BanG Dream!×仮面ライダー詰め合わせ(になる予定)   作:湯豆腐に季節のエクレアを添えて~

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・・・・ようやく、朔くんが本格的に活躍し始めます。

本当に、長かったです。

まさか、7,8話分、主人公が変身しないとは・・・。
・・・自分でも驚いています。


今回の話を楽しんで頂けると幸いです。


第十二話 Wake up!・仮面ライダーキバ

 

 

 

 

「・・・・初音。それは、本当かい?」

 

「・・・うん。・・・本当だよ、優牙くん・・・」

 

金髪を微かに震わせ、酷く思い詰めた顔のままで、彼女______三角初音が信じられない事実を告げた。

 

 

どうやら、自身の愚弟______黒瀬朔が、立ち直ったらしい。

 

ビショップが奴を仕留め損ねた後、初音が奴の心をへし折ったことから、放っておいたのだけど・・・。

 

 

「・・・・まさかね・・・」

 

昔からいつも殻に閉じこもり、常に弱々しく怯えることしか知らなかった奴が・・・。

 

あそこまで追い詰められながらも、再び立ち上がった。

 

 

あんなーーー

 

 

 

『兄さん・・・。暗くて怖いから、手を繋いで?』

 

『・・・周りの人、怖い・・・』

 

 

あんな弱々しかった奴が・・・。

 

いつも僕の背中の後ろに隠れて、僕の服の裾を震えながら掴んでいた朔がーーー。

 

 

「・・・・はぁ・・・」

 

「ご、ごめんね。優牙くん・・・。私のせいで・・・」

 

「いや、初音を責めてるわけじゃないよ。・・・ただ、少し嫌なことを思い出しただけさ」

 

 

 

すぐに気を取り直し、考えを巡らせる。

 

 

僕自身が出向くのが、一番確実だ。

 

そして、その方が、初音も安心してくれるだろう。

そうと決まれば、話は早い。

 

 

椅子からすぐに立ち上がり、部屋を出ようとした。

 

そして、すぐにサガークを呼びーーー

 

 

 

 

「お待ちください。キング」

 

 

突然、ドアが開き、一人の男が入って来る。

 

 

長身痩躯。

漆黒のロングコートを翻し、知的な丸眼鏡の奥の細い目を怪しく光らせる。

 

チェックメイトフォーの一人であり、僕の絶対的な側近_____ビショップだ。

 

 

「・・・・何だ?ビショップ。・・・ノックをしろといつも言っているだろう」

 

出鼻をくじかれた僕は、少し不機嫌そうに、ビショップを鋭く一瞥する。

 

 

けれど、ビショップは動じずに口を開く。

 

 

「黒瀬朔の処刑は、私に任せて頂けないでしょうか」

 

「・・・・・前回の失敗の挽回か?」

 

「ええ。その通りでございます」

 

 

この男は、前回失敗している。

次も奴に頼むのは確実性に欠ける。

 

 

だがーーー、

 

この男には、両親を亡くした幼い頃からずっと傍で世話になっている。

 

何より、僕は、このビショップという男の忠誠を深く信頼しているのだ。

 

 

「なら、頼んだよ」

 

 

「仰せのままに・・・。私と、私の部下で、死力を尽くして、奴を葬り去ります」

 

「ああ。期待してるよ」

 

 

 

その後、ビショップはすぐに部屋を出ていこうとする。

 

 

だが、扉の手前で、奴はピタリと足を止めーー

 

 

「何故、あなたが、当然のようにキングの傍にいるのですか・・・?」

 

「・・・・っ、あ・・・・」

 

 

ゆっくりと初音の方を振り向き、問いかける。

 

 

その言葉に、初音の肩が大きく揺れ、指先が震えている。

 

 

「・・・うまく隠し通しているようですが、私の目は欺けません。あなたはーーー『ビショップ。・・・早く行け』・・・・承知しました」

 

 

僕の有無を言わせない静かな静止の声を聞くと、ビショップは丸眼鏡の奥の目を歪め、再び扉に向き直って部屋を出て行った。

 

 

ただ、初音の方を憎々し気に見ながら。

 

 

 

・・・・どうやら、奴にはバレているようだった。

 

まあ、奴の立ち位置からして、彼女を見過ごすのは、できないだろう・・・。

 

だがーーー、

 

 

恐怖と慙愧で震えている彼女の方を見る。

 

彼女に秘められている力からして、ビショップだけなら、相手することは出来そうだが・・・。

 

いや、彼女も一人の繊細な女の子だ。

 

きっと、正体を知られていることが、怖かったんだろう・・・。

 

 

「初音・・・。・・・おいで?」

 

僕は、初音に微笑み、自身の膝を叩く。

 

「・・・え?・・あ、優牙くん・・・」

 

意図を察したように、彼女は、頬を赤くして、僕の方へ近づきーー

 

 

僕の膝に乗ってくる。

 

 

 

そして、僕の胸元で甘えるように、彼女はその華奢な身体の全てを預けてくる。

 

淡い金色の髪が、僕の鼻先をかすめるように近づく。

 

 

深く吸い込んだ彼女の優しいぬくもりの匂いが、気分を穏やかに落ち着かせてくれる。

 

 

「豊川さんは、家に置いてきて良かったのかい?」

 

「・・・・うん・・。今は、眠ってて。それに、優牙くんに、あの男のことを伝えたくて・・・」

 

