ソードアート・オンライン ─フィクショナル・テイル─ 作:三枝愛依
私は今、最強とフィールドに出ている。
最強の剣士と街でぶつかり、それをきっかけに話が積もりに積もって仲良くなってしまい、気付いたらフィールドでヴォルカンブレードを取りに来ていた。
「ユウキさんッ!こいつの範囲攻撃だけ警戒して側面から削りましょう!!それが攻略法です!!」
「了解ッ!だぁッ!!」
私はユウキにボアの基本的な動きを教え、その対策と攻略法を手短に伝える。
ユウキの剣さばきは、それは見事なもので。
本来、このスタート時点でのステータスなんてたかが知れている。
それなのに彼女の繰り出す通常攻撃の連撃は、データを戻した時の私のそれと変わらない程に速い。
目に見えない程の連撃ってわけではない、しかしそれでもLv100超えのプレイヤーに並ぶほどの速度を自前のセンスで再現してしまう彼女の強さには惚れるものがある。
SSC。ソードスキルコネクトそれを使用していないというのに彼女は半ば永久的に斬撃を繰り出し、ボアを削る。
「す、凄まじい……これが絶剣。」
あまりにも逸脱しすぎた戦闘のセンスに、私は呆然とした様子でユウキの華麗な戦闘を眺めていた。
それだと言うのに、彼女のヒット数は増えていき、コンボレシオも途切れることがなく、その倍率バフによってどんどんとボアのHPは削れていく。
「このまま削ればいいんだねッ!半分以下で動きが変わるとか、ないよねッ?!」
「ありません!少なくとも、私はそんな特殊なことを仕掛けてくるネームドモンスターを知りません!」
私が半分以下による行動変化の可能性を否定すると、ユウキは大きくボアから離れ、剣を強く握り直し、構えを整える。
「おっけーッ!!それじゃあ、一気に畳み掛けるよッ!!」
ユウキはボアとの距離を自前の人力チートで瞬間的に詰め、範囲攻撃の地団駄を繰り出そうと両足を大きく振り上げるボアを見上げると、ボアが強く地面を叩き鳴らすと同時に、ユウキは高く跳躍し、ジャンプ回避の流れるままにその剣はドーム状に斬撃を描き、ボアの胴体を前後に分断するかのような切創痕を作り出す。
「ふっ!これでおしまいだよッ!!」
華麗な着地の後、くるっと振り返り、ユウキはその剣を大きく振り下ろし、ソードスキル・スラントを発動する。
ボアのHPは全損し、その一撃をもって放とうとしていた後ろ蹴りの動作を中止し、その直後に粒子の集合体が、脆く崩れていくように散っていき、やがて宝箱のロック解除の通知が流れる。
「やったね!ネームドモンスターの討伐完了!!」
「流石の剣捌きですね、Lv差はあるというのにほぼノーダメージで一方的に討伐するなんて。」
ユウキは握っていた片手剣を納剣し、赤宝箱めがけて駆け出す。
赤宝箱の目の前まで来ると、ピタッと手を止めてゆっくりとこちらを振り向き、気まずそうな表情で尋ねてきた。
「あー、貰ってもいいのかな?」
「もちろん。ユウキさんの為にこの剣を取りに来たんですから、私はもう同じの持ってるので貰っちゃってください。」
彼女はそれを聞けると、満面の笑みで宝箱に触れ、やがてウィンドウを開いて装備変更を行う。
「その剣は序盤お助け装備みたいな存在で、暫くは性能の不十分さを感じることはないと思います。」
「へぇー!こんな貴重な剣の入手を手伝ってくれてありがとう、助かったよ!」
ただでさえ、他のプレイヤーと圧倒的な実力差を誇るユウキが、序盤で強い武器を手に入れる。
この程度の手伝いなら、と思っていたが、冷静に考えるとたかだかヴォルカンブレード程度を与えるだけでも、彼女ほどのプレイヤーならば歴史を狂わせる要因になりかねないのではないだろうか?
彼女とは一時的なパーティーを組むことになり、彼女のレベル表示も見えている。
このボア討伐によって、彼女のレベルは12に上がっており、序盤でキリトくん達一行の一人であるユウキがこのレベルということは、最前線は高く見積っても20程度だろう。
「ねえねえ、よかったらフレンド申請してもいいかな?」
「え、あぁ……うーん………」
ユウキ程の実力者からのフレンド申請、はっきり言えば断る理由がない。
だがしかし、自分が彼らに干渉することが正しいのか分からない現状で無闇に申請を許していいのだろうか?
