「最近、変な夢見るんだよね」
夜になって、後輩が急にそんなことを言い出した。
「なんか電車に乗ってて、こうトンネルの中を? 走ってるんだけど、空気がなんかめっちゃ辛気臭くて、てかアナウンスが変で」
辛気臭い? アナウンス?
僕が首を傾げていると、後輩は笑顔で続けた。
「次は三枚おろし〜三枚おろし〜みたいなアナウンスあってさ、そしたらなんか後ろの方の人に小人が群がって……三枚おろしにされちゃったの」
そして真顔になり、後輩は言った。
「いやグロいのなんの」
寝起きから最悪だったよ〜と後輩はベロを出す。確かに想像するだけで吐き気がしそうな光景だ。
次の日
「今日は串打ちだった」
後輩はまるで日常を語るような調子でそう言った。
「三枚に下ろされたやつはいなくなっててぇ、その手前にいた人がめっちゃ串刺されてたね」
グエーっと、舌を出し顔を顰める後輩。僕はなんだか不安になって聞いてみる。
「それさ、もしかして、近付いてきてるんじゃない?」
僕の言葉を聞いて、キャハハと後輩は笑った。
「なんで知ってるの〜? これ実はさあ、夢の中で同じ乗客が悲惨な目にあっていくのを見ているうちに、日に日に自分の順番が迫ってくる事に気付くって流れなんだよね」
なんで知ってるの? 流れ? それはどういう口ぶりなのだろうか。僕が困惑していると、後輩は楽しそうに続けた。
「学校で、この話を教えてくれた奴がいたんだよ。次は俺の番だ〜なんて言ってめっちゃ怯えててさ。そういえば、この話を聞いた人があの電車に招待されるとかも言ってたな」
後輩がシレッと口にした衝撃の事実に、僕は思わず引き攣った笑いを浮かべた。「え? じ、じゃあなんで、僕にその話を……?」と戸惑いがちに聞いてみると、後輩はぺろりと舌を出しておどけた。
「ごめん、忘れてたっ」
ちなみに、後輩にこの話をした子は今、学校には来ていないらしい。
その日の夜
ベッドで眠ったはずの僕はいつの間にか電車に乗っていた。
隣には後輩がいて、めっちゃ眠そうにしている。そのさらに隣には知らない人がいて、そちらはまるで人形かと錯覚するくらい生気のない顔をしていた。
電車はどこかに向かって走っている。
『次は〜薄切り〜薄切り〜』
機械音のような、しかし熱のこもったアナウンスが流れた。チュィィィン! と、何かモーター音のようなものが響いてくる。
横を見ると、後輩の隣にいる人の足元に、たくさんの小人が群がって何かの機械を押し付けようとしていた。
プロペラのような刃が高速回転している。そしてそれをその人の足先から───
刃が触れた瞬間。生気のなかった表情は一変した。目を見開き、顎が外れるくらいの大口を開けて悲鳴をあげる。
次の日
僕は最悪の目覚めだと思った。
吐き気がするのでトイレで出し、涙で滲む視界の中、口を濯ぐ。なんてものを見せられたんだ。僕は泣きそうになりながら学校の支度をする。
その日の夜
後輩が訪ねてきた。
「先輩、今回はヤバかったねー。今日私の番じゃね? ヤバー」
なぜそんな能天気でいられるのだろうか。僕は相変わらず剛毛が生えた心臓だと感心した。
怖いので後輩に泊まっていってもらうことにして、共に寝た。
するとやはりというべきか、二人して電車の中だ。どこかへ走る薄暗い車内で、しばし沈黙が流れる。
横を見ると、後輩の顔はまるで時が止まったように生気がない。僕は喉が干上がったような悲鳴を小さく上げた。
『次は〜八つ裂き〜八つ裂き〜』
そしてアナウンスが流れ、連結扉の向こうから数匹の小人がこちらに向かって走ってきた。その手にはとても大きな刃物が握られており、僕や後輩なんて一撫ですれば瞬く間に肉塊にもなろう代物だった。
「上等だ! やってみろチビどもッ!」
突然目を見開き生気を取り戻した後輩と小人の戦いは永遠にも思える長い一夜、ずっと続いた……。
次の日
起きた後輩は傷だらけだった。
その日の夜
『次は〜八つ裂き〜八つ裂き〜』
昨日の続きだ───! 僕は戦慄した。しかし後輩は早かった。連結扉が開くや否や、小人に襲いかかる。小人達も昨日の後輩から受けた傷を引きずっており、少し弱々しくなっていた。
しばらく殴り合いとなって、勝敗は決した。小人の一人を足で踏みつけ、勝利の勝鬨を上げる後輩。
その時、連結扉の向こうから大きな駅員姿の男が現れた。片方の手には、なんだか穴開けパンチのようなものを持っており、ソレをずっとカチカチしている。
「八つ裂き〜八つ裂き〜今日は逃しませんよ〜」
アナウンスの声、その本人だ。
「はぁ〜? やってみろよオラッ!」
興奮してチンピラみたいになった後輩が胸ぐらを掴む。直後に、駅員みたいな人の服から大量の刃物が落ちた。いや、刃物を構えたのだ。袖から伸びた大刀が振るわれる───。
「オァァァァァァァア!」と後輩のつんざく悲鳴が僕の耳を貫いた。
次の日
起きた後輩が「しゃあっ! 雑魚ォッ!」とガッツポーズをしている。
安心して眠りについたその日の夜、僕は気付けば電車に乗っていた。乗っているのは僕しかいない。
駅員さんが連結扉の向こうから現れる。カチカチと、穴開けパンチを鳴らしながらこちらへ歩いてきた。
「あなたは逃しませんよ〜」
『次は〜挽肉〜挽肉〜』
終
・先輩
しばらく電車に乗れなくなった。
現在はバスを利用しているが、学校に通うためにバイクの免許を取ろうかと調べ始めている。友人やクラスメイトからはやんわりと止められている。
アメリカンタイプのバイクに乗りたいが、多分似合わない。
・後輩
寝る前に再びあの電車に行く事を期待している。理由としては、先輩をめちゃくちゃ怖がらせた事が許せないため。
なので、最近はメリケンサックを装備して就寝している。
先輩がバイクの免許を取ったら、クラスのヤンキーを弱みで脅してバイクを用意させようと計画している。
・寺田くん
寺生まれで非常に強い霊力を持つ。
実は想い人に夢の電車の話を事前にされていたため、挽肉にされそうになっていた彼女の夢に無事乱入する事ができた。
夢の中で人の生気を喰らう怪異と熾烈な戦いの果て、勝利した。
バイクについて勉強し始めた。二人乗りは免許取得後一年経過、排気量は50ccを超えていなければならない。と知り、慌てて免許合宿に申し込んだ。
・夢の中に出てくる駅員と小人
夢の中で死んだ人は現実で傷一つ無く心臓が止まる。朝起きたら傷だらけになってたやつがいた? 仕様と違いますね。