BanG Dream!×仮面ライダー詰め合わせ(になる予定)   作:湯豆腐に季節のエクレアを添えて~

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オリ主(仮面ライダーキバ)×豊川祥子です。

・・・・もうすぐ、新作映画が始まると聞いたので・・・。
あと、何だかんだ、仮面ライダーの中でキバが一番好きだったので・・・。


キバ編(豊川祥子×仮面ライダーキバ)
第一話 オーバーチュア・仮面の愚者


物語の始まりは、とある幼少期一人で過ごしていた時。

両親が居なくなった後、何もない自分に話しかけて遊んでくれた太陽のような彼女。

・・・・そして、『私と友達となってくださる?』あんなに優しい言葉を掛けてくれた。

きっと,あの時から僕は・・・

 

 

だから、力になりたいと思った。守りたいと願った。

だから、あの時、傘を差しだして自分の思いを伝えた。

 

 

・・・・あの時、本当に僕が伝えなければならないことは別のことだったはずなのに。

・・・・仮面で流れる涙を隠しながら、拭うことを諦める。

大勢を救いたいと宣いながら、救いたい人はただ一人。

冷徹になろうとしたが、それさえできなかった。

 

 

もっと違う結末があったかも?

あの時,こうすれば良かったかも?

 

そんな疑念を抱かせないほどに絶対的で圧倒的な結末を望んだ僕がたどり着いた正解の一つ.

もちろん。正義の味方・・・。仮面ライダーとしてはどうなのか、人としてどうなのか?(・・・まあ,僕は人間ではないのだけれど)と思う自分もいるけれど、そんな迷いは捨て去って進む。

 

 

これは,迷いながらも進んで行く彼女たちとは違う物語。

・・・祥ちゃんと僕、黒瀬朔の物語。

 

 

そして・・・,

『朔!今日もキバっていくぜ!』

 

「・・・・う,うん.キバット!」

 

おしゃべりコウモリ“キバットバット三世”と僕、仮面ライダーキバの物語。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

陽が沈んだ夜に、とある少女が歩いている時のことだった。

少女は少し変わり者であったが、善良な部類の人間であった。

人に害される要素などは欠片も持ち合わせていなかった。

ただ、約束の場所に遅れないよう、近道のために足を踏み入れた路地裏。

・・・・それだけがいけなかった。

 

 

「う、あ・・・・っ」

少女は,怪物に掴み上げられ、苦し気に呻いている。

怪物は黒い体の各所を色とりどりのステンドグラスで飾り、蜘蛛のような姿をしている。

   “スパイダーファンガイア”

十三の魔族の頂点に立つと自負する一族。“ファンガイア”の一人。

吸血鬼伝説の元になった種族であり、圧倒的な力で他の魔族を淘汰してきた。

この個体も同様に、人間のライフエナジーを吸い、糧にしようとしていた。

 

スパイダーファンガイアは空中に2本の牙のような器官“吸命牙”を実体化させ,少女に突き立てようとする。

「や、やだ・・・・。」

少女は何とか抵抗しようと身をよじるが、スパイダーファンガイアの腕はびくともしない。

 

 

少女には、可哀そうな事であるが、仕方のないことでもある。

この世に生きる生命は全て他者の命を糧に生きる。

少女が、豚や牛を食べていたように、ファンガイアも人の命を食らう。

少女の死期が突然訪れるのも仕方ないことではある。

 

 

 

・・・ただし、それは、スパイダーファンガイアも同じこと。

 

 

 

「うがぁあああ⁉」

次の瞬間、スパイダーファンガイアは何者かによって殴り飛ばされた。

うめきながら転がるスパイダーファンガイア。

そして、激しく咳き込みながら崩れ落ちる視界で、夜の闇の中で彼は立っていた。

 

 

黒い身体を、血のように赤い鎧で包みこみ、肩や足には、彼が本来封印されるべき忌まわしいものであることを示すかのように、重厚な銀色の鎖―、カテナが巻き付けられていた。

顔はマスクで覆われ、翼を広げたコウモリの形をした両眼が、夜空を照らす月のように輝いていた。

キングオブヴァンパイア。仮面ライダーキバ。

本来であれば、ファンガイアのキングが装着するはずであった鎧。

―だが、今は・・・

 

