BanG Dream!×仮面ライダー詰め合わせ(になる予定) 作:湯豆腐に季節のエクレアを添えて~
今回は朔くん(主人公)メインです。
あと、今回も、いつも以上に、私の趣味全開でかなり好き勝手に書いております。
そのあたりも含めて、楽しんでいただけると幸いです。
『朔!今日も遊びますわよ!』
太陽のように眩しい笑顔で、祥ちゃんが僕に笑いかけている。
今よりもずっと幼い顔で。
今とはまた違った可愛らしさを持っていて。
『う、うん・・・。祥ちゃん・・』
彼女はいつだって、僕の手を力強く引っ張って、見たこともない世界へ、連れて行ってくれた。
昔から、ずっとそうだった。
祥ちゃんは、いつも僕の手を引いてくれた。
ただ僕は、手を引かれてーーー。
僕は、祥ちゃんみたいに、誰かの手を引いてあげることなんて出来なかったから。
そんなことができるような、人物じゃなかったから。
けどーーー、
本当はーーーー。
「・・・・・眠ってたんだ・・・」
目蓋を開けると、分厚いカーテンの隙間から、朝の光が射し込んでいた。
今まで、毛布にくるまるだけで、眠れない日が多かったけど・・・。
久しぶりに眠れていた。
そんな自分に違和感を覚えながらも、また、毛布にくるまろうとした。
これ以上、怖い現実を直視したくなくて。
これ以上、酷いことになっていくのを知りたくなくて。
分厚い布団の中へと逃げ込もうとした。
その時ーーー。
「だーかーら!何で、燈ちゃんたちだけじゃなくて、この不審者まで付いてきてんだよ!」
「うるせぇな!お前が、次の朝に・・・って、言ったんだろ!」
「お前に言ったわけじゃねぇよ!燈ちゃん達に言ったんだよ!」
「なら、そう言えよ!」
「言っただろうがこの筋肉ダルマっ!」
閉め切った窓の向こうから、静寂を引き裂くような凄まじい大音量の言い争いの声が響いてきた。
片方は、どこかで聞いたことのある男の人の声で。
そしてもう片方は・・。
僕が生まれたあの古城の暗闇から、今日この瞬間に至るまで、ずっと、ずっと一番近くで聞いてきたーーー。
「・・・キバット・・・?」
僕の相棒の声。
キバットバットⅢ世の声だった。
昨日、僕のあまりの情けなさと現実逃避の醜さに、愛想を尽かして目の前から消え去ってしまったはずの、彼の声が、どうして我が家の庭から聞こえてくるのだろう。
僕はそう思いながらも、引き寄せられるようにして窓辺へと走り、庭の景色を恐る恐る見下ろした。
そこにはーーー、
「お前、いい加減にしろよ!・・・そもそも何なんだよ!この変なコスプレ!」
「お前こそ、何者なんだよ!お喋りコウモリ!キバ―ラの兄ちゃんか、何かかよ!」
「誰だよ!そいつ!俺に妹はいねぇよ!」
どこかで見た覚えのある、筋骨隆々とした紫色の身体に、鮮烈な隈取を戴いた鬼の貌を持つ異形。
それが、僕の家族であり、相棒であるキバットバットⅢ世と、お互いに空中と地上でペシペシとはたき合いながら、子どものように大喧嘩を繰り広げていた。
「あ、ぉおん・・」
「あ、あの~。私たち、学校あるから・・・」
黒髪のおどおどとした女の子_____高松燈さんと。
その隣で、引き攣った笑顔を浮かべているピンク髪の女の子____千早愛音さんが、困った様子で、庭にいた。
「・・・・・・・・」
・・・・訳が分からないよ。
最近、起き続けたこととは、明らかに方向性の違う、分からないことが目の前で起きていて。
僕の思考は、一瞬、オーバーフロウしそうになった。
僕の家の庭に何で、あんな筋骨隆々マッチョマンがいるのかも分からないし。
いなくなったと思ったキバットが、次の日には、戻ってきてて。
高松さんや千早さんがいるのも分からない。
二人とも、僕の家なんて知らないはずなのに。
「・・・・ぁ、く、黒瀬くん・・・?」
「・・・・っ!」
高松さんに気づかれた。
すぐに窓を閉めて、布団の中に隠れる。
高松さんとは、他のCRYCHICのメンバーの皆と同様に、距離を置いていた。
どうしても、あれ以降、気まずいと感じてしまってーーー。
『・・・あ・・。う・・』
『あれ、・・・睦ちゃんを連れてきてた男の子だよね?・・・雰囲気ちょっと違くない?』
『う、うん・・・・』
窓越しから、まだ話し声が聞こえる。
また、あのワインレッドのスーツの服を着た僕のことを話している。
それが、嫌で、また、目を閉じる。
皆、皆・・・。
僕の分かんないことばかり話してる。
それがたまらなく、嫌で嫌で仕方なくて。
怖くて・・・。
一人の世界に閉じこもってーーー
『お。登れるな。これ』
『おいっ!お前!何、人の家の壁登ってーーーっ!』
ん?
