五銭提督とは何なのだろう。
最近になって赤城はそんなことを考えるようになった。
赤城にとっての最初の印象は「なんだか瞳の淀んだ、美味しい料理を作る人」である。流石にいきなり目の前でうどんを伸ばしだしたのには面喰らったが、その程度である。それは提督よりも料理の印象が強かったから。
そして幾月か時は流れ、武蔵と出会った後に再び顔を合わせることがあった。その時に印象は「武蔵さんに似ていて、瞳の淀んだ、美味しい料理を作る人」に変わった。
それから一年が経って、提督と何度か顔を合わせ、そして今の印象が「武蔵さんに似ていて、瞳の淀んだ、美味しい料理を作るけどよく分からない人」に至る。
「五銭提督って実は武蔵さんのクローンとかじゃないんですか?」
「自分は伝説の傭兵か何かか?」
うどんをずるずる啜りながらの赤城の問いに答えながら、まあ一部では伝説になっとるけどな、と提督は笑う。
赤城はマイペースな人間だ。ある意味フリーダムともいえる彼女は例え秘密であろうと聞くことに戸惑いは覚えない。質問されている当人は秘密にしている訳では無さそうだが。
提督は握っていた稲荷寿司を赤城の前に置くと割烹着を脱いで赤城の座っているソファの向かいに座った。
「では、武蔵さんの姉妹や親戚なのでしょうか」
「ブブー!大ハズレや」
赤城の質問に提督は腕で大きく×を作って否定する。
「ホムンクルス!」
「残念!」
「整形!」
「天然ものや!」
「特殊メイク!」
「眉しか書いとらん!」
「着ぐるみ!」
「こんな体型の着ぐるみがあるかいっ!」
そして言葉の応酬。しかし赤城の質問に提督は全て否定で返した。いつの間にか腰の浮いていた二人はソファにポスンと音を立てて座る。
赤城は改めて提督の姿をまじまじと見つめた。肌はカラメル色をしていて顔は一部を除いて瓜二つ。身長も武蔵と同様2メートル前後あるし、座った状態でも赤城より頭一個分は大きい。胸なんかもうボインボインである。ぱっと見で判る武蔵との違いといえばやはり髪の色くらいであった。
「不思議です…。姉妹でもなくてクローンでもなく、ましてメイクですらないのに瓜二つ…」
「そうやなあ、じゃあヒントあげるわ」
首を傾げて唸る赤城に、提督は人差し指を自らに向けてこう言った。
「今年で自分、何歳や?」
「え?提督の年齢?」
「ええ、夕張さんに心当たりはありませんか?」
場所は艦娘寮の前。赤城は何か知っていそうな人物に適当に声を掛けることにしていた。そして最初に引っかかったのが変な格好をした夕張。
「ところでその不思議な格好はなんでしょう?」
「ああ、これはね」
夕張の説明が始まった。赤い半袖シャツにカーゴパンツ、逆向きにかぶっている赤いキャップが特徴的な格好は「ヌケボー」なる特殊な儀式(ダンス)のための大切な装備だと。
赤城はファンネルのごとく夕張の周りでヒュンヒュンしているスケートボードを見ながら「不思議な儀式ですねぇ」と単純に関心していた。一航戦はドイツ軍人のごとく何事にもうろたえないのだ。
「あ、そういえば提督の年齢だっけ?実は私、気にしたことなくて…全然知らないの。ごめんね?」
「いいえ。いきなり質問したのは私ですし、謝るような事ではありませんよ。こちらこそご協力ありがとうございます」
夕張は両手を合わせて謝る。それに対し赤城は気にした様子もなくぽやぽやした笑顔で手を振って断りを入れた。
じゃあ舞風の所でダンスがあるからこれで。そう言って立ち去る夕張に赤城は笑顔で見送った。その背中には「あたりめマカロニ」と書かれていてさらにスケートボードの裏には艦載機が引っ付いていたのが気になったが。
