閃光少女ノ魔女裁判   作:楓舞星

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15話:私はただ絶望を切り裂く一振りの剣であればいい

 

 あれは...忘れもしない思い出です。

 

 島のみんなで遊んだり、ティーパーティをしたり、そうやって、島の魔女たちは平和に暮らしていました。

 

 そんな中、大陸から来た人間たちが姑息な手段を用いり、次々と同胞である仲間を、友人を家族を殺していきました。

 

 ですが、島で最も偉い魔女は言いました。流れに身を任せよと。それがなぜだったのかは、今の私にもよくわかりません。

 

 そうして、魔女は次々と死に敗れ、最後には私と、メルルのみになってしまいました。

 

 その時、思ったのです。人間は、殺さなくてはならないと。リーダーであった大魔女の意見など知った事かと、私は人類絶滅に向けて動き出しました。

 

 私は実験を繰り返し、世界中に魔女因子をばら撒きました。そうして、500年の時をかけ、じっくりと世界を蝕んでいった因子。ですが、同時に、私の復讐心も萎んでいってしまいました。

 

 当然ですよね。だって500年です。とてもとても、長い時間でした。だから、私は、人間の醜悪さを再び知ろうと、またあの時の感情を思い出そうと、人間社会に飛び込みました。

 

 その時に使った依代が『月代ユキ』という子の体でした。そうして私は、中学時代を迎えるのでした。

 

 中学に入ってそうそう、私は自身に【呪い】をかけました。

 曰く、見たこともないような虫が飛ぶような、曰く、トプのような匂いがするような、曰く、花が枯れてしまうような...

 

 そうして、私はイジメをされるために学校に行っていました。人間への最後の復讐心を完成させるために。

 

 ですが、ここで会ったのが、ヒロでした。ヒロはイジメられる私を救おうとしたのです。

 

 エマも、よくヒロの背中について回ってましたね。

 

 そうして私は、ヒロに助けられました。

 

 だから...私はエマと『友達』になることにしたのです。

 

 そうすれば、ヒロは不条理を感じると思ったから。意味はあったようでしたね。

 

 ですが、エマとヒロと共に過ごしている内に、ここは過ごしやすいと、いつからか、感じるようになってしまいました。

 

 3人でお出かけしたこともありましたね。3人で喧嘩をしたこともありましたね。でも、仲直りしたりして......それは私を優しく包み込んでくれました。ですが、それでも、私は復讐を止める事など出来なかったのです。

 

 ずっと探していました。復讐を遂げる為のきっかけを。それを与えてくれたのが、ヒロの留学でした。

 

 ヒロが留学した時、3人で言い合いましたね。

 

『僕たちはいつでも一緒だよ!』

『ああ、私が向こうに行ってる間にも、ユキを頼んだ』

『...ありがとう、エマ』

 

 そう言った矢先です。ヒロがいなくなった事で、イジメは勢いを増しました。

 

 そうしてわたしが目を向けた先...エマは、助けてくれなかった。

 

 私は笑った。嗤った。そうだ。これこそが人間だと。

 

 そうして、エマのその善心を『偽善』と下した時でした。

 

 その方が、テラスが現れたのは。

 

 いつも通りにイジメられる為、廊下裏に出た私は、今日はイジメがないことに気づきました。

 

 チラリと壁から覗き見ると、そこには

 

彫刻刀を片手に、いじめっ子たちに話しかけているテラスの姿がありました。

 

 そうして、テラスはいじめっ子に脅しかけました。いじめっ子たちはその気迫に怯えて逃げ出しました。

 

 私はバレないように、その場を後にしました。

 

 そうやって、テラスは私へのいじめを食い止めていました。

 

 ある時は、テラスは殴られ、ある時は、ナイフで切り付けられたような跡がありました。

 

 それでも、テラスは私を守り続けました。

 

 ある日、私はテラスに接触しました。

 

 そうして、聞いたんです。どうして、赤の他人である私をそこまでして庇うのかと。

 

 そうしたら、なんて言ったと思いますか?

