ごっどいーたーの日記   作:林檎

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×月д日

 

 

 この世界について少し分かったことがある。まずはP53偏食因子を投与されてゴッドイーターになるのはもちろんのことだが、第二世代――いわゆる〝新型〟がまだ現れていない。

 

現に神機が剣形態と装甲展開の二つしか持ち合わせておらず、捕食形態で捕食したオラクル細胞も放出手段が遠距離型のゴッドイーターへの補給に充てることとなっている。

 

まだこの程度では第二世代が現れていないというのは分からないではないかと言われれば、俺はこういう返し方をするだろう。だってサクヤさん若すぎるんだもん。あれはどう見てもまだ十代後半のはずだ。わかるぞ、サクヤファンの俺には。

 

 そんなことでも書かなければ今の精神状態を俺は保てないだろう。なぜって? 装甲車の運転席にリンドウ、後ろの後部座席には俺とソーマ。静寂した装甲車の中。誰でもいい、俺にオラクルバレッドをぶち込んでくれ。そうでもしなきゃ、新設されたロシア支部までなんか辿り着ける気がしない。

 

さて、隣りをチラッと見てみましょう。あら不思議、ソーマが鬼のような形相で俺を見てきたではありませんか。もうやだ。帰りたい。左腕折れてるのに緊急特務ってなんですか。

 

嫌な予感しかしない。アレ……待って。回復要員がいないぞ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 □月ζ日

 

 

 今日は世界各地に残る〝軍〟が結託して大規模なアラガミ殲滅作戦を実行に移した。その作戦にリンドウ、ソーマ、俺も加わることになっていたらしい。俺は初耳だったの書くまでもないだろう。その殲滅作戦は実行から三時間で失敗に終わり、その時の討ち漏らしがロシアの辺境の町を襲撃した。

 

現場へ向かう中にとあるロシア人の夫婦と出会う。話に聞くとどうやら自分達の娘が行方不明になったらしく、アラガミに襲われた危険区域に自宅があるので探しに戻ると言い、リンドウは慌てながらも夫婦を説得しようとしたんだけれども興奮状態に陥っている二人を安心させるほどの言葉を見つけられずに、危険区域まで夫婦は戻っていってしまった。

 

現場に着いたとき、町は地獄と化していた。大きな体躯のアラガミ、ヴァジュラの群れが町を蹂躙して無抵抗に逃げ惑う人々を嘲笑うかのように食い散らかしていた。町が赤い色に染め上げられていく。

 

俺はその光景を見たとき〝恐れ〟という感情より〝怒り〟という感情が勝って「ふざけるな」という言葉を残して俺はクレイモアを握り締めて地面を蹴った――。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 連合軍による大規模なアラガミ殲滅作戦。世界各地の軍及びゴッドイーターがその作戦に参加する手筈だった。しかし、連合軍の上層部はフェンリルの存在をあまり良くは思っておらず、結果的に殲滅区域にゴッドイーターを配置させずに作戦を実行し、失敗に終わった。

 

作戦失敗の主な理由はゴッドイーター配置をさせなかったことと、軍が開発した対アラガミ用武器がまったく効果がなかったということが大きいだろう。軍の崩壊のみで済むならまだ救いはあったがそうはいかなかった。

 

無関係の周辺区域にまでアラガミが侵攻。現場近くのゴッドイーター達も作戦失敗を聞き終えるのと同時にアラガミ討伐へと動く。

 

 ソーマ・フォン・シックザール。彼もまた、討ち漏らされたアラガミが侵攻したと思われる危険区域へと二人のゴッドイーターと共に向かっていた。一人は雨宮リンドウ、口は軽いが腕は確かな男。もう一人は見覚えがない、どうやら新人らしい。

 

こんな大規模な作戦に新人のゴッドイーターを参加させるということは、よほど極東支部も人が足りないのだろう。ソーマは苦虫を潰したような表情で新人を見る。名前など聞いたところで今日中にも死んでしまうゴッドイーターの名など聞いても無駄だろう。

 

ロシアの辺境の町に着くのと同時に目に映る光景は最悪なものだった。足元には人の足が無惨にも転がっている。まだ新しいものなのだろう、湯気が上がっている。周囲を逃げ惑う人々。

 

ソレを楽しむかのように人々を捕食するアラガミ。プリヴィティマータの群れだ。綺麗な女神のようにも見える顔面を人間の血で真っ赤に濡らしている。

 

「地獄か……ここは」

 

隣りでリンドウがそう呟く。ソーマもまったくもって同じことを考えていた。死地を潜ってきたゴッドイーターですらそう思うのだから新人ともなれば、この光景を見て吐いてもおかしくはなかった。

 

「ふざけるな」

 

リンドウでもソーマでもない。この光景を見ている新人のゴッドイーターが怒り、悲しんでいた。黒い瞳には何も映ってはいない。ソーマは思わず目を見開いたのと同時に唖然とした。

 

「な――ッ!!」

 

 地面が抉れ、爆ぜたようにソーマの瞳には映った。実際に地面は抉れてはいないのだが、ソレに迫るような凄まじい威圧感を感じた。

 

「おい、ウソだろ――」

 

「プリヴィティマータの首を切り落とした……だと」

 

ありえない光景に戸惑う。それもそうだろう、新人のゴッドイーターが瞬く間にプリヴィティマータの首を切り落としたのだ。クリティカルヒットの一撃。あまりにも洗練された無駄のない動作。一挙一動にアラガミを駆逐するという強い思いすら感じる。

 

「新人に俺達が気圧されてどうする……ソーマ、お前は囮となって出来るだけ多くのプリヴィティマータを引き付けろ。俺はその間に住民たちの避難誘導に移る!!」

 

「……おい、アイツはどーする」

 

「アイツなら大丈夫だ、俺も前に命を救われたことがあるからな!」

 

 その言葉の意味は信頼。いつも軽口だが仕事に関してはキッチリとこなすリンドウの言葉はソーマにとっても新人のゴッドイーターである結城シンを少しの興味どころか、大きく興味を持たせるには容易な言葉だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 怒りのままに神機を振るった。それはまるで神機が俺の感情に応えてくれているようにも見えた。この住民たちが何をしたんだと。軍の作戦失敗だけでは飽き足らずに、無関係な人々の幸せまで踏みにじるというのか。

 

捕食するという本能のままに喰べるアラガミ。考えることなど出来ないと思った俺はこのとき油断していた。目の前で奇声を発するヴァジュラ――もとい、プリヴィティマータだと俺が気付いた時には既に遅かった。

 

漆黒の体躯をしたアラガミがプリヴィティマータの背後から現れたのを認識するのと同時に俺の身体はボロ雑巾のように吹き飛ばされ、民家に突っ込んだ。

 

俺としたことが、少々熱くなりすぎたようだ。いつもならアラガミが恐くて堪らないのに全然恐くない。そう、たとえ目の前で髭を生やした漆黒な体躯のアラガミが目の前で俺を嘲笑っていたとしてもだ。

 

我ながら馬鹿だと思う。もう死ぬのが分かっているからだろう、日記なんか取りだしてこうやって現状を書くくらいしか出来ない。

 

神機は瓦礫の下。左腕は折れているので使えない。

 

俺は無力だったようだ――(文字はこのあと血で染まっている)

 

 

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