ポケモンのVRMMO物(架空の現代)です。通してください。 作:アルファたろう
ひんやりと冷房の効いた店内で、新作ゲームのプロモーション映像から軽快なBGMが流れている。
俺はゲームソフトの棚を眺めながら、手元のメモと目の前のパッケージを交互に見比べていた。
……ない。
目当てのゲームが見つからない。
通販やダウンロード購入で済ませてきた俺にとって、店でゲームを買うのは初めてだった。棚の並び方もよく分からない。
そもそも、この店で合っているのだろうか。ゲームを売ってる店で、発売日も今日で間違いない。
その場にじっと立ち尽くす。
店まで足を運んだのは、妹がどうしても店舗限定特典を欲しがったからだ。厄介な使い走りを頼んだ妹へ思わず愚痴を吐きそうになるが、理性が踏みとどまる。
脳裏に、花が咲くような笑顔の妹を浮かべた。
今は熱を出して寝込んでいる。せめてこれくらいは、兄としてやってやりたい。
もう一度、棚を端から端まで確認する。
パシャ。
不意に横からフラッシュが飛んできた。
普通なら驚いて跳び上がるところだろうが、あいにく俺は慣れきっていた。どうせ犯人は一人しかいない。
視線を横に向けて睨みつける。
案の定、カメラモードのスマホを構えた幼馴染、甘米アスカがいた。
へらへらした小賢しい笑み。実に不愉快で、そして中学生になっても相変わらず似合っている。
「いやー。珍しく難しい顔をしてたから、つい撮っちゃった」
「公共の場で無許可撮影は盗撮だろ」
「うわ、こわーい。わたし、お巡りさんに突き出されちゃうのかな」
「お前に構ってる暇はない。どっか行け」
「わわっ、タケルくんがいじめてくるー。せっかく機嫌がいいから、手助けしてあげようと思ったのに」
「はっ、俺が何を探してるのか分かって言ってるのか?」
「熱で寝込んだ妹のために、ゲーム買いに来たんでしょ?」
そう言って、アスカは紙切れを俺の胸元へ押しつけてきた。
書かれた内容からするとゲームの予約券だ。
「まさか家から届けに来てくれたのか?」
「そう。わたしがひとっ走りしてあげたの」
「……最初の盗撮をするな。素直に礼が言いにくくなる」
「おお、いい苦虫顔……もう一枚撮っちゃおうかなー」
「ありがとうございました。さようなら」
「待て待てーい! 恩を仇で返して逃げる気!? アンタにはこれから荷物持ちになってもらうんだからね!」
踵を返そうとした俺の腕を、アスカが力任せに抱え込んだ。柔らかな感触をコイツから感じたくない。必死に腕を抜こうと抗うが、がっちり固定されている。完全な物理拘束だ。
「わたしも予約した最新作を受け取りに来たの。お礼としてアンタが持ちなさいよ」
「なんとかモンスターを、お前も買いにきたのか?」
「『ポケットモンスター』よ。いきなり数百種のモンスターを育成できる前代未聞のVRMMO。学校中で話題になってたじゃない」
「あー、そんな名前だったな」
「興味なさげねー。まあ、可愛いモンスターがいなかったら、わたしも買わなかったけど」
発売初日に買うあたり相当な熱量だな。もしかすると、このままゲームにドハマりして家から出なくなるかもしれない。そうなれば俺の平穏も当分は守られる。
いや、待てよ。さすがに学校を休むレベルまでハマり込んだら、幼馴染として注意しなきゃいけなくなる。それはそれでめんどくさいな。
「ところで話題の新作はどこに置いてあるんだ。影も形もないが」
「この店、VRMMOを取り扱ってないわよ」
