BanG Dream!×仮面ライダー詰め合わせ(になる予定)   作:湯豆腐に季節のエクレアを添えて~

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一家Dumb Rock!があまりにも陽のバンドで驚きました。

らいみくがあまりにも眩しかったです。


それはそれとして、十四話よろしくお願いします。


第十四話 人間になりたいうた・貴方への祝福

 

 

 

 

私は、『RING』の奥へと静かに入っていく。

 

賑やかなカフェスペースの喧騒を通り抜け、薄暗いライブ会場の通路の奥、控室の前に佇む。

 

 

・・・・今日は、My GO!!のライブがあるらしい。

 

その前に、彼女たちは私と話をするために、待ってくれているのだろう。

 

 

ゆっくりとドアノブに手を掛ける。

 

 

心臓が早鐘のように鳴る。

触れた指先が小さく震え、全身の皮膚からじっとりと嫌な汗が流れ落ちていく。

 

 

少しだけ、ドアを開くのをためらってしまう。

 

 

けどーーー。

 

 

カチャリと静かに音を立てて、私は扉を開き放った。

 

 

「・・・あ、お・・。祥ちゃん・・」

 

 

部屋に入った瞬間、燈が驚いた顔で私の名前を呟いた。

 

その顔に、拒絶の色はなかった。

それどころか、私が来るのを、最初から知っていたようだった。

 

 

 

「・・・・遅いんだけど?」

 

不満げに、立希が呟いている。

 

けれど、その表情は、ほんの少しだけ柔らかく感じた。

その瞳にも、私を拒むような色は存在しない。

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

そよは、黙ってこちらを見ている。

 

だけど、拒絶しているようではない。

 

 

 

「・・・・あの、私はーーー」

 

 

何とか、声に出して、言葉を紡ごうとする。

 

まずは、謝罪をーー。

自身の罪をーー。

 

まずーーー。

 

 

「・・・・・祥・・・」

 

その前に、部屋の奥から静かに声が掛けられた。

 

 

どこまでも静かで、穏やかで、優しい。

幼い頃から、聞き覚えのある彼女の声。

 

 

「・・・・睦?」

 

他でもない、睦の姿がそこにあった。

 

 

睦は、ゆっくりと、けれど確かに、私の方に近づいてくる。

 

 

『だから、私は祥子ちゃんが嫌い』

 

『こんな祥子ちゃんじゃ、睦ちゃん、二度と戻って来ないかもね!』

 

あの時の、モーティスの声が頭に響く。

また、自身の罪を責め立てられるかもしれないと、無意識に身構える。

 

 

彼女を、壊してしまったのは他でもない私。

 

どんな風に言われてもーーー

 

 

 

「ごめん・・。祥・・・。傷ついて、ない・・?」

 

 

だが、彼女の震える唇から零れ落ちたのは、そんな、どこまでも私の身を案じた、そんな言葉・・・。

 

 

「・・・・・え・・・?」

 

 

口から、そんな気の抜けた声が漏れる。

 

ーーー瞬間。

 

 

自身の瞳から、堰を切ったように涙が一気に溢れ出していった。

熱いものが、私の頬を激しく濡らし、床へと落ちていく。

 

 

「違いますわ・・っ!睦・・・、私が、貴方に頼りきりだったから・・・っ!」

 

 

彼女を抱きしめる。

もう離さないように力強くーーー。

今さら、そんなことーーー。

 

都合の良いことだと、身勝手なことだと思われるかもしれない。

 

 

けど・・・・。

それでも、私は睦を離さない。

 

 

 

「ごめんなさい・・・っ!本当に、本当に・・・っ!」

 

「貴方に迷惑を掛けてばかりで・・・。何の助けにもなれなくて・・・っ!」

 

 

ただ、堰を切ったように、謝罪の言葉が溢れる。

 

 

 

「・・・・違う・・。・・・祥・・・、私がーーー」

 

 

睦が、私の背中に手を回して、抱きしめ返してくれる。

 

温かい手が、私の背中に触れる。

 

 

「・・・・私が、壊しちゃったから。・・・祥も突き飛ばしてーーー」

 

睦が、辛そうに、私に告げる。

 

 

「違いますわ・・っ!睦が、ここまで追い詰められたのもーーー」

 

「違う・・・。私が約束破ったから・・・」

 

「いえ、私がーーーー」

 

「違う・・・。私のーーー」

 

自らの罪を擦り付け合うようにして、私たちは涙を流しながら何度も何度も言い合った。

 

何度も、何度もーーー。

 

 

「そろそろ良い?」

 

 

私と睦が言い合っていると、すぐ横から、呆れたような、けれどどこかホッとしたような声音で、そよが声を掛けてきた。

 

 

 

 

「そよ・・・・」

 

そよが、私の方をじっと見ている。

 

そしてーーー。

 

 

「祥ちゃんのアパート行ったよ」

 

そんな信じられないことを言った。

 

 

衝撃で息が詰まった。

あの家に?

