「雨の日に、出るんだって」
今日は朝から雨が降っていた。僕が少し憂鬱な気持ちでバスに乗って登校途中、一緒に乗り合わせた乗客の話が耳に入ってくる。
「火事で亡くなった子供が、無くなった家を探してるんだよ」
「なにそれ、ダジャレ?」
話題の重さの割に、話している子達の声は明るい。周囲の乗客達も、BGMのように聞き流している。僕はなんとなく、続きを聞いていた。
「てかなんで雨の日なの?」
「雨じゃないと、体についた火が消えないじゃん」
「そういうものかなぁ?」
そういうものなのだろうか。僕もそう思った。
「てかどこで出るの」
「さぁ……」
一番大事なところはわからなかった。
「今日さぁ、マジやばいの見かけたんだよね」
後輩がわざわざ雨の中家に来て、とても楽しそうにそう言った。僕が「やばい?」と聞き返すと「そそ、やばいやばい、本当にやばい」と彼女は続ける。
「なんか、燃えながら歩いてるガキがいたの」
雨に濡れたツインテールを一度ほどき、僕の家のタオルで勝手に拭きながら後輩はケラケラと笑った。笑う要素はどこだろう。
「いや絶対熱いじゃん、と思って話しかけたんだよね」
よく話しかけられるな。僕は後輩の無鉄砲さに心底驚いた。
「そしたらさ、『家どこ?』って聞いてくんのね。私がなんで燃えてんの? って聞いてんのに、質問に質問を返してきたわけ。むっちゃムカつくよねそういうやつ、殴ってやろうかと思った。そういえばクラスにもそんな奴いてさ、一回殴ってまず質問に答えろって言ったんだけど、校内謹慎くらった」
僕は後輩からハラスメントを受けたクラスメイトに同情した。とりあえず話脱線したなって思いながらも「そっか……」とだけ返す。
「で、何回かやり取りしてもずっと『家どこ?』って聞いてくるから……適当にあっちの方指差したんだよね」
あっちだったかな? こっちだったかな? 後輩は僕の家の窓から適当な方を指差す。
「そしたら、なんかどっか行ったんだよね。なんだったんだろあいつ」
次の日
この日は、雨が上がって晴れていた。消防車のサイレンがけたたましく鳴っている。どうやらどこかの家が火事らしい。昨日くらい雨が降っていたら、すぐ鎮火していただろうに。
僕自身も火の始末はきちんとしただろうか? と家を出る前までの記憶を思い出す。まず今日は使ってない。昨日はちゃんと消した。よし。
三日後
朝から今日はまた雨が降っている。
後輩が「燃えてるガキ探したら見つけた」と言っている。
なぜ探すのだろう。「バケツで水かけてやったよ」と笑っている。火を消してあげたかったのだろうか。「消えないから、熱いし逃げた」向こうも逃げたかったと思う。
次の日
また雨が降っている。
学校で、「ツインテールのガキはどこだ」と人探しをしている子供の噂を耳にする。しかもその子供は、雨が降っているのに身体が燃えているらしい。
なんだか覚えがあったけど、忘れることにした。
次の日
また雨が降っている。ここ最近で一際強い雨だ。今日は用事があったので後輩を中学校まで迎えに行って、一緒に帰った。
視線を感じて振り返ると、雲が分厚いせいで少し薄暗いのに、やたらと明るいなにかが向こうの角からこちらを見ている。僕は目を逸らした。
次の日
今日はカラッと晴れた。
しかし消防車のサイレンがけたたましい。
どうやら近所で火事があったようだ。後輩の家から結構近いので心配になって連絡したが、彼女は無事で元気そうだった。
次の日
後輩が手に火傷をしていた。どうしたの? と聞くと「勝った」と答えてきた。何に?
終
・先輩
後輩が火傷しているのを見た日の夜、何気なく窓の外を見たら夜なのに明るい一角があった。なんだか焦げ臭い気がしたけど、寝た。
・後輩
焼肉を食べたくなった。
牛タンなら何枚でも食べられる。
・寺田くん
寺生まれで非常に強い霊力を持つ。
想い人の近所で不審な火事が続いた為、不穏な気配を感じて深夜にパトロールしていた。
日が明けるころ、想い人の家を燃やそうとする放火の怪異と遭遇し、熾烈な戦いの果て勝利した。
その日はとても眠く辛かったが、想い人の何の憂いのない表情を見て達成感に浸ることが出来た。