ギャラハッドに案内されアリーゼたちは、かつて騎士王の城があった場所へ来ていた。
「あれだよ。」
「大きな盾・・・綺麗。」
【アストレア・ファミリア】で唯一の盾使いであるノインがつぶやいた。
すっかり風化してしまったためわからないが、盾が突き刺さっている場所は玉座の間である。
ここでかつての騎士王たちは円卓を囲んで会議をしていた。
「団長様、もしやあれが・・・」
「えぇ、私もその可能性があると思ってたわ。当たりだったみたいね。」
この玉座の間にある盾こそが、【アストレア・ファミリア】に届いた
「アストレア様、何かわかりますか?」
リューが尋ねる。
「えぇ、あれは神の作ったものよ。神器・・・」
「白い竜を討伐して、この盾を回収すれば、ミッション完了ね。その勢いで黒龍も討伐しちゃいましょ!!」
浮足立ってアリーゼが盾に触れようとした。
「触っちゃダメ!!」
ギャラハッドがアリーゼに体当たりする。しかし、神の【恩恵】を持ちLv.3のアリーゼ。ギャラハッドの体当たりはビクともしない。
アリーゼの指が盾に触れた。
直後、白い稲妻がアリーゼとギャラハッドを襲う。
「ッ!!」
声にならない悲鳴が出る。
「団長!!」
「アリーゼ!!」
「アリーゼちゃん!!」
稲妻に打たれた二人は身体中から煙が出ている。
「マリュー!!早く回復魔法を!!」
アリーゼが目を覚ますと隣にはギャラハッドが倒れている。
「あれ、私どうして・・・」
「目が覚めたの!!」
「アストレア様?・・・あっ!! ギャラハッド君は!!」
アリーゼは自身に起きたことを思い出す。
「私・・・盾に触れようとして、それで。」
「落ち着け団長。あの子供もマリューの回復魔法で危機は脱した。」
輝夜の言葉でアリーゼはホッとする。
ギャラハッドの姿をよく見ると、衣服は焦げ下の病的なまでに白い肌は見えているが、胸は呼吸のたびに浮き沈みしている。
「お、姉さん・・・だい、じょうぶ?」
そしてギャラハッドも目が覚める。
かすれた声で、自分のことよりアリーゼの心配をする。
「ギャラハッドくん!!まだ動いちゃダメよ。」
セルティが起き上がろうとするギャラハッドを止めた。
続くようにネーゼが水に浸けたタオルをギャラハッドの顔に乗せた。
「僕は、大丈夫。あの盾は触れた人に稲妻を落とす。だから触っちゃダメ。」
「
「僕にはその
輝夜が目を細め盾を睨む。
盾は依然と突き刺さったまま白銀の輝きを放つ。鈍い光は先ほどまでと違って、どこか恐怖を与える。
「そして僕は、あの盾から離れられない。遠くへ離れようとすると、壁が現れたように、僕を阻む。」
「そんな!!じゃあ、白い竜を倒しても、君はずっと独りでここに?」
リャーナが顔を歪ませた。
「もともと、僕だけじゃなくてお父さんや、お母さん、他のみんなも盾から離れられなかったんです。だから、白い竜が現れても逃げることが出来なくて・・・」
「なんて話なの・・・あれを作ったのは一体・・・」
ギャラハッドの告白にアストレアが拳を握りしめる。
「わからないです。僕が生まれるずっと前から、あれはあそこにあったって。騎士王たちが残した何かって。そして、僕たちは、あの盾を守護する使命を授かった一族だって、お父さんにいわれた。」
「だからって、あなたは一生この場所で過ごすのですか!!」
ギャラハッドのことがいたたまれなくなったリューがそう叫ぶ。
「仕方ないです。それより、もう日が暮れます。
アリーゼたちは、ギャラハッドを背負い再び、彼の家へ向かった。
日が沈む。闇が訪れた。オラリオと違い、灯りのないギャラハッドの家付近は風の音だけが響いていた。
部屋の中央で植物から採取した油を使い灯りを灯す。
蝋燭よりも大きい火はゆらゆらと燃え、恐ろしい闇を遠ざけてくれている気がした。
