「......ヒーロー見参」
テラスは鎌の凶刃からエマを救いあげる。だが、エマは腰が抜けた様にその場から動けなかった。
「この宣言をするって事は絶対に助けるってこと。だから、さっさと行ってくれない?」
テラスはエマにそう言うと、なんとかエマはその場から走っていった。
そして、垣間見得た。
「よお、看守さん...ようやく、一緒にお喋りできそうじゃねえか...」
テラスが拳をゴキリと鳴らしながら言う。
「...」
それに対し、看守はなにも口を開かない。ただ、刃をテラスに向けるだけだ。テラスもそれを承知して、それでも話を続ける。
「お前もマインドコントロールされた被害者なんだろう?本当はこんなこと、したくなかったんだろう...」
「なあ?ナノカの姉さん...」
テラスは構えた。
スタスタと、看守の隣に来たメルルが告げる。
殺してください。看守さん。
それが戦いのゴングとなった。
テラスは、人外の怪力で横薙ぎに払った凄まじい速さの鎌を、体を逸らし避けると、鎌の懐に潜り込み、その身体に刻み込まれた技を使う。
「深淵閃風」
テラスは脚払いを行う。それは究極的に研ぎ澄まされた技であり、看守の脚を掬った。そして、
「閃拳」
テラスは看守の胸に、低い体勢をとりながらも正拳突きをする。それは見事に直撃し、看守を吹っ飛ばした。
「そ、そんな...看守さん?」
「次はお前の番だ。メルル...」
テラスはメルルを指差す。
「ひぃ......でも、この程度じゃなれはては死にません」
そう言い切るメルルにはどこか、魔女としての...人外としての自信が見えた。
「ああ、知ってるよ。魔女やなれはてはトレデキムか魔女殺しの魔法でもなきゃ殺せない。だが、私はもう...次善手を打つことにした」
テラスは少し語る。己の心境を。
「本当なら、こいつも救ってやりたかった...だけど、もう『次』に賭ける事にした。これ以上の勝手はさせない」
そのテラスの気迫にメルルはビビる。ビビり散らかす。
「ひぃ......看守さん!起きてください!看守さん!!!」
「メルル...お前は皆を元の場所へ返す手段を持っているか?」
テラスは最後通牒の様にメルルに言うと、メルルは動揺しつつも、申し訳なさそうに言った。
「...貴女たちはもうすでに、政府により書類上では死んでいることになっています......私にも、それをどうにかすることはできません」
メルルがそう言うと、看守が起き上がりテラスに襲いかかる。
テラスはそれを紙一重で避ける。そして、
全力の一手を放つ。
「龍閃崩拳」
それは、看守の『中心』を打ち砕く一撃だった。
その拳を受けた看守の体には大きな風穴が空いた。そして、元には戻らない。
「そんな...どうしてなれはてがただの拳で...?」
「私が『中心』を殺した。それだけの話だよ。他人の心配をしている場合?言っただろう?今度はお前の番だ」
メルルは酷く困惑した様子だった。しかし、テラスの怒気に「ひぃ」と鳴き声を漏らす。
メルルの行動は素早かった。
すぐにその場から駆け出し、逃亡を図る。
テラスもすぐに追おうとするが、看守が最後の抵抗をみせる。
「... 繧ゅ≧縺ゥ縺?〒繧ゅ>縺?......」
「...言っている意味はわからない...けど、ごめん...私が全部、力不足だったせいだ...」
テラスはそれを哀れな目で見ながら、悲拳を交え、舞闘を演じた。
_________
エマ達は逃げていた。遠く、遠くへ逃げていた。
「テラスちゃん...大丈夫かなっ!」
息を切らしたエマが言うと、
「テラスはきっと大丈夫だ...それより、私達の心配をしよう」
ヒロはそう答え、マーゴが提案する。
「貴女達はそこの木の窪みの中で隠れていなさい。私は他の場所を探してくるわ」
「おい、待て!」
ヒロがそう叫ぶも、マーゴは足早に去っていった。
完全に息を切らしたエマとココを見て、ヒロはマーゴの提案通りに木の窪みに入ることにした。
それが失敗だった。
ココはもう既に限界を迎えきっていたのだろう。木の窪みの中、心の禁忌に触れ、それが爆発した。
魔女と化したココの攻撃をエマは受ける。
が、それをギリギリのところでマーゴが庇った。
「っ!マーゴ!」
「マーゴちゃん!」
マーゴはどこかおかしそうに笑いながら言う。
「私も焼きが回ったもの...ね...」
そう言うと、マーゴは血を吐く。エマとヒロはどうにかその状況を打破しようとするが、マーゴの最後の抵抗が光る。
マーゴは胸を貫かれたまま、ポケットから小さな小瓶を取り出した。その中に入っていたのは、魔女殺しの液体。トレデキム。
マーゴはトレデキムをなんと回収していたのだ。そして、最後に、ココと共に心中したのだった。
エマとヒロは駆け出した。何処に行けばいいのかもわからずに...
_________
エマとヒロは逃げていた。逃げて、逃げて、逃げて...
