川中島での蒼紅の戦いに、謎の女・蘇芳夜明と出会う。織田軍に追われていた理由に信憑性にかけるものだが、その正体は陰陽師だということがわかった。
そして、政宗に向かって「死相」が出ていると話す。
陰陽師という職柄に、何も手が出せない伊達軍一行はその女を奥州に招くことを渋々承諾した。
「痛むか?もう少しだ、頑張れ…」
夜明は怪我をした馬を気にかけ、手綱を引いて歩いていた。
その様子を背後で見ていた伊達軍の兵士達。
「あれが陰陽師、初めてみたぜ…」
「噂じゃ、鬼やモノノケを追っ払うことができるんだと」
「じゃああれか?あの陰陽師が奥州に来たって事は、お化けとか関与してるとかじゃねぇだろうな…!俺そういうの大ッ嫌いなんだよ…!」
「お前らしっかりしろ!鬼やお化けに惑わされる俺達じゃねぇだろ!それに、あの女が陰陽師だっていう確信もねぇんだ…なのに筆頭は軽く承諾しちまってるし…」
「気に入らないか?」
すると、話を聞かれていたのか、赤き陰陽師は後ろを振り向いていた。
「げっ!聞いてたのかよ…!」
「そんなに大きい声で話をされちゃあ、嫌でも耳に入ってくる。それと、そこの法螺貝の兄さん」
「え、俺?」
「泥水の相が出てる。足元に気をつけろ」
そう怪しげな微笑みを浮かべると前へ向きなおした。
「は?泥水…?のわっ!?」
と、そのとき乗っていた馬ごと、田んぼの堀に落ちてしまった。
「良直ー!!」
「大丈夫か!?」
「いてて…!うえぇ、全身泥だらけだ…!」
「ど、泥水の相…!当たってる!」
「じゃあ、奴は本物の…!」
「うろたえるな」
すると、この騒ぎを聞きつけた小十郎はそう言い放った。
「片倉様!」
「昨日雨が降っただろ、そのぬかるみで落ちたにすぎん」
「な、なんだ…そう思えばそうっすね」
「早くあがってこい」
「は、はい…!」
小十郎は歩を進める夜明の背を睨んでいた。
何を企んでやがる・・・陰陽師が
その視線に感づいたのか、隣に乗馬している政宗に話しかけた。
「あんたの腹心、私のことが気に入らないようだ」
「Ah?小十郎か、あいつは大抵よそ者に信用は置いてねぇんだ。俺も含めてだがな」
「それでも、招いてくれたのは事実だ。てっきり断られるかと」
「Ha!俺に『死相』が出てるなんてぼやく女陰陽師に、興味がわいただけだ」
「…『死相』と聞いても、何も驚かなかったのも予想がつかなかったが」
「だからよ、その死相はどうやってくるもんなのか教えればいいだけじゃねぇか」
「正確には視えただけだ。どこでどうやって死ぬのかは、調べなければ答えが出ない」
「…アンタ、陰陽師なんだよな?」
「そうだ。今更何を言っている」
「未来を見通せる力もあるんだろ?さっきみたいに」
「…まぁ、陰陽師の力量による」
「だったら・・・」
「俺が、天下を取る未来は視えるのか?」
その言葉でぴたりと歩を停めると、視線を前にとどめた。
「ここか?政宗殿の屋敷は」
目の前には伊達政宗が住む屋敷があり、門の前にさしかかっていた。
「ああ。俺のmy home。それとさっきの答え、聞かせてもら・・・」
「馬屋はどこだ、早くこの馬を安静にしてやりたい」
「馬屋ならこっちだ、付いてこい」
小十郎は政宗の馬の手綱を引き、夜明を招いた。
「おい、聞いてんのか?!」
「その答えには応じたくない。陰陽師とて、過大評価はしないことだ」
そう冷たく言い捨てた後、手綱をひき小十郎の後を追った。
「チッ、cuteじゃねぇ女だなァ・・・」
容姿(かお)は申し分ねぇが、性格がな・・・
「お前、陰陽師と名乗っているが、本当に陰陽師なのか?」
「ん?」
怪我をした軍馬を厩に入れると、小十郎が眉間に皺をよせながら話しかけてきた。
「ああ、正真正銘の陰陽師だ。先ほどの予言じゃ不満か」
「とぼけるな、あんな子供騙しで騙されるほど柔じゃねぇ」
「なるほど、もっと具体的にやればよかったか…」
すると、振袖から何か探ると一枚の紙を取り出した。なにやら呪文のような文章が刻まれている。
「なんだそれは?」
「見てわからないか?これこそ陰陽師の醍醐味」
自慢げに話す女陰陽師に少し苛立ちを覚える。
「だからなんなんだ?」
「!呪符だ、世間では御札とも言ってるな」
「それでどうするつもりだ、まさか今から妖怪退治というわけじゃねぇよな」
「そんなわけないだろう。見ていろ」
呪符を持ち、夜明は馬の怪我をした部分に呪符を押し付けた。痛みが走ったのか馬が鳴くなか、指を刀印の形にし、ボソボソと何か呪文のようなものを唱える。
すると呪符から淡い光が放った。
「・・・!」
蛍のような光が消え、押さえていた手を退けると痛々しかった傷跡は跡形もなく消えていた。
「傷が、消えた…?」
「これぐらいの治癒術は朝飯前だ。もうこれで大丈夫、鬼影(おにかげ)」
そういい夜明は軍馬の首元を優しく撫でた。それに応えたのか頭を垂れ、気持ちよさそうに大きな瞳を閉じた。
「鬼、影・・・?」
「私が名づけた。昔たしなんでいた説経に出てくる馬の名前だ。元は鬼鹿毛(おにかげ)というんだが、そこから取ってつけた。馬はいい、人と違って純粋で自然の理に反しない」
ポンポンと軽くなでおろし、小十郎と改めて向き直った。
「さて、厩に用は無くなった。あんたの国主殿の死相を、追い払わないとな」
「・・・そのことなんだが、本当に政宗様に死相が見えたってのか?俺には信じがたい話だ。テメェらが言うまじないや御祓いや信仰だの、付き合ってられるほど暇じゃねぇんだ」
険しい表情で睨む小十郎に対し、夜明は動じず悟ったように話した。
「あんたがその手のものを信じる男じゃないのはわかっている。片倉殿。見た目もそうだが、芯が通っている。何者も寄せ付けず、主君のためなら命を捨てても構わない」
「おだてているつもりか」
「そんなつもりは毛頭ない。私が言いたいのはつまり、こちらも、陰陽師を甘く見るなということだ。死相は時と場所を問わず、突然やってくるものだ。今は見えないが、あんたのところにもいずれ来る」
「俺は死など怖れねぇ、俺の命はとっくに捧げている。戦に無縁な俄か陰陽師が、武士道を語るんじゃねぇ!」
「・・・それは、悪かった。地位も身分も低い私が語るべきじゃなかったな。だが国主殿の認可が降りているのは明白。その間は極力こちらの言い分に従ってもらおう」
「いいだろう、まずはテメェの正体を突き止めてからにしてやる」
「それは後ほど、話すつもりだ」