 

『暇だから、出来心でなんとなく。反省はしてる』

 

 そう、おっしゃられたのです。

 

 わたしはつい笑ってしまいました。

 

 そうして、問いかけました。

 

『貴女は人間が滅ぶとしたらどう思いますか?』

 

 私は続けて言いました。人間は悪であると。善にはなれない存在であると。そう、邪悪な人間達を想起させて言いました。

 

 それに対して、彼女は、

 

「......お前の過去になにがあったのかはわからない。知るつもりもない。けれど、その問いに答えるのだとしたらーーー

 

 ーーー人間は善にはなれない。けれど、だからこそ、善に近づこうとする者はこの上なく尊い..と私は思う」

 

「答えになってないかもしれないが」と頭をかきながらそう答えました。その時私は思いました。ああ、もし、そうだとしたら。

 

「...私は復讐をやめていいのでしょうか?エマやヒロと共に、過ごしていいのでしょうか?」

 

「エマとヒロって...ああ、クラスメイトと学級委員長のことね。まあ、いいんじゃね?知らんけど」

 

「...ふふふっ」

 

 そんな対応とってくれるテラスだからこそ、わたしは打ち明けました。自身が魔女であると言うこと、そして、人間を滅ぼそうとしていること。過去に何があったのかまで、全てを話してしまいました。

 

「そうか...キミは500年という長い年月の間、そうやってきたのか...」

 

 私は自分自身、どんな顔をして明らかにしたのかは分かりません。ですが、全てを打ち明けました。

 

 そうすると、テラスは私を抱きしめて小さく呟いたのです。

 

『ヒーロー見参』

 

 そこには、私の全てを解決してやると言う想いが詰められていました。

 

 ...だから、わたしは『ゲーム』を持ちかけました。

 

 今後、高校に入学するタイミングで13人が集まり殺されるデスゲームがあること。それをテラスに伝え、参加する事を促しました。

 

「ゲーム?そんなふざけた事をしている場合じゃないんだが」

 

「先ほど、私を助けてくれると宣言したばかりじゃないですか。撤回はさせませんよ」

 

「いやー、それはその、言葉の綾っていうか...」

 

 でも、私は気づいています。テラスがどういう人物なのか。その光景を見るためには姑息な手を使う事も厭いませんでした。

 

 500年間、復讐心と共にあり、仲間を殺され、家族を殺され...そんな私の、たった一つのありきたりな本心。

 

「助けて」

 

 そういうと、テラスは乗ってくれました。私のほかにも、デスゲームに乗る事で他の皆を救出するという目的もあったのでしょうね。

 

 そうして、私は目的、『人の善性』を確認する為に動き出しました。ですが、エマが暴走すれば、それはそれで私としては良かった...はず。ここのところの本当の心は、未だ不明瞭です。

 

 ...『ゲーム』の一環で、牢屋敷に来た直後、テラスからは記憶を奪いさりました。私の正体がわかっていたら、エマに刺激を与えてしまう...というのもありましたが、その強い精神性をなんとか削ろうとした結果でもあります。

 

 そうして、魔女因子も『抜け殻』にしました。なれはてとなる機能しかない、魔法という副産物を生じさせない、そんな魔女因子。初めてお手製のそれを作り上げたものだから、バグが起きてしまった様でしたけどね。中身の魔法は、念の為自分自身が持っておくようにしました。それが、お気に入りな【分身】の魔法。

 

 

 そうして、舞台は整いましたーーー

_______

 

「ここまでが、私の語れる全て...」

 

 ユキは落ち着いた表情で、全てを語り終えた。

 

 その場にいる皆の目線は、テラスとユキの顔をいったりきたりしている。

 

「で、目的は達成できたの?」

 

 テラスは言う。

 

「ええ、貴女からは見せてもらいました。全世界に届く献身を、高潔なる魂を、そして、善性を...」

 

「ちょっとまて。私は献身なんてこれっぽっちもしてないし、善性とはなんぞって感じだし、高潔に関してはなにそれ美味しいの?状態なんだが」

 

「ふふふっ、貴女らしいですわ」

 

 ユキはテラスの言葉を笑っていると、声を上げる。

 

「それでは、みなさんの望み通り魔女因子を取り除きます」

 

 ユキが片腕を天に向けると、そこには小さな黒い球が浮かんでいた。

 