あのボロボロのーーー。

 

 

「祥ちゃんの身に何があったのかも、全部知ってる・・・。黒瀬くんに全部教えてもらったから・・・」

 

目を伏せてしまう。

 

自分の秘密が、彼女にバレてしまっていることから、今すぐにでも目を逸らしたくて仕方がなかった。

 

 

「祥ちゃんが、Ave Mujicaも、睦ちゃんも・・・、CRYCHICのことも、全部、忘れたかったことも・・・、ちゃんと教えて貰った」

 

 

「・・・・朔が・・・?」

 

あんなに離れていたのに、朔は、それを分かっていた?

私の、あんなに身勝手な思いを?

 

頭の中が真っ白になる。

 

 

けれどーーー、そよは構わずに告げる。

 

 

 

 

「・・・・けど、勝手に無かったことにしないで」

 

 

 

彼女は真っ直ぐに私の瞳を射抜いたまま、一歩、また一歩と、私の方へ歩みを進めてくる。

 

そして、私の目の前に近づいてーーー。

 

 

「・・・・・今日、ちゃんと終わりにしてあげるから」

 

不機嫌そうに、少し怒っているようにーーー。

けれど、どこか優しそうにーーー。

 

 

「・・・・え、えっと、祥ちゃん・・・。大丈夫だよ・・?長崎さん、怒ってないから・・・。ただーーー」

 

「あれ?黒瀬くん・・・、何で、戻って来たの?」

 

「お前、さっき、私たちに任せるって言ってたよね?」

 

「お・・・、服も変わってる・・・・」

 

 

「・・・そ、それは、その・・・・。何か、あっちの僕が思っていたより、大丈夫そうだったから・・・。戻っても良いかなって・・・」

 

「何?聞こえないんだけど?」

「・・・・あ、何でもないです・・・」

 

 

「っていうか、何、その恰好?ふざけてんの?・・・さっきのスーツの方がマシなんだけど?」

「いや、それは・・・、この服に着替えてないと・・・。色々辻褄合わなくなるから・・・」

 

 

困り顔で、朔が・・・・・。

立希と燈、千早さんと話している。

 

『冷やし中華始めました』という珍妙なTシャツに、ダメージジーンズ。

少し野暮ったい眼鏡の奥の瞳をきょきょろと泳がせながら、気弱そうにその肩をすぼめて。

 

 

・・・・先程、大丈夫だと、言いましたのに・・・・。

 

そんな心配性な朔に一頻り文句を言った後、立希は、私に向き直る。

 

 

「私も、こいつと、そよから、いろいろ聞いて・・・」

 

 

そして、少し気まずそうに、目を泳がせた後ーーー。

 

「・・・ごめん・・・。CRYCHICの時、キツイこと言って・・・」

 

そう言ってくれた。

 

 

「いえ・・・。私こそ・・・」

 

謝るべきなのは、私の方だ。

私が・・・・・。

 

 

 

 

「あれ?・・・祥ちゃんと椎名さん、会うの、CRYCHIC解散以来なの?」

 

 

そんな私たちの神妙な雰囲気を台無しにするように、目の前の冷やし中華の男が驚いたように会話に割り込んできた。

 

 

「はあ?お前も知ってたでしょ?」

 

「あはは・・・。・・・結構違ってるんだ・・・。ごめんね・・・」

 

誤魔化すように、朔は笑っている。

 

いつもの気弱な調子でーーー。

私のよく知っている顔でーーー。

 

 

だけど、それは・・・。

 

 

 

『・・・・祥ちゃん・・・!・・・・来て・・・・・っ!』

 

 

さっき、初華の部屋のベランダから私を強引に抱きかかえて跳び、咆哮を上げていた彼とは、決定的に何かが違っていて。

 

その違和感が頭にこびりついて離れない。

 

 

「まあ、あんたに、睦がCRYCHICで思ってたこと、ちゃんと教えてもらったし・・・。今は良い・・」

 

「ありがとう・・。椎名さん・・・」

 

そんな私の微かな胸騒ぎを他所に、立希と朔は言葉を交わしている。

 

・・・・少し違和感を覚えたが、今はーーー。

 

 

 