「・・・・・・」

キバは一言も発さず、うめくスパイダーファンガイアの胸ぐらを掴んで起き上がらせると、その鳩尾を蹴り上げる。

「・・・・うぐっ・・・!」

スパイダーファンガイアは苦し気に声を漏らす。

やられたままでは終わらず、スパイダーファンガイアは粘着質の糸を吐き出し、キバを拘束しようとするがーーー

 

 

キバは自身の体に纏わりついた糸を難なく引きちぎり、スパイダーファンガイアの頭部を掴み上げ、拳を叩き込む。

 

一撃一撃が轟音を立てながら、スパイダーファンガイアのステンドグラス状の肉体を砕く。

夜道に鈍い音が響き続けた。

 

 

 

断末魔の直前。スパイダーファンガイアの全身のステンドグラスにファンガイアが人間の姿を装っていた時の顔が無数に浮かび上がる。

 

「お、まえ、は・・・、裏切り者の・・・」

 

「・・・・・・・」

 

キバはその呪詛に耳を貸さず、赤い笛状の道具。ウェイクアップフエッスルを取り出し、自身のベルトに逆さに吊り下がっている黄金の蝙蝠“キバットバット三世”に嚙合わせる。

 

 

 『いくぜ!ウェイクアップ!』

 

 

禁断の笛の音色と共に、キバの右脚のカテナが弾け飛び、禍々しい翼がその姿を現す。

そして、周囲の闇を吸い尽くすほどの魔皇力を右脚に収束させ、キバはスパイダーファンガイアに一文字の蹴り、

 

 

ダークネスムーンブレイクを叩き込んだ。

 

 

スパイダーファンガイアは色鮮やかなガラス片となって砕け散り、スパイダーファンガイアが叩きつけられた壁にはコウモリをかたどったような紋章、“キバの紋章”だけが残された。

 

「え、・・・あ、あの・・」

 

「・・・・・」

 

キバは、困惑している少女に一瞥もくれなかった。

 

 

ーーーーただ、静かに反転し、夜の闇の奥へと、その姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな王の成り損ないの暗闇の日常が進む中―、

とある舞台では、人形たちの舞台が幕を開けようとしていた。

 

 

「ドロリス。」

 

青色の髪を二つに結び、仮面をつけた少女――オブリビオニスは、椅子に力なく座りこんでいる金髪の人形に語りかける。

 

「ドロリス。さあ、目覚めの夜よ。」

 

どれほど美しく厳かな声を掛けようと、少女は微動だにしない。

ただ、静かに目を閉じている。

 

「あたしが起こしてあげようか~?」

 

その静寂を揶揄うように、紫髪の仮面の少女――アモーリスが妖しく声を弾ませた。

 

「無理に起こしてしまえば、魂が壊れてしまうかも」

 

口元を黒いマスクで覆った少女――ティモリスは冷静に告げる。

 

「お姉さま・・・」

 

薄緑の髪を揺らす仮面の少女――モーティスは、ただ静かにオブリビオニスの答えを望む。

 

「大丈夫。月の光が起こしてくれますわ」

 

オブリビオニスは、舞台の頭上に掲げられた月を見上げ、

 

 

「影に呑み込まれた月は息を吹き返し、哀れな人形は再び仮初の命を宿す」

 

彼女が月に手を伸ばすと同時に、月は新月から三日月へ姿を変える。

 

 

・・・・そしてー、

ドロリスは静かにゆっくりと、昏い瞳を開いた。

 

「それでは、始めましょう。今宵のマスカレードを」

 

オブリビオニスの麗しい声と深い会釈を合図に、狂気の旋律が鳴り響き、幕が上がる。。

 

人形たちの舞台―、Ave Mujicaの舞台のー。

 

 

 

 

 

「わあ、祥ちゃん・・・。」

 

そんな狂気の旋律の中で、気弱そうな眼鏡の少年―黒瀬朔は観客席で少女―オブリビオニスに熱い視線を向けている。

 

 

「朔~!ギリギリ間に合ってよかったな~」

 

朔の胸ポケットの奥、金色の蝙蝠―キバットバット三世が陽気に羽を震わせている。

 

「・・・うん!」

「お前、さっきの戦いの後、無茶苦茶な速度でマシンキバ―乗り回してたもんな~」

 

朔は、とある事情により、ライブに遅れそうになっていたが、全力でバイクを運転し、今、この場所にいる。

あの雨の日からの後悔を、今も胸の奥で血を流すように引きずりながら。

それでも、彼は、彼女の世界を観るためにここにいる。

 