「もうそろそろ出てくる頃です。
ギャラハッドが灯りを消す。再び、辺りは闇に覆われた。
「
「そんな相手にどうしたらいいの? 弱点はないの?」
「わからない。昔話では赤い竜が白い竜を倒したって。赤い竜は騎士王と共にある。そんな騎士王も今はいない。星の聖剣もない。ただ夜が過ぎるのを待つだけ・・・だからね、お姉さんたちは、明日になったらオラリオに帰った方がいい。」
ギャラハッドがそう告げると、月明かりがさえぎられる。
「身を潜めてください。」
ギャラハッドが身を低くして、アリーゼたちにそういった。
「うそ・・・」
「バカな・・・あれは、いくらなんでも大きすぎる。」
「確かにこれは、アタシ達だけじゃ無理だな。それこそ【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】でもいないと。」
アリーゼ、輝夜、ライラが訪れた白い悪夢に心折られる。
白い竜は体長80メートルを超える巨体だ。それが空を飛ぶ。蛇のような長い巨体は階層主【アンフィス・バエナ】を連想させる。
「あれが白い竜・・・」
アストレアが下界の理不尽さを改めて実感する。天界と違い、下界では神々は己の神威を使えない。故に、全知霊能・・・
その晩、アリーゼたちはギャラハッドの声に従い、彼の家の下に身を潜めて過ごした。
ギャラハッドはアリーゼたちに囲まれて夜を過ごす。ギャラハッド自身は気づいていないが、久しぶりに触れた人の温もりに癒された。
アリーゼたちもまた、幼いギャラハッドに癒されたのであった。
アリーゼたちが目を覚ます。
部屋の中心にいたはずのギャラハッドの姿が見当たらない。
「アストレア様!おはようございます!!」
「おはようアリーゼ。朝から元気ね。」
「か、かかかか、輝夜!!なんて格好をしているのですか!!」
リューが叫ぶ。
それも当然だ。輝夜が服を纏っていないからだ。
「うるさいぞ、青二才。」
ゴジョウノ・輝夜・・・彼女は脱ぎ癖がひどかった。
「輝夜、拠点の自室ならとやかくは言わないけど、ここはギャラハッドくんのお家なのよ。」
「ア、アストレア様・・・はい、申し訳ありません。」
「それより、アストレア様。ギャラハッドくんがいないですけど。」
ネーゼがあたりを見渡す。
コツコツコツと地下へ降りてくる小さな足音がする。
「お姉さんたち、起きたの? おはようございます。朝ごはん用意したので上がってきてください。」
扉を開けたことで、昨日と同じく魚の香ばしい香りが入ってきた。
「「「「「「「「「「「ごちそうさまでした。」」」」」」」」」」」
「綺麗に食べてくれて嬉しいです。」
ギャラハッドがアリーゼたちに用意した朝食は魚だけではなかった。
山菜とハーブのスープ。木の実の盛り合わせ。
主食はないが、空腹の乙女たちの胃袋をがっつり掴んだ。
「ギャラハッドくんはすごいね。お姉さんこんなおいしい料理作れないわ。」
「この朝食は妖精の私からすると、最高でした。」
「顔も整っているし、きっと将来はモテモテね!」
「髪の毛もサラサラねぇ、お肌もモチモチ。かわいいわ。」
「このハーブの香り気に入った。私の婿にならない?」
「今のうちに唾つけとく?」
「ちょっと、セクハラよ。」
アスタ、セルティ、リャーナ、マリュー、ネーゼ、イスカ、ノインがギャラハッドの料理に胃袋を完全に掴まれたようだ。
「お姉さんたちも綺麗な人ばかりだから、きっとオラリオではモテモテだね。」
この少年は既に女性を褒めることが出来るっていうのか。恐ろしい。
『ねぇ、ほんとにこの子連れて帰りたんだけど。』
『ファミリアで一番年下の私からしても、末っ子が増えるのは嬉しい・・・ふふふ。』