「……お前も受け取りに来たんじゃないのか?」
「店に向かう途中に立ち往生していたから声をかけたのよ。まさか店すら知らないの?」
「ゲームだからゲーム屋に売られてるだろう、普通」
「VR機器関係は特殊だから専門店じゃないと売られていないの。本当、肝心なところが抜けてるわね」
「うるせえ」
言われてみれば確かにその通りだ。VR機器はPCやスマホと同じで、用途がゲームだけに限らない。我が家では妹や祖父と遊ぶくらいにしか使っていなかったが、世間一般の扱いを考えれば専用の取扱店があっても不思議ではない。
「ところで予約品の受け取り方を知ってんの?」
「店内でゲームソフトを探して、レジに持っていくんじゃないのか?」
「おおう……ここまで世間知らずとは思わなかったわ」
「……通販で完結すれば済む話だろう」
「ほらほら。頼れるお姉さんが案内してあげるから着いてきなさい——ボウヤ」
「う、うざい。絶対にバカにしてるだろ。だいたいお前、俺より誕生日あとだろうが」
「おっ、今の顔。シャッターチャンス」
至近距離からスマホの光を浴びせられ、甲高い電子音が連続で響く。
なんでコイツは会うたびに写真を撮るんだ。普通なら嫌がらせを疑うが、過去にSNSで晒されて悪用されたことはない。
今のところ実害はない……が、実際に嫌がらせなのかもしれない。少なくとも俺が嫌がっているのを分かったうえで撮っている。
だんだんと億劫になってきた。
「満足したなら、そろそろ店に案内してくれ」
「むー。待って、もう少し……うん、この画角かな?」
「一人で行くか」
「あっ、こら。お姉さんを置いて勝手に行くなー」
「……めんどくさいヤツ」
隣で騒ぐアスカを適当にあしらう。その後、案内されてエスカレーターで二階へ上がる。
手すりに掴まっていると、スマホの画面を押し付けてきた。
「ねえ、このモンスター可愛くない?」
「愛嬌はあるな」
「でしょー!」
そんなやり取りを何度か繰り返しながら、奥へ進んでいく。
ある店の前で足を止めた。
看板には『Let’s Go! ポリゴン』の文字。入り口には、ピンクと青の塗料で塗り分けられた、やたらとカクカクした謎の生き物が鎮座している。
なんだ、あれ?
「ここがVR機器の専門店。ポリゴンくんがお出迎えしてくれてるでしょ?」
「ポリゴン……? あのレゴブロックを組み立て損ねたみたいなやつか?」
「失礼ね。このVRMMOを開発した会社の大事なマスコットキャラクターよ」
「なんというか……癖が強すぎだろ」
「一度見たら忘れないデザインでわたしは好きだけどなー。確かに世間一般のウケを狙うなら後継機のポリゴン2かもね。あっちは角が取れて丸っこくて可愛いし」
さらっとマニアックな設定を披露された。
なるほど、ポリゴン2か。そのネーミング法則に従うなら、今後はポリゴン3やらポリゴン4やらも順当に量産されていくのだろうか。
「あれも『ポケットモンスター』のゲーム内で登場するのか? いかにもモンスターとして出てきそうな見た目だが」
「うーん、どうかなー。わたしのチェックした範囲だと見当たらなかった気がするけど……まあ、自社コラボでワンチャン出てくるかもね」
俺は改めて、店頭のポリゴンに視線を戻した。
無機質でカクカクとした不思議な造形。じっと見つめていると不思議と妙な愛着が湧いてくる気がしないでもない。いつの間にか目が合っているような錯覚すら覚えてくる。
本当に、ただの置き物だよな?
