とある悪徳オペレーターの音声ログ 作:ロボバトル曇らせメリバ百合風味
システム起動。
音声ログ機能が選択されました。
以下のオプションがオンになっています。
・日付の自動生成
・不明瞭な発音の補正
・内容に応じて自動録音
・クラウドデータと常に同期
音声の録音を開始します。
・
・
・
ーーー
2月10日
あんっのクソカス悪徳オペレーター許さねえ。ぶっ殺してやる。
あの野郎報酬を中抜きしてやがったんだ。道理で最近修理費と弾薬費が高いと思った。整備費を実際より多く計上して、差分を横領してたんだ。
おかしいとは思ったよ。でも「大戦の影響でどこも景気悪いですからねえ」って言われたらそうなのかなと思うじゃん。
ああ、クソクソクソ。十年間ずっと気づけなかった。その間こなした仕事は3842件だから、毎回損してたとすると合計……
もうやだ。
真面目に働くとかバカじゃん。
傭兵やめよ。
2月15日
とりあえずあのクソオペをぶっ殺した。
小賢しいことに、胡散臭い仕事を勝手に受けて私を消そうとしてきたから、返り討ちにしてやったぜ。
依頼内容は『暴走無人兵器排除』、報酬は全額前払いでもう私の口座に入ってた。やらないと私が罪に問われる。
現場はしっちゃかめっちゃかだった。暴走する古代の無人兵器、アホ程強い謎の新兵器、どこからか湧いてくる厄介ストーカー爺さん。地獄かよ。
コックピットをぶち抜かれたときは死んだと思ったけど、「あのカスオペだけは絶対許さん」と根性出して、どうにかこうにか全部倒した。
で、カスに追いついてお待ちかねの復讐タイムだ。
輸送ヘリで逃げようとするやつの命乞いを録音しておいたから、このログにも残しとく。
『ほう、さすがだな。イレギュラー無人機六体と御老公に加え、かの伝説の贋作さえ下すとは……貴様と組んだのは正解だった』
『ごちゃごちゃ言ってないで返してっ! 私のお金っ! げほっ、ごほ』
『まあ落ち着け、貴様の稼いだ金は残さず全て、ありがたく使わせてもらった。しかし私の計画に乗れば、二倍三倍の額を稼がせてやる──おい待て、そのグレネードキャノンはなんだ。待て、話を──』
『返せえええええっ!』
このあと消し炭にしてやった。
人が十年稼いだお金を使い込んでおいてなんだこの態度腹立つ。
グレキャで消し飛ばすのは一思いにやりすぎた。エネルギーブレードの刃先でじっくりあぶってやればよかったんだ。私がやられたみたいにな!
くっそー、傷痕になっちゃったじゃん。いってぇ。
2月16日
『貴女の腕を遊ばせておくのは惜しい。我々テックマンは腕の立つテストパイロットを常に必要としている。よければ下記アドレスへ連絡を』
『ADパイロット募集中! 未経験歓迎! 経験者は即戦力で働ける! 邪悪な侵略国家の魔の手から愛する故郷を守り抜こう! 帝国機甲兵団パイロット科』
『先輩っ、傭兵辞めたって本当ですか!? 復帰するなら好きなポストにねじ込むっすよ!』
どこから嗅ぎつけてくるんだか、しょうもない求人広告やらメッセージやら着信やらが山ほど来やがる。
傭兵の仕事もそうだった。即戦力、高時給とかの文句に釣られて、カスオペレーターに搾り取られる羽目になった。
けど私はもうだまされない。
傭兵はもう辞めた。デカいロボット乗り回して無人機やら傭兵やらと小競り合いするなんてばからしい。
時代はオペレーターだ。戦いは全部パイロットに任せ、あれしろこれしろと指示するだけでお金がもらえる。他のパイロットはどうしてオペをやらないんだろう? たぶん私ほど賢くないから気づけないんだろうな、この世の真理に。
真面目に働くのはアホ。そんな連中からうまく搾り取るのが賢い生き方なのだ。
悪徳オペレーターに私はなる。
3月1日
パイロット見つかんない。
いや、人自体はたくさんいるけど、「オペレーター経験なしの人はちょっと……」って断られる。
クソが。誰だって最初は未経験だろうが。大人しく専属契約させろや。
けど諦めない。ボロ雑巾になるまで搾り取って捨てる予定のパイロットを見つけるぞ!
『貴女の腕を遊ばせておくのは惜しい。我々テックマンは腕の立つテストパイロットを常に必要としている。よければ下記アドレスへ連絡を』
ええいクソ、受信拒否したのにしつこく送ってきやがってテックマンの野郎! 音声ログ中に割り込んでくんなや!
3月3日
バレない中抜き、経費水増しのやり方を勉強した。あのクソオペのやり口はとても参考になる。
あとは都合のいいパイロットさえ見つかれば……
3月30日
パイロットが見つかった!
声からしてかなり若い、たぶん私が傭兵やり始めたのと同じ年ごろの少女。
傭兵稼業のことを何も知らないみたいだった。世間知らずなガキ。カモネギ、渡りに船とはこのことだ。パイロットネームは「カモ子」で登録しておいた。奴隷と馬車馬も良かったんだけど、さすがに露骨だし。
よーし、こいつからたくさん横領してやるぞ!