少し心配そうに、不安げに呟いている。

あの女____豊川祥子が、自分の元から離れていってしまうのではないかと、心配で、心配で仕方ないのだろう。

 

 

そんな彼女の様子に、自分の内側から、どす黒く醜い感情が湧きあがりそうになる。

 

 

どうやら、またあの女が、彼女を傷つけるようなことをしたようだ。

 

ーーー本当に、なぜ初音は、あんな女のためにーーー。

 

 

・・・いや、これ以上は、考えないようにしよう。

初音に、気づかれでもしたら、大変だ。

 

 

「・・・ありがとう。初音。・・・そうだ、少しお願いがあるんだけど・・・」

 

自身の考えを振りほどきたくて、僕は彼女の耳元へとそっと顔を寄せ、密やかに耳打ちをする。

 

身勝手な願いをーーーー。

 

 

 

その言葉に、彼女はほんの一瞬だけ、顔を強張らせた。

 

ーーーけれど。

 

「うん・・・。良いよ・・・」

 

すぐに、恍惚の表情を浮かべ、心の底から嬉しそうに微笑んで頷いてくれた。

 

 

 

そして、彼女の白い肌に、赤と黒の鮮やかなステンドグラスの紋様が浮かんだ。

 

血のように紅く、夜の闇よりも深い漆黒。

 

どこまでも鮮やかに、残酷なほど美しく、彼女の肌の輪郭を彩っていく。

 

 

彼女は、少し目を逸らしがちになりながら、不安げに、僕を見つめている。

彼女は、自身の血の秘密が僕にバレるのを恐れていた。

 

僕自身、実際に直視するのを恐れていた。

 

 

奴と____朔の紅と金のステンドグラスと似ている、彼女の紋様を見てしまったら・・・。

 

彼女へ抱いているこの狂おしいほどの慕情が、一瞬にして激しい憎悪へと変わってしまう気がして・・・。

 

 

 

 

だけど、そんなことはなかった。

 

それどころか、彼女への慕情は、以前よりもずっと、強まった気さえする。

 

彼女の、その色鮮やかなステンドグラスが。

僕のことを思ってくれる姿が。

 

 

僕の中の、欠けてあったものを埋めてくれるようでーーー。

 

それが、とても幸福なことに感じられた。

 

 

 

彼女の美しい金髪と白い肌が、窓から注ぐ月の光に照らされる。

 

淡い金色の髪が幻想的な残照を放ち、白い肌と漆黒のステンドグラスのコントラストがよく映えている。

 

 

その美しさに、無意識に手を伸ばし、彼女の頬を撫でた。

 

 

「・・・・・・ん・・・・っ」

 

彼女も、それを受け入れてくれて、目を閉じた。

 

その仕草が、僕の胸をさらに狂おしいほどの愛しさで満たしていく。

 

 

 

 

もうすぐだ。

 

今度こそ、朔が消えれば。

 

この時間は、ずっと変わらない、永遠のものになる。

 

 

彼女も、もうこれ以上、あの身勝手な女に振り回されることもなくなる。

 

 

僕は、朔への憎しみと初音への慕情を強めながら、夜を明かしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから~!行っちゃダメって何度も言ってるでしょ!」

 

「モーティスちゃん・・・。お願い、もう時間が無いんだ」

 

「モーティス。お願い・・・」

 

「い〜〜〜〜や〜〜〜〜〜〜っっ!!」

 

ワインレッドのスーツを着ている男の子_____朔くんが困ったように眉を下げている。

私の反応に困っているようだ。

でも、絶対に言うこと、聞いてあげない・・・。

 

 

朔くんが、急に睦ちゃんを祥ちゃん達と会わせようとしてきた。

 

睦ちゃんは、それに凄い乗り気になってーーー。

今も、すぐに表に出ていこうとする。

 

 

私は、それを必死に止めながら、座り込んで首を振った。

 

 

朔くんが、睦ちゃんを、祥子ちゃん達と会わせたがってるのは分かってたけど、こんな急に連れて行こうとするなんて聞いてない。

 

また会いに行って、睦ちゃんが傷ついたら大変なのに。

朔くんも分かってるはずなのに。

 

 

なのに、何でーーーっ!

 

 

「モーティスちゃん、聞いて、お願い・・・」

 

朔くんが、私の顔をどこまでも真剣な顔で覗き込んでくる。

 

本当に、睦ちゃんのことを、私のことを、心から心配してくれてるみたいに。

 

 

「いやっ!」

頬を膨らませながら、横を向く。

 

 

朔くんの頼みでも聞いてあげない。

睦ちゃんが傷つくところなんて見たくないもん。

 

 

全部、全部、睦ちゃんのためにーーー。

 

 

「モーティス、邪魔しないで・・・」

 

なのに、睦ちゃんは、全然分かってくれない。

 

 

私の意識を押しのけて、祥ちゃんたちに会おうとしてる。

 

 

起きて最初の方は、私の方が強かったのに。

 

どんどん、睦ちゃんが表に出ようとする力の方が強くなってきてる。

 

 

完全に、私を底へと押し流してーーー。

 

 

「朔・・・。祥に会わせてくれるの?」

 

「うん・・・。任せて・・・」

 

今も、睦ちゃんは、朔くんの温かい手を繋いで話している。

 

どうしようもなく嬉しそうに。

祥子ちゃんに会えることに、心を弾ませてーー。

 

 

 

「ありがとう。・・・・朔・・・」

 

頬を微かに赤く染めながら。

少し照れたように、頼り切った笑顔を彼に向けて微笑んで。

 

 

・・・・何で?