「VR機器だけ専門店で売られてると面倒だな。ゲームと同じ場所で売ってくれればありがたいんだが」
「ふふふ……それはね。まさに、そのポリゴンくんが深く関係しているのよ」
アスカはすっと人差し指を口元に立てると、いかにも意味ありげに声を潜めて語り始めた。
「昔々、とあるVRMMOに没頭する男性がいました……」
「昔々で語るほどの時代にVRMMOなんてあるわけないだろ」
「静かに。雰囲気が台無しでしょ——でね、ある日彼がゲームを一時中断して、VRヘッドセットを外して部屋を出たの。それから少しして部屋へ戻ろうとしたら……中でカサカサと怪しい物音が聴こえたのよ。彼は『まさか泥棒か?』と恐怖したわ」
「誰もいない部屋から物音がしたなら、そう考えるのが普通だな」
「さらに部屋の奥から、バチバチッ……と激しい電気が弾けるような異音が響いてきたの。彼は心臓をバクバクさせながら、ドアの隙間から恐る恐る部屋の中を覗き込んだのね。そしたら——」
部屋の中にお化けがいたとかそういうベタな流れだろう。あるいは急に飛びかかってくるとか。冷めた頭がそんな展開を予想している。
「ポリゴンくんと、人面扇風機がバチバチに睨み合っていたのでした……ちゃんちゃん!」
「……おい。話の着地が全然ホラーじゃないし、ポリゴンが浮きすぎだろ。恐怖より困惑が勝つわ」
俺が聞きたかったのはVR機器の専門店についての話だ。どうして怪談を聞かされた挙げ句、最後にポリゴンと人面扇風機を見せられなければならない。
「だいたい人面扇風機ってなんだよ。怪談の定番なら人面犬だろ」
「甘いわね。最近の人面は家電業界にも進出してて、冷蔵庫や電子レンジ、掃除機なんかのバリエーションも確認されているらしいわよ?」
「なんだそりゃ。怪奇現象っていうより家電の反乱だろ」
「おまけに彼ら、氷を飛ばしたり炎を吐いたり、電気を起こしたりするらしいわ」
「危険すぎるだろ、その野生の家電生物」
どう考えてもおかしい。
いや、怪談なのだからおかしくて当然なのかもしれないが、それにしたって設定が雑すぎる。
本気で呆れ果てる俺を見て、アスカは耐えきれなくなったのか口が歪む。
「あはは! もしかして本気にしちゃった?」
「……するわけないだろ。どうせVRMMOのやりすぎで脳がバグった奴が見た幻覚ってオチだろ」
「そうかもね。でも都市伝説とかUMAの目撃情報……ここ最近、ネットで密かに増えてるらしいよ?」
「結局、専門店で売る理由とどう関係あるんだよ。どうせネットの有象無象がでっち上げた創作だろ」
「ふふふ……実はね、今になってもそのVR技術の核心部分は非公開なの。噂によると『曰くつきの代物』を技術のベースに利用してるんじゃないか、なんて話もあるみたい」
なるほど。都市伝説とVR技術をそう繋げたか。無理やりすぎる屁理屈だが。
核心技術の非公開は別に珍しいことじゃない。
企業が苦労して開発した技術を全部公開したら、競合に真似されるだけだ。むしろ非公開であること自体は、何の証拠にもならない。
曰くつきの代物を利用している、という話も同じだ。根拠がないなら、ただの噂話でしかない。
「ねえ。そろそろ、お店に入らない?」
「そうだな。お前のお喋りに付き合ってたら、余裕で日が沈みそうだ」
「失礼な。わたしだって節度は弁えてるって」
「本当かよ」
疑いの視線を向けながら、二人で店内に足を踏み入れた。
……静かだ。
俺たちは揃って拍子抜けした。店内は閑散としていて客の姿が一人もいない。今日発売されたばかりの話題作を取り扱う店舗とは思えない。
「なあ……本当に、この店で合っているのか?」
「うそ。人が全然いない……もしかして案内する店を間違えちゃった?」
「さんざん頼れるお姉さん風を吹かせておいて、それかよ」
「むっ。まだ決まったわけじゃないでしょ」
状況の確認がてらに店内を見渡す。
カウンターの奥で退屈そうに肘をついた男子高校生の店員。俺たちと目が合った瞬間、慌てて姿勢を正す。
「い、いらっしゃい! 君たちもポケモンを買いに来たのかい?」
「ポケモン?」
「そう。ポケットモンスター、縮めてポケモンさ」
「ポケモン……良い名前ですね」
アスカが感心したように頷く。確かに語感も収まりもいい。ただモンスターと呼ぶより親しみやすさもある。
