「先輩? 何してるんですか」
家電量販店で、ジッとある物を見つめていた僕に後輩が後ろからやってきて声を掛けてきた。油断していたのもあって、ちょっとビクリと身体を震わせてしまう。
「なにそれ、変身ベルト?」
僕の視線の先にあったのは、日曜の朝にやっているヒーロードラマの主人公が使っている変身アイテムだ。
別に好きってほどでもないが、昔住んでいた村にはこんな大きな家電量販店は無く、こういった子供向けなりきり玩具みたいな物に触れる機会はなかった。
なので、ちょっと興味が出ただけなのだ。
そんなことを考えていると、後輩は見本として触れるようになっている変身ベルトを装着し始めた。
「先輩、どちらかというとプリキュア見てなかった? ライダー! 変身!」
ガショガショと、多分使い方を分かってないので適当に玩具をいじくり回しながら店内で叫ぶ後輩。
この子のこういう度胸というか、周りを一切気にしないところはすごいなって思った。
帰り道。
僕と後輩の前に、人形が落ちている。いやというよりは、バスの待合ベンチに座っているのだ。
ジャンルとしては、美少女フィギュアに類されるだろうか。あまり詳しくないのだが、アニメのキャラのような見た目をしている。
「何これ、誰か座らせて忘れてったのかな」
後輩がむんずと掴み、スカートの中のパンツを覗き込む。満足したのかベンチの上に戻して、後輩はその横に何事もなかったように座った。
次の日
後輩から写真が送られてきた。
それは家から最寄りのバス停にあるベンチに、昨日見かけたフィギュアが座っているものだった。後輩があのフィギュアを拾ってきて、悪ふざけで同じ構図で座っているところを撮ったのだと思い、そう返信する。
『あれ? 結局ひろったの?』
『知らない。なんか座ってたから撮った 笑』
じゃあ、誰か他の人が持ってきたのだろうか。
次の日
後輩から写真が送られてきた。
近所のスーパーの、外に置かれたベンチにあのフィギュアが座っている写真だ。僕は、少し違和感を抱いた。後輩も同じことを思ったのだろう。
『コイツ、近付いてきてる 笑』
笑、で済ませていいのだろうか。
次の日
また写真が送られてきた。
後輩のアパートの前に置かれたベンチにフィギュアが座っているというものだ。ちなみにこのベンチは、後輩曰く同じアパートの住人がどっかから拾ってきたものだとか。
『ついにここまで来た 笑』
笑、で済ませて良いのだろうか。
次の日
心配になって朝迎えに行った。
すると、部屋の扉の前にあのフィギュアがもたれかかかっている。
バァンと強く開け放たれた扉に弾き飛ばされて、向こうへ飛んで行った。
次の日
後輩から写真が送られてきた。
枕元にフィギュアが座っている。
その日の夜、川に浮かぶフィギュアの写真が送られてきた。
次の日
『くせぇ』
びしょびしょのフィギュアが、朝起きた後輩の枕元に立っていたらしい。とても臭うのだとか。
その日の夜、山に埋められて、土の中から右手だけ出ている写真が送られてきた。
次の日
『潰そうと思う』
土だらけの枕と、線路に寝かされたフィギュアの写真が送られてきた。そういうのあんま良くないと思う。
一応、鉄道会社にも迷惑かかるかもしれないし、やめろと送る。
すると『分かった』と彼女にしては珍しく素直な返事が来た。
しかし次に送られてきた写真はすでに、フィギュアはお腹の辺りが強い力で引きちぎられて二つに分かれていた。
そしてその別れた二つ共が、今度は道路に寝かされている。
次の日
『流石にしつこいコイツ』
まるで今までのダメージがなかったかのように、初めて見かけた時と同じ姿で後輩の枕元に座り込むフィギュアの写真が送られてきた。
とはいえ、今まで何かと危害を加えられてきたようなモノとは違って、ここまでやっても無害そうなので『もう諦めたらどうか?』とメッセージを送る。
『キモいからヤダ』
そう返ってきた。
今日は近所の人のバーベキューの日だ。いやな予感がした。
『ターミネーター 笑』
炭と炎の間から、フィギュアの右手だけが飛び出ている。
次の日
『先輩、流石にコイツのこと飼おうと思います』
そんなメッセージと共に、虫籠に入れられたフィギュアの写真が送られてきた。珍しい。あの後輩が、折れた。
なんとなくおかしくなって、ふふっと笑いが漏れる。視線を横にズラすと棚の上から僕のことを見つめる、あのフィギュア。
スマホを見る。後輩の部屋で、虫籠に入れられるあのフィギュア。顔を上げる。数日前から、僕の家で住んでるあのフィギュア。
なんで、増えてるんだろう……。
終
・先輩
いつの間にか自分の家の棚の上にフィギュアが座っていてこちらを見ていた。油断していたために、粗相をしそうになったがなんとか耐えた。ちなみに、後日一人で家電量販店に行き、変身ベルトで少し遊んだ。
・後輩
思い切り蹴飛ばしたり、野球のバット代わりにしたり、近所の犬に与えてみたりしたが、半端な汚損だとそのまま部屋に戻ってくる為、全壊させるように意識している。
そのあたりから面倒になったため、諦めて受け入れる事にした。
今は3体ほど部屋にいる。
・寺田くん
寺生まれで非常に強い霊力を持つ。
自身の煩悩に負けたことを恥じ、かつて祖父も修行した霊山に籠っている。そこで霊鳥と仕合し、彼の霊力は更なる高みに登った。
・近所の人の幼馴染の奥さんの妹の娘の友達
いつからか謎のフィギュアを手にするようになる。少女はいつもそのフィギュアに話しかけていて、まるで自分の言葉が届いていると信じこんでいるかのようだった。
ある日の夜、少女の親は笑い声を聞いた。
それは娘のものと、もう一人……聞いたことのない、しかしどこか聞き覚えがあるような気のする笑い声だった。
次の日、少女は姿を消した。
部屋には書き置きが残されている。
「新しい友達に会いに行く」