後輩ちゃん、怪異を連れてくるのはもうやめて   作:笑石

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旅館バイトに潜むナニカ

 

 

「旅館バイト?」

『そうそう、先輩興味ない? 行こうよ』

 

 行こうよ、って。後輩はまだ中学生である。アルバイトなんてできる年齢ではないと思うのだが。

 電話先の彼女に、僕の困惑が伝わったのだろう。キャハハと笑って彼女は続けた。

 

『知り合いの伝手でさぁ、そういう年齢とか? 別に気にしなくていいんだって!』

 

 それは闇バイトでは? 

 僕は訝しんだ。

 

『だから先輩も行こうよ!』

 

 僕は少し考えた。

 嫌な予感しかしないし、そもそも犯罪が関与している可能性もあるので、行きたくはない。でも後輩を一人行かせていいものだろうか。彼女は、僕が行かないと言えば勝手に行くだろう。中学生の彼女を、親族からも見捨てられた彼女を止められる者は僕しかいない。

 

「ちょっと、一回話をしよう?」

 

 電話越しでは、らちがあかない。僕は後輩と直接顔を合わせて話し合いをすることにした。そして、集合場所に着くと止まっていたのは黒い車。ガララっ! と開いたドアから飛び出してきた後輩に捕まり、僕は旅館バイトに行くことになった。

 

 

 

 

「大丈夫、大丈夫。何も危ないことはないよ。なんたって俺の伝手だからね」

 

 そう言ってにこやかに笑顔を見せてくるのは、助手席に座る……何度か見かけたことのあるチャラ男さん。僕は不安になった。

 横の後輩が車の中でスナック菓子の袋を開け、ぼりぼりと食べ始める。ああ……食べカスが車に……。

 

「気にしなくていいよ」

 

 運転手さんがそう言った。人面魚の時も居た人だ。笑顔を浮かべているが、僕はその顔を直視できなかった。

 

「ちょっと〜こんな中学生と高校生を連れてくなんて、ほんとに大丈夫なのってかあんたの交友関係どうなってるわけ〜?」

 

 後ろの席から、女の人がチャラ男さんに向けてそう言った。正論だと思う。チャラ男さんは、振り返って「ちっちっち」と指を振った。

 

「小学生じゃないから大丈夫」

 

 中学生もアウトだと思います。

 

「それに、向こうさんからは若ければ若い方が良いって言われたんだ」

「いやそれはむしろ怖いよ」

 

 後ろの席にはもう一人、男の人が座っていて、彼は訝しげな顔でチャラ男さんにそう言った。よかった、今回はまともな感性の人が二人もいる。

 運転手さん、チャラ男さん、後輩、僕、そして後ろに男の人と女の人一人ずつ。それが今回のメンバー構成だった。

 

 

 

 辿り着いた先は、少し古い旅館だった。出迎えてくれた女将さんと高校生くらいの娘さんはすごく美人で、チャラ男さんがナンパし始めて困った。運転手さんはずっと笑顔だった。

 

 この時期はまだ客入りが少なく、二階は開放していないから近寄るなと言われた。その日は旅館の旦那さんに一通りの仕事を教えてもらう。

 

 

 次の日

 チャラ男さんがどこからか、二階にはもう一人女将と旦那さんの娘が居ると聞いてきた。美人だろうから、会いたいなと言っている。

 その日の夜、後輩とチャラ男さんは行ってはいけない二階に行ってしまった。

「なんか髪の毛とか爪とかめっちゃ落ちてて気持ち悪かった」と言っていた。

 

 

 次の日

 一緒にきた女の人(Aさん)と男の人(Bさん)が、何かに怯えている。チャラ男さんと後輩はいつも通り仕事をサボっていて、運転手さんは笑顔だった。

 

 

 次の日

 ずっと、何かが僕達の周りを這い回っている。AさんとBさんはすっかり憔悴しきってしまい、バイトは辞めて途中で帰らせてもらおうという話になった。

 チャラ男さんは女将さんと娘さんをナンパしていて、後輩は這い回っている何かに向けて箒を振り回している。運転手さんは笑顔だった。

 

 

 

 

 次の日

 バイトを断り、帰路につく僕達を旦那さんが止めた。そのあと寺に連れて行かれ、その日の夜はここで過ごせと広間に通され襖を全て閉められた。

『何が来ても外に出てはいけない』と口酸っぱく言われる。

 

 その日の夜、女将さんの声で「給料を上乗せするよ」と聞こえてくる。後輩が外に行ってしまった。

 

 数分後、旅館の娘さんの声がする。チャラ男さんは外に行ってしまった。

 

 二人はその日の夜、帰ってこなかった。

 

 

 次の日

 朝起きると、AさんとBさんが居なかった。お寺の住職さんが、運転手さんと僕を迎えに来て、残念そうに顔を伏せている。

 外に出ると、チャラ男さんが歩いて帰ってきた。お酒臭いので、どこかで飲み歩いていたらしい。AさんとBさんの行方については知らなかった。

 

 車に向かって歩いていると、後輩が怒った様子で帰ってきた。何故か身体中にアザがある。「騙された」とプリプリしていた。旅館に火をつけてやると猛っているので、なんとか宥めて車に縛りつけた。

 

 

 その後、AさんとBさんの行方は分からない。

 

 

 数日後

 朝目覚めると、僕のベッドの足元に誰のものか分からない爪とか髪の毛が大量に散らばっていた。

 

 

 

 

 

 終

 

 

 

 

 

・先輩

 とりあえず落ちてる爪と髪の毛を集めて袋に入れた。

 

 

 

・後輩

 突然豹変した女将と夜通し殴り合いの喧嘩をしていた。

 渡された給料袋の中には大量の爪と髪の毛が詰まっており、ブチ切れて後日旅館を破壊しに行ったが、どれほど探しても見つけることが出来なかった。

 

 

 

・寺田くん

 寺生まれで非常に強い霊力を持つ。

 想い人が持ってきた大量の爪と髪の毛を見て、生者を生贄に死者を蘇生する呪術の痕跡を発見。霊鳥との修行で身につけた新たなる力で呪詛返しを行い、想い人を救った。

 

 

 

・旅館

 ある日、突然爆発四散した。

 旦那、女将、娘。三人の行方は誰にも分からない。

 しかし、そもそも近隣住民ですら旅館の存在を知らない。

 

 

 

・チャラ男さん

 連絡先を交換した旅館の娘さんと定期的に連絡を取っている。

 

 

 

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