「おっしゃあ!俺も、しっかりと祥ちゃんの姿をこの目に焼き付けるぜ!」

「ちょ、ちょっと・・・、声が大きいよ。・・・あんまり目立つことしないで・・・。あっ、すみません。何でもないです・・・・」

 

周囲の観客の不審そうな視線に慌てて頭を下げながら、朔は再び、人形たちの舞台へとその目を向ける。

激しい重低音の中、仮面を被った彼女たちが音を奏でる。

 

 

そして、朔は、鳴り響く音楽に身を沈めー

 

 

「あれ?何で、祥ちゃん、変な仮面付けてんだ?睦ちゃんも付けてるしよ~」

「いいから、黙ってて!」

 

るには、もう少し時間が掛かりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、数時間後―、

 

「・・・祥ちゃん。まだかな・・・」

僕の愛車、マシンキバ―にまたがりながら、彼女のことを待つ。

 

今の彼女がどれほど多忙を極めているかは知っている。確か、ライブが終わった後は、すぐにメディアの取材が入っていたはずだ。

 

・・・・・・・なので、時間通りに来れるか心配ではあったけれど・・・。

 

 

「朔。・・・待たせてしまいましたわね」

どうやら、その心配は杞憂であったようだ。

 

淡い青色の髪に琥珀色の瞳を持つ綺麗な女の子―豊川祥子は、少し申し訳なさそうに眉を下げながら僕を見つめていた。

 

「ううん、全然待ってないよ」

実は、三十分ぐらい前から待機していたが、それは内緒だ。

僕が勝手に待ち合わせ時間前に来ていただけなのだから。

・・・・こんな夜中に大切な女の子をほんの数分でも一人で待たせるわけにはいかない・・・。

 

「さ、早く乗って。」

 

タンデムシートを軽く叩きながら、祥ちゃんを促す。

祥ちゃんはいつものように礼儀正しい仕草で腰掛け、タンデムベルトをしっかりと手にした。

 

「・・・相変わらず、奇抜なデザインのバイクですわね」

「うぅ・・・。・・・やっぱり、僕には似合ってないかな?」

「いいえ。よく似合ってますわ」

「や、やった・・・!」

 

うっかりガッツポーズをとってしまった。

 

その様子を見たからか、祥ちゃんはクスリと笑ってくれた。綺麗な笑顔だった。

 

「祥ちゃん!さっきのライブかっこよかったぜ~!」

 「「あ、ちょっと、キバット!勝手に出てこないで!」

 

僕の胸ポケットから、僕の相棒兼おしゃべり蝙蝠―ー、キバットバット三世が呑気に飛び出てきてしまった。

ライブ中でも勝手に出てきて騒いじゃったのに・・・。本当に、僕の相棒は言うことを聞いてくれない。

 

「あら、三世も来ていたのですね。いつもは家でお風呂に入っている時間でしょう?」

「いやいや、祥ちゃんのライブがあったってのに、呑気に風呂なんて入れねぇよ~」

「ふふっ。そうですのね」

 

「キバット!誰かに見られたらどうするの、引っ込んでて!」

「今さらじゃねぇか~?・・・さっきもライブ会場で大勢に見られてたぞ」

「それは君が勝手に出てきたからでしょ!」

「だってよ~。朔の胸ポケットは狭くて、長い間じっとなんてしてらんねぇんだよ~」

「初めて会った時は、正体ばれないように注意しろって言ってたくせに⁉」

 

悪戯っぽく笑っているキバットを左手ではたこうとするが、華麗にかわされる。

次に右手で叩き落とそうとするが、それもまたかわされてしまう。

 

 

「・・・・うぅ」

 

「こんなのじゃ、当たんねぇよ~」

 

得意げに飛び回っている眼前のコウモリ。

戦闘の時はこれ以上なく心強いが、普段は本当に腹立たしい。

 

 

・・・・今だって、僕の鞄から取り出したチョコバーを、見せつけるように僕の鼻先で揺らしている。

・・・それ、祥ちゃんにあげようと思って買っておいた奴なんだけど?