『おっ。窓開いてるな。そっから入ろ』
んん?
その言葉が聞こえると同時に、一人の異形が入って来る。
どしり、どしり、という重い足音がどんどん近づいてくる。
毛布の隙間から、僕の身長を遥かに凌駕する、2m以上の巨躯が見える。
それは、僕の毛布を剥ぎ取りーー。
次の瞬間、目の前に、鮮烈な赤の隈取で彩られた鬼の貌がドアップでいきなり現れた。
「おっ。久しぶりだな。・・・あん時の傷は、もう大丈夫だよな?ーーーそれで・・・」
「いやぁあああああああああああああああ!」
あまりのショックに、大声で悲鳴を上げてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日は、朝から、黒瀬くんに会った。
祥ちゃんの友達の男の子。
祥ちゃんが、大事な友達だって、前に教えてくれてた・・・。
CRYCHICの時に、何度か話したことがあって。
優しそうな男の子だった。
昨日会った時と今日会った時で、全然雰囲気が違ってて。
別人みたいで。
でも、同じ人みたいで。
黒瀬くんと私はそこまで仲が良いわけじゃないけど。
けど・・・、
どうしても気になって・・・。
私は、学校が終わったら、黒瀬くんの家に来ていた。
鍵は閉まってて。
チャイムを鳴らしても出てくれなかったから。
伝えたいことを、付箋に書いて、黒瀬くんの家のポストに入れた。
何を書けばいいか分からなくて。
でも、伝えたいことがあって・・・・。
最近、学校に来てない祥ちゃんのこと。
・・・黒瀬くん自身の事。
次の日、黒瀬くんの家のポストを見てみたら、付箋がなくなってて。
読んでくれたみたいだった。
けど、返事は返ってこなかった。
今日も、付箋をポストに入れた。
今日は、ワインレッドのスーツを着てる黒瀬くんと会った
何だか、そよちゃんに祥ちゃんの家を教えてて・・・。
祥ちゃんが、CRYCHICを辞めた理由を知った。
黒瀬くんが、私達を祥ちゃん達に会わせようとしてて・・・。
でも、今、祥ちゃんのいる場所が分かんなくて・・・。
私は、黒瀬くんの家のポストに付箋を入れて、祥ちゃんの場所について聞いてみた。
さっき、黒瀬くん自身が知らないって言ってたけど・・・。
次の日、ポストを見てみたら、返事があった。
『知らない方が幸せ』
・・・・よく分からなかった。
黒瀬くん自身が気になってるはずなのに。
それに、私は、そうは思えなくてーー。
そして、一つ気になって・・・。
『黒瀬くんは、今、幸せ?』
私は、そう書いた付箋をポストに入れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・・・って、書いてくれてんだけどよ。お前はどうすんだよ?」
紫の異形の人が、高松さんがポストに入れてくれた付箋を手に持ちながら、問いかけてくる。
数日前、突然、僕の家に入って来たこの人は、今も居座っている。
追い出そうとしても、生身の僕の腕力じゃ、全然、歯が立たなかった。
キバットにお願いしても、変身させてくれなかった。
ーーーーそれどころか、
「おーい。兄ちゃん!豚骨醬油ラーメンおかわりな~」
「おうっ!食っとけ、食っとけ!」
信じられない程呑気にラーメンをハフハフと食べている。
「あの・・・。何で、ラーメン作って・・・?」
「うん?あぁ・・・。巴の奴が好きでな。たまに作ってるんだ」
