ごっどいーたーの日記 作:林檎
相変わらずの亀更新ですが、温かくお見守りください´ω`*
△月§日
着任してから早一ヶ月。何が一体どうなっているのか、まず休みがない。これはガチで。任務に出発して終了してロシア支部に帰投途中でオペレーターから緊急任務で他のゴッドイーターの救援指令。
これはあれか、極東という名のアラガミ動物園の出身だから過労死させるレベルでいいやーみたいなロシア支部の考えなのか。誰か助けてよ、殺されちゃう。アラガミと対峙するとき、どんだけ怖いか分かる? 俺はわかったよ。これは人間のお仕事ではないと。
ただロシア支部は俺の心臓を潰したいのか分からないけど、突然湧いてきたアラガミの群れが町を襲う事例が何件も出てるのに――その現場に単身で俺を放り込む。もしかしてさ……俺を爆弾か何かと勘違いしてたりするのかな、へへ。
アラガミ討伐するのは良いんだけどさ……町の人々が大勢、捕食されていくんだ。俺の目の前で。救える命がたくさんあったさ、でもさすがに単身じゃ無理に決まってる。「助けて、お兄ちゃん」とかそんなこと言われながらアラガミにさ食べられるんだぜ? もう、なんだろ。両目から涙が溢れて止まらねえよ……ロシア支部の考えが読めない。
帰投したら黄色いバンダナが俺に呪詛を吐いてきた。「きみのせいで町の人々が死んでいくんだ」とか人をまるで死神扱い。おかげでロシア支部内のゴッドイーター達からは白い目で見られてる。まあ、中には何人か優しい人達はいるんだけど。
リディアさんとかリディアさんとかね。あの人、マジ天使。医学生らしいけどあの包容力には癒されます。あの黄色いバンダナより、リディアさんがロシア支部の人達みんなの精神のケアしてくれた方がモチベーションは上がると思う。
* * *
突然湧いてきたアラガミの群れによる町を襲う事例――各町の近隣区域のゴッドイーター達はアラガミの撃退任務を受け、討伐ではなくそのアラガミを退けることで任務を遂行。己が退けたアラガミの侵攻方向なども確認せぬうちに任務完遂報告をし、中にはアラガミの侵攻方向に気付いて自ら討伐任務へと切り換えるゴッドイーターもいた。
だがそれはあくまでも手練れのゴッドイーターの判断である。ロシア支部はまだ新設されたばかりで新人のゴッドイーターが主であり、自分が生き残ることを前提に戦っている新人はそこまで気は回らない。
そうなれば現場のゴッドイーターの責任は問われることはないだろう。ありとあらゆる要因が重なった末での町の崩壊、崩壊したが故に大多数から少数へとなった人々の声など〝フェンリル〟には届かない。正確には届いていても世の流れ――最初から無かったこととされる始末。
「やはり、あの御方は酷いことをするねぇ。彼が本格的に任務をこなし始めてから一ヶ月。さすがに町を五つも消したとなれば危ないと思うんだけどなあ」
医務室であるにも関わらず、紫煙を吐く黄色いバンダナがトレードマークのオオグルマダイゴは苦笑していた。たった一人のゴッドイーターを自分の思い通りに動く人形にしたいが為に町すらも平気で消すという行動は正気とは言えない。
「けど、あの御方にとってはこれも――〝人類の未来〟のためなんだろうがね?」
――――――――さて、私も思い通りに出来る人形を作るとしようか。
オオグルマのサングラスにベッドで寝ているアリサが映る。まだ幼く、純真無垢であるうちに操り人形と化した方が楽といえよう。幼い頃に出来た大きな傷は成長とともにさらに傷は大きくなる。傷そのものを癒し、乗り越えることは出来るだろうがそうさせないのがオオグルマという男である。
「〝新型〟の適合者候補なのだから丁寧に扱わないと――あまりにも脆くて壊してしまいそうだ」
* * *