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「おーい、どうしたんだ?朔、もう諦めんのか~?」

 

少し考えた末に僕は、

 

「ほっとこうか、祥ちゃん」

「ええ、そういたしましょう」

放っておくことにした。

チョコバーなら僕の家の冷蔵庫に沢山あるし、先に家に帰ってから戸締りして締め出してやろう。そうしよう。

マシンキバ―のエンジンを掛け、発進する。

その時、何やら抗議するようなキバットの声が聞こえたが、完全に無視した。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど・・・。最近、アモーリス・・・、祐天寺さんの正体匂わせの頻度が多くなってるんだね」

「ええ、そうですわ」

「・・・・まあ、祐天寺さんからしたら、顔と数字を理由にスカウトされたのに、いつまでも正体隠したままっていうのは納得いかないだろうしね・・・」

「分かっていますわ。だから、最も適したタイミングで・・・」

「・・・そうだね・・・・」

マシンキバ―を運転しながら、後部座席の祥ちゃんと話す。

 

 

 

 

 

多分、祥ちゃんは正体を公表したくないんだろう。

・・・・・ずっと、仮面で隠していたいんだろう。

CLYCICの元メンバーの高松さんや椎名さん、長崎さんには特に。

僕だって祥ちゃんの意志を尊重したい。けれどー。

 

「・・・・長くは続かない・・・」

 

「朔?何とおっしゃいましたの?風の音でよく聞こえ・・」

「ううん、何でもないよ」

 

小さな、けれどどこか冷静な心の声が零れてしまっていた。

いつかは伝えなければいけない。・・・祥ちゃん自身も無意識には気づいているはずだ。でも、今はー。

 

「祥ちゃん。今日も僕の家に来る?おいしいビーフシチューを用意してあるから」

 

「ええ、喜んでいただきますわ」

 もう少しだけ、この穏やかな時間を過ごしていたいと思―、

 

 

 

 

 

『――pipipipipipipi!』

 

 

 

 

 

静寂を裂くように、祥ちゃんの携帯電話が甲高い電子音を鳴り響かせた。

 

「・・・ちょっと、近くのコンビニに停めるね」

「・・・ええ、お願いしますわ」

 

バックミラーに映る祥ちゃんの表情が、一瞬で険しくなっていた。

どうやら、祥ちゃんも僕と同様にある人物についてのことだと察したのだろう。

 

 

「ええ、はい。分かりました。申し訳ありません」

祥ちゃんが電話相手―彼女の近所の交番に勤務しているお巡りさんたちに少し沈んだ声で謝っている。どうやら、祥ちゃんのお父さんが酔っぱらって倒れていたとのこと・・。

 

祥ちゃんのお父さんー、昔は立派な人だったけど・・・。今はー、

 

「・・・・クソ親父・・・」

 

ぽつりと祥ちゃんが誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

 

・・・・僕は、聞き逃すことが出来なかったけれど・・。

 

 

 

「清告さん。もうすぐ家に着きますからね」

「・・・うぅ・・」

 

彼は、私の父を背負い、夜の住宅街を歩いていく。

 

自分の少し小柄な体躯よりも、ずっと大きい、成人男性の身体。

それを背負いながら、何の苦でもないように笑っていた。

 

「朔。本当にいつも・・・申し訳ありませんわ。」

「ううん。気にしないで、祥ちゃん」

 

額に汗をにじませながらも、彼は振り返って笑う。

 

 

 

「僕が好きでやってることだから」

 

 

 

本当に心の底から思っているような曇りのない声で。

・・・・・・いえ、彼は本当に心から思ってくれているのでしょう。

 

 

あの日、私に傘を差しだし、自身のありのままの想いと、自身の正体を私に告げた少年。

何の混じりけや打算もない純粋な優しさでー。

自分の正体を他人に明かすことが、どれほどの危険を孕んでいるのか、彼自身が一番知っていたはずですのに。

 

 

 

―――そして私は、彼の純粋な優しさに、今も寄生するように甘え続けている。

自分が彼に返せるものは何もないというのに。

彼の好意をー、薬を自分の中で毒にして、その温かさに侵されていく自分に嫌悪を抱きながら。

 

 

 

「祥ちゃん・・・」

 

不意に彼が立ち止まり、神妙な声色で私を呼ぶ。

 

「朔?どうしましたの?」

 

もしや、気づかれてしまったのだろうか、そんな不安が頭をよぎってしまう。

 

 

 

「・・・・は、吐いた・・・」

「・・・はい?」

 

今にも泣きだしそうな顔で彼は振り返った。

 