「・・・・祥ちゃん・・・」

 

自分に、彼女たちに、向き合うことを優先した。

 

私に話しかけてきた燈の方を向く。

 

 

燈は、一冊のノートを私に見せてくれた。

 

 

「人間になりたいうた・・・」

 

 

見覚えのある、忘れることのない、燈の詩。

 

・・・・・・あの時と、何も変わらずに、そこに書かれていた。

 

 

燈は、オドオドとしながらも、一生懸命に自らの言葉を紡ぐ。

 

「・・・・もっと、違うこと、書こうと、思ったんだけど・・・」

 

 

「今の、祥ちゃんが・・・、何を感じてるか、分からなかった、から・・・」

 

・・・・それは当然のことだ。

私は、初華の家に籠り切りで、彼女に学校でも会う事は無かった。

 

燈が、今の私の事を知る手段はない・・・。

 

 

「黒瀬くんにも・・・、教えて貰ったけど・・・、よく、分からなくて・・・」

 

私のことを見つめてーーー。

一生懸命に伝えようとしてくれている。

 

 

そしてーーー。

 

 

「・・・・祥・・・・」

 

 

隣に静かに佇んでいた睦が、私の服の袖をそっと引いて、声を掛けてくれた。

 

 

「・・・・この曲、みんなで弾こ・・・」

 

 

その言葉に、そよが、立希が、燈が頷く。

 

最初から、話は通っていたようだった。

 

 

 

私はーーー

 

 

 

「・・・・ええ・・・」

 

 

押し寄せる涙の熱量を湛えながら、静かに、首を縦に振って首肯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は、彼の____黒瀬朔の振りをしながら、彼女たちの歌を聞くために、ライブハウスの後ろの壁にもたれかかっていた。

 

・・・・皆が、曲を演奏する準備をしている。

・・・・今は、My GO!!のライブ前。

 

そのリハーサルの時間を使わせてもらっている。

 

今日が、一番、都合が良かったし。

 

ーーーーー僕の世界でも、同じだったから。

 

 

・・・・ただ一つの不安点としては、今から演奏する曲が、前と変わらない、『人間になりたいうた』だというところだけど・・・。

 

 

「お、何だ、黒瀬の方じゃなくて、紅の方の朔なのか」

 

後ろから、声が聞こえた。

 

 

僕は面倒くさそうに、けれど鋭く振り返る。

 

 

僕の身長を遥かに凌駕する2mの長身に、マヌケそうな黒髪の男。

 

どこの和菓子屋の制服かは知らないが、茶衣着を着ている。

 

 

僕と同じ、他の世界からこの世界にやってきた、部外者_____安達歩。

何なら、僕よりも遥かにこの世界に関係ない異物だ。

 

 

 

・・・・いつの間に、入ったか、分からなかったけど・・・。

 

すぐに、その方法を察した。

 

 

壁の端の方が、マゼンタとシアンのオーロラに揺れていたからだ。

 

 

「・・・・そんなに使いまくってたら、鳴滝とキバ―ラに怒られますよ?」

 

「ん?まあ、大丈夫だろ」

 

「・・・・何か、要さんが、ジーッと見つめているんですけど・・・・」

 

「まあ、大丈夫だろ」

 

「いや、どこが・・・?」

 

 

本当に、この人には、調子を崩される。

というか、そろそろ、あのチビコウモリにチクろうかな・・・。

 

流石に、これ以上派手に動かれたら困るし・・・。

 

 

 

「・・・・そんなに心配そうな顔すんなよ。今日で、俺はこの世界から出ていくからよ」

 

「・・・・本当ですか?それは・・・」

 

「もちろんだ!・・・俺はな?」

 

 

どうやら、放ってはくれないらしい・・・・。

 

大方、あの銀色の、Φの字のマスクを付けてる・・・、仮面ライダーファイズとかいう人が入れ替わりで来るんだろう。

 

何か、僕のことを気に入ってないらしいし・・・。

 

 

 

「それで?・・・何で、お前がいんだよ?黒瀬の方に聞かせてやれよ」

 

「別に・・・。良いでしょう・・・。祥ちゃん達には気づかれてないんですから」

 

安達さんから目を逸らしつつ、僕は、祥ちゃん達に目を向ける。

 

 

皆が、そろそろ演奏を始めようとしている。

 

・・・・・・確かに、出来ることなら、彼の方に聞かせてあげたかったけど・・・。

 

仕方がないことだ・・・。

だって、彼は、今、自身の戦いに身を投じているのだ。

 

あの戦いは、彼以外には務まらない。

 