そうして、会ったのはメルルであった。
「っ、メルルちゃん...」
だが、エマ達は困惑していた。
メルルが看守を連れてきていないことや、メルルが随分と憔悴しきった顔をしていたのだ。
どう言うことかと気になった矢先、メルルが言う。
「あの圧倒的な姿...どうせ、私も死ぬなら...最後に思い出話をしましょうか」
そう言うと、メルルは一枚の写真をエマとヒロに提示した。
「な、なに?」
「...まさかっ!」
その写真をメルルは、大魔女との思い出として語った。
...その写真を見た時、ヒロは絶句し、そしてエマは...
「あ、ああ...そっか、そうだったんだ...」
全てを思い出した。ユキとの出会い、友達となって、見捨てて、今度はテラスちゃんをーーー
「っ!」
「な、なんですかぁ...っ!」
場の流れが急変するのをヒロとメルルは感じた。
何かが、くるっ!
その場に激しい光が生じる。
そうして、ヒロとメルルは見てしまった。その存在を。
背には四枚の翼を持ち、目は赤く濁って、手足は黒く染まっている。
その姿はまるで、世界にお告げをする天使の様にも見える。
それは、エマが魔女と化したということだと、2人は瞬時に理解した。
「ゴクチョー...」
エマはゴクチョーに命令を下し、メルル処刑の準備を進める。
その間、エマはヒロと会話をした。
ヒロは全てに気づき唖然となり、エマはそれをどこか遠い目で見ていた。
「エマ、私はこれまで一体どれほどの事を...」
「良いんだよ、ヒロちゃん。ボクは、もう、いいの」
二人が話している最中、絶叫が聞こえた。処刑がなされている様だった。
二人はそんな処刑に見向きもせず、会話を続ける。
「...エマはこれからどうするつもり?」
「ボクは、全人類をこれから滅亡させるよ」
「...それはユキの差金で?」
「ううん。自分の意思で。もちろん、ユキちゃんに褒められたいのもあるけどね」
エマはどこか照れくさそうに頬をかく。ヒロはその光景になにかゾッとするものを覚えた。
処刑が完了し、あたりが静寂に包まれる中、声が聞こえた。
「おい、ガキ共...これはどう言う状況だ?」
テラスが到着する。
「エマは大魔女に取り憑かれ、操られている!このままでは私達はおろか、全人類を皆殺しにする!」
ヒロはあの時、月代ユキに言われた事を思い出し、テラスに伝える。
「テラスちゃんも、ごめんね。今まで助けてあげられなくて...慮ってあげれなくて...」
「いや別に?助けて欲しいとも慮って欲しいとも一言も言ってないでござるよ」
テラスは本心からそう言う。だが、エマは独善的に宣言する。
「それじゃあ、終わらせようか」
テラスは背中になにか冷たいものを感じた。冷や汗だ。看守と戦った時さえ冷静だった身体に、異変が起きている...そうして、それは発動した。
「みんな、『しね』」
それは魔女にとっての絶対の一言。それはすなわち、全人類への裁きとなる。
まさに、絶死の魔法。
ーーーだが、その言葉にカウンターを合わせる者がここに1人いた。
(っ!なんかヤバいっ!)
テラスは、その言葉から飛んできた波長を読み取る。そして、久しぶりに体が勝手に動いた。否、改めてテラスは、それを意図的に行った。
「
ピシュンと間の抜けた音がした瞬間、その魔法が効力を失った。
「え...あれ?どう言うこと?」
エマはもう一度宣言する。
「みんなし」
「っ!させないよ!」
テラスはエマの顔面を拳でぶん殴った。
かくして、最終決戦が始まった。
_________
殴られたエマは何事もなかったかの様に飛び起き、テラスと相対する。
エマは独り言をぶつぶつと呟いている。
「そのオメガバスティオンっていう魔法のせい?」
「魔法じゃない?だけど、魔法の波長を合わせて消し飛ばしてるようなもの...?」
「本来なら不可能な現象?そうなんだ...」
その間に、テラスも己の技について考察する。
(改めて、なんだこれ...アリサの時にも起こったことだけど、ヤバそうな雰囲気を察してか、体がほとんど勝手に動いた...その結果がこれ...うん。相変わらず意味わからないね)
だが、テラスは己のやったことに最低限の理解はしていた。この技はまるで、量子トンネル効果のようなモノ。ボールを壁に当てた時、そのボールが壁をすり抜けるような現象を己が身一つで再現する。
テラスがマーゴからの助言、逆位相を全力で考えた結果の代物である。魔法の波長を捉え、その波長を打ち消す真円を描く、その真円は全ての波長を均一化、同調し、結果、魔法はこの世からかき消される。
ふとテラスは自身の鼻を拭った。その手には血が付着していた。
(そう、長くは持ちそうにないかな...アリサの時も実はそうだったけど、この技、
テラスはアリサの時、ここで決めなければ命の危険と、そしてアリサと会話が出来なくなるという意思の元、これを行った。
だが、よくわからない。なぜ、今頃になって波長の打ち消し、この技が使える様になったのか...
(純粋に原理を考えれたからか、はたまた、命の危険があったからか...もしくは両方か...)
テラスにはわからなかった。
そんな、不安定で不確定で不明瞭な謎の技。それが、
魔女図鑑:
【名前】閃テラス
【情報】龍閃崩拳...テラスが誇る最強の必殺技。パワーがとてつもなく高いのが特徴。ここぞと言う時にしか使えないほど、タメを要するのが欠点。
評価、感想随時募集中!