「いや、そういうことじゃなく・・・」
「俺、和菓子屋のバイトなんだけどな~」
「いや、だから・・・・」
どうにも会話が成り立たない。
こっちは、全然、そんな気分じゃないのに、無理矢理あっちの体育会系の空気に巻き込まれそうになる。
というか、そもそもーーー。
「そこ、僕の家のキッチンなんですけど!?何で居候が我が物顔で鍋を振ってるんですかっ!?」
「そう、カリカリ怒んなよ。お前の分もあるからよ」
「それ僕の食器!それ僕が買ってた材料!それ僕のラーメン!」
人の家の冷蔵庫を物色して、ラーメンを作っている。
本当に、何なんだろう、この人は・・・・。
凄く落ち込んで、シリアスな気持ちだったのに。
どんどん滅茶苦茶になってる気がする。
「で?どうすんだよ?これ。せっかくの女の子からのメッセージだぞ」
ズズズ、とラーメンを食べながら、高松さんがポストに入れていた付箋を渡してくる。
マスク越しに器用に食べる人だ・・・。
いや、それよりもーーー
『黒瀬くんは、今、幸せ?』
その言葉が、僕の胸の奥深くに鋭利な杭となって、突き刺さっていく。
幸せ?
何を言っているのか、よく分からない。
何をどう捉えれば、そんな言葉が出てくるのか、まるで意味が分からなかった。
今の僕が幸せ?
そんな訳ない。
祥ちゃんを傷つけて。
睦ちゃんをどうしようもなく壊して。
・・・・・そもそも、最近のことだけじゃない。
祥ちゃんが雨の日で泣いていた時も、もっとできることがあったのにーーー。
クシャリと、付箋を握り潰した。
そして、そのまま、ゴミ箱に入れる。
「お、おい。朔・・・。せっかく、燈ちゃんが書いてくれてたのによ・・・。それに、今まではちゃんと引き出しの奥にしまってたじゃねぇか・・・」
キバットが僕のあまりの意地張りと現実に耐えかねた無様な八つ当たりを心配そうに見つめながら、耳元でそう告げている。
僕は、その指摘から目を逸らすように、自分の部屋の毛布の中へと再び深く、深く籠ろうとした。
「こりゃあ、また、難儀だな・・・」
数日前に来たばかりの、名も知らない無責任な居候のボヤきが廊下から耳に届いたけど、聞こえないふりをーーー
「おし!ちょっとお前、こっち来い!」
「っ・・・、何をするんですか!?」
突然として、背後から伸びてきた太い片腕によって、僕の細い手首が掴まれた。
そして、身体を引きずられーーーーー
『イクササイズ 俺は正しい』
『ついてきなさい 迎撃開始』
「いや~。キバ―ラの奴がよ~。何か面白そうな、『イクササイズ』とかいうDVDを持っててよ~。折角の朝だし、グダグダ悩んでねぇで一緒汗かこうぜ!」
「・・・・・・・・」
現在、僕は、数日前に窓から不法侵入してきたばかりのこの不審者と、テレビの前で必死に謎のエクササイズを踊らされていた。
・・・・何これ?
大音量でスピーカーから流れ出してきた、何か初手からとんでもなく傲慢で自己中心的な自信家の人が叫んでいそうな電波な歌詞が、僕の沸騰しかけた脳髄へと直接突き刺さってくる。
それに、イクササイズ?
エクササイズじゃなくて?
『腕振りなさい 振りなさい』
『早くしなさい 飛びなさい』
『腕振りなさい 振りなさい』
『早くしなさい 飛びなさい』
『腕振りなさい 振りなさい』
『早くしなさい 飛びなさい』
何か、同じようなフレーズが何回も続いてるんだけど?
同じような動きしかしてないんだけど?
