「さて、包み隠さず話そうと思えば話せるが、陰陽師という職業柄いろいろと複雑なもので。名と出自しか明かせない」
だったらさっきの前置きはなんだったんだ…
先の戦から戻ってきた政宗は、武装を解き赤髪の陰陽師と立ち会っていた。初めて対面したときとの態度が一遍し、正座で改まって政宗との会話を進めた。
「んで?アンタが見た死相ってのは、一体どんなものなんだ?いい加減教えてくれてもいいんじゃねぇのか?」
「見た、というより、見られたというべきか」
「Ah?」
「先刻、死相と大層なことを申しあげたが、訂正すると政宗殿には、『幽鬼(ゆうき)』が憑いておられる」
「ゆうき?」
すると、いつの間にか筆と墨を用意したのか、懐を探りまっさらな呪符に筆を走らせた。それを政宗にピッと見せ付けると、そこには『幽鬼』と達筆で書かれた文字があった。
「そいつはお前らが言う妖怪の類なのか?」
「…この世のあらゆるものには魂が宿る。あるときは数百年の時を経て、摩訶不思議な力を得て人を惑わすことも。妖怪…すなわちアヤカシというわけだが、幽鬼は違う。そのアヤカシの更に人の情念、強い恨みや憎しみ等の『負の感情』が宿れば、幽鬼と成り立つ。人の情念によって生まれた幽鬼は、人を欺き、害し…時には殺める」
話しの最中にまた紙で『アヤカシ』と書き、『幽鬼』と書かれた紙の前に置いた。
「フン、死相などと大それたことをほざいたと思えば、次は妖怪という。信じがたい話だな」
政宗の横でそれを聞いていた小十郎は、眼光を鋭くしながら夜明を見た。
「まぁ、初めから聞き分けろと言っても無理難題な話。ここは聞き流す呈でいい。しかし、此処からは私の言葉を心して聞くように、あなた方のためにも」
会話の中、言葉を切ると同時に真剣な目つきに様変わりし、口調も強くなった。
「あなた方?俺の問題だろ、他にも俺みたいな奴がいるってのか」
「本来幽鬼は、不特定の者達に害を及ぼすもの。だが今回は打って変わって、特定された人物のみに害を及ぼしている。これは相当の怨嗟が無い限り、及ばない害だ。政宗殿はこの奥州を納める主ゆえ、上に立つものが幽鬼に害されたとなっては、内政どころか国も危うくなる」
「奥州をまたに駆けるほどの災いというのか。お前、この土地に来るのは初めてだと言ったな」
「!ああ、久方ぶりの外出でな。外界との縁はほぼ無いといっていい」
「ならば、奥州を納める伊達の実力をしらねぇわけだ。そんな幽鬼やら妖怪で動揺するほど、俺ら侍は落ちちゃいねぇ!」
小十郎の憤りに対し、夜明はただ佇むばかり。
「hey,小十郎。そう熱くなるな、こいつの言い分に理解しがたいものは多いが、敵意はなさそうだ。俺の身のことより、国の安否が出てくるくらいだしな」
夜明(これ以上の討論は難しい、か・・・)
ため息と肩を落とす夜明は、こう切り出した。
「ならば、みせようか」
「あ?」
「二、三問いたい。嘘偽りはなく、正直に答えてほしい」
「おい見せるってなにを・・・」
「夢と現実、どちらも区別がつかないことはあるか?」
「・・・!!」
夜明から発せられた問いに言葉を詰まらせる政宗。隠していても仕方ないだろう、陰陽師は人の心を見透かすのか?
「答えを、政宗殿」
「・・・ああ、昨日悪夢を見た」
「政宗様…」(やはり、あの出来事はこれを・・・)
「・・・二つ目」
静かに言の葉を述べる。
「その夢に、人は出てきたか?」
「!なんで、わかるんだ・・・!?」
すると、政宗の背後にいる影が徐々に増して首元が翳る。
冷や汗が額に浮かぶ。どんどんと顔色が悪くなる様子を、小十郎は見逃さなかった。
「お前!政宗様に何をしている!!」
小十郎の叱咤にかまわず、目を細めて影を見る夜明は、最後、こう問いた。
「三つ目」
「その人物は、母親か?」
ドクンッ・・・!
“オイデ・・・”
「・・・っぐ・・・!」
刹那、政宗の体がぐらりと傾き、そのまま倒れた。
「政宗様ァ!!」
「寄るな!!」
政宗のもとへ駆け寄ろうとした小十郎に、声を荒げる女陰陽師。小十郎はその一喝で動きを止めた。
「…何言ってやがる!!どうやったかしらねぇが、政宗様に危害を加えるたぁ覚悟はできてんだろうな!!」
「人のせいにするのは勝手だが、まずそいつを見るのが先決だ」
そういい政宗のもとに近づき、体を仰向きになおした。額にはうっすらと汗がにじみ、眉間にしわがよるなど苦しい表情が見てとれた。
「ふむ・・・少し挑発しずぎたか」
「挑発?」
すると、政宗の首にうっすらと首を絞められた跡が浮かびあがった。
「なっ・・・!?」
「やはり、か・・・片倉殿。ここはひとまず寝かしつけるのがいい。すぐ隣が自室だったな、念のために呪がないか確かめ・・・」
カチャ・・・
「・・・!」
夜明の首元に何か異物があたる。それは小十郎の刀の柄であった。
「…本来なら切り殺してやりたいが、テメェは陰陽師。まだ都を敵に回したくねぇ」
「・・・懸命な判断だ、私を殺めても何も解決しない。ましてや、私相手にかすり傷一つつけるとなると、それ相応の犠牲を伴う。これは、警告ということかな」
すっと柄を首元から外し、小十郎と向き合う。彼女の目には恐れおののく色が見えない。まるで何もかも見据えているような目であった。
「政宗様に何があったのか、偽りなく話してもらおうか・・・」
「ふ・・・いいだろう、その前に筆頭殿を床につかせるのが先決だ」