穢れを知らぬ少女。
家族と過ごせる日々は幼い少女にとって小さな幸せ。
このような小さな幸せはずっとは続かない。
とある者によるシナリオで
一つの辺境の町と人々は犠牲となった。
家族を失い
友を失い
大好きだった町の人々も失い
独りとなった少女。
一人の医学生が少女に手を差し延べる
その手を掴もうとすると――横から白衣を纏うナニかの手が少女の身体を無理矢理抱きとめる。
―――――そちらには行ってはいけないよ。
少女の時はここで止まる。
長きに渡る儚い永遠。
アリサ・イリニチーナ・アミエーラ。
活発でやんちゃな心優しく素直な女の子はこの日を境に居なくなった。正確にいうならば――隠されてしまった。とある者達による思惑によって。
時を止められた少女は肉体的に成長はしても精神が成熟していくことはまずなかった。医者を語るであろう男にの手による暗示が精神を無理やり抑えつけ、心と身体を分離させる。
それに気付いた唯一無二の一人の少年。いつも無表情で口数が少なく、何を考えているのか分からない彼の動きは医者にとっても邪魔でしかない存在だった。
少女に暗示を掛けても掛けても翌朝には弱まるという現象。引き起こしていた張本人は僅かな時間を見つけては少女と話すという単純なことしかしていない。
―――――邪魔だ。
強力な暗示をいとも簡単に弱めていく能力。邪魔以外の何ものでもなかった。強力な暗示を掛けるのと同時に〝トラウマ〟となった根本的な原因と少年を無理やり結び付け、消しかけるための強行催眠を行なった。
医者が最も畏怖し、恐れる存在がこのことに気付いたらタダでは済まないだろう。だが生憎、その存在は遥か向こうの極東に住まう今は気付くことはないだろう。
―――――時が流れるまで傀儡はひたすら眠る。
穢れを知る少女。
家族との幸せに過ごした時間
上から塗りたくられていく虚偽
医者である男が頭の中に入り込み
少女の精神を静かに蝕んでいく。
消えていく
家族
友
大好きな町の人々。
残るのは医者である男一人。
そしてその原因を作った少年――。
「――――」
「――アリサ? どうした」
ロシア支部の病院内のとある一室。
黒髪に黒い瞳、極東人である少年が無表情で顔には表していないが心配そうな声色で少女に声を掛ける。
「ただ、ぼーっとしていただけですが何か? なんでこの病室に毎日来るんですか、邪魔なんですけど」
開いた口が塞がらないかのように少年に言葉を吐いてしまうアリサ。そんなアリサの様子にいつも通りだと言わんばかりに黙り込む少年。
「今日もまた黙り込んで……何をしたいのかわかりません」
「ハハッ……ごめん」
ロシア支部にある病院の病室が空いてないこともあり、当初は医務室で治療を受けていたアリサ。そんな時に気付いたらいつも目の前の少年が居た。医者であるオオグルマ先生には彼――結城シンとは関わるなとは言われているけれども、アリサにとっては一つの心安らげる一つの居場所となっていた。
「今日は、さ。渡したい物があって来たんだ」
「渡したい物?」
シンはそう言いながらフェンリルから支給されたジャケットの中をゴソゴソとさせながら大きな紙袋を取り出した。ジャケットの中にどう仕込んでいたのか疑いたくなるほどの大きさの紙袋。
「ん、」
「わあ、帽子だあ! って……べ、別に誰もこんな物貰っても嬉しくなんか!! う、嬉しくなんか!! 」
受け取ったアリサは赤いハンチング帽子を受け取りながらも帽子と同じくらい顔を真っ赤にしながら両手をパタパタさせる。
「はいはい」
結城シンはそう呟きながら困ったように笑った。病室の窓に差し込む夕日の光は彼をどこか寂しそうに映させる。
その光はまるで、これから死んでいく者への手向けのような。