ソードアート・オンライン ─フィクショナル・テイル─ 作:三枝愛依
淡い光の粒子が人型を形成し、やがてその粒子は自身の肉体へと変換される。
僕は転移門で最初のフィールドとなるフォーニアス浸食丘陵へと転移した。
ここは基本的に最初のフィールドなので特に強い敵などは出てこないが、稀に現れる邪神というものに分類されるモンスターだけは注意しなきゃならない。
昔、このフィールドを探索している時にあのでかい木のモンスターに出会った時、Lv差が断然なのに時間かけたら勝てるんじゃね?と思っていた自分が今でも恥ずかしい。
キリトくんも言っていた、レベル制MMORPGにおいてのレベルは絶対的だ。
無茶な差がつく、勝てるわけがない。
もし今、奴に遭遇したら、その時は素直に逃げるか、死ぬかの二択になるだろう。
僕は背中に手を伸ばし、剣を抜剣しようとする。
基本的に全ての武器種の覚えはあるが、馴染むのはやはり刀か片手直剣だ。
ぐいーっと剣を抜こうとするが、腕の長さが足りずに中々抜けない。
そのため、鞘の位置を背中から腰に変え、キリトくんの真似事をやめて素直に取り扱いやすいように装備変更した。
「さて、初期装備のスモールソードか……そういえば、昔マルチプレイでスモールソードのチート装備を配布しまくってる人がいたな。」
マルチプレイを開くとごく稀にチーターが参加することがあった。
彼らは特にこちらに害を与えてくることはなく、アイテム取引の場において、本来のスモールソードの性能からは考えられないようなステータスのスモールソードや防具を配布してくる人達だ。
一見、神様のような存在に見えるかもしれないが、このゲームはプレイヤーが強くなるというのは時間の問題と言えるほどにさほど難しくなく。
単に武器が強ければ、全てが勝てるというわけでもないので受け取る価値があるかと言われるとないに等しい上に、あくまでチートなので受け取った後にアカウントがどうなるかは自己責任というリスクまで押し付けられる。
しかも、その性能は正直なところチートというにはさほど強さを感じない、神器の方が遥かに強いと言える程に呆れる代物だった。
「ま、お前はただのスモールソードだけどな。」
ぶんっぶんっとスモールソードを振る、重さが直に伝わり、自身が今この世界にいることを再確認する。
そして、ぶんっぶんっと剣を振る度に胸が揺れて重さを感じた。
「ん……あれ?え?え、えぇぇぇ?!」
この世界に来てからまだ数分だが、それでも最初に気付かなかったのがおかしいほどに、現実世界の自分とは真逆の性別のアバターをしていた。
「あ……そうだ、僕のキャラクリってストレア似にしてるんだった。」
改めて見るその姿は、顔は似ていないが服装や髪色、胸の大きさや背の高さといった、あらゆる点がこのゲームに登場するヒロインの一人であるストレアという女性に酷似している。
「んん、一人称……私に変えた方がいいよな?宿屋にキャラクリの机あるかな?」
このゲームのキャラクリエイトは当時にしては割と自由度が高いと言っていい程に細かく、服装も色々なものに設定できたので、多くのプレイヤーは自分好みの見た目を作っていた。
自分自身もその影響でキャラに寄せたキャラクリエイトになっている。
胸の重さは違和感しかないが、それもどうせ慣れる。
自分は驚きのあまり、落としてしまった片手剣を拾い上げると、目の前に鼻息を荒らげてこちらへと突進の構えをとる猪系モンスターのヴァンプボアがいた。
子供から大人、そして色違いも存在する、この世界におけるスライムのような存在だ。
このフィールドにいるボア程度なら、Lv1の自分でもなんら問題なく片付けられる。
突進の攻撃の溜めに入るボア、私はそれに対して真正面から剣を構え、ボアの動きを見据える。
ボアがふんすふんすと鼻息を漏らし、片足で地面を何度擦ると、覚悟を決めたように、こちらへと猛スピードで突進を始める。
それと同時に自分は剣を上から下へと降ろし、片手直剣ソードスキルのスラントの名を叫ぶ。
「スラントっ!!」