 

何で、そんなに嬉しそうなの?

 

 

祥子ちゃんの所為で、睦ちゃんはこれまでずっと、傷ついたんだよ?

祥子ちゃんが、睦ちゃんに頼りっぱなしだったから・・・。

バンドが解散した後も、祥子ちゃん、睦ちゃんに会いに来てくれなかったじゃない。

 

 

なのに、どうして?

 

 

 

いつも自分のことばっかりで。

 

睦ちゃんのこと、何も考えてくれてない。

 

そんな、祥子ちゃんに・・・。

 

 

「モーティス。もう黙ってて」

 

また、睦ちゃんが少し怒った声で、言ってくる。

 

それでーーー。

 

 

「朔・・・。何時に行けばいい?」

 

私のことなんてほったらかして、睦ちゃんは朔くんと話してる。

 

祥子ちゃん達に会うのを楽しみにしてる・・・。

 

私の考えなんてちっとも聞いてくれない。

 

 

 

 

思えば、前に、睦ちゃんを助けようと彼女の前に初めて現れたあの夜も。

 

 

『やめてっ!』

 

 

凄い力で、私を壁に叩きつけて来たし。

 

 

きっと、私は睦ちゃんにとっての邪魔者でーーー。

 

でも、私は睦ちゃんを守るために生まれたのに。

それじゃあ、私がいるのはーーー。

 

 

 

「・・・・睦ちゃん、モーティスちゃんと少し話させてもらっても良い?」

 

朔くんは、睦ちゃんにそう言った。

 

 

睦ちゃんは、ほんの少しだけ小さく考え込むように視線を揺らした後、

 

「・・・・分かった・・・」

 

そう頷いて、私に身体を任せてくれた。

 

 

 

「・・・・モーティスちゃん・・。・・・・・ひでぶっ!?」

 

表の意識に出てから、私は手近にあった分厚い枕を、目の前の朔くんの綺麗なお顔へと全力で叩きつけた。

 

いつも穏やかでカッコいい朔くんが、気の抜けた珍妙な声を上げる。

 

 

「・・・・朔くんの分からず屋!何で、睦ちゃんを祥子ちゃんに会わせようとするの!」

 

そんな朔くんの様子なんて気にせずに、私はまくし立てる。

 

 

「祥子ちゃん、来てくれないじゃない!睦ちゃんに会いに来てくれないじゃない!」

 

「祥子ちゃんは、悪い子なんだよ!」

 

 

 

「違うっ!」

睦ちゃんが、また表に出てきて、私の声を遮る。

 

 

 

「祥は、悪くない・・・・。・・・理由がある・・・。そうでしょ?・・・朔・・・」

 

「うん・・・。祥ちゃんは、理由があって来れないだけで・・・。悪い子なんかじゃ・・・」

 

また、私抜きで話そうとしている。

 

 

それが、嫌でーーー!

 

 

「睦ちゃんも、何で私の言うことーーー「朔、モーティスの事なんて気にしないでいい・・・」何で、そんなこと言うの!」

 

睦ちゃんが酷いことを言ってくる。

 

 

私は、また何か言って反論しようとする。

けど、睦ちゃんは、何も聞いてくれない

 

 

そしてーーー。

 

 

「ちゃんと・・・、祥に謝りたい・・・。祥の居場所を壊したこと・・・・」

 

また、祥子ちゃんのことを話してる。

 

「そよにも、立希にも、燈にも、ちゃんと・・・」

 

そよちゃん達のこと話してる・・・。

 

「本当に、ありがとう・・・」

 

「私、朔に伝えたいことがーーーー」

 

私のことなんて最初からいなかったみたいに無視して、朔くんの身体に身を預けている。

 

 

睦ちゃん、どうして?

全部、睦ちゃんを守るためなんだよ?

そのために、私はいるんだよ?

 

ーーーーなのに、睦ちゃんは、私を無視して・・・。

それじゃあーーー。

 

 

 

「私は、いらない子なの?」

 

 

いつの間にか、意識が表に出ていた。

そして、そんな言葉が自然に口から出ていた。

 

 

 

 

「それは違うよ。モーティスちゃん・・・」

 

 

朔くんが、私の手を優しく握った。

 

 

「・・・・え・・?」

 

「大丈夫。ちゃんと知ってるから・・」

 

それで、優しい声色で語り掛けてくれる。

 

 

「モーティスちゃんが、睦ちゃんのために頑張ったこと、ちゃんと分かってるから」

 

「ただ、今はね・・・。睦ちゃんが、モーティスちゃんが、前に進むために、祥ちゃんに会って欲しいんだ」

 

首を振る。

祥子ちゃんとなんて会いたくない。

絶対に嫌だ。

 

 

祥子ちゃんは、睦ちゃんを傷つけるんだもん・・・。

私は、祥子ちゃんのこと嫌いだし・・・。

 

 

「モーティスちゃん・・・・。お願い・・・」

 

朔くんの紅い瞳が優しそうな目で私を見つめてくる。

 

 

「・・・お願い。信じて・・・。絶対に、睦ちゃんを傷つけさせないから・・・」

 

「ちゃんと、睦ちゃんのこと助けるから・・・」

 

 

