宇宙戦艦ヤマト、推して参ります!   作:るーしー

4 / 9
文字数は約4000文字ですが、本文のコア部分は3500文字程度です。
具体的には、最初の約500文字が、作品としての価値が少ない部分となります。読み飛ばしても、あんまり支障はありません。

無論、じっくり読んで頂けるなら幸いです。


第1次W島攻略作戦(2)

W島攻略作戦。

 

特型駆逐艦・吹雪が着任して間もなく行われた電撃作戦で、鎮守府正面海域=伊豆諸島近海に橋頭堡を作り上げた泊地棲姫を撃破。

それにより、日本近海の深海棲艦が撤退。勢力圏を一気に南鳥島まで取り戻す事に成功した。

本作戦はその成果を更に拡大させ、ウェーク島に巣食っている同島の守備隊を殲滅し、哨戒ラインを大幅に押し上げるのが目的である。

 

ウェーク島守備隊は、軽巡と駆逐艦で構成された水雷戦隊だ。規模こそ大した事はないが、敵艦隊は島の湾内に引き籠っており、重巡リ級の目撃情報もある。

本来ならば、重巡以上を基幹とする砲打撃戦隊での砲雷撃戦。または空母による航空支援の下で、水雷戦隊を突撃させると云った戦術を採る。

純粋な火力での圧倒。制空権を確保した上での攻撃。つまり完全に主導権を握り、一方的に叩き潰せるだけの戦力を投入するのが定石だ。

 

だが現在、伊豆、小笠原、硫黄島と云った近海の離島における、哨戒基地の建設や海上輸送路の確保などで、重戦斗艦は、遠方への遠征作戦には参加できない。

よって、水雷戦隊を2個艦隊投入し、夜戦による奇襲攻撃で敵艦隊を撃滅する。

 

作戦の第1段階は、軽巡洋艦・神通を旗艦とする第三水雷戦隊にて、湾内の敵への奇襲。

第2段階……奇襲攻撃の成果に拘らず、三水戦は一撃にて転進・離脱し、敵艦隊を湾内から誘き出す。

そして作戦の最終段階……誘引された敵の側面を、軽巡・夕張を旗艦とする第四水雷戦隊が突く。同時に、囮役の三水戦も反転、2隊の挟撃にて殲滅すると云うものだ。

 

 

 

 

W島攻略作戦が発動された日、ヤマトは足部艤装――彼女にとっては補機のオーバーホールに取り掛かっていた。

主機=波動エンジンが使えない以上、補助エンジンだけでも完全な状態にしなければ、非常に心許無い。

 

「甲板妖精さん、機関科妖精さん、技術科妖精さん、お願いします」

 

工作艦・明石から借り受けたクレーンやジャッキも使いながら、妖精(クルー)と共に、補助エンジンの噴射ノズル周りの装甲を外して行く。

剥き出しに成った内部機構に、修理班の妖精が取り付いて作業に取り掛かるが、重力下での作業は少々骨が折れる様だ。

 

汗を拭ったヤマトの前に、1人の妖精が現れて敬礼した。彼の制服は黒地に黄色のラインで、航空隊(パイロット)妖精と判る。

 

「あら、航空隊長。どうしたの? 意見具申……他科への要請?」

 

メインエンジンを取り巻く配置である大格納庫、それに設けられている艦載機発艦口の位置は艦底部だ。よって通常、発艦にはある程度の高度が必要である。またその性質上、重力下では一切の作業が出来ない。

 

目元に傷痕のある隊長妖精が云うには、慣性制御システム復旧直後に機体点検を行った処、幸いにして被害は少なく、いつでも出撃できる状態らしい。

しかし艦底部発艦口の使用が困難な今、後部上甲板下(コスモゼロ)格納庫から発艦する為に、後部甲板のカタパルトの整備を行って欲しいとの事だ。

艦底部発艦口が使えない状況を考慮し、大格納庫と後部甲板下格納庫に直通エレベータを設ける改装が、以前に行われている。

ヤマトの戦闘能力はおろか、航行能力さえ著しく低下している現在、航空戦力を使える状態にするのは一理ある。

 

「分かりました。掌帆長に話を通しておきましょう。貴方達も手伝うんですよ」

 