「あぁ……嫌だった……かな?ごめんね!僕が一人で突っ走っちゃったよ!!気にしないで!!」
ユウキは私の渋そうな表情と反応に、驚きと悲哀の表情を浮かべながら、それでも笑顔を取り繕って両手を左右にブンブンと振り、無理を言ってごめんと伝えてくる。
その顔が、その言葉が、その声色が、彼女の純粋無垢な性格だからこそ。
「いやいや!!なりましょう!!是非なりましょう!フレンドになって、何時でも暇な時にフィールドに行きましょう!!」
断れるはずがないだろう………。
私はユウキにフレンド申請を飛ばし、ぺこぺこと謝りながら、フレンド欄にユウキの名がひとつポツンと増えたのを確認する。
この世界で最初にフレンドになったのが、最強の剣士の一人とは。
豪運にも程があるだろう、もしかしてこの世界の主人公補正は私に働いているのか?
「とりあえず……一旦街に戻りませんか?ヴォルカンブレードも手に入れましたし。」
「うん、そうしたいと思ってたところだよ。」
私とユウキは互いに取り決め、転移石を通してフィールドから帰還した。
───
「へぇ、君もALOプレイヤーだったんだ………種族は?」
私とユウキは街に戻り、休憩も兼ねて喫茶店でのんびりと雑談をしていた。
自身があくまでこのソードアート・オンラインという作品の外側の存在であることを隠しながら、ユウキにはALOのプレイヤーでもあったことを伝える。
このソードアート・オンラインは長いゲームシリーズ作品において、初期からリメイクを含めて8作品近くもあるが、そのストーリーは一貫して同じ世界線だ。
そしてその中には、当然ながらALO……アルヴヘイム・オンラインと呼ばれる妖精と魔法の世界がテーマのゲームも存在する。
そしてユウキ、目の前の最強剣士が最強と名を馳せたのがそのALOなのである。
ALOにおける、無敗の最強剣士……絶剣の異名を持つ彼女は魔法や妖精としての強みを抜きにしても単純な剣術一筋で多くのプレイヤーを負かしてきた。
そしてそんな世界の物語をゲームとしてプレイした記憶を持つ以上、私はその世界のプレイヤーと言っても過言じゃないだろう。
「種族は………」
ALOには、キャラクターを作る際に種族というのを選択する。
しかし、私がやっていたゲームはオリジナルキャラクターの作成要素があまり深くなく、既存の主要キャラクターを自由に切り替えて操作するタイプだったので、自分の種族は?と問われても困惑してしまう。
キリトくんが主人公である手前、そのキリトくんの種族であるスプリガンと答えてもいいが、実際に使っていたのはレプラコーンかウンディーネになる。
「種族はレプラコーンでした。」
「レプラコーン、ということは鍛治職人ってこと?」
「あぁ、このゲームでは鍛治職人じゃないんですけど!ALOではレプラコーンとして遊んでましたね!!」
「へぇ、いつか一緒にALOでも遊びたいなぁ………」
彼女は純粋無垢な笑みに満ち溢れた顔でそう呟く。
あまりにも眩しすぎて直視できない………見た目は天真爛漫な男の娘って雰囲気なのに、ちゃんと接してみれば純粋な女の子だ。
「あらぁ? ユウキじゃない、それと……お友達?」
ユウキとALOの話で盛り上がっていると、横から桃色髪のショートヘアに頬にそばかすのある女性が話しかけてくる。
「あっ!リズベット!今ね、たまたま仲良くなった友達とお話してたんだ!」
「へぇ、お友達……初めまして、私の名前はリズベット。近くでリズベット武具店を営んでいる鍛治職人よ。」
リズベットが私に丁寧な自己紹介を交わしてくるので、自分も慌てて席を立ち、差し出された手を握って自己紹介する。
「初めまして、最近このゲームを始めた片手剣使いです。」
「片手剣使い、ってとこはユウキと同じ武器種なのね。」
「そうそう!それでね、この子が強い片手剣をドロップするネームドモンスターを教えてくれたんだよ!!」
「最近始めた割には情報収集は早いのね。ねぇユウキ、その入手した片手剣ちょっと見せてみなさいよ。」
リズベットはスススっとユウキの真横まで寄っていき、ユウキが両手の上にポップさせたヴォルカンソードの性能詳細を見る。
「なぁッ?!な、なによこの性能!攻撃力+59?!私がこの前キリトにあげた剣より強いじゃない?!」
「へっへーん!この剣を取りに、この子とフィールドに出てたんだ。」
