「クソッ!やられた!!」
窓から入り込む太陽の光・・・かかっていた布切れを掴んで声を荒げるのは先日、裸にて眠っていたことでアストレアにしかられた極東の美女ゴジョウノ・輝夜。
「神々の【恩恵】を突き抜ける薬だと!?耐異常があるんだぞ!!起きろ団長!!」
「なによ輝夜・・・もう朝・・・」
「寝ぼけてないでしっかりしろ!! あの子がいない!!」
「あの子って、ギャー君のことかしら?朝ごはんでも作ってくれているんじゃない。」
寝ぼけ眼を擦りのんきに欠伸をする。
「って!!白い竜は!!」
「だからわたくしたちはみんな、あの子供にやられたんだ!!耐異常を貫通する何かしらのもので、わたくしたちはみな呑気に眠らされたんだ!!」
続々と起き上がる彼女たちは、一枚の羊皮紙に目が留まる。この孤島では羊皮紙も貴重なのだろうか。裏側にはよくわからない文字が書かれている。使いまわししたのだろう。
そして肝心の表だ。
『おはようございますお姉さんたち。昨晩はぐっすり眠れましたか。お姉さんたちの気持ちはとっても嬉しかったです。でも、僕はお姉さんたちが白い竜と戦ってほしくないから、眠ってもらいました。今日は天気もいいので、船旅日和です。少しだけ果物と木の実を置いておくので、オラリオに帰ってください。』
「にしてもLv.3の団長と輝夜ですら眠る薬ってなんだよ。
「そんなことをいっている場合ですか!!ギャラハッドさんを見つけなければ。」
「やめておけ青二才。ここまでするんだ。あのガキの・・・ギャラハッドの意思を尊重するべきだろう。」
「待って・・・みんなギャーくんは、白い竜が昼間はどこにいるっていったか覚えてる?」
そこで待ったをかけたのが、やはり団長。アリーゼだ。
「そりゃ洞窟っていってたけどよ・・・」
ネーゼが答える。
「そうよ!洞窟よ!!洞窟を崩落させてしまえば、いいんだわ!!」
アリーゼの発案により【アストレア・ファミリア】は今度こそ、白い竜の討伐に動き出した。
アストレアはギャラハッドの家にて待機。ギャラハッドが帰ってくるかもしれないからだ。
「お姉さんたちは帰ったのかな・・・」
昼過ぎにギャラハッドは帰宅した。
水浴びをしていたのだろうか、髪の毛が湿っている。
「おかえりなさいギャラハッドくん。」
「えっ・・・女神のお姉さんなんでいるの?」
ギャラハッドはいるはずのない神物がいたことに、表情が動く。
「みんな白い竜を倒しにいったわ。」
「倒すって、どうやって!!」
「洞窟を崩落させて白い竜が出られないようにするつもりなのよ。」
「そんなことできるわけ・・・」
「できるできないじゃないと思うわ。今のあの子たちは・・・みんなあなたを助けたい一心で動いているから。」
玄関で立ち尽くすギャラハッドを優しく抱きしめる。
「独りで辛かったでしょう。ごめんね、私たちもっと早く、この
この
アストレアは後悔の念に駆られる。
「洞窟はダメなんだ。
「なんですって!?」
「早く追わないと!!」
「まだ【恩恵】は消えていないわ。アリーゼたちは二時間前にここを出たところよ。」
「ならなんとか追いつける・・・いや、追いつける追いつけないじゃない。追いつかないといけないんだ。助けないと!!お姉さんたちを!!」
ギャラハッドはそういって、部屋の隅にかけてあった剣を手に取る。
「お父さん・・・お母さん・・・兄ちゃん・・・力を貸して。」
「ギャラハッドくん。提案があるわ。私の眷属になって【恩恵】を授かるの。そうすれば身体能力の強化され、【恩恵】がないよりも毒の効果を受けにくいわ。」
剣に祈っているギャラハッドに対し、アストレアはそう言い放った。
「眷属?」
「えぇ、私たちの家族になるの。」
「それで、お姉さんを助けられる?」
「わからないわ。でも、決めるなら早くしないとアリーゼたちが洞窟へ着いてしまう。」
「お願いします!!」
ギャラハッド・デカトゥリア
Lv.1
力:0 I
耐久:0 I
器用:0 I
敏捷:0 I
魔力:0 I
スキル《》
魔法《》
「これであなたは、私たちの家族よ。」
「すごい、力が湧いてくる。」
「アリーゼたちのこと頼んだわね。」
「うん、じゃなくて、はい!!」