妖精は「勿論です」と敬礼して消えた。

 

 

 

 

W島攻略作戦が発動された夜、鎮守府の各所では、艦娘達が明朝の出撃に備えている。

 

艤装用乾ドックにも夕闇の気配が入り込んだ頃に、整備作業を妖精たちに任せて切り上げたヤマトは、隣接する入渠ドック――普通の浴場としても利用できる――で汗を流した。

入浴を終えて、宛がわれた部屋がある艦娘寮に戻った頃には、すっかり帳が下りていた。

 

寮の談話室(ラウンジ)でヤマトが休んでいると、風呂上りなのか髪を下ろした浴衣姿の夕張がやって来た。

 

「こんばんは、夕張さん。今日は工廠に来なかったみたいですけど、何か用事があったんですか?」

「工廠には行ってますよ? ずっと四水戦の艤装を整備して……ああそうか、ヤマトさんの艤装は大型建造用のドックだから会わなかったのね」

「駆逐艦の子達の面倒を見ていたんですか? では、明石さんと一緒だったんですね」

 

朝一番に工廠に出向いたヤマトは、初めは明石と一緒だったが、日が高くなる頃に別れた。

明石は駆逐艦の艤装を整備する事になったらしく、いくつかの機材をヤマトに渡して、駆逐隊のドックに向かい、それきり顔を見ていない。

 

「はい、一緒でしたよ。そう云えばヤマトさん、今日はどんな作業をされたんですか?」

「補助エンジンのオーバーホールですね。メインエンジンが動かせない以上、補機だけでも完全にしないと、飛び立つ事すら出来ません」

 

具体的には……と促す夕張に、まずエンジン周りの装甲を外して……と説明していくと、彼女は残念そうに地団駄を踏んだ。

 

「まだ装甲を外したままなので、良かったら明日にでも見に来てください」

 

快く見学を勧めるヤマトに、夕張は薄々と感じていた引っ掛かりの正体を悟った。

 

「え? ヤマトさん知らなかったんですか――W島攻略作戦の事……」

 

初耳だと云うヤマトに、掻い摘んで夕張が説明。すると……合点がいきましたと、また狸の置物になっている宇宙戦艦は腕を組んだ。

 

「皆さんがピリピリしている事に、気付いてはいました。しかし部外者である私が、その理由を訊いて良いものかと思っていたんです」

 

平然とした風のヤマトの言葉に、思わず夕張は声を張り上げた。

 

「水臭いですよヤマトさん! 同じ鎮守府で暮らしている私達は、家族じゃないですか! 今回の事は、朝から工廠に詰めていたヤマトさんが、偶々聞き逃しちゃっただけです」

 

熱弁を揮るう夕張に、ヤマトは穏やかに目を伏せた。

 

「ごめんなさい……先程の言葉は無神経でした。忘れて頂けると助かります」

「あ……私こそ、すみません」

 

お互いに謝罪するも、無言と云う気まずい空気が談話室に充満した。

 

 

夕張が会話の糸口なりそうな話題を探していると、ふいにヤマトは沈黙を破った。

 

「――夕張さん達は、明朝に出立でしたね」

「あ、はい。神通さんの三水戦と、私が旗艦の四水戦が出撃します」

「夕張さん……出撃される方々に、伝えて欲しい事があるんです」

 

今日はもう遅く、明日は忙しいでしょう――そう気遣うヤマトが伝えた内容に、夕張は破顔した。

 

 

 

 

 

 

翌日、W島攻略艦隊出撃の日。

 

日も出ない頃に目覚めたヤマトが海辺を歩いていると、薄暗い中、訓練を行う特型駆逐艦の姿があった。

 

駆逐艦・吹雪は、訓練に訓練を重ねてきた之の字運動、12.7cm連装砲の照準を一つ一つ確かめていく。

練度を感じさせるだけの動きだが、吹雪は今一つ自信が持てない様だ。

ヤマトの目から見れば、吹雪の技量は熟練者(ベテラン)とは云えないが、ほぼ一人前の水準には達している様に思える。

最期に少しバランスを崩したが、直ぐに復原(リカバリー)も出来ており、小型重武装(トップヘビー)の艦としては、充分な腕前だろう。

 

