「夜にさ、物陰というか、"角"を見ると暗くて怖くない?」
バスに乗っていると、そんな話し声が聞こえてきた。
「壁とか物があるせいで、明かりが届かなくてさ、すごく暗くなってるあの感じ」
「あー、ブロック屏の角とか?」
「そうそう! もう背丈くらい積んで、塀を直角に立ててるやつとか、一番やばい! 近所の人の駐車場がまさにそんな感じでさあ……」
街灯で周囲が明るい分、闇が際立つというのは確かに分かる。僕も、少し暗くなってくると灯の届かない、物の陰になっているところに広がる闇の深さには本能的な恐怖を覚える。
『今から"闇犬"探しをしまーす』
後輩から夜に電話がきて、バスでそんな会話を聞いたことをふと思い出した。ビデオ通話の向こうで、後輩と同じくらいの年齢の子達が元気にピースをしている。
いつも思うが、こういうことをするメンバーをどうやって集めているんだろう。
ところで後輩が口にした、闇犬とはなんだろうか。
僕は友人との会話を思い出した。
「あんな、すごいこと聞いてしもてん。闇犬って知ってる? なんかな、夜に、近くに光ってるもんがあるのに物とか壁が邪魔して明かりが届かん場所ってあるやん? めっちゃ暗くなるとこ。そっからな、犬が出てくるらしいねん。やから闇犬なん。でな───
うん。
そういえば、そんな話を聞いた。それはそれとして闇犬探しとは一体……?
『とりあえず片っ端から暗いとこ探しまーす』
元気な後輩の声が届く。
探してどうするのだろう。僕はそれが気になって仕方がなかった。「見つけてどうするの?」なので聞いてみた。
『……? 飼う?』
多分何も考えてないことが分かった。とりあえず探し始めるらしいので、電話は切られた。こんな夜に中学生がウロつくのはやめなよ、とは思ったが今更あの子に言っても仕方ないので僕は諦めた。
一時間後。
また電話がかかってきた。
『先輩? 全然いないわ。だれだよこの噂流したやつー』
「もう帰ったら?」
『そうしようかな』
彼女とそんな会話をしていると、電話の向こうから小さく『うわっ』と声が聞こえてきた。
『何ー?』
後輩の気怠そうな声が聞こえる。歩く音、そして『おおっ?』と何かを見つけたようなリアクション。
『ヤバいよ先輩、なんか暗い角から、黒い煙出てる……や、闇犬だ……っ。まちがいないよこれ』
少し興奮していた。
そういえばだけど、闇犬って見つけたらどうなるのだったか。僕は懸命に友人の言葉を思い出した。
「闇犬はな、近くにおる人を闇に引き込んでまうねん。引き込まれたらどうなるか? って? それはもう……アレやろ、多分帰ってこれへん」
うん。
なんか闇に引き込まれる的なこと言ってたな……。
「逃げた方がいいんじゃない?」
僕は慌ててそう言うが、どうやら遅かったらしい。『オァァァァァァァア!』と後輩のつんざく悲鳴が僕の耳を貫いた。
「どうしたの!?」
しかし、すでに通話は切られていた。
一体何があったのか……。僕は後輩の無事を祈った。
その後、後輩と共に闇犬探しをしたって子達が涙ながらに僕へ彼女のスマホを届けにきた。後輩は、彼らを守って闇犬に引き摺り込まれていったらしい。
あの子が他人を守るなんて……元からそういう義侠心があるにはあったが、僕は少し感動した。
でも、そのまま後輩は帰ってこなかった。次の日も、そのまた次の日も……。
後輩が行方不明になって数日、僕は部屋の隅の、家具に囲まれて少し暗くなっている角を見つめる。
後輩は、こういう闇の向こうにいるのだろうか。このまま、帰ってこれないのだろうか。僕は意を決して、外へ飛び出した。
終
・先輩
後輩を探しに夜、外へ出る。
深い闇に向かって後輩を返してくれと頼み込んだ結果、飛び出てきた闇犬に引き摺り込まれた。
・後輩
闇犬を散歩してたら先輩が降ってきた。
・寺田くん
寺生まれで非常に強い霊力を持つ。
行方不明の想い人を探す為に、霊鳥との修行の末に得た霊術であの世ともこの世ともつかぬ不浄の世界に接続し、螺旋状の塔が建ち並ぶ中、人にも似た四足歩行の獣を散歩させる想い人を発見した。
その後、彼女を連れて無事に脱出したが、うっかり横にいたツインテールのガキは忘れてきた。(本当にうっかり)
・闇犬(?)
ツインテールのガキは早く帰って欲しい。
・塚本ちゃん
先輩の友人。
一回の台詞量が多く訛り口調な為、登場時に非常に読みにくい文面を見せてくる。