ゴクチョーの言葉に動揺した皆たちの前で、コホンと咳払いをしたのは蓮見レイアだった。全員の視線がレイアに集まる。
「先ほどゴクチョーが言った通り、このスマホの中には魔女図鑑というアプリが入っていた。先ほどゴクチョーも言っていたが、魔女図鑑はルールブックらしい。牢屋敷のマップや規則、我々の囚人情報が入っていた」
「今後はこの魔女図鑑に則って行動しよう」
それがレイアの言いたかったことだ。だが、それに反対するものもいる。
「っ...ざけんな!ウチは守ってくれなんて頼んでねぇ!魔女とか囚人とか知るかよ。1秒だってこんなとこいたくねえ。ウチはここを出るからな!」
紫籐アリサだ。アリサが噛み付いたことでレイアは憂げなため息をついた。
そんな紫藤アリサの行動を、
(デスゲームだったらすぐに死んでるやつだな)
と、テラスは冷静に思った。
問答の末、レイアに従う派と従わない派、そして孤立する3グループが完成した。
「テラスくんはどうするつもりだい?私たちは歓迎するよ」
テラスはレイアから声をかけられる。テラスは考えていた通りにした。
「私は一人でやらせてもらうよ。孤高!無敵!最強!」
彼女も孤立の道を選んだ。
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その日の夕食、テラスは魔女図鑑を見ながら朝食を食べていた。
(強いストレスを与えると魔女化が進行する...ね。つまりソウルジェムが濁っていくってこと、そして魔女化が進行すればするほど殺人衝動が高まり周囲に影響を与え、最終的には魔女となり、『処刑』される...はっ、終わってる状況だね)
テラスはよくわからないまずい夕食を食べながら思案する。
(おそらくこの食事も魔女化の進行を早めるためのストレス要因。お風呂がないのもこれが理由かね...あの檻房の鉄格子、無駄にオートロックだったし)
そして、魔法について。
(『魔法』という概念が魔女図鑑では示唆されている。これは一体どういうものなのか...)
そう思案げに朝食を食べている時のことだった。
「やっほー!テラスさーん!」
テラスはさっと手を隠す。
「シェリー。私に話しかけるときは3回回ってワンだ」
「そんなけちな事言わないでくださいよー」
シェリーはまさに、天真爛漫と言った風にそういうと、欠けたリンゴを食べ始めた。
そのリンゴはまるで怪力で押し潰されたように不均等に割れており、テラスは違和感を覚える。
「ん?そのリンゴ、どうやって割った?」
「ああ、これは私の魔法によるものらしいです!どうやら、私の魔法は【怪力】のようですね!テラスさんの魔法もお聞きしていいですか?あと、あの合気道でありそうな技はなんですか?とてもかっこよかったです!やはり、探偵と言ったら格闘術ですよね!」
「...質問が多い。まず、私が記憶喪失って事は言ったよね?私は、未だ自分の性すら知らない状態なんだ。だから、当然私は自分の魔法を知らない。合気の技に関しては...私もよくわからない。勝手に体が動いたとしか言えない」
「そうなんですか!そう言えば、エマさんが貴女のお名前を知っていましたよ。『閃テラス』と言うお名前らしいです」
「閃テラス...か。妙に落ち着く名前だね。多分事実だろう。でも、確実に就職に不利そうだな...名付け親の頭が伺えるキラキラネーム具合だ...というか、ええ...閃テラス...」
テラスが自身の名前を改めて噛み締めていると、シェリーは「それでは私はこれで!」と、そこから去っていった。
テラスはそれから自らの目的を果たす為に、牢屋敷の探索を行った。
図書館にて、テラスは宝生マーゴに話しかけられた。
「あら、貴女の名前はテラス...だったわねぇ」
「ちーす。マーゴ。この本たちって読めそう?」
「うーん。難しいわねぇ。大凡の言語は特定出来そうだけれど...」