 

肩を落としている吹雪に、正規空母・赤城が声を掛けた。弓道における正射必中の教えを実践し、吹雪を励ましている。

ヤマトが聞き耳を立てながら彼女達に近付くと、桟橋に置いてある資材の陰に隠れている駆逐艦・睦月を見つけた。どうやら彼女が、友人の憧れである赤城を呼んだらしい。

 

戦いと云う宿命。守る為に。愛の為に戦う――艦娘の在り方を、赤城は2人の後輩に説いている。

そして……好意や感謝の気持ちを素直に伝える事は、大切で尊い事だと諭していた。

 

優しくも力強い赤城の言葉に、ヤマトも胸の裡に温かさを覚えた。

 

愛詞(アイコトバ)……ですか。素敵ですね」

 

優しい表情でヤマトが声を掛けると、彼女に気付かなかった睦月がヒャっと驚いた。

 

「ヤマトさん、おはようございます!」

「お早いですね、ヤマトさん」

「おはようございます、皆さん。目が覚めてしまいまして……」

 

各々挨拶を交わすと、吹雪は『アイコトバ』とはいわゆる標語じゃ無いのですかと訊いてくる。その問いにヤマトは微笑んだ。

 

「愛のコトバ――祝詞の方ですね――そう書いて愛詞(アイコトバ)と読むんです。さて、私も吹雪ちゃんに伝えたい事があります」

「えっ! あ、あの……私――」

 

何故かモジモジと照れる吹雪の様子を、敢えて無視してヤマトは続ける。

 

「先程の訓練の所感ですが、貴方は少し力み過ぎている様に見えました。緊張感が無いのはいけませんが、肩に力が入っていると実力を発揮できません。赤城さんが云った通り自然体を心掛けてみて下さい」

「は、はい!」

「貴方の練度は充分です、大丈夫ですよ。それともう1つ、これは睦月ちゃんにも聴いて欲しい事です」

 

ヤマトは真剣な顔で、吹雪と睦月を交互に見詰め、一呼吸置いてから語りだした。

 

「私は旅立ちの時、いつも『ある誓い』を立てています」

「誓い……ですか?」

「はい。使命を果たし、必ずここへ帰って来ると――必ず、生きて帰って来ると……己と故郷に誓うんです。そして――」

 

ヤマトはそこで一度言葉を切り、今の言葉が吹雪達に浸透する間を、2秒程だけ待ってから続ける。

 

「その誓いは決して違えない! それが私の誇りです」

 

赤城の言葉は春の陽射しだ。心が温たまり。じんわりと自信が滲んでくる。

そして、ヤマトの言葉は魂に火を灯す。燃え上がる闘志に、いくらでも力が湧いてきた。

 

 

出航時刻が近づいた事で、第三水雷戦隊所属の吹雪と睦月は、出撃ターミナルポートへ向かい、その場にはヤマトと赤城が残った。

 

「ヤマトさん……ありがとうございます」

「え?」

 

心底不思議そうにポカンとしたヤマトから視線を外し、赤城は暁の水平線を眺めながら語りだした。

 

「吹雪ちゃんの事ですよ。いつ轟沈するか分からない私達は、想いを伝える事を躊躇ってはいけない。この考えは決して間違いじゃない。でも――」

 

そこで赤城は言葉を切って目を閉じた。そして再び開いた口元には、小さな自嘲が浮かんでいた。

 

「――それは諦観と云う側面もあります。一方でヤマトさんの言葉は、決して諦めず、必ず生き抜く覚悟を吹雪ちゃんに植えてくれました。だから……ありがとうございます。その強さを尊敬します」

 

振り向いた赤城の微笑みは美しく、ヤマトは頬を朱く染め、小さく「ありがとうございます」と応えた。




作戦概要:アニメにおける不自然さを、私なりに補足。実は、大型艦は別任務があったんだよ!

航空隊妖精:もちろんあの人です。

格納庫の直通エレベータ:こう云う改装が行われていても、不思議では無い。

肩の力:TVSP『新たなる旅立ち』にて、島が北野に云ったセリフから。

ヤマトの誇り:宇宙戦艦ヤマトは『生きて帰る物語』です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。