考察し終えたテラスはヒロに向けて言う。
「逃げろ、ヒロ」
それはヒロにとって、もっとも苦しい一言だった。
「っ、貴女はいつも、そうやって己を犠牲にして...」
「いいから、しっし。それとも言われなきゃわからない?足手纏いなんだ」
「くっ...」
ヒロは駆け出した。テラスはその合理的判断に感謝をし、エマに向き直した。
「それじゃあ始めようか」
「う」
うんーーーそうエマが言う前にテラスは一瞬で間合いを詰め、閃拳を繰り出す。
それをエマは受けながらも無傷のようなすまし顔だった。
「しね」
「
「ダメみたい。どうしよう?」
テラスの鼻からぶしゃりと蝶が舞うものの、その危険な魔法をかき消す。
「それなら、こうしようか」
エマは浮き上がる。テラスの攻撃が当たらない距離を保つ事にしたのだ。そして、単純で凶悪な一手を放つ。
「しねしねしねしねしねしねしねしね」
「
その全てに対し、テラスは正確に波長を捉えてかき消していく。テラスの目から血が噴き出す。
テラスは考える。
今、この構図は明確に危機である。こちらは極限の集中を持ってして技を繰り出すのに対し、向こうはただその言葉を口で紡ぐだけ。これではジリ貧だ。
では、このジリ貧をどう解消するべきか。
答えはすぐに見つかった。
(わたしも、なれはて、魔女になればいい。だが、完全ななれはてと化してはダメだ。なれはてと化す一歩手前、【魔女】と化す...私なら出来る...)
テラスは思い出す。これまであったすべての絶望と、痛みを。
我慢していた全てを解放する。
今は亡きノアが言った。
『うん!ありがとう。テラスちゃん!』
魔女因子という不条理に駆らされて殺害をし、そして処刑されたレイア。
『......たくしたよ...』
一時は自殺しようとしていたのにも関わらず、懸命に生き、そして死んでいったミリア。
『テラスちゃん、ありがとう』
【洗脳】の魔法により、親を迎合させてしまい、外の世界に未練はなく、この世界に居続けようとしたアンアン。
『友達だと思っていた...我が輩には誰もいなかった...』
人間としての尊厳を遵守しようといつも気高くいたハンナ。
『それは...なんとか生き残って見せますわ!何としてでも!』
怪物になりかけていたハンナを、要求を飲み、自身が死ぬ可能性が高いというのに殺害をし、そして処刑されたシェリー。
『テラスさんには感謝してるんです。事件の共犯者となってくれて』
親にある種のネグレクトをされてしまい、心を病んだアリサ。
『ありが...とう...』
看守を、姉を救うためにこのデスゲームに参加した少女、ナノカ。
『センテラス...貴女の事は未だ良くわからないわ...だけど、お願い。お姉ちゃんを助けて』
誰一人、悪者ではなかった...そして、この全員を己は助けられなかった......ありとあらゆる絶望と痛みが脳を支配する。
だが、忘れない。諦めない心だけは忘れない。
その結果ーーー彼女は覚醒する。
「フォームチェンジ、【魔女】ってところかな」
その魔女は、背に4つの龍の翼を持っていた。まるで森厳を思わせる様な意匠をしており、自由自在にはためかせる事ができた。左腕は、まるで鋭い剣のような形状をしていて、それは黒く染まっていた。
彼女は、それを動作確認する様に剣にしたり拳に戻したりとしている。どうやら、左腕はテラスの意思一つで拳にも戻せる様だった。
そうして、背中に龍のような翼を生やし、左腕には剣を、そして左目の下に大きなひび割れを作った造形をしている異形の魔女が誕生した。
テラスは翼をはためかせる。戦いの場は空中戦へと移行した。
「おらぁ!十閃楽団!」
テラスは上空からエマを蹴り付ける。
「くっ!」
テラスは的確にエマの体力を削っていく。それに、テラスはこの魔女化によって単純な力が増大している。こうなれば、エマに勝ち目はないだろう。そう、テラスが思ったときだった。
【仕方ないですね、エマ】
どこからか声が聞こえた気がした。
「...いいよ、ユキちゃん。これは僕の戦いだ」
【あらあら、エマったら。でも大丈夫】
「っ!ああ!」
エマの体に注ぎ込まれたのは膨大な量の魔女因子だった。エマは頭が割れそうな程の痛みを感じ、そして落ち着いたときには、そこに、第二の大魔女が誕生していた。
つい、テラスは聞いてしまう。
「お前は誰だ?」
そう聞くと、エマは答える。
「私は『全能の魔女』、エマ」
「...あまり強い言葉をつかうなよ。弱く見えるぞ」
テラスが雰囲気に呑まれぬよう、ファントムトークを用い、そう言った瞬間だった。
「おっと、これはどう言うことだ?」
エマが起こした魔法。周囲の気温を操作する魔法で、どんどん気温が低下していく。
「第二形態とか聞いてないんですけど!ぐっ!」
そして、重力を操る魔法でテラスに強力な重力を与え、テラスを地にふせる。
「くっ...」
(
テラスは重力魔法に対し舌打ちをする。口内から血の味を感じ、そして吐血。先程のあまりの集中に、内臓がやられているのだろう。
だが、この状況でもテラスが考えていることは、エマを殺すことではなく...