テラスも人からの知見を少しでも得ようとしていたため嬉しい遭遇であった。図書館に来て本を見てみては良いものの、読める本が存在しなかったのである。
「そう言えば、テラスちゃんは占いは好き?」
「まー、血液型占いは偏見の塊だと思ってるよ。私はO型だけどリーダー気質とかは多分ないからね」
「あら、そう...それじゃあタロットカード占いはいかがかしら?」
「タロットカードなんてあったの?」
「ええ、娯楽室の方から少々拝借させてもらったわ」
「わー、シンプルな借りパク。それじゃ、一回ぐらいしてもらおうかな」
抗えぬは占いに釣られる女子の性か。テラスは承諾する。
「それじゃあ始めるわね。...『剛毅』の正位置...貴女は忍耐強く、そして目的を必ず達成するわ。良かったわね」
それを聞いたテラスは胡散臭そうな目でマーゴを見つめる。
「ほんとかな?明日にはぽっくり逝っててもおかしくない環境だと思うんだけど。だから、忍耐強さとか特にいらないよねぇ。目的が達成できるって言うのもただ相手を上げているだけに思える。所詮は占いかな?」
「ふふ、そうよ。所詮は占い...だけど、昔からの伝統は時として、力を持つわ」
そう言うと、マーゴとテラスは解散した。
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移動時にスマホに通知がなる。
テラスが通知を確認すると、それは配信アプリからの通知だった。
「この屋敷、配信なんて出来るんだ...いや、変なところでやっぱり近未来的だな」
そう言いながら通知から配信アプリへと飛ぶ。すると、出てきたのは沢渡ココだった。
しばらく見ているものの...
「うん、つまらない。というかこの同接でよくテンションもつな...」
テラスはスマホを閉じ、次に向かった。
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テラスは中庭に来た。そこではレイアが外の空気を吸いにきているようだった。
「レイア、なにか見つけたものとかある?」
「テラスくんか。残念ながら、今の私はなにも目新しい情報はもっていないよ。ただ、ゴクチョーから聞いた話によれば...」
レイアはゴクチョーから聞いた言葉を言伝にテラスに伝える。
それは、この牢屋敷が随分な年月を歩んでいること、そして、この島は元々、人間と魔女が共存していたが、何らかの理由で囚人達を捕える牢屋敷へと姿を変えたのだとレイアは言った。
「大魔女がなにかに関わっている様に言っていたけど...申し訳ない。そこまで深くは聞き出せなかったよ」
「いや、そんな情報でもありがたいよ。センキューレイア」
テラスはそう言うと、中庭を出ようとする。
その足にレイアは待ったをかけた。
「テラスくん。君はどうして孤立の道を選んだんだい?まだ少ししか話していないが、君は理性的な人間に思える。そんな君が一体どうして...」
「んー、一つは時間をなるべく浪費しない為だね」
「浪費?」
「そう。人と馴れ合うとどうしても時間を浪費してしまう。そして、今この状況は危険な状態だ。食料の供給がもしも止まったら?看守が急に暴れ出したら?そう考えると探索、己の命を救う為の時間を無意味に削ってしまう馴れ合い行為は避けるべきだと判断した」
「なるほど...君は己の目的のためなら他者との交流も切れる人間なのか」
レイアは囚人の中で、唯一既に役者として自ら生計を立てれる程に大成した身だ。だからこそわかる。
意図して人との交流を切れる人間、すなわち孤独を選べる人間は、強い。
レイアはこれまでの半生を思い返す。その中には、当時の友人関係を無くしてまで名声を得ようとし、一時は孤立したこともあった。
だからこそ思う。テラスは強い人間であると...