僕が、代わりにその舞台へ上がることは許されない。

 

 

決してーーーー

 

 

「居心地良くなっちまったって、わけじゃないよな?」

 

「・・・・・・・・・」

 

その言葉に息が詰まった。

 

違う。

 

僕が、祥ちゃん達のライブをーーー。

あの懐かしい旋律を、もう一度聞きたかったわけじゃ・・・断じて、ない。

 

 

「まあ、別に良いけどな・・・。お、始まるぜ?」

 

安達さんが、舞台の方を指さす。

 

 

祥ちゃん達が、演奏を始めていく。

 

 

随分、昔に聞いたことのある演奏。

今の僕には、もう聞くことが出来なかったはずの・・・、どこまでも眩しい・・・。

 

 

 

『自分はここにいない 居場所がないって』

 

『いいかせてるだけ』

 

穏やかな、高松さんの優しそうな歌声。

 

そうだ・・・。

僕に、居場所はない。

ここは・・・、彼の世界。

彼が、必死に生きてる世界。

 

分かっている、そんなことは・・・。

 

 

 

『ここではないどこかに 行きたい 思い込んでなぐさめてる』

 

それでも、それでも・・・。

あの世界から、離れたかった。

 

あの救いようのない世界から、逃げ出したかった・・・。

 

僕の元いた世界で、そう思いながら、自分を慰めていた。

 

 

 

ここから、先は覚えてる。

 

ここから先はーーーー。

 

彼も聞くべき部分だ。

 

僕は、自身の指先を少し動かし、歩さんが使っていた、オーロラカーテンを少しいじる。

 

・・・・彼に、この歌が聞こえるように・・・。

 

 

『見つけたくって 下ばかり見てたから』

 

 

そうだ。僕も、彼も。

僕たちはいつだって、ずっと下ばかり見ていた。

 

自分の、今いる世界を切り開く術を知らなくて。

 

ただ、下ばかり見て・・・。

それで答えが見つかるわけがないのに・・。

 

 

 

『気づかない つまずいて』

 

僕も気づかなかった。

躓いた。

 

彼も、僕も・・・。

 

でもーーー、彼はーーー。

 

 

 

『ぶつかって よろめく』

 

僕も、いろんなことにぶつかった。

彼も、今、ぶつかっている。

 

 

『世界がゆれる』

あのオーロラに包まれた時、僕の世界が揺れた。

 

何か変わるかもしれない・・・。

何か変えられるかもしれない。

 

そう思ってーーーー。

 

 

『靴ひもがまた ほどけた』

 

高松さんが必死に歌っている。

 

僕は、それをどこか、遠くのことのように聞いていた。

 

 

『みんなみたいに友達できたけど』

 

僕も、彼も、祥ちゃんや睦ちゃん以外に、心から大切だと思える友達なんて一人もいなかった。

だから、大切にしたかった。

 

 

『みんなといるのに1人みたいだ』

 

 

けど、僕は、祥ちゃんに自分の秘密を告げれなかった。

彼みたいに、彼女に傘を差し出せなかった。

 

 

『みんなみたいに生きたいのに』

 

僕は、皆みたいに、祥ちゃんや睦ちゃんたちみたいには生きられなかった。

 

もし、できたならーーー

 

 

『人間になりたい』

 

 

人間になりたかった。

 

 

ファンガイアの血なんていらなかった。

力なんていらなかった・・・。

 

 

 

 

僕の世界の祥ちゃん達が、CRYCHICを終わらせた時の、人間になりたいうた、じゃなかったけど・・・。

 

その歌は、僕の、胸の奥に刺さっていく。

 

 

『同じもの 見てるはずなのに』

 

同じ存在であるはずなのに。

僕も彼も。

同じ、朔であるはずなのに。

 

キバであるはずなのに。

 

 

『同じところ いるはずなのに』

同じ、祥ちゃんと睦ちゃんのいる場所にいるはずなのに。

 

・・・・ああ、でもーーー。

 

 

 

『違うらしい』

 

 

そうか。そうだったんだね。

 

彼と僕は違うんだ。

 

だから、祥ちゃんに傘を差し出すことが出来たんだ。

祥ちゃんに自身の秘密を明かすことが出来たんだ。

 

それが、やっと分かって・・・。

 

理解できて・・・。

 

 

『人間になりたい』

 

 

「・・・・・ぁ・・・」

 

演奏が終わった。

 

皆、演奏していた途中から涙が溢れていた。

 

それは、僕もだった・・・。

 

涙で、前が見えない。

祥ちゃんの顔が見えない。

 