「あ、あんた!こんな性能の剣をドロップするネームドモンスターなんてどこにいるの?」
「え、初期フィールドのフォーニアス浸食丘陵のエクストラボアコマンダーの討伐後にロック解除される赤宝箱から出てきますよ。」
「エクストラボア……コマンダー………あのフィールドボスのことね。なるほど、あの赤宝箱を守ってるモンスターを討伐すれば、これほどの性能の武器が手に入るなんて………」
ヴォルカンブレードはスタート時点で片手剣を使うなら必須級の武器だ。
てっきり、もうこの程度の情報は知れ渡ってると思っていたが、意外と知られていないらしい。
「よし、ユウキの友達は私の友達よ!だからその……フレンド申請いい?」
リズベットは最初こそ勢いのまま喋っていたが、彼女は突如としてこちらの様子を窺うように見上げて尋ねてくる。
「……もちろんです。」
まずい。まずくはないが、着々と主要キャラクター達との関わりを持ち始めている。
私はリズベットにフレンド申請を飛ばし、この短期間でフレンドリストにユウキとリズベットの名が並ぶ。
「それで、あんた達はなんの話をしてたの? 混ぜてよ、私も暇だったのよ。」
「もちろんだよ!今ね、ALOの話をしてたんだ!!」
「ALO?貴女もALOプレイヤーなの?」
「はい、種族はレプラコーンです。」
「レプラコーン?私と同じ種族なのね、ってことは貴女も鍛治職人なの?」
「いいえ、私は種族がレプラコーンなだけで純粋な戦闘系のプレイヤーですよ。生産職を得意とする種族で戦闘を楽しんでるだけです。」
もっとも、ALOもといそれが舞台となったゲーム作品で一番使ってたキャラの種族がレプラコーンなだけである。そのキャラの性能がレプラコーンという種族でありながら、二刀流という武器種のかなりアタッカーな性能に加えて唯一無二の強力なOSS……オリジナルソードスキルを所持している。
彼女の自己完結していて、高い火力を発揮出来る性能は多くのプレイヤーが愛用したに違いない。
「あ、あんたってかなり変態プレイが好きな感じ?」
おっと、それは彼女に失礼だろう。レプラコーンでアタッカーなのはなぜだ?と思ったが、その疑問を払拭するほどの強さを持っているのだ。
「ま、まぁ……レプラコーンだと自分で武器を直せるので………」
「まぁたしかにそれはあるわね。」
「そういえば、リズベットは何をしてたの?」
「キリト達がプレミアのクエストに行ったから、行く相手がいなくて暇してたとこよ。」
プレミア。このソードアート・オンライン─ホロウ・リアリゼーション─というゲームにおける、最重要キャラともいえる存在。
序盤は謎に包まれた1col報酬の護衛クエストを依頼してくる無能NPCとして噂される。
しかし、キリトくん達がそのあまりにも異質な設定に興味を抱き、名もなかった彼女にプレミアという名前を与え、やがて彼らがプレミアのクエストの進行を始めだす。
このゲームのストーリーの本編はだいたい、プレミアのクエストの進行がストーリー進行といっても過言じゃない。
プレミア、それとキリトくんはこの世界のメインストーリーに関わる人物だ。リズベットやユウキのようなヒロインキャラなら、関わりすぎない程度ならば問題ないが、キリトくんのような勘がよくて根回しが完璧なタイプに探られるのは面倒くさい。
そんなこんなで机を隔てて話に盛り上がっていると、トコトコとさらにリズベットの後ろから数人の集団がこちらへと歩み寄ってきた。
「やぁ、リズベットにユウキ。それと………」
面倒くさいと言った手前だろう……何故、話題に出した途端に現れるのだ!
「やあ、キリトッ!今みんなでお茶会してたんだ!!」
「あら、噂をすれば何とやらね………こっちの子は───」
「───すみません!急に用事ができたので、ここいらで失礼します!!お二人とも楽しかったです!!それではまたッ!」
キリトくんに変な勘繰りをされる前に、私はそそくさと立ち去ることに決めた。
ユウキとリズベットには申し訳ないが、私はそのまま代金の数百colを机に置き、キリトくんにも両手で手を合わせてごめんなさいのジェスチャーを送りながら、そのまま転移門広場へと走り去った。
「急にどうしたのよ………」
「わぁ、消えちゃった………」
「俺、邪魔しちゃったか?」