『避けなさい 避けなさい』
『敵の攻撃避けなさい』
『避けなさい 避けなさい』
『敵の攻撃避けなさい』
ーーー敵の攻撃ーーー。
その言葉が、僕が今、逃げているビショップと兄さんの影を思い出させる。
そして、芋づる式に自分が犯してしまった間違いを思い出す。
祥ちゃんを傷つけて。
助けを求めて泣け叫んでいた睦ちゃんを力任せに突き飛ばして。
さらに、ずっと引きこもっていた。
そのことを思い出して、どうしようもなく自分が情けなくなってーーーー
「おい」
「・・・ぁ・・、はい・・・」
自責の泥濘に沈みかけたその瞬間、僕のすぐ横で猛烈に腕を振っていた男が、僕の方を振り返った。
そして、
「こういう時ぐらいよ。肩の力抜こうぜ?」
僕の強張っていた肩を、手のひらでバンッと優しく力強く叩いた。
ほんの少しだけ、エクササイズのキレが良くなった気がする。
「こうやってよ。碌に考えずに動こうぜ」
『叩きなさい 叩きなさい』
『悪い奴らを叩きなさい』
流れている曲と共に、隣の紫の人と一緒に床を殴る。
最初は弱々しかったけれど・・・。
徐々に体が温まってきてーーー
「おお、良い感じじゃねぇか」
激しく身体を動かすことが出来てきた。
久しぶりに体を動かして、少しずつ、ほんの少しずつーーー。
楽しくなってきた。
どんどんノリノリになってきてーーー。
『己を信じて』
『イクササイズ 俺は正しい 迎撃続行』
画面の向こうの男の人の動きに合わせて、決めポーズを決めた。
息を荒くさせながらも、自然と笑みが零れていた。
楽しかった。
音楽が体に馴染んで、すごくーーー
「おい。二番もあるぞ」
「・・・えぇ!?」
そんな僕を意に介さない様子で、テレビの画面からは間髪入れずに、再び2番のイントロが大音量で元気に流れ始めてしまった。
『巻きなさい 巻きなさい』
『変身ベルトを巻きなさい』
腕を大きく振って、腰の前でポーズを決める。
それを何度も繰り返す。
「お前はさ。きっと何も悪いことしてねぇんだよ」
「・・・・え?」
激しいエクササイズの途中で、隣で大きくステップを踏んでいる紫の人が、不意に正面を見据えたまま、僕に語り掛けてきた。
・・・意味が分からない。
この人とは、初対面だ。
そんなこと分かるはずがない・・・・。
「あんなに可愛い子に心配されて。・・・よく分かんねぇお喋りコウモリにも大事にされてんだ。お前が良い奴じゃなきゃ、そんなこと起きるはずがねぇだろ?」
分からない。
どうして、そんな風なことが言えるのか。
全然ーーー
「だからよ。今、きっとスゲェ辛いと思うんだ」
「けど、それが、今のお前の現実なんだ」
厳しそうで、でも優しげな声で、そう言ってくれている。
「正しく生きてても、傷つけられたり、踏みにじられたりする」
エクササイズの音があまり聞こえない。
ーーー今はただ、紫の人の声に耳を傾けていた。
正しく生きてるーーー。
今の僕は、本当にそうなんだろうか。
キバとして戦ってきたのも、ただ、祥ちゃんの周りの世界を守りたいだけで。
それさえ、今はできてなくてーーー。
「けどよ。どんなことがあっても、お前の人生は、お前のもんなんだよ」
「もし、今すごく辛いと思うんならよ」
「これからは辛くならないようにすればいい」
「必死にもがいて。戦って。でも、休む時は休んで」
『休みなさい 休みなさい』
『パワーチャージだ 休みなさい』
エクササイズの歌詞が紫の人の言葉と重なる。
膝と手を床について、一旦、休む。
けど、すぐに起き上がって、走り始める。
『走りなさい 走りなさい』
『敵を追って走りなさい』
「まあ、そうやってがむしゃらに前を向いて走ってたらさ・・・・何度も、無様にズべッと転ぶこともあるしよ」
疲れていたため、派手に、ズテンッと転んでしまった。
でも、
「その度に傷を作って、痣を作ったりするんだよ」
紫の人が、僕を起き上がらせてくれる。
そしてーーー、
「そんな時よ。心を強く鍛えとかねぇと、自分に負けちまうだろ?」
ドンッ!と、彼は僕の胸の真ん中を、その分厚い掌で力強く、真っ直ぐに叩いた。
少し力が強くて痛かったけどーーー。
・・・・今は気にならなかった。
「だからさ、自分が信じたことを信じて、走っていこうぜ?」
『走りなさい 走りなさい』
『未来に向かって走りなさい』
『イクササイズ 俺は正しい』
信じる?走る?
