」
「それはこちらの台詞です!寝床にお姿はなく、どこへ行かれたと思えばこのようなところにおられるとは…」
政宗が眠っていた場所は、井戸であった。昨夜の出来事は夢ではなかったのだ。
「・・・ウソだろ、笑えねぇ冗談だろ…!」
「!政宗様、顔色が優れませぬぞ。今回の戦に出陣は控えるべきかと…」
「No!心配いらねぇ小十郎。ちょっと寝つけなかっただけだ、涼んでた結果そのまま寝ちまった」
すっと立ち上がる主は気丈にふるまってはいるが、何か隠している様子が見てとれた。
「OK!早いとこ飯食って支度するぞ」
「・・・はっ」
戦に支障が出ぬことを願うか。それこそ、俺が政宗様を支えねば…。
shit...不吉極まりねぇ・・・
戦前日に悪夢たぁ笑えねぇ・・・よりによって小十郎に見られるとは。
たかが夢だ、早いよこ忘れねぇと・・・