しかし、スラントは放たれずに自身の鳩尾めがけてボアの突進が炸裂、私はその勢いのまま後方へ何度も転がりながら、最後には木にぶつかってHPが一気に4割も削られる。
「ごほっごほっ!……え、ソードスキルってどうやって出すの?」
ゲームではボタンひとつで放てたソードスキル、しかし名前を叫んでも発動されない仕様に戸惑う。
現状、自分の初期装備が片手剣なところを見るにスタート時点の自分の装備スキルはスラントとホリゾンタルアークの二つなはず。
そもそも、スラントは初期に解放されているソードスキル。
出せないはずがないのだ。
私は若干の痛みに堪えながら、立ち上がって剣を構える。
ボアは再び、突進の構えをとっており、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらの様子を窺う。
「なめるなよ、イノシシ風情が。」
ソードスキルの使い方は分からない、だがそれ以外なら分かる。
所詮、相手はボスでもなんでもない雑魚敵だ。
だったら、通常攻撃を当ててしまえばいい。
ボアは勝利を確信したように叫び、そのまま再び突進を始める。
私はギリギリまで一切の動きを見せず、剣を構えたままじっと止まる。
私のアバターにボアの攻撃のヒット判定が触れるであろうギリギリ、私は右側へサイドステップを繰り出し、ジャスト回避に成功する。
このゲームでは、相手の攻撃に対してジャストでステップを繰り出すぶプレイヤーはジャスト回避という状態になり、この回避の時は少しの間だけ自身のアバターが無敵時間を得る。
無敵時間によって、本来ならギリギリすぎて掠れはしていたかもしれない攻撃も防ぐことができ、加えて突進で左右がら空きのボアの腹に向けて私スモールソードを下から上へと振り上げ、全力の一撃でボアを宙に舞わせる。
ぷぎぃ!と豚のような鳴き声を喚き散らすボアに、振り上げた勢いの剣を今度は下へ降ろし、そのままボアのHPゲージをゼロにしてしまった。
ボアは地面に激突すると同時に脱力し、その場で淡い光の粒子となって散っていき、自分に経験値とドロップアイテムが落ちる。
「これはまずいな……ソードスキルの出し方がわからん。」
戦闘を終え、片手直剣を鞘にしまうとウィンドウを開き、チュートリアルの欄を見る。
しかし、その説明は全てコントローラー仕様になっており、私だけどうやら画面越しの世界での扱いを受けているらしい。
この世界にスキルパレットが存在するなら、私はとっくにそれを出しているんだけどな。
原作SAOの話を思い出す。
キリトくん達はどのようにしてソードスキルを発動していたか………意識と構えだった気がする。
私は再び武器を構え、スラントの構えから念じてみる。
自身がソードスキル・スラントを放つイメージを強く念じ、そのまま腕を思い切り振り上げる。
シュイーンという聞きなれた効果音と共に刀身は光に包まれ、一連撃のソードスキルが斬撃の残滓を生み出した。
「お、おぉっ!おぉぉっ!!」
初めてのソードスキル。自身の思いで振り上げたが、それは振り上げようとした一瞬でそこから先は本当にシステムが勝手にしてくれるかのように腕が動いた。
ソードスキルは発動すれば、システムが動きを補助して技を放つ。
つまり、初めて使う技でも技としての完成度は基本的に皆同じなのだ。
使い方などの応用力は経験によって変わるが、そこはシステム外。
私はスラントの演出に感嘆し、少しばかり微笑みを浮かべながら先へ進む。
その途中、凄まじい悲鳴が草原の奥から響き渡り、アバターを通して驚きのあまり、飛び上がってしまった。
この先は赤宝箱のフィールドボスがいる場所だ、最初のフィールドのボスはネームドモンスター:エクストラ ボア コマンダーと呼ばれる灰色の巨大なイノシシモンスターだ。
そいつを討伐した際に手に入る片手剣が序盤では、中々にお世話になるので確保したいが………正直なところ、Lv1では少ししんどい。
だが、まぁ悲鳴が聞こえるということは他のプレイヤーもいる。
おこぼれもらうぐらいはできるかもしれない、助けに行ってみよう。
私は漁夫の利目当てで半ば腹黒い考えを巡らせながら、片手剣を握りしめて悲鳴の元へと駆け出した。