(さて、どうやってエマを救出しようか...)
エマを助ける事だった。
______
エマはさまざまな魔法を行使し、テラスを追い詰めていこうとする。だが、その全てにテラスは対処していく。
どこか、魔法の使い方が甘いとテラスは戦いながら思っていた。
時には怪力の魔法で格闘戦をしようとしているが、それはテラスには通用しない。元々人間の少女の姿でなれはてや魔女と渡り合っていたのだ。魔女化した今のテラスからしてみれば、ただの怪力の魔法をもった魔女など程度が知れていた。
また時には、遠距離戦を仕掛けてきた。炎を出す魔法や液体を操作し、鋭利な刃物として飛ばす魔法も使用してくる。だが、その悉くをテラスは回避し、反撃する。
だが、エマにはまだ余裕がある様だった。そうして聞こえる。あの声が。
【やっぱり、貴女から回収しておいて良かったわ。ありがとう、こんな有利な『ゲーム』に乗ってくれて】
「はぁ?」
テラスが疑問符を浮かべた時だった。
エマの身体が突如、分裂したのだ。それが、1から2へと。2から4へと。そして、最後には約1000体のエマが誕生した。
...「「「「「「じゃあね。テラスちゃん」」」」」」...
「分身か!」
そう言うと、1000体のエマが総攻撃を仕掛ける。
テラスは1対1000という膨大な数を相手取る。
...「「「「「しね」」」」」...
「
テラスは盛大に吐血した。
テラスは焦る。焦りに焦る。だが、その心にあるのは未だ...
(どうやったらこの状況を、エマを救える!打破できる!考えろ、考えろ!)
エマを助けることに執心していた。
「...私さぁ、言ったよね...」
...「「「「「?」」」」」...
「ヒーロー見参!」
...「「「「「……」」」」」...
テラスは最後の抵抗を魅せる。
まるで、ここからが本番とでもいうように、テラスの心は加速する。
今なら、オメガバスティオンさえ上手く使える気がする。いや、嘘だ。あの技はそう言うモノではない。だが、テラスの心はこの状況下で、初めて激しく燃え盛る。
「エンジン蒸してけ!生前葬だ!」
...「「「「「無駄だよ。全部」」」」」...
_______
基本的なテラスの行動は、超高難易度の弾幕ゲーをイメージしてもらうとわかりやすい。
1番は安置を探す事だが、安置がなく、通常攻撃を喰らわなければならない場面ではボムは使わず、身体で受け切り、即死攻撃が来ればボム...『オメガバスティオン』でかき消す。
「龍閃崩拳!」
「ぐっ!」
「理円・絶華・煉獄一閃!」
「どうしてっ!!!」
テラスは左腕の剣を巧みに利用し、時には右腕での拳の怯ませも、地上戦になれば、足による『深淵閃風』も行っていく。
そうして、全身兵器と化したテラスは、一人一人エマを影に返していく。
テラスはありとあらゆる魔法から身をかわしつつ、的確に反撃を繰り出す。
テラスはその魔法がくる前兆を捉え、左腕を拳に戻す。
この状況の中で、1番辛い事はやはり...
「「「「「しね」」」」」
「
オメガバスティオンで、連続して魔法を消し飛ばすことだろう。テラスはわかっていた。この言霊の様な魔法を喰らえば、自身の命はないと。
テラスは失敗したら死ぬ行動、その中身はトンネル効果を自身の身体一つで引き起こすと言う、もはや難易度ともいっていけないような、そんな技を使い続けなくてはならない。
なれはてにならぬよう、そんな精神的ストレスをも完璧に保ちながら、テラスは戦う。抵抗する。可能性を魅せつける。
「深淵閃風!」
テラスは地上戦に来たエマの足を掬い、
「龍閃崩拳!」
全力の拳にて応戦する。
「ぐっ!」
そうやってまた1人を撃破した。どんどんとエマの数は減っていき...
テラスは壮絶な死闘を制していくーーー
_______
そうして、1時間が経っただろうか。
闘いの狂騒が終わったのを聴覚で感じ取ったヒロは、現場に向かった。
そこに立っていたのは...龍の背を持つ、魔女と化したテラスであった。着物はボロボロで、血に塗れていたが、確かに立っていた。
そう、テラスは、エマを倒しきり、体にあった小さな核、取り憑いているだろう大魔女の核を破壊する事に成功した。
だが、核を壊す間際、聞こえた気がした。
【なんて...こと?...ふふふ...貴女に殺されるなんて、なんて皮肉なんでしょう...もう半ばヤケになっていた...そんな罰が当たったのでしょうか...それでも、私の勝ちです】
魔女図鑑:
【名前】閃テラス
【情報】
十閃楽団...上空からの蹴り付け。
理円・絶華・煉獄一閃...名前がカッコいいからテラスは使っている。中身は一閃系統のハイエンドだと思われる。強大な敵にしか使わない
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