「モーティスちゃんのことも。『自分がいらない子なんだ』なんて、そんな悲しいこと・・・。モーティスちゃん自身に思わせないから」

 

 

分からない。

信じていいのか、分からない。

 

 

でもーーー、

 

 

その優しい瞳がーーー。

 

『・・いや、今のその呼び方は・・・・、モーティスちゃん・・・』

 

あの日、洋館のリビングで初めて出会った瞬間。

私が睦ちゃんじゃないことに一目で気づいてくれた、あの時の朔くんの優しい瞳に重なってーーー。

 

信じてみたくなってーーー。

 

私も、睦ちゃんが信じた朔くんを、もっとーーーー。

 

 

 

 

「そよちゃん達なら、良い・・・。・・・祥ちゃんは、まだ・・」

 

「そっか・・・。・・・・良かった・・・」

私の、そんな素直じゃない言葉にも、朔くんは小さく微笑んでくれた。

 

 

心底、安心したみたいに・・・。

 

 

そんな、優しい顔が、私をーーー。

 

 

 

「朔・・・。それで、何時に行けば良いの?」

 

睦ちゃんが、また私を押しのけて出てきちゃった。

 

 

ーーーでも、今は、少しだけ反対するのを止めた。

 

 

祥子ちゃんのことは嫌いだし。

許す気もないけど。

・・・・ただ、今の私じゃ、睦ちゃんを助けられないから。

 

朔くんのことを信じてみようと思ってーーー。

 

 

「えっとね。今の時間から逆算して、ニ時間後のお昼過ぎ・・・『ピンポーン』あ、来ちゃった・・・」

 

 

「・・・・・え?」

 

 

突然のピンポーンという玄関のチャイムの音と、朔くんの呟きに、睦ちゃんが首を傾げている。

 

 

それを見ながら、朔くんは「やっちゃった」と言わんばかりに、気まずそうにさっと視線を泳がせる。

 

ーーーそして、

 

 

 

「えっと・・・。その、長崎さんと椎名さんが来ちゃったみたい・・・」

 

 

困ったように頭を掻いて、そう言った。

 

 

テストの最初の一問目から盛大に間違えてしまったかのような、そのマヌケで困り果てた表情が、私には少し可愛らしくて、少しおかしく感じちゃって。

 

 

・・・なんだか、朔くんの言う通り、睦ちゃんが、幸せになれるような気がして・・・。

 

私は、睦ちゃんに意識を完全に代わって、少し目を閉じた。

 

 

 

『うん・・・。モーティスちゃんの所為じゃないよ』

『モーティスちゃんが、睦ちゃんのために頑張ったこと、ちゃんと分かってるから』

『今度は・・・、ちゃんと助けるから。・・・一緒に睦ちゃんを助けよう?』

 

朔くんの優しい声を、聴きながらーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

少し、想定外なことが起こったけど・・・。

 

それでも、僕が考えていた筋書き通りに動いている。

 

何とか、モーティスちゃんを説得出来てーー。

 

睦ちゃんの元へと、長崎さんと椎名さんが会いに来てくれた。

 

 

・・・このままうまく行けば、大丈夫。

 

どこかの合間に、睦ちゃんにあのことを伝えれば、大丈夫なはずだ。

 

 

あとはーーー。

 

 

祥ちゃんの手を、あいつが_____黒瀬朔が取れば、全て上手く行く。

 

・・・・本当に、彼が行動に移せるのかという不安は、幾分か残ってはいるけれどーーー。

 

 

「・・・朔・・・」

 

「うん・・・・。大丈夫だよ、睦ちゃん・・・」

 

 

小さく声を掛けてきた彼女に首肯する。

今は、精一杯、自分ができることをやろうと思って、窓から、椎名さんと長崎さんの方を見てーーー。

 

 

 

 

 

「・・・・・ふふっ・・・」

 

自然と頬が緩んでしまった。

 

 

 

 

一匹の小さな、まばゆい金色のコウモリが、どこかへ向かって力強く羽ばたいていく様子を、その目に視認して。

 

 

かつて自らが手放してしまった、あの騒がしくも愛おしかった黄金の翼との記憶に、胸の奥底でほんの少しの、温かい懐かしさを感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ行かないと・・・」

 

僕は、鏡の前に立ち、深く、深く息を整える。

 

 

今から、僕は、祥ちゃんの所に行く。

祥ちゃんの手を引いて、祥ちゃんを皆の所に連れていくんだ。

 

 

押し寄せる緊張のせいで、少しだけ指先が震えている。

 

 

自分なんかに本当にできるのか。

考えれば考えるほど、不安で、不安で仕方がない。

 

 

ーーーけど、決めたんだ。

 

絶対に、祥ちゃんの手を引くんだって。

 

祥ちゃんを月みたいに優しく照らすんだって。

 

祥ちゃんに、僕の人生全部あげるって。

 

 

 

決意を胸に秘めて、鏡に映る今の自分の姿を見る。

 

 

「・・・・他の格好の方が良かったかな・・・」

 

今の僕は、『冷やし中華始めました』と間の抜けた文字が躍るTシャツとダメージジーンズを着用している。

 

・・・・ちなみに、その下に穿いているパンツには、ブタメンのキャラクターであるブタメンくんが堂々とプリントされている。

 

正直、自分でも、どうかと思う・・・。

 

 

けど、キバットが前に祥ちゃんの家に持ってきて以来、ずっと着ていなかったのをふと思い出して、どうしてもこれを身に纏って行きたくなったんだ。

 