「清告さん。・・・僕の、背中で、吐いた・・・っ。」

「・・・・・・今、何とおっしゃいまして?」

「服の、中まで、入ってきてる・・・っ」

 

とうとう堪えきれず、彼はボロボロと涙をこぼし始めてしまった。

 

いつもは大人っぽい雰囲気を出そうと背伸びしている(実際は少しも出来ていないのですけれど)彼だが、流石にこれは堪えてしまったのでしょう・・・。

 

 

そんな、彼の姿に少し救われながらもー、

 

「・・・・クソ親父・・・」

 

自身の父親に対する不満が今もなお、膨らんでいく。

 

自分で選んだ道であったはずですのにー。

 

どこかで、あの選択を悔いてしまう自分がいるかのようにー。

 

また、その言葉が零れてしまっていたのです。

 

 

「・・・祥ちゃん。そんなこと言っちゃダメだよ」

自分の背中を汚され、涙を流しながらも、彼は私を宥めるように微笑む。

 

――ああ、やはり、この子はどこまでも優しい。

 

・・・・本当に、自分には勿体ない・・。

 

 

 

 

 

 

 

「祥ちゃん、ありがとう・・・。」

 

辿り着いた狭いアパートの一室。その薄暗い浴室で、僕は祥ちゃんに背中をシャワーで流してもらっていた。

 

 

清告さんに背中へ吐瀉物を吐かれてから、泣きながらも清告さんを家まで運び、今に至る。

 

吐瀉物を吐かれた地点からアパートまでは距離があり、清告さんの吐瀉物がズボンの中まで入ってきてしまい、途

中で鼻水を流しながら号泣してしまった。

・・・・・しかも、宥めようとした祥ちゃんに抱き着いてしまい、祥ちゃんの服まで汚してしまった。

 

 

「・・・うぅ。ごめんね。僕、情けなくて・・・」

「・・・そんなことをおっしゃらないで。・・・朔は何も悪くないでしょう?」

「うぅ。でも、祥ちゃんの服、涙と鼻水で汚しちゃった・・・」

「初めてのことではありませんもの。気にしていませんわ」

「・・・うぅ・・」

 

 

幼い頃の記憶が蘇る。

僕は怖がりで、すぐ祥ちゃんや睦ちゃんに泣きついて、二人の服を涙や鼻水で汚してしまった。

あの頃から僕は何も変わっていないのではないか、という思いが胸の奥に広がっていく。

 

 

けれど、祥ちゃんは、自分の汚れた服を洗うよりも先に、僕の背中を丁寧に洗い、今は白いタオルで優しく拭ってくれている。

・・・・少し恥ずかしいけれど、胸が少し暖かくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

ふと鏡越しに振り返ると、そこには白い下着姿になった祥ちゃんがいた。

 

・・・・押し寄せる罪悪感でいたたまれないはずなのに、僕はその姿から目を逸らすことが出来ない。

 

 

リボンが解かれ、肩へと滑り落ちたブルートパーズのような髪、琥珀色の瞳。

それらが、真珠のように白い肌と淑やかな下着によっていっそう鮮烈に映え、僕の心を釘付けにする。

 

 

そのまま、吸い寄せられるように彼女の瞳を鏡越しに見つめてしまう。

いつも強い意志と責任感を宿している彼女の瞳。

それが今は、少し穏やかで年相応の無防備な少女の光を湛えている。

 

 

僕と過ごしている時間の中で、彼女がこんな表情をしてくれたことを嬉しく感じてーーー。

 

 

「朔?」

 

「う、うん!」

 

心臓が跳ねる。

危ない、危ない。見惚れているのがバレてしまうところだった・・・。

ただでさえ、情けない姿を見せてしまっているのに、ムッツリ助平だとまで思われたら、僕は、もう立ち直れない・・・。

 

 

 

「こういう状況では、顔ではなく、体の方を見ると思うのですけれど・・・」

 

「・・・・・・」

 

どうやら、バレていたようだった。

 

 

「えっと、その、あの・・・。」

必死に言い訳を探そうとするが、喉が引き攣って声にならない。

徐々に声が尻すぼみになってしまう。

 

 

僕の動揺を見透かすように、彼女の唇が小さな弧を描いた。

 