僕は正しい?
・・・・僕の、あの雨の日の祈りは、本当に、『正しい』と言ってもいいのだろうか?
分からなかった。
そうは、はっきりとは思えなかった。
『その命、神に返しなさい』
最後に決め顔でポーズを決めた。
画面のポーズに合わせて、テレビの前に仁王立ちした。
自分の中で、何か熱いものが流れた気がしてーーー。
今は、ほんの少しだけ、そう思っても良いんじゃないかと思えた。
息を整えながら、隣の人を見る。
異形の仮面でよく分かんないけど、息は全く荒くはなっていなかった。
僕は、少しずつ息を整えてーーー。
「あの・・・、ありがとうございました」
見ず知らずの不法侵入者で。
どんなことを体験した人なのかも分かんないけど・・・。
自然と感謝の言葉が出た・
「ん?・・・ああ、まあ、師匠が俺に言ってくれたことを少し変えて言っただけなんだが・・・」
彼は、少し照れくさそうに頭を掻きながら、視線を逸らしている。
でも、そんなことは関係なかった。
「本当に、ありがとうございました」
もう一度、僕は、その人に感謝を告げた。
それを見ると、紫の人はーーー、
「おう!良い顔すんじゃねぇか」
朗らかな声で、そう言ってくれた。
「ほーん。それで?お前はその祥ちゃんって子が好きなのに、睦ちゃんと言う子と浮気していることにされてたのか?」
「・・・・はい・・・」
「それで、何もかも嫌になってたら、もう一人の自分が、動いてて、もっと酷い事態になってた、と・・・?」
「・・・・はい・・・」
「何か、大変だな。・・・お前・・」
紫の人が、同情するように、僕の肩をポンと叩いている。
でもーーー、
「いえ。僕よりも・・・。祥ちゃんや睦ちゃんの方が、大変なんです・・・」
「そうか・・・」
そうだ。僕なんかよりも、二人の方が大変なんだ。
傷ついて、壊れて。
余裕がないのに・・・。
「まあ、取り合えず、ラーメン食えよ」
紫の人は、僕に豚骨醤油ラーメンを差し出してくる。
「・・・・いただきます・・・」
さっきのことで世話になったので、今回は素直に受け取っておく。
ズズズと、麺を啜って、ラーメンを食べ始める。
久しぶりのまともな食事に、身体の芯から温まっていく。
「・・・おいしいです・・」
「おっ。なら、良かった。あこと巴にも好評でな・・・」
「そうなんですか。えっと、あこさんと巴さんっていうのは・・・・?」
「お前、あんまり、他のバンドに興味ないのな・・・。いいか、まず、RoseliaとAfterglowっていうバンドがあってだな・・・」
そんな風に、取り留めのない話をしていた。
お互いが好きなバンドのこと。
大切な友達の話。
・・・先日、会ったばかりとは思えない程に、打ち解けていた。
そして、一つ、疑問に思った。
「そういえば、お名前は・・・?」
「ん?ああ、仮面ライダー響鬼・・・って、こっちじゃないか・・」
そう言った直後、彼の姿が、異形の鬼のような姿から人間の姿に変わる。
大人しそうな黒髪に。
優しそうな表情を浮かべている。
思っていたよりも、大人しい雰囲気の人だった。
身長は、異形の姿からは少し縮んだが、それでも2mはあって、けど怖いという印象は感じなくて。
和菓子屋の制服だろうか?