そういってギャラハッドは家を飛び出した。
洞窟がある場所は家から南西へ向かった密林の奥。アリーゼたちが船でついた場所から真逆の位置に存在する。
キャメロット城砦を越えた先に白い竜は眠っている。
「ライラ、確かこの辺よね。」
「あぁ、遠目で見ただけだが、昨日調べたときはこの先に確かに洞窟を見た。近くまで寄ろうかと思ったが、時間がなかったんでな。でも、かなり大きな洞窟だったぜ。まず間違いないだろう。」
隊列を組んで進む彼女たちの戦闘はライラだ。昨日の探索で既に洞窟を発見していたという。感の鋭い彼女だ。近くまで寄ってみていれば、洞窟に蔓延する毒についても気づいていただろう。
「周囲も不気味なくらい気配がないわね。」
「ギャラハッドくんの言った通り、ほとんどの生物が、白い竜に蹂躙されたのかしら。」
ノインとリャーナが周囲を見回しそう告げる。
「それにしてはおかしい。生き物がいないなら、森はここまで豊かにならない。ある程度生き物がいないと。」
森で暮らす妖精であるセルティが違和感を持つ。
「あぁ、獣はまだしも、虫すら見当たらないぞ。」
「この密林も、いや、この島自体おかしいわ!!」
「でも、魚や木の実、果物はある。どうして?」
「そんなことあとで考えましょ。早く洞窟に向かってギャラハッドくんを苦しめる竜を倒さないと。」
ネーゼ、マリュー、イスカ、アスタが続く。
「まってええええええええええええええ」
彼女たちの背後から声がする。つい昨夜まで耳にしていた少年の声だ。
「ギャー君ッ!?」
アリーゼがミノタウロスのように突っ込んでくるギャラハッドを受け止める。
「ガハッ!!」
「「「「「「「「「「アリーゼ(ちゃん)(団長)!?」」」」」」」」」」
【恩恵】を授かったことで、ギャラハッドの体は強化されていた。それを知らないアリーゼは見事に押し倒される。
「お姉さんたち、よかった。間に合った。」
「ギャ、ギャー君どうしてこんなところに。」
「貴様、よくも昨日はなめたことをしてくれたな。帰ったらお仕置きだ。」
「ライラちゃん流のお仕置きも必要だな。」
「輝夜!?ライラ!? いや、それよりもアリーゼ大丈夫ですか?」
全力で走ってきたのだろう。頬を紅潮させるギャラハッドにアリーゼたちは少しドギマギしたようだが、昨夜の恨みを告げる。
「ダメなんだ。毒が、洞窟には毒が蔓延してる!!近づいたらダメ!!」
「なに?」
輝夜が目を細める。
「何よそれ。洞窟を崩落させるのもだめだなんて、もうどうしたらいいのかしら!?」
「割とマジで、オラリオから【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】を呼ばないと無理じゃね。」
「ですが、あのギルドの豚が彼らを都市外へ、それも孤島へ派遣するとでも?」
「学区は?」
「学区に依頼したって、今どこにあるかわからねぇし、そもそも学区が来るまでの時間はどうするよ。アタシらも長居が出来る身じゃねぇんだから。」
アリーゼ、ライラ、リューが頭を抱える。
希望が見えていた矢先だったのだ。奇跡が起こったりはしないのだろうか。
「あのね、手紙にも書いたけど、僕。本当に大丈夫だから。今まで独りで生きてきたから。だから、これからも大丈夫!!」
必死に動かない表情筋を使って笑顔を浮かべる。あいにくと、アリーゼたちにはその笑顔が痛々しいものにしか映らない。
「それより、早く戻らないと太陽が沈む。白い竜が起きてくるよ。」
だが遅かった・・・
夕日は地平線に沈む。
まだ遠くにあるはずの洞窟から地響きが足元を伝う。
「い、急がないと!!」
アリーゼはギャラハッドを抱えて、家へ戻る。Lv.3の脚力を存分に発揮した。
「全員はぐれないように。視界が悪いけど、見つからないように灯りはつけちゃだめよ。」
密林を越えて、家まであと少しのところ。体を隠すことができる場所がなかった。
あたり一面が平野である。
「このまま全速力で突き抜けるわよ。」
「とまれアリーゼ。もう遅い。」
この島についた初日に見た影が、アリーゼたちの頭上に現れる。