 

歪なものでも、正しくない日々の中でも、僕が祥ちゃんの前で着ていたものだから。

どんなに、小さな、覚えていないようなものでも目を逸らしたくなかったから。

 

 

ワインレッドのスーツのように格好良くなくて。

・・・・間が抜けて、全然、安心感のない服装だ。

 

 

コンタクトレンズだって、結局、怖くて使えなかった。

どうしても、自分の目に異物を直接入れるのが怖くて・・・。

それに、キバの鎧の力で、ちゃんと見えるし・・・。

 

 

だから、僕は今も、この野暮ったい眼鏡を掛けたままだ。

 

 

 

でも、それで良いんじゃないかと、今は思えた。

急に、全部が、全部変わったら、祥ちゃんも驚いちゃうだろうし・・・。

 

 

僕は、僕らしく、祥ちゃんの手を引こうとーーーー。

 

 

 

 

「お~。カッコいいじゃねぇか~」

 

 

 

後ろから男の人の声が聞こえた。

 

つい最近会ったばかりだけど、すごく心強い人の声・・・・。

 

 

「ありがとうございます。・・・歩さん・・・」

 

歩さんが、リビングのソファに座りながら、笑っていた。

その表情は、とても快活で、爽快感があって、とても心強いものだった。

 

 

その雰囲気が、僕の緊張を少しだけ和らげてくれた。

 

 

・・・・・それと同時に、一つの疑問が頭に浮かぶ。

 

 

「・・・・・何で、僕の家にいるんですか?・・・・鍵かけてましたよね?」

「このTシャツもう一枚持ってねぇか?俺の琴線に触れたんだけどよ」

「・・・・キバットの自作みたいなので・・、もう一枚は、ちょっと・・・。って、そうじゃなくて・・・」

「・・・・今は、そんなこと重要じゃなぇだろ?」

「いや、重要ですよ?ここ、僕の大事な家ですからね?少なくとも、Tシャツの在庫の有無よりかは遥かに重要ですからね!?」

 

なんだか、どこまでも歩さんのペースにこちらのシリアスな雰囲気を狂わされてしまう。

 

 

 

「でも、その大事な家の周りにさ。・・・バケモン集まってぞ?」

 

急に、表情を真面目なものにして、歩さんがそう言った。

 

 

 

「・・・・そうみたいですね・・・。もう少し時間掛かると思ってたんですけど・・・」

 

家の中からでも気づくほどに、大勢の気配を感じる。

 

 

・・・・本当に、もう少し早く家を出ていれば、こんなことにはならなかったのに。

やっぱり、踏ん切りがつくのが遅いみたいだ。

 

・・・でも、そんなの関係ない。

 

 

 

すぐに、ガレージの方へと歩いていく。

 

 

 

そして、真紅の鉄馬_____マシンキバ―へと跨る。

 

 

「大丈夫か?・・・あの金ぴかコウモリ、今はいないんだろ?」

 

「・・・・はい・・・・」

 

キバットは、今、先に祥ちゃんの方に行ってる。

キバットが、祥ちゃんに伝えたいことがあると言って・・・。

・・・・僕も、それを了承した。

 

 

「・・・・・・でも、大丈夫です。これくらいの逆境、生身で切り抜けられないと・・・・祥ちゃんの手を引く資格なんてないっ・・・・!」

 

そう吠えて、僕は手元のリモコンを操作して、ガレージのシャッターを開け始め、出発しようとする。

 

 

 

それを見ると、歩さんは、二カっと笑って、僕の強張った肩を力強く叩いた。

 

そしてーーー。

 

 

 

「頑張れよ!朔・・・っ!いや、仮面ライダーキバ!」

 

背中を押し出すように、熱い声音でそう言ってくれた。

 

 

 

「・・・えっと、仮面ライダーっていうのは?」

聞き覚えのない単語に、首を捻る。

 

キバは、キバの鎧っていうことだと思うんだけど・・・。

仮面ライダーというのは聞き覚えがない。

 

 

「うん?・・・ああ、そうか。初めてキバ―ラと会った時の俺にそっくりだな、お前・・・。まあ、何だ。正義の味方?みたいなもんだ」

 

「え・・・。でも・・・」

 

 

「僕は、祥ちゃんのために戦おうとしてるだけで・・・」

世界を救う正義の味方なんてーーー。

 

 

「・・・・それで、良いじゃねぇか。俺だって、周りのキバ―ラと鳴滝が勝手に仮面ライダー響鬼って呼んでるだけで、俺たちの世界にゃ、音撃戦士っていう呼び名があるしよ!」

 

「えぇ・・・。何ですか、それ・・・・」

 

何というか、歩さん自身もよく分かってないみたいだ。

本当に、この人はどこまでもマイペースというか、調子を狂わせる人というか・・・・。

 

 

「まあ、行ってこいよ!」

 

「あ、はい。・・・行ってきます・・・っ!」

 

 

僕は、少し調子を狂わされながらも、ゆっくりと電動で開いていくシャッターの隙間から、漏れ出ていく光をじっと見つめた。

 

 

 

そして、僕は生身の咆哮と共に、マシンキバ―のアクセルを最大まで引き絞り、獰猛な爆音を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ここが・・・。ビショップ様の言っていた・・」

「ああ、間違いない・・・」

 

 

全身の要所が怪しいステンドグラスで彩られている異形____ファンガイア達が洋館を囲んでいる。

白昼に、一目も憚らず、怪物の姿で。

 