茶衣着を身に纏っていて良く似合っていた。
ーーーーそして、
「俺の名前は、安達歩だ。よろしくな」
彼は___歩さんは、そう言って、僕に握手を求めてきてくれた。
僕は、それに応じてーーー。
「はい。よろしくお願いします・・・。えっと、黒瀬朔です」
僕も、歩さんの手を握った。
「おう。よろしくな」
すると、歩さんは、嬉しそうにした後ーーー、
「・・・歩だからな?明日夢じゃないからな?」
「え?あ、はい・・・」
「何でか知らねぇけど、鳴滝のおっさんとか、キバ―ラとかが間違うんだよなぁ・・・」
僕に念を押して、頭を掻きながら、愚痴を零していた。
その様子が、少しおかしくて、笑みが零れてしまった。
「おおっ!朔!ちょっと元気になったんだな!」
「・・・・あ。キバット・・・・」
僕らの様子を見ていたキバットが嬉しそうにこちらへと飛んでくる。
そんなキバットを、心に余裕を持って迎えられている自分に驚きながらも、僕はキバットを受け入れた。
本当に、まだまだ分からないことだらけで。
何で、Ave Mujicaが解散したのかも分かんない。
ワインレッドのスーツを着た僕が、どうして、睦ちゃんと過ごしていたのかも分からない。
何で、睦ちゃんがあんな風におかしくなってしまったのかも分かんない。
祥ちゃんとの歪な関係をどんな風にしていくのが、正しいのかも分からない。
兄さんと三角さんが考えていることも、全く分かってない。
けど、ほんの少しだけ。
身勝手だけど。
ほとんど初対面の人のアドバイスで立ち直るなんて、ちょろいと思うかもしれないけど。
ほんの少しだけ、自分を正しい、と思って良い気がしてーー。
「歩さん!僕、頑張ります・・・!」
「お、おう。そうか・・・。頑張れよ・・・」
歩さんは、少し辟易している。
歩さん本人も、自分の一言で、ここまで立ち直ると思ってなかったのだろう。
「それで、どうすんだ?朔・・・。下手に動いたら、ビショップの奴にまたやられちまうぞ?」
「・・・・うぐっ・・・」
前にビショップと戦った際の苦渋を思い出し、眉を顰める。
少し前向きになったが、実力的なものは、全く向上していないのだ。
「・・・・き、鍛えるとか?」
「そんな、すぐ強くなれるか?」
キバットが呆れたように羽を揺らす。
「いや、なれてたまるか。そんな急に強くなれたら、俺の方の世界は、鬼で溢れてるよ」
歩さんにも、思いっきり突っ込まれた。
そうだ。結局、僕は何も変わってない。
力も強くなってない。
歩さんが、さっき言ってた自分を信じることも、中途半端だ。
・・・・それに、どんな顔して、睦ちゃんや祥ちゃんに会えば良いのかも分からないし・・・。
また、うじうじとした感情に呑まれそうになる。
その様子を見ながら、歩さんは深くため息をつく。
「そんな急に強くなること考えるよりもよ・・・。何をしたいのか、考えてみろ。話はそれからだ」
そう言って、歩さんは、家から出ようとする。
「・・・え?ど、どこに?」
「ん?ああ、もう、大丈夫そうだなって。あと、やること思い出した」
「ちょ、ちょっと待ってくださーー」
僕が、そう言い切る前に、マゼンタとシアンのオーロラが視界を包みーーー、
オーロラが晴れたころには、歩さんの姿はなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自分が、何をしたいのかを考える。
そっと目を閉じて、考えを巡らせた。
『今さら、何をしてるの?』
『黒瀬くん。・・・睦ちゃんともそういう関係なんでしょ?』
『二度と、祥ちゃんに近づかないで』
三角さんの憎悪と怒りに満ちた声が頭の中を駆け巡る。
『お前がいるから、僕はーーー!』
『僕の前から消えてくれ・・・っ!』
『・・・僕の前からいなくなってくれ・・!』
かつて浴びせられた、兄さんの怨嗟の声の奥で響き渡る。
『何で!?何でそんなこと言うの、朔くん!・・・初めてお家で会った時、私のことにも気づいて、睦ちゃんのこと、あんなに考えてくれたのに!』
睦ちゃんが言ってた訳の分からない言葉が頭に響く。
それと同時にーーー
『朔も、祥と同じ、私の友達・・・」
『朔!誕生日おめでとう!いっしょに食べよう!』
幸せな記憶も頭に過る。
『黒瀬くんは、今、幸せ?』
ふと、高松さんの問いを思い出した。
幸せ、僕の幸せ?