僕のーーー。

 

いや、彼の_____黒瀬朔の祥ちゃんの顔が・・・。

 

 

・・・・でも、それで良いんだと気づいた。

 

だって、彼女の顔を見て、彼女の音を聞くのは、僕じゃなくて、彼であるべきなのだから・・・。

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

僕は、涙で前が良く見えないまま、自身の懐に入っていたーーー。

 

 

紫の笛をオーロラカーテンに放り投げた。

 

 

 

ーーーそして。

 

 

「ごめん。皆・・・。次、演奏したい気持ち分かるんだけど、ほんの少しだけ待って・・・。・・・お願い・・・」

 

 

僕は、彼女たちに深く頭を下げた。

 

 

彼が、黒瀬朔が、帰って来るのを待ってもらうために。

 

 

 

深く、深く、魂の底からの祈りを捧げるようにーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドッガハンマー!』

 

 

 

 

 

 

 

・・・・カーテン越しに、キバットの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

草むらから身を隠しながら、彼の戦いを見た。

 

最初は、狼のような咆哮を上げていた彼を・・・。

 

ビショップ様の軍勢が蹂躙していた。

 

 

速さを物ともしない頑強さで。

そもそも、姿を見えないように、姿を透明化させて。

 

 

彼を翻弄していた。

 

ーーーだが、その予定調和は。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドッガハンマー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

キバットバットⅢ世の声と、重低音の旋律が響き渡った途端に、ひっくり返された。

 

 

彼の、キバの元に、巨大な怪物の拳を象った大槌が現れた。

 

全体が重厚なメタリックパープルで統一され、鎖が巻き付いている。

 

 

それを手に取った瞬間ーーー。

 

彼の姿が変わった。

 

鎧の色彩が群青色の野性から、悍ましい紫へと変わりーーー。

 

先程よりも、遥かに強固で重厚な、鉄壁の肉体へと形を変えていく。

 

分厚い肩のアーマーと胸部のプレートに、分厚い手甲。

 

 

夜空の月のような黄色でも深い群青色でもなく、全てを見透かすような、妖しい深い紫へと変貌していった。

 

 

 

「はあ・・・・・、ふう・・・」

 

 

彼は、首の骨をガキガキと重く鳴らしながら、その自らの背丈を遥かに凌駕する巨大な大槌を、アスファルトの路面にガリガリと鈍い火花を散らせて引きずる。

 

そして、一人の熊のような姿をしたファンガイアに歩み寄る。

 

 

ファンガイアは、厚い鉄板をも容易く両断する巨大な爪を全力で振り下ろすが、彼の装甲には通じない。

 

その攻撃に一切動じないまま・・・。

 

 

彼は、その大槌を、力任せに振り下ろした。

 

一撃目は耐えられたが、二撃目には自慢の爪は砕け散り、三撃目にはファンガイアの身体全体が砕け散った。

 

 

 

『貴様・・・っ!』

 

『生意気な・・・っ!』

 

数体のファンガイアが、自身の膂力に任せて、彼に突撃していく。

 

 

けれど、その攻撃は、誰も彼の装甲を貫くには至らない。

 

全て、彼に無残に打ち倒される。

 

 

 

 

 

「・・・・うん?」

 

 

バチンッ、バチンッ、と不自然な火花を散らす衝撃音と共に、キバは自らの重厚な装甲を揺らし、何度も、何度も、自身の背後を振り返る。

 

立て続けに、何度も、何度も。

確かに、目に見えない何者かからの銃撃に近い打撃が執拗に加えられ続けていた。

 

 

だが、振り返った視界の先には誰も立ってはいない。

相手の姿はまるで見えない。

 

恐らく、透明化している者が、攻撃しているのだろう・・・。

 

 

「・・・・面倒くさい・・・」

 

彼は、少し悩んだ末に。

 

 

大槌に備え付けられているレバーを引いた。

 

その瞬間、大槌の手のひらが開き、隠されていた瞳が姿を晒す。

 

そして、その瞳が妖しく光りーーー。

 

 

『おいっ!お前!』

 

『何っ!何故、透明化が消え・・・っ!?』

 

 

姿を隠していた者_____カメレオンのような姿をしたファンガイアが姿を現す。

 

 

 

それを視認した直後ーーー、

 

 

 

彼は、腰に吊り下がっていた黄金の蝙蝠____キバットバットⅢ世に、大槌の柄を強引に噛み合わせた。

 

 

 

 

 

 

『ドッガバイト!』

 

 

 

 

 

 

その直後に、紫電が大槌に纏わりつき、巨大な拳を形作る。

 

