ごっどいーたーの日記 作:林檎
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ディアウスの名は天・日を表し、アーリヤ民族の神の中でも最古の存在としてインド・ヨーロッパ語族の神話における最高神として扱われる。
その姿は牡牛として表現され、昼は雷鳴の様な唸りを立てる赤い牡牛、夜は稲妻を持つ真珠で飾られた黒馬という姿でも描かれる神話の神。
その名と姿を体現させるアラガミ。漆黒の体躯にマントを靡かせるソレは地に降りた神話の神。地を這う
シンは日記を床に置いて静かに立ち上がった。片腕が折れ、神機すら瓦礫の下では戦う手段すらもないというのに。
神は人間を見下ろし、我を讃えよといわんばかりの態度で凄まじい威圧感を放つ。歴戦を戦い抜いた戦士ですら意識を手放したくなるはずなのに、人間は何も感じないかのようにただひたすら神を見つめ続ける。
神は何倍もあるでろう剛腕を、コンクリートすら容易に切り裂く爪を人間に向かって振り落とした。辺りに飛び散る鮮血は周囲を真紅に染め上げる。
満足気に人間へ視線を移す神。
両断されているべき人間。
ドシャリと何かが落ちる。
神はソレを見下ろす。
己の剛腕が地面の色を赤く、赤く染めていた。
* * *
□月æ日
死ぬかと思った、本気で。本気と書いてマジと読む。いや、だってさ髭を生やしたガングロなヴァジュラに吹っ飛ばされたと思ったら目の前にいるんだよ?
もう詰んだからせめて日記を書いておしまいにしようと考えていたら瓦礫の下の神機を発見した、あれは本当に泣きそうになった。
あれがプリティヴィマータだったら素手でも戦おうと思ったんだけどな。あの時は目の前で殺されていく人々を見せつけられて思わず「ふざけるな」とか言っちゃったけどさ、仕方ないよね。
なんかリンドウとかソーマから殺気混じりな目で見られてるから泣きたくなる。あのガングロなヴァジュラを死に物狂いで退けたんだけど、町に向かう途中に出会ったロシア人の夫婦がどうやらあのヴァジュラに……。
夫婦が探していた娘はリンドウの手によって救助されたらしい。リンドウは「お前が深手を与えていなければ危なかった」とか言ってくれるけど嘘なのは知ってる。
俺があの時、ヴァジュラを倒していれば夫婦は助かったかもしれない。いや、助かっただろう。自分の弱さがこの一件で分かった。
せめてもの罪滅ぼしはしたいと俺はこのまま新設されたロシア支部に残ることにした。夫婦の大切な娘を見守りたいと、愚かなゴッドイーターの決断だ。
彼女が大きくなったら俺は憎まれるだろう。いや、もう憎まれているはずだ。なんせ目の前で両親がアラガミに捕食された大元の原因を作ったのは自分なのだから。
* * *
フェンリル極東支部のとある一角。室内には数台のモニターの明かり以外に光は無く、不気味な雰囲気を醸し出している。そのモニターに映し出される映像もある一人だけが捉えられていて、なお不気味さを増させていた。
「この戦績は町一つ分以上だ。やはり本部の上層部を丸め込んで正解だったようだな」
モニターを見て恍惚な表情を浮かべるシックザール。偶然に偶然が重なるとは非常に残念なことだろう。連合軍とフェンリルの仲は悪かった。そんな時に大規模な作戦が行なわれる情報。新しく入隊した新人のゴッドイーター。フェンリル傘下の〝用済みの町〟があったという不運な事。
たまたま、偶然に偶然が重なって討ち漏らされたアラガミの群れが辺境の町を襲ってそこに新人のゴッドイーターが討伐任務を受けて討伐したというだけの話。
「人類が生き残るには犠牲は伴う。町の人々はただ、選ばれなかっただけということ」
連合軍はもはや崩壊、残された軍を指揮して取り締まるのはフェンリル本部。どうにでもなるだろう。結城シンの戦力はこの一件で現フェンリル最高戦力と上層部は判断し、極東支部支部長としてのゴッドイーター育成能力の高さは認められてさらに他の支部にまで手を伸ばすことは可能になった。