とりあえず店は合っていたようだ。
「それにしても、お店にお客さんが全然いませんね。あれだけ話題の新作なら、もっと行列ができててもおかしくないと思いますけど」
「あはは……まあ、そうだよねぇ。僕としても、もう少し賑わってくれた方が嬉しいんだけどさ」
アスカの素直な突っ込みに、店員はどこか気まずそうに苦笑いを浮かべた。
どうやら店員も気にしているらしい。
さっきの怠惰な接客態度を見るに、客足が遠く理由はゲーム以外にもある気がする。とはいえ、急いで体裁を整えようとしたのを見る限り、単に油断しきっていただけもしれない。
アスカはカバンの中から予約券を引っ張り出すと、レジのカウンターへ勢いよく叩きつける。
「ゲームと予約特典をお願いします!!」
「はいはい、少々お待ちを……この予約番号は確か奥の棚だったかな」
「やけに張り切ってるな。そんなに特典が楽しみだったのか?」
「フフン、見てからのお楽しみよ!」
奥の部屋から店員が戻ってくる。
その腕には、可愛らしいピンク色のぬいぐるみを抱えていた。
「お待たせしました。こちら、予約特典2等の『ピッピにんぎょう』になります」
「うわあっ、可愛いいいーーっ!!」
受け取るやいなや、ぬいぐるみを胸に抱きしめた。まるで幼い少女みたいなはしゃぎようだ。ここまで素直にはしゃぐ姿は珍しい。あまりの抱き締めぶりに顔が埋もれている。
そんなに気に入ったのか。
店員も微笑ましそうに眺めている。俺としては腐れ縁の幼馴染なので、大した感情が湧かない。
隣を無視して、予約券を差し出す。
「俺のもお願いします」
「はい、お預かり……お、おおっ!? こ、この番号は……予約特典の1等じゃないか!!」
「え、何ですか?」
「うっそでしょ!? 全世界でたった一万人しか当たらない、あの超レアな1等を!?」
「へえ、そんなに貴重なものなのか」
「なんでアンタが当ててんのよ!? きいいいっ、悔しいいいい!!」
「いや、当てたのは俺じゃなくて妹だからな?」
人形を愛でていた平和な時間は一瞬で吹き飛んだらしい。鬼のような形相で睨みつけている。
理不尽だ。
さっさと受け取って帰ろう。病床で待つ妹に届けてやりたいところだ。きっと喜ぶだろう。
店員が、まるで極上の宝物を扱うかのように恭しい手つきで、ひとつのぬいぐるみを奥から運んできた。
鮮やかな黄色の毛並み。ネズミのようなフォルムにウサギのような長い耳、電気のごとくギザギザの尻尾。
「こ、これが実物の1等……!」
「僕も実物を見るのは初めてで感動しているよ! 身近なお客様が当ててくれて、なんだか親近感まで湧いてくるね」
店員まで興奮していた。
表彰式でも始まりそうな手厚い対応に、なんだかこちらまで気恥ずかしくなってくる。
「さあ、受け取りたまえ。この子の名前は——」
「ピッカッチュウ!!」
愛らしい鳴き声が店内に響き渡る。
人形に内蔵された音声機能だろうか。それにしては、音が立体的に響いた気がする。本物の生き物と勘違いしてしまいそうなぐらいだ。
ドンドン、と音が鳴る。
レジの奥にある『STAFF ONLY』と書かれたドアが、内側から叩かれていた。
「ピカ? ピカピ?」
明らかに、あの扉の向こう側から聞こえてくる。
和やかだった店内の空気が一変した。目の前の店員は顔を引きつらせている。
「こ、困ったな……誰かが悪ふざけをしているようだ」
「ピカピーー!! ピカピーー!!」
「こら!! 静かにしろ!!」
冷や汗の店員が大声を張り上げると、ピタリと鳴き声が止まった。人間の言葉を理解しているかのように。
隣で、靴が擦れる音がした。
アスカが目を爛々と輝かせている。
「もしかして、もしかして——これって本物のUMAなんじゃない!?」
「んなわけあるか。スタッフのイタズラか、変わったファンサービスに決まってるだろ」
演出としては手が込んでいるが、現実にUMAなんていない。普通の常識から考えてもそうだ。
「行くわよ! SNSでバズらせる特大のシャッターチャンスよ!」
「落ち着けって」
「お客さん! そこは入っちゃダメなところ!」
「そんな制止で、わたしの探求心が止まらない!」
「止まれ」
後ろからアスカを羽交い締めにする。