大槌そのものを遥かに凌駕する、鉄拳。

 

 

それをーーーー。

 

 

「・・・・・・ふんっ・・・・!」

 

 

力任せに、勢いよく振り回した。

 

その拳に、周囲のファンガイアは全て巻き込まれ、色鮮やかなガラス細工へと変わった。

 

 

 

ーーーーー先程まで命だったものが、辺り一面に転がる。

 

 

 

 

 

「ひ、ひいっ!?」

 

俺は、恐怖で情けない悲鳴を零した。

 

草むらの中で、腰を抜かし、惨めに転がる。

 

 

 

「・・・・・ああ?」

 

キバが、私の方を向いた。

 

全てを見透かすような、深い紫の複眼が、私を真っ直ぐに射抜く。

 

 

 

「あ、ああっ・・・!?」

 

恐怖で、奇妙な声が出た。

無様に、地面を転がる。

 

どこまでも無様に・・・。

 

 

 

ーーーー思えば、今に始まったことじゃない。

俺は、どこまでも無様で。

 

瑞穂がいなくなってから、ずっと・・・。

 

あの子に苦労を掛けさせてばかりで・・・。

 

 

『お前・・・・!お前は・・・!本当に・・・!』

 

目の前にいる彼が、あの夕暮れ時の薄汚れたアパートの一室で、俺の喉元を締め上げたのも当然のことだろう。

 

 

あの子を____祥子を、傷つけてばかりで・・・。

父親のくせに、何の力にもなれなかった・・・・。

 

 

 

彼の無慈悲な一撃が、振り下ろされる。

 

 

本来の姿を、ファンガイアとしての姿を解放しなければ、一撃の下に粉砕されるだろう。

 

だけど、もう、そんな気は起きなかった。

 

ただ、俺は、それを受け入れようとーーーー。

 

 

 

 

 

『ドガァァァァァンッッ!!!!』

 

 

 

 

衝撃音がした。

 

地面に重たいものが打ちつけられた音だった。

 

ーーーーだけど、俺の肉体に、死の激痛が訪れることは無かった。

 

恐る恐る、目を開けた。

 

 

 

 

「・・・・へ?」

 

 

 

その大槌は、俺の目の前のアスファルトを砕くのみで。

そのまま、ピタリと制止して、動く事は無かった。

 

 

 

 

 

「・・・・清告さん・・・」

 

 

 

そのまま呆然としていると、彼が私に声を掛けてきた。

 

どこまでも、優しそうで、哀しそうな声色で。

 

 

 

「・・・・僕、祥ちゃんのために戦いたいんです」

 

あの子の、祥子の名前を出した。

 

その眩しい言葉に、俺は目を逸らしてしまう。

 

彼に、目を合わせられない。

 

俺に付いてきてくれた祥子に八つ当たりをして。

傷つけてばかりで。

 

 

最後には、あんなにも酷い言葉を投げつけてしまった。

そんな私にとって、彼の___黒瀬朔くんの言葉は、目を逸らしてしまいたいものだった。

 

 

 

それでも、彼は、言葉を続ける。

 

「・・・・だから、清告さんにも、お父さんとして、祥子ちゃんのためになることをして欲しいんです」

 

そんな、馬鹿げた、今の私に出来るわけのないことを・・・。

 

彼は、知らないだろう。

僕が、自身の身の可愛さで、彼をーーー。

 

 

「僕のことをビショップに話したのが、清告さんだっていうことも知ってます・・・」

 

 

ひゅっと、私の喉の奥で息が完全に止まった。

 

 

 

それを知っているなら、何故、彼は、私にーーー。

 

 

「それでも、祥ちゃんに幸せになって欲しいんです。前を向いて欲しいんです」

 

 

「・・・・だから、清告さんにも・・・・」

 

 

彼は、少し躊躇いながら、言葉を続ける。

 

 

「祥ちゃん達の・・・、CRYCHICの皆の演奏を聞いて欲しいんです」

 

 

 

「祥ちゃんが、あそこで何を感じて、何を思っているのか・・・。僕の代わりに見届けてください」

 

仮面で、彼の素顔は見えないが・・・。

 

きっと今、どこまでも優しそうな、気弱な少年が微笑んでいるのだろう。

 

・・・・祥子が、好きになった彼は、こういう人間だったのだと、今は理解できた。

 

 

「それで、祥ちゃんのことをもっと知ってあげてください。・・・ちゃんと、見てあげてください」

 

ゴツゴツとした固い籠手で、彼は私の手を、力強く包みこんだ。

有無を言わさない。

けれど、どこまでも優しく語り掛けている。

 

 

良いのだろうか?

