『せんぱーい。今日はトンネルに来てまーす』
夜。
なんだか既視感のある展開だが、後輩から突然電話がかかってきた。こんな時間に何だろうと、仕方なく電話に出たらビデオ通話が起動する。
街灯で僅かに光源が確保されている薄暗い景色が画面に映る。後輩がスマホの向こうで楽しそうにピースをしていた。
その後ろに、何人か人間がいる。見慣れない人達だ。
『この人達はねー、ネットで集まった肝試し好きなメンバー』
ぐるりと後輩はスマホのカメラで彼らを映した。男女大人子供が混じっているが、後輩が一番年下に見える。というよりこんな夜に中学生が出歩くものではないと思う。
『今回私は、行けなくなった知り合いの代わりに来てまーす』
ネットの知り合いと会うなんて危ないよ。と言いかけたところで後輩からそんな情報が与えられる。より心配になる内容だった。
『お? なんかリーダーみたいな人が呼んでる。じゃあねー』
こちらが何かを言う前に、後輩は叩きかけるように一人で喋ってくる。
リーダーらしい大人の男の人がメンバーを集めて何やら仕切り始めたのを最後に通話は切られた。
数日後
「あ、そういえば、あのトンネルどうだったの?」
後輩と一緒にテレビを見ながらご飯を食べていて、ちょうど何気ないニュースにトンネルが映っていたのでふと思い出した。
「え? あー。何もなかったね」
後輩がそう言う。日頃、厄介ごとに首を突っ込んでばかりの後輩なのでまた何か起きたんだろうという偏見があったが、今回は平和に終わったようだ。
「まぁ足跡が増えたり、何故かみんなバラバラに迷子になったり、進んでるはずなのにいつの間にか入り口に戻ってたりしたけど、大丈夫だったよ」
……。それは大丈夫なのだろうか。「そっかぁ」と答えて、とりあえず流した。
次の日
「そういや先輩さぁ、昨日トンネルの話聞いてきたじゃん?」
思い出したように後輩が言う。
「私は知り合いの代わりに出席したって話したじゃん? その知り合いにさ、リーダーと連絡が取れなくなったって話されたよ」
「リーダー?」
「ほら、なんか仕切ってた人……あれ、電話の時見せてないっけ?」
あまりはっきりは覚えていない。
しかし、肝試しメンバーを仕切っていた人が居たのは覚えている。
「あの肝試し以来、連絡取れないらしいんだよね……」
「まさか……」
また、そういうパターンか?
僕は少し身構えた。
「やっぱあん時『まずはお前からだ』みたいなこと言いながら首掴んできたから顔面をオーバーヘッドキックしたのが原因で入院でもしたのかな」
「オーバーヘッド……?」
「そう、なんか天井からぶら下がってたからさ」
あっけからんとした様子で後輩はそう言った。「警察が来たらセクハラされそうになったって路線で行くか……」と思案している後輩に、いやそれって……と色々と思うところがあるものの「その時の写真ないの?」と聞いてみる。
「これ」
そして見せられたのは、トンネルの前で撮った集合写真。五人くらい写っていた。
一見、普通の写真だ。しかしよく見ると、一人を除いて写っている人達の足首を白い手のようなものが、ギュッとアザが残りそうなくらい力強く握り込んでいる。
そして、そこから伸びた腕はトンネルの中へ向かっている。ちなみに、一人を除くの一人とは例のリーダー格の人だ。満面の笑みを浮かべる彼だけ、足を掴まれていない。
「で、これが終わった時」
次に、ほぼ同じ構図の写真を見せられた。
しかしこの写真は、後輩以外みんな疲れた顔をしているものの、誰も足を掴まれていない。それどころか、トンネルの入り口……端っこあたりで、白い手がまるでシッシッと虫を払うような仕草で写っている。
「へぇ〜。一人いなくなるとか、実はこのあと死んじゃったとか、そういうのはなかったんだね」
僕がほっとしたような気持ちで言うと、後輩は不思議そうに首を傾げた。
「えー、なにそれー。まぁ確かに、五人全員……いや、リーダーは連絡取れないんだっけ。まぁ今も元気にしてるらしいよ。知り合いが言ってた」
そっか。
僕はニコリと笑った。
後輩が、ふと真顔になってスマホの画面に触れる。一枚目の写真を見て、二枚目を見る。横で見ていた僕は、本当に全く同じ高さ、角度、距離で取られた二つの写真がまるで間違い探しのようで、思わず「ふふっ」と笑ってしまう。
「すごいね。トンネル入る前後ですごい上手く撮ってあるよね。三脚か何か持って行ったの?」
「いや? よく考えたら、これ誰が撮ったんだっけ?」
終
・先輩
割と料理が出来る。
息子から娘に性転換した彼女に対して、容姿に遺伝子を感じるものの実子である確証を持てなくなったせいでギクシャクとした仲になった母親から、村を出る際に餞別にと渡された和包丁はとても大事に使っている。
・後輩
先輩とその母親が色々揉めていた時に「先輩はあんたのむすこ……じゃなかった、娘でしょっ!」とキレたことがある。先輩の母親は「貴様のせいだろうがッ!」とマジギレし、殺されかけた。後輩と先輩母の二人を止めるために村の大人数人が病院送りになったらしい。
・寺田くん
寺生まれで非常に強い霊力を持つ。
想い人から見慣れたツインテールのガキも写った集合写真を見せられる。明らかに怪異絡みで、所持していると嫌な縁を引き寄せそうなので断ち切っておいた。
その際に「最近はお菓子つくりも始めたんだ」と、彼女からガトーショコラをもらい。感激のあまり膝から崩れ落ちた。
・トンネルの怪異
案内役に変なの連れてこられてめっちゃ嫌な気持ちになったので粛清した。