「二つ目は、単純に私がクレイジーサイコボッチ陰キャだから」
「クレイジー、サイコボッチ陰キャ...?」
あれ、なんか風向きが変わったぞとレイアは感じた。
テラスはどこか自信満々に言う。
「これこそ私が友達を作らない、できない理由!あまりに意味不明な事を口から飛び出させてしまう超絶悪癖のせいで友人関係を築けない!」
「そ、そうなんだな...」
「うわぁ!いきなり落ち着くな!」
「う、うん...」
レイアは先ほどまでの目線はどこへやら、冷ややかな目線をテラスに向ける。
「なんだその態度は!その態度により私の怒りが有頂天になった!」
「....有頂天っていうのは、その...きっと、別の意味合いだと思うけど...」
テラスはあらかた言い終えたあと、しゅんと立ち直る。
「レイア、君には感謝している」
「え?」
「みんなをまとめ上げたことだ。あれは、きっと私にはできなかった」
「あ、ああ...気にしなくていいよ。それに、私のカリスマでは君まで掬いあげることができなかった」
「まとめ役がいなかったら、きっと皆んなは今よりも恐慌状態に陥り、事態は悪化していたはずだ。キミは精神的支柱だ。だから、ありがとう。じゃ、わたし次行くから」
「あ、待て...!行ってしまったか...」
さっきまでの調子はどこへやら、テラスはレイアにそう告げ、探索を再び開始した。
残されたレイアは考える。
(なにか、掴みどころがない様な子だった...だが、あんな様子でもとても理性的で、なんらかの目的を達成しようと邁進しているのが見受けられる...)
レイアはそこまで考えたあと、思考をやめた。テラスのことについて考えるのは無駄だと悟ったからだ。
そうして、中庭には何者にも邪魔されず、涼やかな風が吹いていった。
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テラスは他に出入りできる場所を調べてから、最後に娯楽室に向かった。そこには先客がいた。
「あ、テラスちゃん...やっほー...」
そこにいたのは自身の事をおじさんと呼称する少女、佐伯ミリアであった。
「ミリアはここにいるんだね。別に用があってきたわけじゃないから気にしなくて良いよ」
テラスは映画を見ているミリアに気を遣ってか、そう言いながら娯楽室を調べようとする。
その様子を見たミリアはテラスに声をかける。
「テラスちゃん。ここに調べ物をしにきたの?」
「...なにか情報がないかと思ってね」
「おじさんね、この娯楽室にいる時間がみんなに比べて長いから言えるけど、多分この部屋に重要なモノはないよ...それと、テラスちゃんは記憶喪失...なんだよね?」
「ああ、まあ、そうだけど」
「不安にならないの...?突然こんな所に来て、記憶もなくなって...」
「そりゃあ不安になるよ。だけど、なにもしなかったら変わらない。だったら、やるしかない。無理を通せば通りは引っ込むもんよ」
「テラスちゃんは強い子...なんだね」
「いやー、それほどでもー」
テラスがおかしなイントネーションでそういうと、ミリアは笑った。
「そこは『ほめてない』っていうとこなんだけどなぁ...」
テラスは苦笑いを浮かべた。
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テラスは地下の懲罰房に赴いていた。
「悲鳴が聞こえる...」
テラスは悲鳴が聞こえたところまで行くと、一つの大きな鉄の扉を阻んで聞こえているようだった。
そこに耳を当てると、聞こえてきたのはアリサの声だった。どうやら、本当に一人で脱出をしようとしたらしい。それで、規則を破ってここに入れられているのだろう。
今度は覗き窓から顔を出してみる。磔にされたアリサの姿が目に映った。
「やあ、アリサ。良い天気だね」
「はぁ...はぁ...なんだお前...いや、記憶喪失になったって言ってた奴か...名前はなっつったかな...なんもねえならさっさとどっかにいきやがれ!」
「センテラス...探偵さ」
「...はぁ!?」
「ただの冗談だよ」
「おめえほんとなんなんだよ!」
磔刑台に縛られているアリサは憤慨しているようだった。失敬。
【名前】
閃テラス
【情報】漫画、アニメのセリフの引用を好む。これに関し、テラスは記憶を失う以前の私がそういう文化に詳しかったのだろうと考察している。
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