 その様子を見て、エマが綻んだ顔をする。

 

 ようやく、全てが終わったのだ。

 

「また前みたいに3人で......ううん!ここにいるみんなで一緒に帰ろうよ!」

 

「...」

 

 そう言って、エマはユキに向かって手を差し伸べた。

 

「ねえユキちゃん!迷うことなんてないんだよ。だってフタを開けてみたら、ボクたちには何も起きてない。それどころか、こんなに沢山の友達が出来ちゃった」

 

「ボク、ずっと友達が出来なくて悩んでいたのに、すごいよね!すごくすごく嬉しい!」

 

「...」

 

 エマは満面の笑みで言う。

 

「辛い過去はあるかも知れないけど...でもそんなの、乗り越えられるよ!僕たちと一緒に、塗り替えていこうよ!」

 

「ああ、そうだ、約束したよね。屋上から花火を見ようって。まずはそれは果たさなくちゃーーー」

 

「...」

 

 だが...

 

 ユキは微笑んだまま、喋らなかった。やがて、ゆっくりと首を振る。

 

「...もう、遅いんです。この会話は聞かれています」

 

 ユキは口に出す。当然のことだとでも言うように。

 

「...だから、例え私が計画を取りやめても、私やエマが無事に帰ることはできません」

 

「...この牢屋敷の管理者側...つまり、わがはい達をここに閉じ込めた人間達か...」

 

 アンアンは察した。ゴクチョーを見る。

 

「...」

 

 ゴクチョーは何も語らなかった。それが真実だと肯定するように。

 

 皆は、状況の悪さに眩暈がする。

 

 しかし、とユキは言う。

 

「私が魔女をーーー【殺さない】魔法をかけます」

 

「私が全ての魔女因子を無害な形に変えて...」

 

「...持っていきます」

 

 エマ達は、つい、ユキの目を見てしまった。それは、殉教者の目だった。

 

「や、やめてよ!せ、折角、折角また会えたのに!」

 

「......」

 

 ユキは口をつぐんだ。そして、次に開けた時には...

 

「...エマ、私は...貴女とあえて、幸せでした。貴女は善良で、素直で、美しくて...まるで、島のみんなを思い出すようで...」

 

「やめて...やめてよ...」

 

 ヒロがユキに近づこうとするエマを止めようとした、その時だった。

 

 パァン!

 

 手を天の位置で合わせ、音を出す。

 

「ユキ、つまりはその魔女因子がなくなれば、全員が助かる...そういうことだろ?」

 

 その音の発生地点にはテラスがいた。

 

 テラスはユキの手のひらの上で浮かんでいる、黒い塊を指さす。

 

「...ええ、ですが、これは私たち、魔女の強い魔法がかかっています...これを無害な形に変えるのは私にしか出来ません」

 

「無害な形に変える...?違うね。かき消すんだよ」

 

「...っ!貴女、まさか!!」

 

 そうして、テラスは宣言する。

 

「これより、最後の砦(オメガバスティオン)を使い、全ての魔女因子を消し去る!」

 

 

 

 

「オメガ...」

 

「...バスティオン?」

 

 皆一様に首を傾げている様だったが、ユキだけは違った。

 

「やめなさい!あれほどの数にあの技を用いるのは、貴女を壊すだけだわ!」

 

 焦ったような口ぶりで、ユキがそう言うから、皆も騒然としだす。

 

「...テラスちゃん、一体どうする気なの?」

 

「いや、私もなんであんなにユキが焦っているのかわからないな。うん...」

 

 そう、表では言うものの...

 

 (あの球の中には数十億の魔女因子が詰め込まれている...その全てにオメガバスティオンを用いれば、ユキが死ぬ理由はなくなる...)

 

 冷静にテラスは考える...ユキがこのまま死ぬのが、正しいのだろうかと...いや違う、テラス自身の願いに殉じているのかと。

 

 今度こそ、彼女は自身の我儘を突き通す為に動き出す。

 

 (...人間に同胞を殺されて、復讐が始まり、最後には人間の為に死を選ぶ...?)

 

 そんなの...

 

 (...そんなの、許してたまるかよっ!)

 

 だから!