そんなことをしてーーー。

俺のようなクズが・・・。

 

 

今、祥子のために戦っている彼を放って・・・・。

 

バイクに跨っていた彼の背中を、身勝手な焦燥だけで追いかけて、ここまで転がり込んできただけの無力な私が、今さら・・・・。

 

 

 

「・・・・・本当は、僕も見たいんですけど・・・」

 

心の底から残念そうに告げている。

 

 

「・・・・今は、出来ないので・・・。・・・しなきゃいけないことがあるので」

 

決意を秘めた声で、そう力強く答えた。

 

そして、後ろを振り向き、睨みつける。

 

 

彼の視線の先を見ると、一人の長身痩躯の男が歩み出て、その青白い顔に鮮烈なステンドグラス状の紋様を妖しく浮かび上がらせ始めた。

 

ビショップ様の姿がファンガイアのものへと変わる。

 

 

エメラルドグリーンの翅を広げた蝶のような頭部。

 

司祭を象徴するように、黒い法衣やロングコートの裾を翻したような造形の腰回り。

 

そして、ファンガイアの中でも四人のみが持つことを許される左肩の彫像。

 

 

そんな相手を前にしても、彼は動じない。

 

 

「・・・・気づいたんです。僕が直接見れなくても・・・。・・・祥ちゃんは、歩いて行けることに・・・」

 

「祥ちゃんのこれからの道が、祝福に満ち溢れるようになるって。・・そうなるようにするって・・・」

 

 

「だから、行ってください・・・」

 

 

「・・・・ああ。・・・・分かったよ・・」

 

俺は、彼の言葉を背に、走り出した。

 

 

 

何処に行けば、祥子に会えるのか、分からない。

何処で演奏しているのか、分からない。

 

・・・・・ちゃんと、聞いておけば良かった、と思ってしまう。

 

 

だけど、私はもう、目を瞑ってアパートに引きこもるような最低の父親には戻らない。

必死に、ただがむしゃらに、前に向かって走り続ける。

 

 

街に設置されている看板を狂ったように見回りながら・・・。

 

今の祥子をこの目でーーー。

 

 

その思いで、走って、走って・・・。

 

 

俺はーーー

 

 

 

『・・・・中々、やりますね。・・・清告さん・・・』

 

 

先程、聞いた彼の声と、どこまでも似通った声と共に。

 

マゼンタとシアンのカーテンに包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「朔・・・。もう少しで、リハーサルの時間も終わりますし・・・・」

 

私は、朔に話しかける・・・。

 

突然、朔が少しだけ待って欲しいと言ったから。

 

・・・・皆も待ってくれている。

 

 

 

あの頃と変わらない、懐かしい演奏を終えた後、私たちは次の、最も大切な曲を弾く直前で、彼によって遮られていた。

 

 

立希とそよは不満げだったけど、彼の願いを聞き届けてくれた。

私も・・・、私の手を強引に引いてここまで連れ出してくれた彼の願いだからこそ、静かに従っていた。

 

 

だけど・・・。

 

 

「・・・・朔・・・。お願い・・・」

 

隣に佇む睦が、ギターを抱きしめたまま、俯きながら朔の姿を見つめて懇願している。

 

 

私だって、同じ気持ちだ。

 

・・・この、先程の演奏の余韻が冷めてしまわない内に。

 

 

私たちの音をーーー。

 

あの時の音をーーー。

 

 

今度こそ逃げずに、燈と、睦と、立希と、そよと共に奏でたい。

 

 

「朔・・・・。私からもお願いしますわ、もうこれ以上はーーー」

「うん。もう、大丈夫だよ、祥ちゃん。・・・・・・これ以上は、待たなくて良い」

 

 

「・・・・・・え・・・・・・?」

 

 

朔が、急に、前言を撤回した。

 

そして、少し気まずそうに、ポリポリと頬を掻きながら、けれどどこか名残惜しそうに言葉を続ける。

 

 

「・・・・本人が直接聞かなくても大丈夫って言ったし・・・。それに・・・」

 

 

少し感慨に耽るように、吐息を漏らす。

 

 

「・・・・あの人も来たようだし・・・」

 

朔が視線を扉へと向け、そう静かに呟いた、その直後のことだったーーーー。

 

 

 

 

「・・・・祥子っ!」

 

 

ライブハウスのドアを強く開けて、一人の男の人が入って来たのは。

 

みすぼらしい黒いジャージに、安酒に溺れてやつれ果てた中年。

 

けれど、その表情は、最後に見た時よりも、ずっと強い意志に満ちていて。

その前を向こうとしている姿は、その表情は・・・。

 

 

小さい頃から傍にいた、お母様が好きだと言っていた、私のーーー。

 

 

 

「お父様・・・?」

 

 

 

豊川清告。

私の世界でただ一人のお父様。

 

 

168億円の損害を出し、豊川の家から追放され、いつも狭いアパートの一室で、酒に溺れていたあの人。

 

何故、ここにいるのか?