――――――ロシア支部〝オオグルマ先生〟より通信。
『例の彼は先ほど着任しました。どうやら新型の彼女を見守るため、かと。如何しますか……?』
「ああ、やはりそうだったか。もう布石は敷いてある、あとは彼の洗脳と新型の彼女の〝教育〟を任せよう」
『彼女は言葉と薬漬けによる洗脳は可能なのですが……例の彼は難しいかと。感情の起伏がなく、何を考えているのかわかりません』
「ふふ、その為の布石だろう? 彼にも〝心の傷〟というものは必要なはずだ――失う痛みがね」
『……この一件で町一つが消滅しましたが、まさかさらに町を?』
「普通の人間なら人を救えなかったという現実を見て多少は傷付くが彼にはもっと負荷を与えなければ。トラウマを植え付ければ良しとしよう」
――――――ロシア支部〝オオグルマ先生〟通信終了。
* * *
□月ю日
今日は医務室に行ってきた。彼女の様子を見に。ベッドに付けられているネームプレートには〝アリサ〟と書かれていることから名前ははっきりと言えたみたいだ。
残念なことは彼女には両手足を縛る拘束具が着けられているということ。
拘束具を着けていないと、尋常ではないくらい酷い状態らしい。今は寝ていて天使のように美しく見える寝顔はそんな様子を微塵も感じさせないが。
両親を失ったという現実を受け入れるには容易ではないだろう。どうにか彼女を立ち直らせないといけない。それが罪滅ぼしに繋がると、信じよう。
医務室を出た時に黄色いバンダナを着けた医者と出会った。なんか話していて意味不明なことばかり言っていたけれども、本当に医者なのだろうか?
そもそも、ロシア支部の一部がどこか不気味な雰囲気を醸し出しているのは気のせい……ではないはず。
頼むから誰も変なことをしないでくれと願うばかり。ただでさえ、ロシア支部に着任してからの任務が異常に多いんだから。
やっぱりまだ人数が少ないからなのか。なんか任務だらけで生きた心地がしないんですけど。
というか、今さらだけど。今寝ているアリサって アリサ・イリーニチナ・アミエーラじゃないよね? まだ名字分からないからアレだけどさ。もし本人だったら色んな陰謀が渦巻いているのは確定だよな。
もしかして黄色いバンダナってオオグルマ先生カナ。なんか気付かないうちに陰謀に巻き込まれていそうな気はする。いや、深く考えるのはやめておこう。今のアリサを見守り、立ち直らせるのに力を注がなければ。
* * *
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。彼女の心身の治療を任されたのは本来ならば他の医者であるはずだった。しかし、本部の決定により現れたのはオオグルマダイゴ、彼であった。
「例の彼との接触はまず控えておこうか、アリサとの接触もさせなければ支障もでないだろう――」
オオグルマはそう呟きながら医務室にカードキーをかざして入ったのと同時に心臓が飛び跳ねた。ベッドで寝ているアリサの前に佇む一人の少年。
結城シン。
その瞳はゆっくりとオオグルマの心臓を鷲掴みにした。いや、されたような気がした。底無しの威圧感はシックザール支部長と同じく畏怖するようなもの。今の呟きが聞こえたならば、何か変に思うだろう。
「やれやれ、勝手に医務室に入られるのは困るんだがね。医者に断ってからでなければ患者には会わせられないよ?」
「それは失礼しました。アリサさんの見舞いをしたいのでよろしいですか?」
「却下だ。今すぐ医務室を出ていきなさい、これから治療を行なうんだ。ゴッドイーターのきみでは何も出来ないだろう、さあ早く出なさい」
オオグルマの言葉に従って医務室を出るシン。感情の起伏がまったく見られなかった、言葉もどこか無機質でオオグルマは背筋が凍りそうな冷たさに襲われる。アレは厄介なゴッドイーターだと、そう勝手に確信した。
彼を洗脳するには長い時間をようするだろう。シックザール支部長の言う布石はどのようなものかは知らないが、アレは下手をすると洗脳するどころか――本部から消されるのではないか。