「GRUUUUUUUUU GYAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
白い竜に見つかった・・・
「リャーナ、セルティ詠唱準備!」
「私が魔法で引き寄せるわ。
アリーゼの付与魔法【アガリス・アルヴェシンス】により、体が紅火に包まれる。背負っていたギャラハッドは
マリューに預け、独りで平野を駆け抜けた。彼女が通った場所は草が焦げ付き、炎の軌跡が生まれる。
「
「
詠唱を終えたリャーナとセルティが魔法を放つ。
漆黒の夜を描ける魔炎と緑雷。周囲を照らし白い巨体へと突き進む。
しかし白い竜の鱗には傷一つつかない。
「なっ!?」
「嘘・・・」
「とまっていないで回避しろ!!」
狙いを二人に定めた竜は口腔に毒を貯めブレスの準備をする。
「毒が来ます!!逃げて!!」
「GURUUUUUUUUUUUUUUUUU」
白い竜が吐いたブレスは青紫で、いかにも劇毒とみるだけで伝わってくる。
全員、なんとか回避できたが、白い竜の眼光は今もなお、ギャラハッドたちに向いている。
「クソ、
体制を整えた輝夜が奥義を放つ。五閃はバラバラに白い竜にぶつかった。だがやはり、鱗には傷一つついていない。
「やっぱり、星の聖剣じゃないとダメなんだ。」
「私たちじゃ、そもそも攻撃が届かないわ。」
「ここまでか・・・」
そのとき、白い竜の背後に紅炎が姿を現す。
「こっちよ、
超特大の炎の柱が白い竜を貫いた。
「ふふん、わたしにかかればこんなものよ!バチコン!!」
アリーゼの炎に貫かれた白い竜はうねり声とともに、高度を下げる。
「やったわねみんな!」
「ちょ、それってフラグだろ。」
神々の使う言葉で【フラグ】というものがある。「この戦いが終わったら結婚するんだ。」や、「俺に任せて先に行け」というような言葉は吐いた人物を殺すという。
今回は「やったか」に含まれ、たいていの場合・・・
「GRUUUUUUUUUUUUUGAAAAAAAAAAAAAA!!」
「ほらみろおおおおおおおお!」
ライラは
見事、竜の眼を焼いた。
視界を失った竜は暴れ狂う。
暴れ狂った竜は何をするのか。無差別攻撃だ。
ブレスをあたり一面に吐いた・・・
「み、みんな無事?」
ブレスが晴れると、アリーゼたちは目を見開いた。
装備は溶け、皮膚もただれている。
骨が見えているものもいる。一番ひどいのは露出が多かったイスカとネーゼだ。美しい褐色の肌と灰色の毛並みが無残なことになっている。
「マリュー!!回復お願い!!」
すかさずファミリア唯一の
「なんで!? 治らないわ。」
「み、水をかけないと・・・あいつの毒は、水に、弱いです。でも、完全に治るわけじゃありません。」
ギャラハッドが声を出す。
一番重症なのはギャラハッドだった。
目や口、鼻といった重要な器官は本能で防いだのだろう。代わりに両腕が肩から指までひどくただれている。
「ギャーくん!!」
アリーゼは自分の痛みを無視して駆け寄る。
「こ・・・れ」
ギャラハッドは腰に携えていた水袋をアリーゼに渡す。
「少ししかないけど、聖水・・・これなら完全に治る。アリーゼお姉さんたちが使って・・・逃げて。」
「そんなことできないわ!!」
「僕、もう疲れた。あんな盾に縛られて生きるのは、もう嫌だ。」
ぽつりと少年の口から零れる悲鳴。
「騎士王が残したとかどうでもいいよ。そんな遥か昔の人たちの武器がなんの役に立つの・・・僕はもっと自由に生きたかった。だからね、お姉さんたちは生きて。」
「どけ団長。」
ギャラハッドの言葉を聞いた輝夜がアリーゼから水袋を奪い取る。そして、ギャラハッドにぶっかけた。
「ぶぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああかめッ!!」
傷がみるみる治ると同時に、ギャラハッドは目を白黒させた。
「僕はもう疲れた? 自由に生きたかった? これから自由に生きればよかろう!!なぜ、諦める!!貴様はまだ幼いだろう。もしかすると今は盾を持てなくても、これから持てるかもしれない。何故、可能性を諦める!!」
「ちょ、ちょっと輝夜。」
輝夜も毒を受けたにも関わらず、痛みを感じさせないかのようにギャラハッドを怒鳴る。