「分かっていますわ。朔、うっかり見てしまっただけですのね?」

「う、うん!そう、だよ・・・!」

祥ちゃんが少し呆れたような微笑みを浮かべながらフォローをしてくれた。

実際、下着姿については偶然、見てしまっただけなので、嘘はついていない。

 

・・・少しどぎまぎしながらも時間は経っていく。

 

 

 

 

 

 

 

その後、僕は、キバットが我が家から届けてくれた着替えを手にとり、身を包んだ。

「キバット・・・。何で、こんなのを持ってきたの・・・」

『冷やし中華始めました』と間の抜けた文字が躍るTシャツとダメージジーンズを手に取りながら額を押さえる。

・・・・おまけに、パンツには、ブタメンのキャラクターであるブタメンくんが堂々とプリントされている。

一体、これはどこで手に入れたんだろう・・・。公式グッズでこんなのあったかな・・。

 

「・・・・置いてきぼりにした腹いせかな・・・」

 

・・・・心の中で、キバットの朝食を、彼の苦手なものだけにしようと決めながら、祥ちゃんの方を向く。

 

 

 

「あれ、祥ちゃん?着替えないの?」

 

何故か、祥ちゃんが下着姿から着替えない。

服は風呂場から出たところに置いてあるけれど・・・・・。

一体、どうしたんだろう・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そう疑問を抱いた瞬間、祥ちゃんが僕に抱き着いてきた。

 

 

 

・・・・彼女の髪の、酷く優しい香りが鼻腔をくすぐる。

薄いレース越しに、彼女の柔らかな胸が僕の肌に押し付けられる。

逃がさないとでも言うように、白く細い腕が僕の背中に回される。

急な出来事で、一瞬、思考がフリーズしてしまったけれど、何とか、声を絞り出す。

 

 

 

「さ、祥ちゃん?どうしたの・・・っん・・!」

 

言葉の途中で、彼女の唇が僕の口を強引に塞いだ。

 

 

・・・・口内で、彼女の舌が僕のそれに容赦なく絡みつく。

普段の彼女からは到底想像もできないほどに、激しくー、

 

 

 

十数秒経った後―、ようやく唇が離された時、二人の間に銀色の細い糸が伸びて、すぐに切れた。

 

「朔・・・」

 

熱い吐息を漏らしながら、彼女の手が迷いなく僕の下腹部へと伸びてくる。

それを僕は狂いそうな理性を総動員して、何とか、右手で抑え込んだ。

 

 

「・・・何故、止めるんですの?・・・初めてではないでしょう?」

「・・・ダメだよ。祥ちゃん・・・。お父さんがすぐそこにいるんだから・・・」

「・・・あの人なら、もう泥酔して寝ていますわ・・・」 

「でもー、んむっ・・!」

再び口を塞がれる。

今度は先程よりも激しく、深く、長く、舌と舌が絡み合う。

徐々に頭が陶酔し、思考能力が急速に失われていく。

 

 

そして、このまま彼女に身を任せても良いのではないか、という甘い毒のような考えが頭に浮かぶ

けれどー。

 

 

「ダメだって・・・っ!」

 

祥ちゃんが自らの下着を外そうとした瞬間、その考えを振り払い、彼女の動きを止める。

 

 

 

祥ちゃんが、こんな風に繋がりを求めようとするのは、今日に始まったことではない。

以前から、何回もあった・・・。実際に一線を越えてしまった夜もあった。

でも、知ってる。

これは、僕への愛情からではなく、自傷行為のような意味合いが強いということをー。

 

 

だからー、

 

「祥ちゃん。今日は、もう遅いし、疲れてるだろうから・・・。また、今度にしよう?」

 

これ以上、祥ちゃんを傷つけるようなことはしたくない。

もう、手遅れであるとしても・・・。

 

「・・・・ええ、そういたしましょう・・」

 

祥ちゃんは、少し不服そうにしながらも了承し、それ以上は求めてこなかった。

 

 

 

 

その後は、お互いにほとんどしゃべらずに過ごした。

アパートの冷蔵庫に入っていた材料でいっしょにご飯を作って、洗い物と部屋の掃除をして。

夜が更ける頃には、僕は、自分の家へと戻っていく。

その道中、マシンキバ―に乗りながら、あることを思い出す。

 

 

 

「作ってたビーフシチュー、一人で食べきれるかな・・」

 

清告さんに背中に吐瀉物を吐かれてしまったショックと浴室での光景、祥ちゃんの行動ですっかり忘れ去ってしまっていた、寸胴鍋に敷き詰めた僕の大好物ーーーー。

 