 

普段なら人通りの少ないこの閑静な住宅街でも、滅多なことが起きない限り、こんなことを起こさない。

 

・・・・今回は、その滅多なことであるのだが・・・。

 

 

「キバが、この洋館にいるのか・・・」

「油断はするなよ・・・・」

 

「当然だとも。ここで、奴の首を取り、キングにご報告をーーー。・・・おい、貴様。何故、先程からファンガイアの姿になってない」

 

蛾のような姿のファンガイア_____モスファンガイアが一人の男を睨みつけている。

 

 

ここにいる者は、例外なく、ファンガイアであり、キバを仕留めるために集まっている。

故に、自身の姿を解放し、全力で戦えるように構えている。

 

 

だが、その男は、薄汚れた人間の姿のままであった。

みすぼらしい黒いジャージに、安酒に溺れてやつれ果てた中年。

 

己の選択を激しく悔いるように、どうしようもない慙愧にその顔を深く伏せている。

 

 

「どうしたのです?豊川殿・・・」

一人のハサミムシのような姿をしたファンガイア____イヤーウィッグファンガイアが男に語り掛ける。

 

男は、ビクリと肩を震わせるだけで、何も答えない。

 

 

「豊川?・・・定治殿のところの・・・。一体、誰だ?」

 

「確か、婿養子として入っていたようで・・・。ビショップ様が、キバの居場所が分かったのも、彼が、定治殿に報告したからだと・・・」

 

「なら、なんで、今さら姿を変えないんだよ?」

 

 

男は、激しく震えて、下を向いたまま、小さな声で呟く。

 

「瑞穂・・・、祥子・・・。俺は・・・、どうすればーーー」

 

 

「おい。くだらない泣き言はそこまでにして、早く姿をーーー」

 

 

 

 

「来ますよ。キバが・・・っ!」

 

 

一人のファンガイアが、そう告げた瞬間、ファンガイア達は、一斉に戦闘態勢に入る。

 

視線の先にはゆっくりと開き始めるガレージのシャッター。

 

 

鉄馬の獰猛な轟音が辺りに鳴り響き、空気を震わせる。

 

その真紅の姿が、隙間から見え始めーーー。

 

怪物たちの怨敵の姿がーーー

 

 

 

 

 

 

『ドガァァァァンッ!!』

 

 

 

 

 

見えるよりも前に。

 

 

限界までアクセルを絞り込まれた鉄馬の強烈な突撃によって、分厚いシャッターが内側から粉々に突き破られた。

 

 

 

大破した金属の鋭利な鉄片が爆風と共に辺りへと盛大に飛び散り、襲撃の牙を剥いていたファンガイアたちへと、猛烈な勢いで襲い掛かる。

 

 

「く・・・っ!」

「何だ・・・・!?」

 

 

辺りのファンガイアが驚愕に声を震わせる中、一人の少年が、真紅の鉄馬_____マシンキバ―に跨り、ハンドルを握りしめていた。

 

 

少年は、黒と赤のカラーリングのヘルメットに、『冷やし中華始めました』と書かれている珍妙なTシャツに、ダメージジーンズを着用している。

・・・・何とも、ふざけた格好である。

 

 

だが、少年は、そんな怪物たちの憤怒を孕んだ視線を意に介さず、ただ、座り込んだ、一人の男に気づき、ヘルメットのシールドの奥から静かに口を開いた。

 

 

「清告さん・・・。これ以上、祥ちゃんが悲しむようなことはやめてください」

 

「・・・・まあ、僕が言えることじゃないですけど・・・」

 

少年____黒瀬朔は、少し自嘲気味に笑うと、間髪入れず再びアクセルを最大まで引き絞り、真紅の鉄馬を彼方へと猛烈に走らせて、洋館の敷地を電光石火の速さで突破していった。

 

 

「追えっ!」

「逃がすな!」

 

我に返った怪物たちは、一斉に少年の後ろ姿を追って地を蹴った。

 

鋭い爪を剥き出し、白昼の街路樹を高く跳躍し、各々がキングへの忠誠の死力を尽くしながら、真紅の残光を追いかけていく。

 

 

 

 

「・・・・祥子・・・。・・俺は、俺は・・・」

 

ただ一人の、戦う力も進む気力も完全に失った中年の男だけを、冷たい洋館に、一人取り残したままにして・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・まさか・・・。清告さんがいるなんて・・・。いや、そんなこと気にしてる場合じゃない・・・っ!」

 

僕はヘルメットのシールドの奥で必死に雑念を振り払い、マシンキバーのスロットルを獰猛に開けて、道路を駆ける。

 

 

バックミラー越しに映る景色には、大勢のファンガイア。

 

昆虫型のインセクトクラスに。

獣型のビーストクラスに。

水生生物型のアクアクラス。

そして、爬虫類型のリザードクラス。

 

 

こんなに大勢のファンガイアが一斉に街中に現れるなんて初めてだ。

 

しかも、こんな白昼に。

 

 

『何あれ!あの化け物!?』

『早く!早く警察を!』

 

人々の叫び声が聞こえてくる。

 

 

普段のファンガイア達なら、人間を襲って、ライフエナジーを吸う。

放っておけない。

 

だけど、今回はーーー。

 

『あれ?何か、同じ方向に走ってない?』

『何か、バイクに乗ってる人追いかけてる』

『撮影か、何か?』

 

