ごっどいーたーの日記 作:林檎
神機を手足の如く自由自在に操りし使い手。
死線を潜り抜けてきたゴッドイーター達は必ずいつかは命を落とす時が来る。それは必然であり偶然であり仕組まれていたものであり、様々なものだ。
ロシア支部を含め他支部ではヴァジュラと単身で遭遇した際には死を覚悟せねばならない。コンゴウと出会った際には身体の部位の欠損を覚悟せねばならない。これが他支部ではノーマルであり、ステータスである。
だが極東は違う。ヴァジュラとは日常的に顔を合わして頭を撫でたり、コンゴウを複数相手に挨拶を交わし、テスカトポリカの流星の如く降り注ぐミサイルにキスするくらいのことが出来なければアラガミの動物園では生き残れない。極東人にとってのステータス。
各支部のゴッドイーターの戦力強化のために応援という形で極東支部でしばらく任務をこなすことがある。各支部からエース級のゴッドイーターを呼び寄せ、自分達の支部に強力なアラガミが侵攻してこようとも動じることなく最低限の
ロシア支部にもシンが赴任していることもあり、戦力差は他支部とはあまり変わらないだろう。
だが戦力差うんぬんという前にロシア支部の設立自体が仕組まれていたということもあって実際には戦力などどうでも良かった。
新たに生まれつつある〝新型〟の礎となるべく設立されたに過ぎない出来そこないの支部。そこに用意された人々は優しく、心が強い人々ばかりだ。それゆえに選ばれてしまった、成長過程に必要な犠牲であるのだと。
――――悲しみは海にあらずすっかり飲み干せる。
一人の少女は遠い未来にその言葉を心に刻みながらゴッドイーターとなるだろう。
もしそれが自分の大切な友を失うとも知れず、心を救ってくれた医学生の女性とひきはなされことになるとも知れずに。
* * *
□月ю日
やはり何かおかしい。連合軍による大規模なアラガミ討伐作戦の影響からか、単に周辺地域のアラガミ細胞が活発化しているのか。アラガミが魔改造されているとしか思えない。
いつもなら涙目になりながらアラガミと死闘を繰り広げているはずなのに今日の任務でのアラガミは異常なくらい強かった。鼻水も垂らすほどに。
単身でサバイバルミッションてなに? 明らかに俺の扱いおかしくね、他のメンバーと一緒にミッションカウンターで受注しようとしたら俺だけ緊急特務サバイバルミッションて。
赤くて、まるでザリガニを巨大化させて盾を持たせたようなルフス、ルルルなんだっけ。名前が出てこないぞ。初撃でクレイモアを叩き込もうとしたら、見事に吹っ飛ばされたよね。アイテムポーチの回復錠も底を尽いていたから、紙回避、神回避で逃げきったさ。ふふふ。
……今回のサバイバルミッションには何か別の狙いがあるように感じる。いや、単に俺の気のせいだろうか。
* * *
フェンリル本部より各支部支部長クラスへの緊急極秘通達。
本日、ロシア支部周辺区域に新種のアラガミの報告あり。特徴は極めてカリギュラに近いものだと報告されている。現段階では接触禁忌第一種に指定するが、これはあくまで極秘通達である。各支部長クラスは先日の連合軍による大規模なアラガミ討伐作戦の際に緊急招集で会議を開いたが、あの一件でアラガミの個体強化がされたと思われる。
フェンリル本部の調べでは各地に分布されているアラガミの生態系が大きく崩れたものとみている。各支部でのアラガミの個体強化及びアラガミの生態が崩れたことを知られないよう措置を取ってもらいたい。これはあくまでも各支部内での大きな混乱を防ぐためである。
今一件の紅いカリギュラ、漆黒色のヴァジュラの名をそれぞれ
・ルフス・カリギュラ
・ディアウス・ピタ―
と命名する。
なお、この件を機に各地で新種のアラガミや特異な能力を持つアラガミが現れた際には〝特務〟として扱い、支部内最強戦力のゴッドイーターを送り込むよう配慮されたし。
* * *
□月υ日
サバイバルミッションを始めてから一週間が経った。支援物資? そんなの最初から無かったよ。地面に生えてる食べられそうな雑草を使って簡易調理セットで天ぷらにして食べてみた。まあ今のところは、身体への影響とか無いから大丈夫とか思ってる。
雑草って意外と天ぷらにしたら美味しいんだよな。それ以前に回復錠とか食べ物ですらないからね? 戦場でご飯炊いて闘うゴッドイーターとかいないだろ、絶対に。
白米炊こうと試みて鍋使ったら、鍋ごとオウガテイルに捕食された。許すまじオウガテイルめ。解せぬ、解せぬぞ。食べ物の恨みは恐ろしいんだ、今に見てろよ。ちょっ、やめ、寝袋噛むな。や、やめれ!!
オペレーターと通信が途切れてから三日経過。
ミッション内容のみ更新されている。
ミッション最終討伐アラガミ――ルフス・カリギュラ。
* * *
――――ルフス・カリギュラ
後にハンニバル神属接触禁忌種される危険極まりないアラガミ。
全身を蒼い鱗で覆い、鎧を身に纏う王の風格すら感じさせる。ハンニバル神属ということもあり、ブレス攻撃も可能である。その属性は原種とは真逆の氷となっているが攻撃力、スピードは他のアラガミより頭一つ分は抜きん出ているだろう。
だが、今――まさにゴッドイーターが対峙しているソレは血に浸したかのような紅を纏う。荒れ狂う大地を前に光臨せし血濡れの王は己の力を誇示せんと地響きにも似た咆哮を放つ。生きるもの全ての意識を刈り取るのは容易く思えるほどにその咆哮は身体を凍らせる。絶対的な力には逆らえぬのだと、地べたを這いずりながら死にゆくのがふさわしいのだ、そんな声が聞こえてくるかのようだ。
「こちら――。目標の距離到達まで360s。ルフス・カリギュラとの接触確認、映像を送信する」
『映像受信確認、目標に悟られぬよう心掛けろ』
「了解」
『本日1300、カリギュラ変異種――ルフス・カリギュラの対人戦闘データの採集を始める』
狂った歯車は止められない。
とある男の思惑通りに事態は進み、幼き少女は医者の毒牙に掛かり、新たな第三者の介入で空白のピースは埋まっていく。必然とは偶然であり、偶然とは必然なのである。
巨大な一つのモニター。荒れ狂う大地を演武の如く舞う神機使いと紅のアラガミを恍惚な表情で見つめるソレは着崩れた服から覗く豊満な胸の前で両手を握りながら声を洩らす。どれもがモニターに映るであろう少年を指したものであり、傍から聞くとあまりにも物騒である。
「ふふ、あの子……今すぐにでも頭から足の指の先まで調べ尽くしたいわぁ」
着崩れた服の背中に大きく刻まれているフェンリルの紋章。デスクの上に乱雑に置かれた資料に紛れ込む妖しく輝きを放つフェンリル本部化学班のバッジ。この二つからソレ――彼女がフェンリルの〝犬〟である事実は変わらない、だがその恍惚とした表情から時折覗き見える狂気的な感情は畏怖すべきかもしれない。人間という器にまるで〝別のもの〟が入り込んでいるかのような。
人でありながら人であらず。