『せんぱーい。今日はなんと、山に来てまーす』
山。
僕はビデオ通話の画面越しに後輩を怪訝な目で見た。
「あぶないから、やめなよ」
『えー車で来ていたのですが、エンストで動かなくなり、徒歩で降りようと思います』
展開が早すぎる。
『あれ? またあの可愛い先輩ちゃんにかけてんの?』
『逃がさないよ』
電話の向こうから、チャラ男さんの声が聞こえてくる。僕は、またか……と思った。いい加減、その人と交流するのはやめろと言わなければならない。中学生と遊ぶ大学生はやばい……!
『今日は大所帯でーす』
いぇーい。と、後輩は共にいるメンバーをカメラを回して見せてくれる。笑顔のチャラ男さん、笑顔の人面魚の時の運転手さん、知らない人達三十人くらい。
多すぎる。彼女のこれまでを考えると、多分この中によからぬものが混ざっているのはわかるが、あまりにも多過ぎた。
「あの、一体何人で行ってるの?」
でも、人間か疑わしい人達もビデオ通話越しでは生気があるのかないのかすら判別し難い。なのでまずは一応として参加人数を聞いてみた。
『三十人だったかな……』
多すぎる。
修学旅行の一クラスじゃないか。僕は頭を抱え、後輩に言う。
「みんなの車が、エンストしたの?」
『バスだよ』
『一緒に行こう」
ツアーかな?
でも流石に心配になってきたので、僕は現在地を聞く事にした。
「それで、今どのあたりなの?」
『それがわかんないんだよね、みんなで山を下ってるんだけど、全然麓につかないっていうか』
『置いていかないで』
なんでちょっと呑気な声なんだろう。肝が座ってるとか、そういう問題じゃないと思う。
「僕に電話してる暇あったら、警察にでも電話しようよ」
『みんなのスマホも圏外でさぁ、私のも、先輩にしか繋がらなかったんだよね、キャハハ!』
キャハハ? 僕だけに繋がるっていうのも変な話だが、今後輩が置かれている状況はかなりヤバいのでは。
「とにかく、夜が明けるまではジッとしていた方がいいんじゃない?」
『えー? 暇じゃん?』
『逃げられると思うな』
『いや、そりゃ大事な後輩が大変な目に遭っていたら心配だよ。電話代わってくれ。俺がいるから安心だって伝えたい』
時折チャラ男さんの声が入ってくる。なぜあの人もこう呑気なのだろう。一体どうしたものか……と、僕が少し困っていると、点けていたテレビでニュースの速報が流れていた。
『……の……の山道で、観光バスがガードレールを超えて崖下へ転落……事故を……乗客の数は不明……』
僕の頭は真っ白になった。まさか? と、スマホに耳を傾ける。すでに通話は切れていた。いや、スマホの履歴には何も残っていなかった。
さっきの電話は、僕の記憶違い、幻?
ピンポン、と。インターホンが鳴る。カメラ越しにドアの向こうを確認すると、そこには制服姿の男の人が立っていた。
インターホン越しに、男の人から話しかけられる。
『明日、迎えに参ります』
終
・崖下に落ちたバス
十五人が行方不明になった。
運行会社も、運転手も、分からないまま、ただ車内に残された荷物からその人数は推測された。
・先輩
三日ほど幼児返りした。
・後輩
次の日にチャラ男と朝マックを食べて帰ったら、先輩が青い顔をして震えているので一緒にバスに乗り、峠を爆走するデスドライブに狂乱した。
めちゃくちゃな運転をするバスのドライバーにキレて殴りかかる。参戦してきたバスガイドさんも加えて車中で乱闘。
離されたハンドルを必死に操作する先輩を応援しながら、窓の外にバスドライバーとバスガイドを投げ飛ばした。
・寺田くん
寺生まれで非常に強い霊力を持つ。
バスの事故のニュースを見て霊能界で調査に入る事になった。早速次の日にバスが峠を暴走する事件が発生。必死の形相で運転する想い人の存在に気付き、正面からバスを受け止める。
必死な顔も可愛かったなぁって思った。
・行き先を見失った人々
バスの事故で亡くなった人達の集合霊。彼らは帰る場所も、行き先もわからない。寂しくて、仲間を常に欲しがっている。
道連れにした人達の繋がりから辿って新たなる仲間を探し出していたらしい。
・運転手さん(人面魚)
ずっと笑顔。