全員、街の一般人には目もくれず、ただひたすらに僕の命だけを刈り取るために血眼になって殺到してくる。

 

周囲の人間など最初から視界にすら入れていない。

 

 

 

どうやら、ビショップか、兄さん辺りが絡んでいるんだろう・・・。

 

昨日、あんなに三角さんに警戒されていたのだから、当然と言えば当然だけど。

 

 

 

そんな思考を他所に、ファンガイア達が回り込み、追いついてくる。

 

 

「見つけたぞ!キバ、その命をーーー」

 

「そこ、邪魔っ!」

 

「な・・・・っ!」

 

 

マシンキバ―のハンドルを強引に引き上げ、前輪を鋭く浮き上がらせるウイリーを敢行した。

 

獰猛な鉄馬の巨体を荒々しく乗り回し、目の前に立ちはだかっていたクラゲの姿をしたファンガイアの脳面をフロントタイヤで強烈に轢き潰し、そのまま踏み台にする。

 

 

 

「これで、一気に引き離す・・・っ!」

 

 

アクセルを引き絞り、レッドゾーンまで回転数を跳ね上げる。

 

普通のバイクなら、クラッチ板が焼き切れて確実に大破するような無茶苦茶な荒業だけど・・・・。

 

 

流石、キバットの知り合い(?)のモトバット16世が手掛けた最強の鉄馬。

マシンキバ―は、僕の魔皇力も使って、凄絶な推進力で加速してくれた。

 

 

ファンガイアを足場に大きく跳躍する。

 

 

 

そして、しばらく飛翔した後、僕はマシンキバーを民家の立ち並ぶ屋根の上へとダイレクトに着地させた。

 

 

凄まじい衝撃をサスペンションで吸収し、そのままの勢いでジーンズの裾をなびかせながら、屋根の斜面を縦横無尽に爆走する。

 

ファンガイア達がそう簡単についてこれないように。

 

 

けど、流石に220kgのバイクの全力疾走を受け止められずーーー。

 

ガタガタと凄まじい破壊音を立てて、僕の後方から茶黒い瓦が粉々に砕け、盛大に剥がれ落ち始めている。

 

 

 

「・・・・・後で、弁償代を・・・。父さんの遺産から出しとこう・・・」

 

そんな場違いなことを考えてしまう。

・・・・正直、最低な考えだけど・・・。

 

 

今まで、両親がいなくても頑張って来たんだから、これぐらいはーーー。

 

 

 

「・・・・ふふっ・・・」

 

そんな考えが浮かんでいる自分自身に驚き、唇から笑みが零れた。

 

・・・・随分と、僕も悪いことを考えるようになったものだ・・・。

 

 

 

・・・・いや、違う。

 

僕は今、自分が犯している器物破損の暴挙と、これから三角さんの部屋でやろうとしていることを思い出し、きつく頭を振った。

 

今から、僕は、祥ちゃんを連れだすんだ。

 

あんまりにも、無謀で、無茶苦茶な方法で。

 

 

そのためならーーーー。

 

 

 

 

『いたぞ!そこだ!』

『逃がすな!』

『私の家がーー!』

 

 

そんなファンガイアたちの声を聞きながら、僕はマシンキバ―を更に走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・祥ちゃん、大丈夫?」

 

初華が、私の顔を心配そうに覗き込んでくる。

 

 

「・・・・・・・・」

 

私は、そんな彼女の優しい眼差しに対して、何一つの言葉も返すことは出来なかった。

 

 

 

・・・・ただ、心臓の奥底で、あの一音一音が激しく鳴り響き続けているだけで・・・・。

 

 

『僕、祥ちゃんの力になりたいんだ・・・』

 

『小さい頃、僕の手を引いてくれた、太陽みたいな祥ちゃんを、今度は、僕が助けたいんだ・・・』

 

『また、会いに来るから』

 

 

 

朔は、今日も会いに来てくれるんだろうか?

 

それとも、昨日の件でーーー。

 

いや、そもそも私に愛想を尽かしてーーー。

 

 

「・・・・祥ちゃん・・・、お昼ご飯、食べよう?・・・・朝から何も食べてないし・・・」

 

初華が、作ってくれていたスープを取りに行ってくれようとする。

 

 

 

『祥ちゃん・・・。ビーフシチュー作ったから、一緒に食べよう?』

 

『祥ちゃんのためなら、どこまでも一緒にいるから・・・』

 

彼は、また私の前に現れて、あんな風に笑ってくれるのだろうか?

 

 

 

 

『CRYCHICを辞めさせていただきますわ』

 

あの居場所を壊して。

 

『もう、祥には、ムジカしかないのに・・・。手を差し出してくれてたのに・・・。気遣ってくれてたのに・・・』

 

睦を傷つけて。

壊して。

 

 

その罪からも逃げ続け、初華の箱庭で忘却の怠惰に身を任せている、こんな薄汚れた私に対してーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん。魚介のトマトスープも良いけど。俺は朔のビーフシチューが好みだな~。な?祥ちゃんもそう思うだろ?」

 

 

 

「・・・・・ぇ・・・・?」

 

 

 

陽気な聞き覚えのある声が聞こえた。

 

視線を前に向けるとーーー。

 

 

一対の紅い瞳を輝かせた、あの眩い金色のコウモリが、当然のような顔をして初華が作ってくれたスープの器にその小さな身体を近づけていた。

 

