後輩ちゃん、怪異を連れてくるのはもうやめて   作:笑石

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海より這いずるナニカ

 

「先輩、これ見てよ」

 

 そう言って見せられたのは、砂浜で撮られた集合写真だ。奥には海が見えているので、どこか海水浴場だろうか? 

 写真を見せてきた後輩と、同じ歳くらいの少年少女が数人写っている。その中の一人、無垢な笑顔を見せている少年の足を海から伸びた長い手がしっかりと掴んでいた。

 

「キモ、なにこれ」

「きゃはは、ヤバいでしょ。心霊写真だよこれ」

 

 その手は、明らかに人外のソレを思わせた。

 青白いなんてものではない。もはや土気色だ。地面の下から腐りかけの死体が這い出てきたような様相である。出てきているのは海の中からなので、より違和感がすごくて気持ち悪い。

 

「どこなの? これ」

「これ〜? この前、クラスメイト達と肝試しに行ったんだよね。夜に」

 

 まるで真昼のような明るさの写真。

 僕は一度写真を見て、顔を上げて後輩を見た。

 

「夜?」

「私のスマホで撮ったんだけど、それだけやたら明るくてさ……現像してみた」

 

 こんなキモい写真を普通の神経してたら現像しなくね? 

 僕はそう思ったが、口にはせず「ヤバいね」とだけ答えた。

 後輩はトレードマークのツインテールを完成させて、ニッコリと微笑む。

 

「これさ、祟りみたいなのあったらめっちゃヤバいよね」

「ヤバいヤバい」

 

 

 

 次の日、後輩は再び写真を見せてきた。

 

 昨日と変わらないはずの写真。足を掴まれた少年の顔が、顔色が悪くなっている気がする。表情も、あれだけ無垢な笑みを浮かべていたのにどこか苦しそうだ。

 後輩はケタケタ笑った。

 

「なんか、顔色悪くなってない?」

 

 笑いながら言うことかなぁ? 

 僕は後輩の笑顔に少し引いた。

 

「そもそも、なんなの? 肝試しって」

「なんか、クラスの男子がどっかで聞いたらしいんだけど。ここって昔は人気のある海水浴場だったらしいのに、いつからか事故がすごい起きるようになって……閉鎖したんだって」

「へぇ……」

 

 後輩はトレードマークのツインテールを完成させて、もう少しその時のことを思い出すために顎に指を置いた。中学生のくせに少し妖艶な色気を出すあたり、魔性の才能がありそうだ。

 

「なんか、引き寄せられるらしいんだよね。肝試しに行った人もさ……。で、行ってみたわけ」

「よくそんなところに行ったねぇ……」

「みんな面白半分だよね、クラスメイトのお兄さんに車出してもらってさぁ。その人達この前事故ったんだけど」

「そうなんだぁ」

 

 祟りすでに起きてね? 

 

 

 

 次の日。

 後輩はニコニコと写真を見せてきた。足を掴まれていた少年が、土気色の顔で海に半分沈んでいた。僕は写真をじっとみて、顔を上げる。

 

「そいつさ、今ベッドで震えてんの」

 

 笑。じゃないよ。

 僕は後輩のデリカシーのなさに恐怖した。

 

「ちなみになんだけど、事故ったクラスメイトのお兄さん、最初はそれに写ってたんだよね。この前崖から海に落ちたんだけど、ちょうどソイツと同じように海に引き摺られた次の日だったかなぁ」

 

 祟りとかあったらヤバくない? とか言ってたけど、事後では? 

 

 

 

 *

 

 

 

 一週間後。

 プリプリと怒りながら後輩は写真を見せてきた。

 

「見てよ先輩。今度は私を狙ってきたんですケド!」

 

 写真を見ると、前に見た時より数人減っていた。そしてついに、海から這い出た手は後輩の足を掴んでいる。

 

 後輩は足を見せてきた。なんとそこには手形のアザが。

 

「私、絶対負けない!」

 

 そういう問題なの? 

 

「ところで、海に連れてかれた? 子はどうなったの?」

「え? なんか溺れて死んだよ」

 

 

 

 数日後

 

「ちょ、見てよ先輩」

 

 笑いながら後輩は写真を見せてきた。

 ニコニコ笑顔でピースしている後輩の身体を、両手の指を使っても数え切らない程の手が掴んでいる。

 

 顔を上げると、いつも通り元気そうな後輩がケラケラと笑っていた。

 

「必死すぎでしょ」

 

 

 

 次の日、後輩は行方不明になった。

 昨日渡された写真は何故か僕のカバンに入っていて、それを見てみると、長い腕が絡み付いてもはや後輩の姿が隠れてしまうほど……まるで繭のように塊として写っていた。

 それは、わずかに海に近づいている。

 

 次の日。

 長い腕に包まれた後輩が海に入っていた。しかし、怒った表情の後輩が掻きむしるように腕を引き剥がしている。

 

 抵抗してるなぁ。そうぼんやりと写真を見ながら思った。後輩は見つかってない。

 

 

 次の日。

 写真を見ると、後輩と長い腕が明らかに殴り合いをしていた。

 

 

 次の日。

 海水まみれで顔に青痣を作り、ワカメを頭に引っ掛けた後輩が家にやってきた。シャワーを僕の家で浴びてから、ソファで勝手に寛いでいる。プリプリと怒っていた。

 

「マジうざいから殴ってやった! なんで私がこんな目に遭わないといけないんだ!」

 

 写真を見ると、後輩の代わりに僕が写っていた。なんでぇ? 

 覗き込んできた後輩が更に怒りを露わにする。

 

「なんだアイツら! 今度は先輩狙ってんのかぁ!? ぶっ殺してやる!」

 

 バァンと後輩は家を飛び出して行った。

 次の日、足にアザができて家の中が潮臭かった。

 

 

 

 

 終

 

 

 

 

 

 

・先輩

 中学くらいまで住んでた村の祠が破壊された時に出てきた怪異によって男から女に性転換され、幸薄系の美少女になった。

 その辺りのいざこざで家族とも関係がギクシャクし、高校からは県外で暮らしている。

 

・後輩

 ツインテールが特徴的な可愛らしい女の子。見た目は良い。

 昔住んでた村の祠を悪ふざけで壊し、その時出てきた怪異と夜通し殴り合いの果てに傷だらけで家に帰ってきた過去を持つ。村を追い出され、県外の中学に通っている。

 

 

・寺田くん

 寺生まれで非常に強い霊力を持つ。

 密かに想いを寄せている同級生に頼まれて海に潜む怪異と熾烈な闘いを繰り広げ、無事に勝利した。

 

 

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