後輩ちゃん、怪異を連れてくるのはもうやめて   作:笑石

12 / 22
家に潜んでる割と外に出てくるナニカ

 

「なんか最近、先輩つれないよ」

 

 後輩から急にそんなことを言われた。

 心当たりは特になく、僕は首を傾げる。

 

「オカルト部とかいう、意味不明な部活に入るしさぁ〜。そうだ、今度あいつらとどっか行く時私も連れてってよ!」

 

 ……。部長さんあたりは、後輩のことを霊能者だと思ってるので、快く許可してくれそうだが。

 とはいえ、この子は少し失礼な面があるので、そういう意味で大丈夫なのだろうかという気持ちはある。

 

 

 

 

 *

 

 

 

「というわけでよろしくお願いしまーす」

 

 眼帯さんと、部長さんに対してめちゃくちゃフランクに挨拶をする後輩。部長さんは顔見知りだが、眼帯さんは初対面である。

 

「初めましてーなんで眼帯してるんスか?」

「ふっ。俺は霊力が少ないんでな、常に右目に溜めているんだ。いざという時のために、な」

「へぇ〜」

 

 そうなんだ。

 センシティブだと思って聞いてなかったが、後輩にそういった配慮はないので僕も知ることができた。

 

「部長、今日は後輩も連れてきちゃって、すみません」

「いえ、構わないわ。あの子は恩人だし、なんていったってあの『男の怪異』を追い払ったんだから。期待の新人ね、もちろんうちの高校にくるわよね?」

「それはどうですかねぇ……」

 

 僕達が来たのは、一軒家だ。人は住んでいないらしく、購入するならこの不動産屋まで連絡を、という看板が立てられている。

 

「あの、ところで、ここには何をしに?」

「私の持つ情報筋の一つに、貴方の肉体に関する情報を渡すには条件があると言われてね……それがこの家に来ることだったの」

 

 そんな、僕のために? 僕が嬉しくなって部長さんを見つめていると、気恥ずかしそうに彼女は顔を逸らした。

 

「貴方との縁のおかげで、私はずっと悩んでたアレから解放されたのよ。それに、新入部員の悩みくらい解決してあげたいじゃない! 取り戻す、とかは、無理かもしれないけど」

「まぁとりあえず入りましょーよ」

 

 いつの間にかこの家の鍵を持っていた後輩がガチャガチャと扉を開け始める。眼帯さんはその後に続き、遅れて僕たちも追いかけた。

 

 

 

 入った瞬間、ぞわりと肌を何かが這うような感覚があった。ここはまるで口の中。飲み込まれた僕達は……分断されてしまった。

 

 気付けば僕はどこか和室のような所に立っていた。困惑して周りを見渡し、襖を見つけたので開けようとする。

 

 ガタッガタッ。動いても開く気配がない。薄暗い部屋の中、僕の衣擦れと襖の動く音だけが響く。

 

「これは、いったい……?」

 

 

『オァァァァァァァア!!』

 

 その時だった。

 後輩の叫び声が聞こえてくる。この家のどこかからだ。これは大変なことになったぞ……。

 

『どうした!? どこにいる……くっ! こうなったら、右目をっ!』

『みんな! 無事!?』

 

 眼帯さんと部長さんは無事らしい。

 しかし、後輩の声はしない。ドタンバタンと何かが暴れる音がする。まるで誰かが争っているかのようだ。

 

 僕と、部長さんと、眼帯さんはそれぞれこの家の別の部屋にいるのだろうか? しかし、張り詰める緊張感を共有している実感があった。

 

 何かが、いる───。

 

 ガタガタッ! と、僕の部屋の襖を何者かが開けようとした。僕は一生懸命開けられないよう抵抗したが、5秒くらいして負けた。

 バァン! と開け放たれた襖の先に……髪の毛はボサボサでツインテールが解け、服はあちこち破れてその下の皮膚は薄皮一枚切り裂かれ、複数箇所から出血した後輩が立っていた。

 

「はー、はー。いや変なん居るよここ。めっちゃチェーンソー持ってた、こわー」

「そ、そう……」

「みんなどこかな? ここかな?」

 

 何故か片手に、多分その『変なん』とやらが持ってたチェンソーを後輩は持っていた。そのまま他の部屋の扉も開いていく。

 

「ぎゃ──ーっ! っえ!!?」

 