 

 

 

「・・・・Ⅲ世・・・?」

 

 

「おうともよ!俺はキバットバットⅢ世!由緒あるキバットバット家の生まれ!朔の相棒にして、家族・・・。そして、祥ちゃんの未来の家族だぜ!」

 

 

陽気に羽をパタパタとさせながら、少し変わった口上を叫んでいる。

 

それが信じられなくて、私は縋るように手をーーー。

 

 

 

「何で!あなたが・・・っ!」

 

初華が、私とⅢ世の間に割って入り、彼を睨みつけている。

・・・・敵対心を剥き出しにしながら。

 

 

「あ〜、初華ちゃん。そんなに俺様を睨みつける暇があるなら、今のうちにそこの頑丈な玄関の扉を開けちまった方が良いぜ? ・・・・じゃねぇとさ、後で初華ちゃんのマンションの敷金と違約金の請求額が、とんでもなくエグイことになるからな」

 

一切意に介さず、Ⅲ世は、そんな訳の分からないことを言っている。

 

 

「何を言ってーーー!」

 

初華の怒りを孕んだ声にも耳を貸さず、言葉を続ける。

 

 

「アイツ・・・。早く来すぎたっての・・・。俺が、祥ちゃんに何にも言えてねぇってのに・・・」

 

 

「まあ、良いや。弁償代は、初華ちゃんの大好きな優牙の奴に払ってもらってくれ!」

 

「だからーーー!」

 

 

 

 

 

 

初華が、言い切る前にーー。

 

 

 

 

 

『ドガァァァァンッ!!』

 

 

 

 

 

鼓膜が破裂するほどの凄絶な衝撃音がマンション中に鳴り響き、施錠されていたはずの頑強な玄関の扉が、外からの凄まじい衝撃によって室内へと粉々に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

そしてーーー、

 

 

 

 

「祥ちゃん・・・!」

 

 

一人の人物が近づいてくる。

 

 

 

陽光に透ける茶髪に。

血のように紅い、でも、優しい瞳。

 

『冷やし中華始めました』と間の抜けた文字が躍るTシャツとダメージジーンズを着用している。

 

少し野暮ったい、でも、良く似合った眼鏡を掛けている少年。

 

 

 

「・・・・・朔・・・?」

 

 

他でもない。

私が恋焦がれ続けていた少年_____黒瀬朔だった。

 

 

 

 

何故、朔がここにいるのか?

なぜ、初華の家の玄関が、こんな有様になっているのか、分からない。

 

だけどーーー。

 

 

 

「・・・・来て・・・・!」

 

 

 

彼の、これまでの人生で一度だって聞いたことがないほどに、がむしゃらで必死な魂の叫び声に。

 

必死に私に伸ばしてくれる手に、私は静かに、けど、確かに。

 

 

 

ーーーー手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「行くよ・・・!祥ちゃん・・・・っ!」

 

僕は、強く握り締めた祥ちゃんの白くて冷たい手を引き、リビングのベランダに向かって走り出す。

 

早く、祥ちゃんをここから連れ出そうと、祥ちゃんをあの場所へ連れて行こうと、必死にーーー。

 

 

 

「待って・・・・! 待って、祥ちゃん・・・・っ!!」

 

 

後ろで、三角さんの声が聞こえる。

 

けどーーーー。

 

 

 

そんなの聞こえない。

 

 

 

 

そのままの勢いでベランダへの大きな窓ガラスの扉を開け放ちーーーー。

 

 

「・・・・なっ!朔・・・・っ!?」

 

 

「祥ちゃん!!」

 

 

 

僕は、彼女の華奢な身体を強く抱き抱え、ベランダから飛び降りた。

 

 

 

 

祥ちゃんの、驚愕の声と。

三角さんの悲痛な絶叫が耳を突く。

 

 

そして直後、重力に従って落下していく身体へと、強烈な重圧が容赦なく圧し掛かってくる。

 

 

 

けど、そんなの今は気にならない。

 

ただひたすらに、祥ちゃんの身体を抱き締める。

 

 

そのままーーーー

 

 

 

「キバっていくぜ!朔!」

 

 

 

「うん!キバット!」

 

 

 

滑空してきたキバットが僕に噛みつきーーー。

 

僕の身体が今までに感じたことのないほどの熱を生み出す。

 

 

 

そしてーーー。

 

 

自分のどこまでも不器用な思いを。

 

祥ちゃんへの嘘偽りのない思いを。

 

吐き出すように、叫ぶようにして。

 

 

 

その言葉を告げた。

 

 

 

 

 

「ーーーー変身!!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

気弱な少年は、ようやく昏い眠りから完全に目覚め。

 

忘却を望んでいた少女は、もう二度と離さないと差し伸べられた愛しい者の手を強く、強く握った。

 

 

王の成り損ない_____いや、仮面ライダーキバは、誰よりも愛しい少女をその真紅の腕の中にしっかりと抱え、不規則に転がる不整地の運命の坂を進み始めた。

 

 




第十二話の閲覧ありがとうございます。

次の話から、がっつり戦闘シーンが入ります。

しっかりと、カッコよく、書いていきたいと思うのでよろしくお願いします。

なので、少しずつ、主人公の朔くんのことを好きになって頂けると嬉しいです!



誤字などがありましたら、報告お願いします。

感想や評価もお待ちしていますので、ぜひ・・・。

次回も楽しんで頂けると幸いです。
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