「男なら、かの騎士たちの末裔ならば、不可能を可能にしてみせよ!!」
「輝夜お姉さん・・・でも、僕には。」
「うるさい!!」
口答えするギャラハッドへデコピンをくらわす。
「お前はもう正義の女神が眷属【アストレア・ファミリア】の一員だ!私たちの家族だ。正義の翼と剣に誓え!!諦めないと!!」
輝夜の声が、毒にやられていた彼女たちを突き動かす。
「少なくとも、わたしたちは諦めない。絶対に・・・いくぞ青二才。」
「えぇ、輝夜・・・今は遠き森の空。」
なんとか毒の被害を受けていなかった刀を手に輝夜が突き進む。
そんな副団長の背を見てリューは微笑み、詩を読み上げる。
高度が下がってきた竜に跳躍し飛び乗る。近づきさせすればこちらのもんだといわんばかりに、二人は白い竜の背中を疾走し、切り付ける。
「はあああああああッ!」
「無窮の夜天に鏤む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。」
高速で繰り広げられる戦闘下であっても、その妖精は詩を止めない。詩を歌うことが前世からの使命とでもいわんばかりに・・・
「なんて固い鱗なんだ!」
「手伝うわ輝夜。」
「私もぶった切っちゃう!!」
「輝夜にばかりいいところは見させられないからな。」
「まだヒリヒリする。乙女の肌を傷つけてくれたお詫びをくらえ!!」
アリーゼ、アスタ、ネーゼ、イスカもまた、白い竜の背に飛び乗った。
「汝を捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ——星屑の光を宿し敵を討て!!【ルミナス・ウィンド】」
そして詩が完成する。
宵闇に浮かぶ蛍のごとく、竜の周囲を囲む風の木霊。
全方位から竜を切り付けて爆散していく。
これが【疾風】リュー・リオン。
失った視力を取り戻した竜は、自身を襲った衝撃が堪えたか雄たけびを上げる。
「まずい
十七階層に存在する階層主ゴライアスのよりも強力な
背から投げ出され、地上に落下していく。
それを見逃す竜ではなかった。
再び口を広げ、ブレスを放つ・・・
「これは流石に、まずいか。」
「冷静にいってる場合じゃないでしょう!!」
「身体が動かないわ。」
誰もが思ったここまでかと・・・
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ギャラハッドの喉が裂ける。
その声は闇に消えていく・・・はずだった。
「うそ・・・」
「ブレスが何かに弾かれてる?」
「あれは盾か?」
竜の口とアリーゼたちの間に突如現れた巨大な盾。
白銀の鈍い輝きを放つ、少年・・・ギャラハッドにとっては己を縛り付ける忌々しい盾だった。
「なん、で・・・」
ブレスを完全に相殺しきったあと、盾はギャラハッドの前に突き刺さった。
声が聞こえる。
『お前が守れ。』
優しい男の声だった。お父さんのような、兄さんのような、優しい声。
『その盾は決して砕けない。決して折れない。あとはお前次第だ。』
「わかったよ。みんな。僕が最後の円卓の騎士だ。」
ギャラハッドの脳裏には共に暮らしていたみんなの姿が流れては消えていく。
そして、赤い髪、黒い髪、金髪、桃髪、胡桃色の髪・・・あの人たちの姿が浮かぶ。みんなとちがって、彼女たちの姿は決して消えない。脳裏に強くこびりついている。
「いくよ・・・円卓の盾。」
ギャラハッドが巨大な盾・・・円卓の盾に手をかけた。
「我が名はギャラハッド・デカトゥリア!!最後の円卓の騎士にして、正義の眷属第13席に座るもの!!正義の翼と剣・・・そしてこの盾に誓って!!お前の攻撃は決してお姉さんたちに届かせない!!」
キリのいいところで終わりたかった。
ついにギャー君が盾を持ったよ!!
アストレア・ファミリアは11人です。ですがアストレア様を入れると12人・・・そして、ギャラハッドくんは13人目となりました。
円卓ではないため、呪われた席ということはありませんが、ギャー君は13席ということに誇りを持つようになります。
次回・・・【正義の眷属】と【盾に縛られる少年】Ⅳにて白い竜とは決着がつきます。