「あの艦載機、大鳳さんのでしたか」
ヒュンヒュン飛んでいる一瞬の内にゼロ戦の翼に書かれたタイホウという文字を見つけた赤城。一航戦は動体視力にも優れるのだ。
「ご主人様のトッシー?」
「ええ、漣さんはご存じありませんか?」
所変わって食堂の前。赤城は暇そうにしていた漣に声を掛けてみた。
「まったくご存じないです。っていうかその話題って割と地雷っぽくないん?」
漣は提督の年齢について全く知らなかったが、基本的に女性に年齢を聞くのはタブーだ。彼女はそれに懸念を抱いた。しかしスラングである地雷という言葉を赤城が知ることもなく。
「?海の上に地雷はありませんよ」
と返される始末。じゃあ機雷ってことでFAと漣が返すと、少し考えた後赤城はなるほどと手を打った。
「下手に触ると怪我しかねないという事ですね」
「さすが赤城さん話がわかるゥ!INT500はあるんじゃね?」
彼女の答えに手を叩いて関心した。一航戦は頭もいいし理解力にも優れている。FFで言う所の黒魔、ヴァナのマルティネスだ。
「でも提督には年齢について聞いてもいい許可は貰っていますよ」
「じゃあご主人様に直接聞けばよくね?」
「その発想はありませんでした」
一航戦は頭もいいし理解力にも優れているのだ。
執務室に戻ってきた赤城。しかしそこには提督の姿はなく「食堂で料理中」と書かれた張り紙が机の上に一枚あるだけだった。
「入れ違いですか。そういえば今日はカレーの日でしたね」
彼女はいまだ見ぬ今日のカレーに想いを馳せる。スゥと息を吸ってカレーの匂いを堪能しようとして失敗し、大きく息を吐いた。
「おや?」
息を吐いたときに向かった視線の先に一つの写真立て。資料棚の上の方にあったせいで気が付かなかったが、提督が立った時の目線の高さに丁度配置されたそれ。
背伸びをして覗き込んでみると日に焼けた写真が一枚入っている。それは龍驤と提督が肩を組んだツーショット。しかしあまりにも身長差がありすぎて龍驤の足が浮いてしまっていた。
「あら、随分いい笑顔ですね」
どこかの海域を攻略した直後なのか服はボロボロだったが、写真の龍驤は歯を出してにっかりと笑っていた。提督ですら見て分かるほどに笑っている。この写真だけで龍驤と提督が強い縁を持っていることが見て取れた。
つられて赤城も笑顔になる。一航戦は笑顔も素敵なのだ。
「はあ?ウチんトコの提督の歳ィ?」
「ええ、龍驤さんならご存知かと思いまして」
所変わって工廠。自身の艦載機の整備をしていた龍驤は赤城に質問されていた。
提督の歳という質問に対して龍驤は腕を組んでうーんと唸る。
「解らんなぁ…今思えば聞いたことなかったわ。確か今年で10年くらいの付き合いになると思うけど」
「10年ですか」
龍驤の答えに赤城は不躾な視線を龍驤に向けた。幼少のころから変わらぬであろう体型を見て、そしてなるほどと手をポンと打つ。
「解りました」
「何がわかったんや?」
途端に得意げになる赤城。何故ドヤ顔なのか?龍驤は訝しんだ。
「提督の秘密です。龍驤さんの合法ロリ体型がヒントになりました」
龍驤はキレた。一航戦は遠慮を知らないのだ。
艦娘ナンバー11 赤城
ご飯を美味しそうに食べることに定評のある艦娘。どういう訳か食べ物が集まってくる性質で、赤城自身はそれを幸運だと思っている。
大抵のことは笑顔でスルーできる伝説の超マイペース人。空気を読まないとも言える。
一日に五食くらい食べる大食漢。しかし体型はむしろやせ形で、服の下は筋肉モリモリマッチョウーマンなのではと噂されている。