二話連続投稿です。読む順番はあべこべでも別に問題ありません
厚く黒い煙が海上を埋め尽くしていた。そこにはツンとした刺激臭があり、未だ火を上げる深海棲艦の残骸が無造作に散らばっている。
「ふう、何とかなったな」
その場で悠然と佇む大きな人影。それは異質であった。
女性の身でありながら2メートルに迫らんとする長躯に加え、体に固定された複数の巨大な三連装砲。およそ人間に抱えられるものでは無いそれを背負いながら彼女は平然としている。
彼女の名は武蔵。艦娘と呼ばれる対深海棲艦の切り札であり、また常勝無敗の戦士であった。
武蔵は海を眺めながら深海棲艦の成れの果てを眺めながら黄昏る。どこか疲れたような顔に普段のような覇気は無く、どこか弱々しい。
「今回も死闘でした。生き残れたのが不思議なくらいに…」
「らしくないな。赤城」
後ろからもう一人の艦娘が武蔵に話しかける。彼女の名は赤城。武蔵のような砲ではなく和弓を持った艦娘で、いつもはのほほんとした彼女の顔もまた晴れやかとは言い難い。
それもそうだ、と武蔵は思う。今回の深海棲艦との戦いでは大きな被害が出た。同僚にも大怪我をして療養を余儀なくされた者が大勢出た。そうして握った勝利の結果得た物が深海棲艦の焼ける異臭とはとても割に合わない。
「…いかんな、私もらしくない事を考えているようだ」
独りごちる様に武蔵は呟く。それを聞いていた赤城はしかし、返事をすることなくじっと焼ける海を見ていた。
たっぷり一分。海を見つめていた二人が同時に口を開いた。
「呉に行こう」
「呉に行きましょう」
二人は向かい合い、示し合わせたように笑いあう。決まれば早いと武蔵は無線機を取り出し、電源を入れて通信を始める。その周波数は武蔵と赤城の所属する泊地の司令官と繋がっていた。
『こちら司令部』
「武蔵だ。深海棲艦は全て撃滅した」
『ご苦労。被害は?』
「なし。強いて言えば私たちの心がささくれ立っている」
『そうか。それでどうしたい』
武蔵の冗談に興味を示さず続きを促した。
「私たちは帰投後に休暇を取る。それと呉の方に連絡を回しておいてくれ、大喰らいが二人来るとな」
わかった。司令官は短く返すと通話を終了した。そのあまりにもそっけない反応に「あいつももう少し愛想が良ければな」と武蔵は苦笑いする。
「さて赤城、明日から暫くバカンスといこうじゃないか」
「そうですね。呉の皆さんに遭いに行くのも久しぶり…」
「食事もいいものが出るだろう。伊達に艦娘の楽園だと呼ばれてはいないぞ」
「ハマチやブリの生け作りが食べたいですね。この辺りじゃ獲れませんから」
それから二人は少し話をして、武蔵が赤城に質問した。
「『ゴセン』が居るからこそ私は死線を抜けてこられた。赤城、お前はどうだ」
赤城はうーんと少し悩んだ後、いつもののほほんとした顔で答えた。
「私は『ゴセン』提督より、彼女のつくる『ゴハン』の方が好きです」
赤城の答えに一瞬キョトンとしたあと武蔵は「赤城らしいな」と大笑いした。
数日後、武蔵は赤城を連れて広島の呉にやってきていた。まるで実家に帰って来たみたいだ、と武蔵はこの鎮守府で起きた出来事を反芻する。
二人はこの鎮守府に滞在した日数に比べて思い出は驚くほど多い。仲が良いのか悪いのか判らない関西弁二人組や生真面目なくせしていつも騒ぎを起こす装甲空母、ポンコツ&ザンネンな軽巡洋艦達に変な言葉で話す駆逐艦などなど思い返せばよくもこんなアクの強い艦娘を揃えたものだ。
前に来たときは栗を焼いていた大鳳が弾けた栗に被弾していたし、その前は夕張がうどんソフトなる謎のアイスを再現しようとしていた。
あれやこれやと話しているうちに呉鎮守府はすぐそこにあった。二人は迷いなく裏口に回り込み、ノックを三回行う。
少しの間の後、扉を開いて現れたのは髪と目の色以外武蔵そっくりの女性。
「ようきたな、待っとったで!」
あの『五銭』提督であった。
『呉』鎮守府
瀬戸内海に位置しているため深海棲艦の被害が非常に少なく、国内のどこの鎮守府に行くにもあまり不自由しないため資材の貯蔵や兵装の開発などの大部分を引き受けている。
その性質上駆逐艦や巡洋艦が多く、戦艦などの大戦力は少ない。
鎮守府の規模は大きく、転属のつなぎとして一時的な所属や骨休めに訪れる艦娘も多いので半ばレジャー施設となりつつある。
『五銭』提督
四国出身の趣味人な提督。
髪の色と目以外が武蔵と瓜二つ。武蔵の姉妹ではないのかという噂があるが別にそんなことは無い。
実は料理のプロ。うどんばかり作っているイメージが艦娘間で蔓延しているが、頼めば何でも作ってくれる。