 チェンソーなんて持っているもんだから部長さんなんか、後輩の姿を見て悲鳴をあげている

 

「うぉぉわぁ! って、お前かよ!」

 

 眼帯さんもめちゃくちゃ驚いている。

 

 合流した僕達は、とりあえず顔を見合わせ頷いた。

 

「すぐ逃げよう」

 

 逃げた。

 家を出てすぐ、チェンソーを持ったままのことに気づいた後輩が河川敷にそれを投げ捨てた。不法投棄だが、誰もなにも言及しなかった。とりあえず薬局で部長さんが消毒液と絆創膏を、コンビニで眼帯さんがTシャツを後輩のために買ってくれた。

 

「あーなんかムカついてきたなあいつー」

 

 服を切られたことに不満たらたらの後輩が、やっぱもうちょい殴ろうかなとか言い出して戻ろうとするのをみんなで必死に止める。

 部長さんが僕を見た。「いつも、こんな感じなの?」と聞かれたので「まぁそう、かも?」と答えた。

 

 

 

 次の日

 

 部長さんに呼ばれた。

 

「あの、昨日はごめんなさいね。あの後、連絡を取ったんだけど……音信不通、と言えば、いいかしらね……」

 

 困った顔でそういった部長さんに、僕も困った顔しか返せなかった。

 

 

 

 次の日

 

 ある噂が流れた。

 

 ホッケーマスクを被った大きな男が「俺のチェーンソーを知らないか?」と聞いてくるらしい。

 友人曰く、警察がその男を探すために近所の監視カメラをいくら調べても映っていない。嘘情報とされたが……それにしては、複数人から目撃情報が出てくるのだとか。

 

 

 

 数日後

 

 近所の小学校や中学校の校門前で、謎のホッケーマスクを被った男が目撃されたらしい。騒然としたが、やはり監視カメラや車載カメラ等で追っても、影も形もないのだとか。

 

 部長さんと「まさか……これって」と話になったが、そもそもあの日、チェンソーを持った何かと遭遇したのは後輩だけで、みんな疲れていて見た目とかは聞いていなかったので確証がなかった。

 

 後輩に聞いてみると『え? 覚えてなーい』との返事。校門前の話も聞くと『え? ああ、なんかいたかも? 話しかけてきたけど無視したキモいし』と返事。

 部長さんに伝えると、愛想笑いに似た微妙な顔をされた。

 

 

 

 次の日

 

 眼帯さんからあの家の取り壊しが始まったと聞く。そして、家の中から……壁の中、床の下、天井、至る所から人の死体が見つかったという。

 その死体はどれもバラバラにされていて、身元の確認から何まで難航しているらしいが……被害者は結構な数になるのだとか……。

 

 

 

 

 終

 

 

 

 

・先輩

 授業中に窓の外を見ていたら、校門の前に立つホッケーマスクの男と目が合ってしまう。そのことを部長と眼帯に相談し、三人でこっそりと遠くから見ていると、瞬きの隙に後ろに立っていた。

 

 

 

・後輩

 実は次の日には河川敷にチェーンソーを拾いに行っている。それを使って同じアパートに住む人のDIYを手伝ったら、なんだか黒い粉っぽい塗料みたいなものが付いて最初は微妙な顔をされたが、これはこれで味があると最終的には喜んで椅子を作っていた。その椅子は夜中に勝手に動くらしい。

 

 

 

・寺田くん

 寺生まれで非常に強い霊力を持つ。

 自販機にジュースを買いに来たら、想い人が先輩二人と一緒にいるのを見かける。その後、彼女達に急接近した斧を持つ怪異と熾烈な戦いの果て、無事に勝利する。

 

 

 

・斧を持つ怪異

 昔は斧を使っていたが、なんとなくチェーンソーを使うようになったら使い心地がよかった。お気に入りを奪われて大層お怒りだった。

 

 元々そこに住んでいたのは男。独身で家を建て、後に嫁を迎えるつもりだったがうまくいかなかった。そのことを日々責めてくる母親を勢い余って殺害、父親に気付かれ同様に。その後それらを隠し、バレないまま家を売り払ったが……その後の消息はわからない。

 ただ、売却されたその家に内見に行く人間が行方不明になる事件が多発し、不気味に思った不動産屋からは放置され、どこかへ権利を売り渡されたらしいが……。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。