『乙女の花園とか言われてるけど、出会いとかないし。オラリオの冒険者はみんなむさ苦しいし・・・』
『可愛すぎる。』
『みんなにはいえないけど、この子めっちゃ好みの匂いする・・・絶対相性いいじゃん。』
『決めた。私は、この子を守護る!!』
『くぅ、純真無垢な少年からの誉め言葉は破壊力が!!』
訂正しよう。胃袋を掴まれただけではなく、完全にノックアウトされている。【アストレア・ファミリア】乙女の花園。男性冒険者のいない女性のみのファミリア。その実態は男に餓えた女たちの巣窟だった。
「リオンも弟が出来たみたいで嬉しそうね。」
「そうですねアリーゼ。私もデカトゥリアさんのような弟がいたら誇らしいでしょう。」
「まぁ、確実にこのポンコツエルフよりは使えるな。」
「確かに。」
ギャラハッドの表情は変わらないが、器を集める動作が速くなる。照れているのだろう。
「その、リオンさん? デカトゥリアという名は、あまり好きではないのでギャラハッドの名で呼んでください。」
「は、はい。わかりました。ではギャラハッドさんと。」
「ねぇねぇ、ギャーくんって呼んでいい?」
ギャラハッドはデカトゥリアの名があまり好きではないらしい。リューに呼ばれた際に挙動がおかしかった。
「ギャ、ギャー君? 別にいいですけど。」
「う~ん!!ありがとう。それじゃあ、お腹も膨れたし、会議をしましょ!!バチコン!!」
そして始まるのは【アストレア・ファミリア】の会議。
奇しくも騎士王と騎士たちのように円卓を囲む形で始まる。
一の席にはアストレア、二の席にアリーゼ、輝夜、ライラ、マリュー、ネーゼ、イスカ、アスタ、リャーナ、ノイン、セルティ、リューが座る。
「それでは円卓会議を始めましょう!!」
議題は
回収するという内容は昨日の様子を見る限り難しいだろう。
そして新たに出てきた白い竜だ。
実際に戦っていないため、正確な情報はわからないが、ギャラハッドの言葉によると
・夜になると現れる。島の上空を飛翔し続ける。近づくのが難しい。
・鱗は固く、弓矢での戦闘は推奨しない。
・ブレス攻撃は毒が含まれており、食らったら最後、肉体が溶けて消える。
うんムリゲーだ。下手したら三大
「オラリオに援軍を呼ぶのはどうだ?」
ネーゼが発現する。
「それは難しいだろう。この暗黒期で白い竜を討伐できる力を持つファミリアをギルドがオラリオ外に出すとは思えない。」
「でも、このまま放置しておけないよね。」
現状を冷静に分析できるあたり、やはりライラは頼れる参謀である。
しかし、頭でわかっていても、心は追いつかない。
アスタが声を上げる。
「そうね・・・」
アストレアが思い声を出す。
「あの、お姉さんたちは盾の回収に来たんですか?」
昨日はいろいろなことがありすぎて、重要な目的をギャラハッドに伝えていなかった一行。
「そうよ! 私たちは昨日みた盾、盾ってことは知らなかったけど、あれの調査と探索に来たの。」
「そっかオラリオの人には申し訳ないけど、回収は出来ないと思う。」
「そうでございましょうね。昨日のを見て回収しようっていう奴はバカでございます。」
会議は進む。
「ねぇ、ギャーくん。白い竜は昼間どこにいるの?」
「昼間は洞窟で寝てる・・・もともと白い竜は封印されてた。それが一年前急に封印を破って出てきた。」
「そうだったのね・・・もう一度封印する方法はないの?」
「難しいと思う。封印するのに星の聖剣と魔術師様がいないと無理だって。星の聖剣じゃないと白い竜に傷つかないって・・・」
「その星の聖剣はどこにあるの?」
アストレアの問いかけにギャラハッドは顔を伏せる。
「泉の乙女に返したって・・・その泉はもうない。ちかくへんどう?ってやつでなくなったらしい。」
「打つ手なしか・・・」
