久々に電車に乗った。
前に見た怖い夢のせいで、なんだか乗るのが怖くなっていたのだが、案外大丈夫になっていた。
何故だかここ数日の記憶が曖昧で、バスに乗ると動悸が激しくなるのでしばらく通学に利用するのを控えようと考えたのだ。
これでもし電車も乗れそうにないなら、自転車の購入を視野に入れなければいけなくなっていた。でも自転車は危ないから怖い。
今日は後輩も一緒だ。
彼女の通う中学は僕の高校にかなり近いので、必然的に移動経路は似たようなものになる。
「先輩、あいつ、ガンつけてるよ」
剣呑な雰囲気の後輩はそう言った。視線の先を追うと、車両と車両の連結部にある空間にすっぽりと収まった女の人がこちらを見ていた。
「ちっ、デブのくせに生意気な目を向けやがって」
「ちょっと……そんなこと言わないの」
後輩は口が悪い。平気で人に悪口を言う。チラリと、連結部を見た。まぁ確かに、隙間なく収まっているあの女性は中々に大きいが……。
ガタンゴトン。電車は走る。後輩と連結部の女性は完全に睨み合っていた。どれだけ揺れようと、どれだけカーブしようと、互いに目を離したら負けだと言わんばかりの執着。
道端で見かけた猫だか犬だかが、同じような戦いをしていたことを思い出した。
次の日
今日は後輩がいない。「先輩一人でも大丈夫そうじゃーん」と言っていた。確かに、乗っている感じ違和感はない。悪夢を見て以来、電車に恐怖心を覚えていたのだけれど、今思えばアレは所詮悪夢なのに、何故こうも恐れていたのだろう。
僕は小心者の自分が少しおかしくなって口角が上がってしまう。そしてふと、視線を横にずらすと連結部にミチミチに詰まった女の人がいた。
こちらを、凄まじく睨んでいる。
サッと目を逸らして、少し後に気になってきたのでもう一度顔を上げると、連結部には誰もいなかった。
次の日
電車に乗っていると、視線を感じる。
僕は扉近くのバーを掴んで立っているのだが、そんな僕を壁に追い立てるように大きな体の女性が見下ろしてくる。
「あんた、あのガキと一緒に私の事笑ってただろ」
「ちがいます……」
否定の言葉を絞り出すので精一杯だった。
怒っている。どうしよう。電車が駅に着いた。僕は逃げるように飛び出した。
次の日
電車の中に笑い声が響く。
少し派手な格好をした女の子が、電話片手に大きな声を出していた。
僕は、壁に追い立てるように大きな体の女の人に見下ろされている。だが、大きな女の人は僕を見ていなかった。派手な女の子の方を睨んで、何事かを呟いている。
「私の事、嘲笑っているんだ」
派手な女の子が何かを感じてこちらを見た。そして、僕よりも高い位置に視線を送り、まるで汚いものを見たかの様に顔を歪めた。
次の日
先日見かけた派手な女の子が、電車で隅に追いやられている。姿のほとんどが、大きな体の女の人で隠れてしまっている。
派手な女の子は、ジリジリと後退りながら逃げていた。やがて連結部に辿り着くと、逃げるように扉を開けて大きな体の女の人が入ってこれないように、連結部に閉じこもった。
次の日
連結部の中には、派手な女の子が居る。
外にいる人達を睨みつけるように、べたりと窓に張り付いていた。
次の日
小学生くらいの子が、連結部を見つめていた。その中には、なんだか体が大きくなってきている派手な女の子が居る。既視感を覚えた。
小学生が、友達と話していて笑った。派手な女の子は、酷く顔を歪めてそれを睨んでいる。
次の日
「アタシの事を笑っただろ」
随分と大きくなった派手な女の子が、小学生の子を電車の壁に追い詰めていた。小学生の子は泣きそうで、僕は流石に良くないと思って助けに行こうとする。
キャハハ。と、後輩が笑った。
次の日
連結部の中で後輩が大きくなった派手な女の子と殴り合いをしている。連結部の中で派手な女の子はどんどんと大きくなっており、後輩が押し潰されそうになっているので扉を開いてあげた。
次の日
改札を出る。まだ僕の後ろには大きくなった派手な女の子がぴったりとくっついている。
「あんたはアタシを笑わなかったね」
ポロポロと、派手な女の子の顔が崩れていく。
今日のニュースで、電車の連結部から死体が見つかったという報道があった。すぐに数を把握するのも難しいくらい、あの隙間にミチミチに詰まっていたと学校の噂になっていた。
終
・先輩
なんとなく簪で刺したら派手な女の子の体が崩れ落ち、中から針金みたいな手足と顔の伸びた人間が出てきて困った。
そのまま「えい、えい」と振り回すがヒラヒラ避けられる。
・後輩
実はこれまで何回も連結部で殴り合いをしている。連結部の中でミチミチに圧迫される攻撃に手をこまねいていた。
簪で自爆攻撃を考えていたが、先輩が貸してくれない。
・寺田くん
寺生まれで非常に強い霊力を持つ。
学校に来た想い人が妙な集合霊を背負っているのを見つけ、除霊しようと近付くがその前に笑い声の方へ飛んで行ってしまい、見失う。
しかし想い人が困らされていた事に憤慨、霊力を振り絞り学校全土を効果範囲に収めた除霊術で一方的に勝利した。
・眼帯
学校の中に突然現れた集合霊と対峙し、眼帯を外した瞬間凄まじい霊力の奔流で除霊されるのを目の当たりにした。
自身に秘められた力が解放されたと思っている。
・先輩母の簪
込められた霊力が切れかけている。
五回ほどツインテールのガキを始末する術を使用した為と考えられる。
一度補充しようと家に寄ったのに、先輩母はうっかり忘れてしまっている。