道楽鎮守府   作:アサルトゲーマー

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このあたりから物語が進みます


×2 side2

 

 夜の鎮守府。潮は演習の報告をするために漣と共に執務室に来ていた。

 潮の目の前には書類と格闘している提督が居る。彼女は潮と漣の姿を確認してから筆を置いて、その冷たい瞳を潮に向けた。

 大の大人ですら竦んでしまうほどの眼光。しかし一度タネさえ割れてしまえば張り子の虎に等しいそれを受けながら潮は申し訳なさそうに報告書類を手渡した。

 

「あの、その、申し上げにくいんですが、」

「フルボッコにされちゃいました♪」

「えっああっ!漣ちゃん!」

 

 潮が報告を戸惑っている内に漣がおどけながら話の核心を明かした。それに潮は大慌て。いくら提督が優しそうな人といっても上司なのだ、言い方というものがある。

 報告を聞いた提督は長ーいため息を吐いて「知っとる…」と肩を落とした。

 

 ばつん。

 

 突然の事である。執務室の明かりが消えてしまい、部屋が暗闇に満たされた。それに対する反応は三者三様で、それぞれ「ひゃあっ!」と驚いたり「お、なんや?」と平然としていたり「停電かミ?」と現状を把握しようとしていたり。

 始まりが突然であれば終わりも突然で。

 

 ぱちん。

 

 部屋は一瞬にして光に満たされる。視界が確保されたことで落ち着きを取り戻した潮はホッと胸をなで下ろし、皆は無事かと視線を巡らせた。

 潮の視界に入ったのは漣、提督、提督。

 

「あれ、おかしいなぁ…」

 

 もう一度見る。漣、提督、提督。

 提督が一人多い。

 

「て、提督が増えてますーーーっ!?」

 

 突然の出来事に潮は再び大慌て。一方漣は「ああー、もうそんな時期かぁ」とニヤニヤしながら潮を見ていた。

 

「そんな時期って何!?なんなんですか漣ちゃあん!」

「まま、そう焦んないで二人をよーく見比べてみて?」

 

 漣の言葉に従い、潮はじっと二人の提督を見比べた。

 潮たちから見て右の提督はなんだか髪の色がくすんでいて、瑞々しさというか、艶が無い。そしてふと右の提督と目が合った。

 

「………」

「……あれっ?」

 

 その視線は冷たい眼差しではなく、どちらかというと熱を感じるような赤い瞳だった。提督の瞳は闇の底を覗くように真っ黒だったと潮は記憶している。その様子を感じ取ったのか、右の提督がニヤッと笑った。

 

「ふふふ、バレてしまったようだな」

「バレてしもたなぁ」

 

 右の提督は左の提督と笑いあいながら立ち上がり、帽子を脱いで自分の髪を引っ張った。

 すると黒い髪の毛はズルリとずれ、下から白い髪が姿を現す。流れるような動きで髪を整え眼鏡を掛け、そうして現れたのは武蔵だった。

 

「ふふ、始めましてだな。私は武蔵、よろしく頼むぞ」

 

 ポカンと呆けたままの潮の頭をぐしゃぐしゃと撫で、再び座り直す武蔵。

 

「えっ?えっ?武蔵さんと提督がそっくりででも髪の色が違っててでも顔は瓜二つで雰囲気とかあまくてすっぱくてからくてにがくて…はうっ」

 

 そして混乱した潮は漣にもたれ掛るようにその場に倒れた。それを見ていた提督と武蔵は全く同じポーズで顔を合わせ「やり過ぎたか?」「辛うじてセーフやろ」と話す。

 

「アウトとかセーフとかは良いんで潮ちゃんを何とかしてくれませんかねぇ…」

 

 漣の台詞で提督と武蔵は「おっそうだな」と立ち上がり左右からヒョイと持ち上げる。それはまるで宇宙人捕獲のポーズのようであった。

 

「ああそうだ。漣、ウィッグを付け直してくれないか?」

「え?…ははーん。武蔵さんもお人が悪いー」

「いやいや、漣には負けるさ」

 

 あっはっは、と笑っている内に武蔵にウィッグが取り付けられた後眼鏡が外され、見た目は提督そっくりとなる。そうして武蔵と提督はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。食堂では提督の事が話題に上がった。

 

「昨日提督が分身してたってばよ」「潮ちゃん誘拐事件なう。なお朝食には間に合った模様」「ちくま大明神」「なんだよそれ全然怖くねーし。でもちょっと用事あるから帰るわ」「誰だ今の」

 

 食堂は騒がしいの一言。提督が増えて困惑する者、知ってて話を大きくする者、強がりながらもさっさと朝食を平らげて部屋に帰ろうとする天龍など様々であったが、その全員が提督に注目していた。

 提督はわれ関せずと朝食を食べるとすぐに立ち去った。それを見ていた面々は拍子抜けしたりホッとしたり様々であったが、次に食堂にやってきた人物を見て大体の者が戦慄した。それは朝食を持った提督だったからだ。

 というのも先ほどのは提督の変装をしていた武蔵で、本物の提督はまだ朝食を食べていないというカラクリである。先ほどと変わらないペースで食べる提督を見て戦慄する面々を見ながら潮は苦笑いを浮かべた。

 

「ぬふふ、潮ちゃんにもイタズラの面白さが解ってきたかにゃーん?」

「え!?そんなこと…」

「じゃあ天龍ちゃんの泣き顔みてどう思う?」

「………っ」

 

 漣に促されるまま見る。天龍は一体何が起こったのか判らない様子で、涙目で震えていた。

 

「なんだか、すごく……胸がきゅってします」

「それが愛だよ!」

 

 ウインクしてみせる漣に潮はただ乾いた笑いしか返せなかった。ちなみにその日の午前中の内にタネ明かしされて、その時に提督は天龍に殴られたとかなんとか。

 しかし午後からは謎の大食いマスクが食堂に現れ、天龍がまた涙目になったのは公然の秘密である。

 




謎の大食いマスク

黒髪ロングで赤いミニスカで胸当てをした女性。一体何者なんだ…
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