分からない。
ずっと分からないままだ。
でもーーー。
『私と友達となってくださる?』
太陽のような笑顔で、僕の手を引いてくれた、あの子の___祥ちゃんのことがずっと頭に過って。
「祥ちゃんに会いたい・・・」
自然と、その言葉が口から洩れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王の成り損ないは、突然のエキストラの登場により、自分の中の想いに向き合い。
そして、愛しい少女の元へと走り出す。
だが、それは。
勝算も、一縷の望みもない無謀な蛮勇でしかなくーーー。
彼は、虚飾の王の側近に打ち倒される。
ーーーーーはずだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ~。えっと、お前か?お前だよな?朔のそっくりさんは」
一人の青年_____安達歩が、夜の闇の中で、一人の少年_____ワインレッドのスーツを着た黒瀬朔と対峙していた。
向けられた言葉に、少年は何も答えない。
「お前と会うのは二度目だな。・・・・それで、どうして、ほっといたんだ?こっちの世界のお前を」
少年はやはり答えない。
「・・・・お前、やっぱり、こっちの世界が居心地良くなっちまったんだな」
少年は、何も答えない。
けれど、その頑なな沈黙を、歩は肯定と捉えた。
「・・・・・何の用ですか?」
拒絶をはらんだ声で、少年がようやく初めて口を開いた。
それに対して、歩は軽い調子を崩さないまま言葉を続ける。
「お前の持ってる。その、青と緑と紫の笛みたいなやつ?ちょっと貸してほしくてよ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「やっぱり、嫌か?」
「・・・違う世界に介入しすぎるのはご法度なんじゃないんですか?」
「・・・・お前が言うか。それ・・・・」
歩の言葉に青年は考えた。
そしてーーー、
「二世・・・」
「良いだろう。・・・ガブリッ」
少年の合図とともに、その掌に黒と真紅で彩られたコウモリ___キバットバット二世が噛みつく。
鋭い牙が少年の掌を容赦なく穿ち、生々しい痛みが奔る。
それと同時に、彼の顔に黒と紅のステンドグラスの紋様が浮かび上がり、真紅と漆黒に彩られた鎧に少年の身体が包まれた。
深みのある、返り血を浴びたような鮮やかなメタリックレッドの鎧。
夜の闇を凝縮させたような漆黒のマントが広がり、胸部のプレートに埋め込まれたエメラルドグリーンの魔皇石が闇の中で妖しく光っている。
「はあ、やっぱり、こうなるわけな・・・・」
歩は、それを見届けると、やれやれとため息を吐きながら、ポケットから一本の音叉_____変身音叉・音角を取り出す。
そして、コン、と先端部分を叩いて、清めの音を発生させ、自らの額へとかざす。
鳴り響く音の波を受け、歩の額に鬼の紋様が浮かび、全身が紫の炎に包まれた。
「・・・・ハッ!」
そして、気合の一声と共に炎が弾け、歩の姿は、鬼のものへと変わる。
筋骨隆々とした紫の肉体。
隈取のような顔。
暗闇の中で二つの異形が互いを鋭く睨みつけ、次の瞬間、激しい音を立てて正面からぶつかり合った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
運命は、不整地の坂を転がる石のように、不規則に転がり始める。
第十話の閲覧ありがとうございます。
皆様、ご一緒に。
イクササイズ~!
・・・本当に、好き勝手書いたなぁって・・・。
BanGDream×仮面ライダーなのに。
初使用楽曲が、バンドリの曲ではなく、『IXA-CISE』・・・。
大丈夫なんですかね・・・。このシリーズ。
今回の話で出てきた歩くんについては、響鬼編でしっかり説明するので、お楽しみに・・・!
そして、ちょっと立ち直りそうな朔くんはどうなるのか・・っ!
あと、誤字などがありましたら、報告お願いします。
励みになりますので、感想や評価などもぜひ・・・。
それでは、次回もよろしくお願いします。