 

「ユキ、わかっているだろう?こうなった私は鬱陶しいぞ?さっさとその球よこせ」

 

「...死体を二つに増やす意味は感じません...」

 

「ちげえよバーカ。私も生き残るに決まってるだろ」

 

 これは、テラスの嘘八百だ。テラスは思う...

 

 (一度の使用だけでも、血が全身を犯すような感覚に襲われるオメガバスティオンを数十億回...到底不可能だ...)

 

 だが、

 

 テラスは思いだす。

 

『じゃあひとつ選びな。私に殺されるか、殺される前に魔女因子を回収して殺されるか』

 

 ———どちらも『嫌』ですわ。ですが、貴女達はもうすぐハッピーエンドに辿り着く可能性がございます———

 

 ———私には『帰る場所』が...いえ、なんでもありませんわ———

 

 

 ユキは死にたくない。本当はエマ達の元へ帰りたいはず...なのに、私たちの為に死のうとしている...

 

 ユキは自身が死ぬことをハッピーエンドと捉えている...

 

 そのこと全てに、テラスはムカつく。

 

「あの技は、一度見た限りでは、まるで宇宙が誕生する可能性を身体をもって再現する様な技...それを一回成功させただけでも奇跡なのに、数十億回も?不可能です」

 

 ユキは言う。だか、テラスも全力で反論する。

 

「うっせええええ!!出来るっつたら出来るんだよ!」

 

 そういい、テラスはユキに近づき、強引に球を奪った。

 

 ユキは抵抗しようとするものの...

 

「...エマ...エマ、手を離しなさい。このままじゃテラスまで死んでしまう...」

 

「...離さない...もう二度と、離したりなんかしてやらない...」

 

 エマはいつになく強い語気でそう言った。それに付随し...

 

「...もしも成功すれば、誰も死なずにすむのだろう?ならば、それが最も正しい方法だと、私は思う...」

 

 ヒロも参加し、

 

「だ、大魔女様がいなくなったら...私はどのように過ごしていけばいいのですか?」

 

 メルルも参加する。

 

 そうやって、皆は意見を汲み上げてゆき...最後に、

 

「この島の魔女達は貴女のことをとてもよく考えていたそうよ。月代ユキ...だから、せめてもの可能性に寄り添いなさい。わたしたちもついているわ」

 

 ナノカがそう言った時、ユキは、ついに諦めた。

 

「...始めるぞ」

 

 テラスはその球の波長を読み取り、消し去るという事になる。テラスが一つ、大きく深呼吸をした時だった。

 

「...まて」

 

「...なんだ、アンアン」

 

「おまじない...」

 

 アンアンがテラスへと話かける。そして、

 

「【負けるな!】【絶対に勝て!】」

 

 二つの洗脳を全力でテラスへと行った。

 

 テラスは覚醒する。

 

 テラスの胸に感じる、新たなオメガバスティオンの波動。

 

「サンキュー!アンアン!」

 

 告げる。魔女因子をこの世から消し去る為に。

 

 アンアンに洗脳をかけられる時だった。テラスはの時一瞬、何かと非常に弱く、だが、明らかに強大ななにかと『接続』し、『それ』は力を分け与えてくれた。そんなのを肌感覚で感じ取っていた。

 

 (アンアンのお陰か、どうしてか、今の私には、『とっておき』が使える...こんなの、本当は使いたくないんだが、今は時間がないんでね!)

 

テラスはそのオメガバスティオンの仕様を薄らと理解していた。だが、今は『時間がない』。まともな方法で数十億回のオメガバスティオンなど不可能だ。それを解決するとっておきの技。テラスはそこで思考を止め、球を見る。

 

 そして、頭に浮かんでいた事を宣言する。

 

最後の砦・オリジン(イニティウム・オメガバスティオン)!」

 

 そうしてテラスは、球の波長を全て消し去る、辛く厳しい、遠い、遠い、長い長い旅に挑んだ...




魔女図鑑:

【名前】閃テラス

【情報】最後の砦・オリジン(イニティウム・オメガバスティオン)...テラスが数十億回のオメガバスティオンを達成したいと思った時、『何か』と接続したからか、アンアンの【洗脳】を受けたからか出来た技。


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