「じゃ、じゃあ盾を使える人を見つけるってのは!!盾を使える人がいたら、その人に持ってもらって、ギャー君もオラリオに来れるんじゃない!!」
「「「「「「「「「「「それよ(だ)!!」」」」」」」」」」」
「盾を使える人は、もういないです・・・」
「そんなことわからないわ!きっとどこかを探せば見つかるわよ!!」
「盾を使うには円卓の騎士たちの血が流れていないとダメなんです・・・そして円卓の騎士の血を持つのはこの島から出られません。」
「ということは、つまり?」
「僕しかいません。でも、僕も盾を持てないので・・・」
終わった・・・
「えっ!?待って、ギャー君って円卓の騎士の血が流れてるの!?」
「まぁ、一応・・・というかここで暮らしていた人たちはみんな流れていました。」
結局会議は、昼過ぎまで続いたがいい案はでなかった。
「その、お姉さんたち。盾は諦めてオラリオに帰った方がいいよ。」
「ダメよ!!それじゃあギャー君はずっとここにいるしかないじゃない。」
頭から煙が出るほど考えたアリーゼたちはギャラハッドに諦めるように進言される。
「僕のことは気にしないで。夜だけ隠れたら済む問題なので。白い竜のおかげで
「ギャラハッドさん・・・」
「本人がここまでいっているんだ。私たちにはどうしようもできない。」
「だからっていいのですか輝夜!!正義の眷属である、私たちが諦めてしまって・・・」
「いいか、全てを救うことは出来ないのだ・・・私も可能ならば救ってやりたい。」
リューは輝夜の震える手を見た。輝夜だってギャラハッドのことを救いたい。幼い少年が孤島で一人過ごすなど放っておけないのだ。
しかし、今は暗黒期。彼女たちがオラリオを離れている間も、
そしてリューを含め、全員が何もいえなくなった。
「いやよ!!私は諦めないわ!!だっておかしいもの。こんなにいい子が独りぼっちで過ごすなんて、私は決して認めないわ!!」
しかし、彼女だけは違う。
正義の翼と剣を誰よりも愛している彼女は、少年の置かれている現状に打破をかける。
「いいわよねみんな!私たちが力を合わせれば、きっとあの白い竜にだって勝てるわ!!」
「アリーゼお姉さん・・・」
「「「「「「「「「「正義の翼と剣に誓って!!」」」」」」」」」」
「それじゃあ、早速準備をしましょう!!装備の確認よ。」
「了解!」
アリーゼの号令に【アストレア・ファミリア】が動き出す。流石洗練された冒険者たち。迷いなく団長であるアリーゼの言葉に従う。
「ライラとネーゼで周辺の地形を再確認してきて。」
「しゃーねーやるか。」
「任せて!一宿一飯の恩は返さないとね。」
ライラとネーゼは斥候へ
そして日が落ちるまで一刻へ・・・
「お姉さんたち、夕飯を用意しました!!」
一通りの準備を終えた【アストレア・ファミリア】の面々に夕飯をふるまう。
戦闘が行われることも考えて、ギャラハッドが用意した夕飯はお腹に優しい山菜のスープのみだった。
「うんうん、ギャー君の作ってくれたのは全部おいしいわ。とっても優しい味がする。」
夕飯もまた、全て綺麗に平らげた乙女たちは白い竜に備えた。
「よかった、薬草が効いたみたい。」
灯り一つない部屋で、ギャラハッドがつぶやく。
周囲には先ほどまで意気揚々としていたアリーゼたちが寝息を立てている。
「お姉さんたちみたいな優しい人たちが白い竜にやられちゃうのは、僕も嫌なんだ。だから、ごめんね・・・」
そういって乙女たち一人一人に布切れをかけていく。
「明日こそ、オラリオに帰ってもらわないと。」
「僕、お姉さんたちに会えてうれしかったよ。」
その呟きは闇に消えていく。
白い竜を倒したところで、ギャラハッドくんは島から出られません。
それでも正義の花炎たちはギャラハッドくんのために戦うことを選びました。