いくら気になるものがあったとしても、立入禁止の場所に入っていい理由にはならない。見つかったものを撮影したいという気持ちと、他人の場所に勝手に入り込むことは別問題だ。
他の客が店にいないのが、せめてもの救いだ。
「ちょっと、放しなさいよー! 世紀の特ダネが——っ!」
「子供じゃないんだから駄々をこねるな……」
「申し訳ない。変なトラブルを起こしてしまって」
「こちらこそ、すいません。身内のネジが外れてて。あとで厳しく言い聞かせておきますんで」
店員と不毛な謝罪を交わす。
アスカはまだ腕の中でじたばたしている。このまま連れて帰るべきか、それとも落ち着くまでここで説得するべきか。
前者のほうが手っ取り早い。
とはいえ、力ずくで連行するのも、それはそれで人目につく。店員にも余計な気を遣わせるだろう。
実に面倒で、憂鬱だった。
ガチャリ、と扉が開いていく。
店員の顔は蒼白になって、アスカは目を輝かせる。
扉の隙間から白い手が覗く。
「……なにごと?」
現れたのは、同年代くらいの少女だった。
日本人離れした美しい金髪と、吸い込まれそうな碧眼。息をのむほどの整った容姿——。
……と思ったのは、一瞬だった。
長い髪はボサボサで、寝癖があちこちに残っている。半開きの瞳には明らかな眠気が宿っていて、姿勢まで気怠い。
美少女なのに、どうにも締まらない。
「UMA……じゃないっ!?」
「えっ? 中にいたアイツはどうした!?」
アスカだけでなく、なぜか店員まで混乱している。なんで身内の登場に驚いているんだ。
眠そうに目をこすった少女は、ノコノコとこちらへ近づいてくると、羽交い締めにされたアスカをじっと見つめる。
「なんで捕まってるの? もしかして泥棒さん?」
「泥棒じゃないわよ! わたしはUMAの真実を追究しようとした探求者よ!」
「追究しようとした結果、店の裏への不法侵入とか……幼馴染として恥ずかしいからやめろ」
「アンタは黙っていなさい!!」
完全に頭に血が上っている。
説得するなら、まず興奮を冷ますべきだろう。今のこいつに理屈を並べても、聞く耳を持たない。
……現実を理解してくれれば落ち着くはずだ。
そう思った矢先だった。
「ふーん……そんなに見たいなら、中に入ってみるピカ?」
「えっ!? 本当にいいの!?」
「いや待て。関係者以外立ち入り禁止だろ」
「別にいいピカよ」
「はあ。他言無用にしてくれるなら僕も目を瞑るよ」
「じゃあ、その子の拘束を外してあげるピカね」
急にピカと語尾を混ぜてきた不思議ちゃんの少女が、俺を見つめる。
話が進む方向がおかしい。なんで解放する流れになっているんだ。いや、店員が許可しているなら、俺が口を出す問題でもない。少なくとも、立入禁止を無視した不法侵入とは話が違う。
なら、これ以上俺が拘束している理由もないか。
両腕の力を緩める。
「よーし! UMAを求めて探検よ!!」
「店の裏に生息するUMAとか、スケールが小さすぎるだろ」
皮肉なんて耳に入っていないのか、扉の奥へと消えて行った。アイツは本当に後先を考えない。
金髪の少女が首をかしげた。
「キミは行かないピカ? ポケモンの新情報とか、いろいろ見られるかもピカ?」
「あいにく、なんとかモンスターに興味がないんだよ」
そもそも関係のない一般客が無断で店の裏側に立ち入るなんて常識的に考えてアウトだろう。
俺が乗り気でないと悟ったのか、少女はあっさりと興味を失った様子で店員の方へ向き直る。
上着のポケットから紅白のボールを取り出し、店員の手元へ差し出す。
「ピカチュウ、回収したピカ。すごく困っていたピカ。さっきの件は怒らないでほしいピカ。今度は落とさないように気をつけるピカ……自分のポケモンはちゃんと管理してね」
「す、すまない……」
なぜか店員が謝っていた。大事な商品でも奥に落としてしまい、それを届けてくれたのか。さっきの紅白のボールは大切なオモチャなのだろう。
それにしても、自分のことを『ピカチュウ』と呼んで語尾にまでつけて話すとは、なかなか強烈な女の子だ。
こちらの視線に気づくや、少女はあざとく首をかしげると「ピカピカ~」と可愛らしく鳴いてみせた……何のアピールなんだ。
先ほどの鳴き声の正体は、この子だったのだろう。自分をピカチュウと呼んで、あんなふうに鳴いているくらいだ。裏側にUMAなんて関与しておらず、単なる人の悪ふざけだったということか。