今さら、何をしようというのか・・・。

 

 

そんな考えが浮かんでしまう。

 

あの人と私はもうーーー。

 

 

「祥子っ!すまなかった!・・・俺は、・・・俺は・・・っ!」

 

上手く言葉に出来ないながらも、お父様は私への謝罪を告げる。

焦っているのか、言葉が見つからないのか。

 

大粒の涙に濡れた顔は無残に歪んでいる。

 

それでも、私から目を逸らさずに・・。

 

 

 

 

・・・・どうして、今さら・・。

 

もう、何もかも遅いのに・・・。

 

 

そんな考えが浮かび続ける。

 

 

けど、それよりもーーー。

 

 

 

嬉しかった。

 

 

 

お父様が、前を向こうとしてくれているのが。

また、私の名前を呼んでくれたことが。

 

ちゃんと、私を見てくれたことが。

 

 

 

 

「祥ちゃん達の演奏を聞きたいんだって・・・・」

 

朔が、お父様の隣で、そんなことを口にした。

 

 

お父様が私たちの演奏を?

何故、急にーーーー。

 

 

「彼に、朔くんに教えて貰ったんだ・・・。俺がしなければいけないことを・・・」

 

真摯に、ただひたすらに、私を見つめて。

必死に言葉を重ね続ける。

 

 

「俺は、ちゃんと、祥子のことを見る。・・・祥子のことをちゃんと知る・・・」

 

その姿は、私が昔見た、優しくて頼もしかったお父様の姿そのもので・・・。

 

それが、それが・・・。

 

本当に・・・っ!

 

 

 

「ちゃんと働く!・・・ 死に物狂いで仕事を探して、ちゃんと前を向いて歩く。・・・・だから、だから祥子・・・・っ!」」

 

その声は、どこまでも真摯で。

力強くて。

 

 

 

私の心の奥から、またもや感情が溢れ出す。

 

先程の演奏よりも強く、熱くーーー。

 

 

気づいた時にはーーー、

 

 

 

 

──私の指先から、あの懐かしくも温かい、キーボードの旋律が、静かに溢れ出していた。

 

 

 

どうやら、無意識に、私の指は、キーボードの鍵盤の上に伸びていたようだった。

 

 

燈も睦も、立希も、そよも・・・。

皆、一緒に演奏をし始めてくれる。

 

 

 

私は、雨が止んだ後の、どこまでも眩しく、穏やかな晴天の中にいるように。

 

どこまでも晴れ渡った、幸福な気持ちに満たされて。

 

 

彼から、皆から、お父様から・・。

 

自分自身が歩んでいく道を、優しく祝福されているような気持ちで。

 

 

 

私たちの歌を。

私たちで、CRYCHICで奏でる、最後の歌を・・・。

 

春日影を・・・。

 

 

ーーーー奏で始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの演奏は、少年と王の影の心に、美しく響き渡り。

 

少年は、少女の父の背中を押し、怨敵との決着をつける。

 

そしてーーー。

 

仮面を剥ぎ取られた少女は、祝福をその身に受けながら。

 

自身の愛しい過去と決別するための、前に進むための。

 

彼女たちだけの歌を、奏で始めた。

 

 




第十四話の閲覧ありがとうございます。

次の、第十五話でキバ編が一区切りつきます。

なのですが・・・。
その後、キバ編を続けるか、他の編と並行して進めながら、書くかで悩んでおります。


同じ世界で、キバ編の話も進めながら、ガヴ編(仮面ライダービターガヴ×八幡海鈴)を書くか・・・・。

それとも、キバ編だけを異常に長くするか・・・。

個人的には、八幡信用金庫と共に、信用を得るために奔走するオリ主(ビターガヴ)を書きたいですが・・・・。
構成が難しくなりそうですし・・・。

・・・まあ、十五話の投稿までに考えておきます。

一先ず、次話も楽しみにして頂けると嬉しいです。

誤字などがありましたら、報告お願いします。

あと、感想や評価などもモチベーションなどに繋がるので、よろしければ、ぜひ・・・・。


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