破闇の守護者〜正体は100万分の1を引き当てた最強だった〜 作:時代に遅れている
ある日、人類は思い知らされた。
オレたちは、この世界に「生きていた」わけじゃない。
ただ「生かされていた」だけだったのだと。
世界中の至る所に、異界へと通じる謎の建造物――"鳥居"が現れた。
そこから地上へと姿を現したのは、理外の怪物『ものの怪』。
ヤツらには、銃も爆弾も、人類が誇るいかなる近代兵器も意味を成さなず
その理不尽で強大な力の前に、数多の人々が犠牲になった。
抗えるのは御扉《みとびら》の試練を超えし者――"盤士"《ゲーマー》と呼ばれる存在のみ。
試練を乗り越え、異能の力を得た盤士たちは、ものの怪を狩る専門家として絶望の淵に立ち続けている。
いつか訪れるかもしれない世界の終焉を防ぐため、少しでも"時間"を稼ぐために。
――そして、今。
「キャアアアアッ!!」
「ものの怪だ! ものの怪が現れたぞ!!」
「最前線の盤士の連中、やらかしやがったんだ!!」
「た、助けてくれェェ!!」
瓦礫が散乱する市街地に、絶望に染まった悲鳴が響き渡る。
逃げ惑う人々の背後に迫っていたのは、巨大な狼のような造形をした異形のものの怪だった。
オレ――灯道 煌介《とうどう こうすけ》は、逃げる人々とすれ違うようにして静かに前へ出る。
オレもまた、狂った世界で戦う力を得た盤士の一人だ。
「……」
オレは無言のまま、殺意を剥き出しにして迫りくる巨大狼に向けて手を突き出す。
掌の先に熱が集束し、『焔』が編み出されていく。
その眩い光が周囲を照らした瞬間、背後の人々が息を呑む気配がした。
「彼だ!」
「灯道 煌介が来てくれたぞ!」
「ああっ、助かる……!」
恐怖に引きつっていた人々の声に、確かな安堵の色が混じる。
オレはみんなと一緒でものの怪と戦うし、命を懸ける仲間の盤士たちとなんら変わらない。
だが、唯一違う点があるとするなら――
それは、オレを選んだ鳥居の種類だ。
桜の鳥居でも、翡翠の鳥居でも、白磁の鳥居でもない。
赤々と火に燃え、何者にも縛られず、何者であろうとも暗闇から照らさんとする"篝火の鳥居"。
オレは、その鳥居に選ばれた唯一無二の盤士だった。
『――彼はいつも、我々を照《たすけ》てくれる!』
背中に響く人々の希望の声を力に変え、オレは一気に地を蹴った。
「消えろ」
雷撃が如き神速の踏み込み。
腕を覆うように凝縮された焔の閃光が、巨大な狼の巨躯を一撃で真っ二つに切り裂く。
断末魔を上げる間もなく、ものの怪は業火に包まれ、チリとなって虚空に消え去った。
「すげぇぇ!」
「あんな巨大なものの怪を……一瞬で!」
「お母さん! あの人……すごいよ! 一瞬でやっつけちゃったよ!」
無邪気にはしゃぐ子どもの声と、それに安堵の涙を流して頷く母親の姿。
緊迫した戦場には似つかわしくない、親子の微笑ましい光景を視界の端に捉え、オレの口元には自然と笑みが溢れていた。
これ以上の混乱を避けるためにも、長居は無用だ。
足元に僅かな焔を灯す。急激に発生した上昇気流に身体を乗せてふわりと空へ舞い上がると、そのまま街の喧騒から離れるように空を飛び、その場を後にした。
オレたち『盤士《ゲーマー》』は、人類の守護者だ。
異界へと通じる"鳥居"に挑んで攻略し、己を成長《レベルアップ》させ、この世界を理不尽な暴力から守り抜く。それが使命だ。
指定された合流地点のビル屋上に降り立つと、そこには見知った顔が揃っていた。
「流石ね、煌介」
紅葉色の髪を風に揺らしながら、ツツジが感心したように微笑む。
「流石は、今や『英雄』と持て囃される期待のルーキーサマだな?」
からかうような声を上げたのは、前髪をV字の天パの青年、浅葱《あさぎ》だった。彼はケチャップ味という奇妙なフレーバーの電子タバコをふかしながら、ニヤニヤとオレを見ている。
「や、やめてくださいよ……」
大袈裟な称賛に、オレは居心地の悪さを感じて苦笑いした。
「オレなんてほんと……つい最近まで、才能のないゴミ扱いされてたんですよ?」
脳裏に過ぎるのは、誰からも見下されていた、どうしようもなく弱かった頃の自分。
誰もいなかった。信じ合える友達も、背中を預けられる仲間も。暗闇の中をひとりで這いずり回るような、孤独で惨めな日々だった。
でも、今は違う――。
「……そんなこと、今のあなたには関係ありません」
ぽつりと、静かな声が響いた。薄緑色の髪を綺麗な姫カットにした少女、墨水《ぼくすい》だ。
彼女は透き通るような瞳で真っ直ぐにオレを見つめ、力強く言い切った。
「今のあなたには、仲間《わたしたち》がいる。みんな、あなたを必要としています。」
その言葉が、胸の奥の冷たかった部分にじんわりと温かく染み込んでいく。
そうだ、オレはもう独りじゃない。
オレは顔を上げ、頼もしい仲間たちの顔をぐるりと見渡した。
「さぁ、行きましょうか。明日の未来のために!」
命を賭して、抗えぬはずの運命に牙を剥く。
これは、最弱だったオレが最強へと至るまでの物語。
すべては――あの時、あの『御扉《みとびら》』の前に立った瞬間から始まったんだ。