 

・・・・・陽気でおしゃべりな自称グルメ家コウモリが、既に食べてしまっていることを祈りながらー。

 

 

彼女の背負っているものを軽くすることもできないまま、ただ、風を切りながら、帰路を走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、やってしまった・・・。

彼のいなくなった部屋で私は一人後悔を募らせる。

優しさに漬け込み、卑しくも彼を求め、純真な彼を汚してしまったあの日から、今日のようなことを続けてしまっている。

 

 

 

あの日。叩き続ける雨粒が私の世界を灰色に塗りつぶしていた。

曇天を睨みつける気力すら湧かず、ただすべてを失った私は、胸の奥底から響く痛みと鳴り止まない哀歌に耐え切れず、涙を流し続けていた。

 

 

ーーーーその時だった、彼が心の底から心配した顔で私に傘を差しだしたのはーーー

 

剝き出しの傷口に触れられるような、その純粋な優しさが、どうしようもなく怖かった。

だから、私はー、

 

―――――拒絶しようとした。

 

 

私の何を知っているというのか、と。

 

何も知らない部外者のあなたに、この地獄の何が分かるというのか、と。

 

いつも何かを隠し、本当の姿を見せようとしないあなたに、真実など告げられるはずがないとー。

 

 

自らの口から飛び出す醜悪で聞くに堪えない雑言を、彼へと投げつけた。

 

彼は、一瞬悲しそうな顔をして、それでも何かを決心した表情で、私の手を強引に引き、路地裏へと連れこんだ。

 

 

そしてー、彼は自らの正体を私に曝け出したのです。

彼の白い肌に、突如として浮かび上がる、色鮮やかなステンドグラスの紋様とー。

血のように紅く、吸血鬼を彷彿とさせる鎧を身にまとった姿をー。

 

 

 

己が人間でないという、最も忌まわしいはずの秘密をすべて曝け出してでも、私の手を決して離そうとしない。

そんな彼の姿が、どうしようもなく救いに思えてー。

絶対に手放したくないと思ってしまってー。

 

 

 

 

 

その日、連れられた彼の家で、私は彼を押し倒した。

 

生来、責任感が強く、他者の痛みに誰よりも敏感で、罪悪感に苛まれやすい彼の性分に、私は卑しくも漬け込んだ。

 

彼の拒絶も、同意の返事すらも待たずに、私はその唇を強引に奪った。

 

彼が抵抗しなかったことをいいことに、私は彼の上で、剥き出しの劣情に煽られるままに浅ましく腰を振った。

 

心の底から溢れ出る狂おしいほどの熱情をこれこそが恋なのだと盲信しながらー。

 

彼の純潔を汚し、彼を自分の地獄へ引きずり込んだ。

 

 

「・・・うっ・・・。朔・・」

 

あの日のことが脳裏をよぎり、体が熱を帯び始める。

自身の身体を慰めようとすることも考えたが、

 

 

私は、その熱を忘れたいと願いながら、急いで自身の寝床に着く。

 

薄い毛布を掛け、顔を枕に埋める。

 

・・・私は、彼の背負う重荷を何一つとして分かち合えていない。

いえ、それどころか、彼にさらに多くの呪いと重荷を背負わせてしまっている。

 

その現実を忘れたいと願いながら、彼への慕情を募らせる。

そんな自分に対する嫌悪感を抱きながら、私は今日も夜の静寂の中で、惨めに忘却のみを求める。

 

早く朝になることを、冷たい現実と苦難を忘れられることを望み、瞼を閉じる。

 

 

―――まだ、夜は明けてくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王の成り損ないは、答えを得ず。

少女は、まだ神にはなりえない。

偽りの王は虚勢を拭えず。

少女は真名を口にしない。

人形たちの舞台の幕は、まだ開かず。

怪物たちは、自らの未来を憂いている。

だが、案ずる事はないー。

なぜなら、これは、まだオーバーチュア、序曲でしかないのだから。

 




第一話の閲覧ありがとうございました。

・・・・小説って書くの難しいですね。
あと、最初に自分が思っていたより湿度が高くなりそうで、ドキドキしてます。
・・・昼ドライダーとのクロスオーバーだから良いかなって・・・。

感想や評価もよろしければ、ぜひ・・・。
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