4月1日
クソッたれ。
カモ子の野郎、クソザコだ。
そこらの雑魚無人機を掃討する依頼で死にかけになりやがった。修理費で報酬が全部吹っ飛んだし、足りない分は私のポケットマネーから出した。大赤字だ。
道理で未経験オペの私と組んだわけだよ。ザコ過ぎて誰も組んでくれないんだろう。せめて契約する前に実力を見とくんだった。
いっそ殺すか……いやいや、契約してすぐパイロット死亡とか、ゼロの信用がマイナスになっちゃう。
じゃあ鍛えよう。
巨大ロボ、
そして強くなったカモ子を働かせ、私はうまい汁を吸う。
完璧すぎる。自分の才能が怖い。
4月2日
『うう……ごめんなさいオペさん……わたしっ、ぜんぜん、分からなくて、下手で……ぐすん』
『大丈夫大丈夫! 最初は誰でもこんなもんです。歩いて照準するまでは出来ましたよ。この調子! 明日もがんばろう!』
『ぐすっ、はい……!』
以上、本日の進捗。
殺すぞマジで。
まっすぐ歩くことすらできないとか話にならんのだが。よくこれで傭兵やろうと思ったな死にてえのか? 泣いてるヒマあったらもっと訓練しろアホガキ。
ふう、すっきりした。音声ログは最高のはけ口だぜ。
しかし、はあ……
カモ子がまともに仕事できるまで、どのくらいかかるかな……
ーーー
少女には金が必要だった。
しかし少女は身元を明かせない。名前もない。職を得るのに必要な、最低限の信用がない。
そういった何もない者の受け皿が、傭兵という職業だ。
人型機動兵器、
少女はさっそく傭兵組合の施設に出向き、登録手続きを行った。内面の空白を示すような白髪と病的に白い肌、白いワンピースに裸足という出で立ちに、他の傭兵たちが目をむく。
端末をぽちぽちと操作していくと、ADはレンタルが出来るらしい。機体整備は組合の施設か、民間の業者か選べるようだが、よく分からないのでスキップした。
そうしてテンポよく手続きを進めていくと、
『オペレーターとのマッチングを希望しますか?』
「何それ?」
こてん、と首を傾げる。
するとAIがその様子を読み取り、画面にポップアップが表示される。
『オペレーターは傭兵の活動全般を支援します。依頼の精査、報酬の税務処理、機体整備の手配、戦術情報の処理、作戦行動の管制、戦術の提案とそれに伴う機体構成など。傭兵の主業務である戦闘に付帯する業務を総合的に請け負います』
「ううん?」
ごちゃごちゃした単語が多くて理解できなかったが、要は頼れるお手伝いさんだろう。
少女は傭兵のことを知ってはいるが、具体的な仕事内容はほとんど知らない。お手伝いさんがついてくれるなら心強い。マッチングを希望する、をタップした。
読み込み中の画面が表示され数秒後、中性的な機械音声が響く。
『こんにちはー。オペ子です。オペの経験はないけど傭兵の経験はあります。一緒にたくさんお金を稼ごう!』
「あ、はい。よろしくおねがいします、オペ子さん」
『えっ』
音声が沈黙し、それから探るように問う。
『……契約してくれるってこと?』
「はい。私は何も分からないので、オペレーターさんがお手伝いしてくれるなら、とっても心強いです」
『お゛ぉ……』
加工されていても汚いうめき声を漏らすオペ子。
少しして、画面にずらっと文字が羅列された。
難しい単語が多くて読みにくい。一番下に署名欄があるので、ここに書き込めばいいのだろう。
しかし少女には名前がなかった。タッチパネル上で細い指先が所在なさげに惑う。
『どうかしました?』
「あの、名前が……」
『あ、本名出したくない感じ? じゃあパイロットネームでいいですよ。私もそうでした』
「『パイロットネーム』ですね。ぱ、い、ろ……」
『違う違う違う! 仮の名前! 傭兵としての! 仕事でも使うからもっと考えて。あと契約内容ちゃんと読んでます?』
仕事上の名前らしい。
途方にくれた。少女にはお金が必要であること以外に何もない。無から自分の名前を考えるなんて無理だ。
立ち尽くす少女に焦れたのか、オペ子が言った。
『カモ子にしよう』
「カモ子? どういう意味ですか?」
『すごく縁起が良くて素晴らしい、という意味』
「すてきです! 今から私はカモ子です!」
一瞬でそんなにいい名前を思いつくなんて、オペ子さんはなんて賢い人なんだろう、少女──カモ子は無邪気に喜び、端末上の電子契約書にカモ子と書き込んだ。たった今貰った自分の名前を書くのは面映ゆくて、オペ子が爆笑を必死で我慢する唸り声は耳に入らなかった。
『よし、契約完了。これで私たちはパートナーだ。改めてよろしく、カモ子』
「はいっ、よろしくお願いします、オペ子さん!」
こうして何もない少女はカモ子の名を与えられ、傭兵になったのだった。
ーーー
世界は三つに分割されていた。
一つは内地。三大勢力がそれぞれ大規模な居住都市を保有する広大な土地だ。傭兵組合の施設もここに位置する。
もう一つは外縁。三大勢力とその他の勢力が入り乱れ、様々な利権を巡って争う荒れ果てた戦場。
そして最後が、汚染区域。特殊なエネルギー資源によって汚染され、古代の自立無人兵器が跋扈する不毛の土地である。
無人兵器は頻繁に汚染区域から外縁に現れ、ときに内地にまで侵入する。
これを撃破する依頼は絶えることなく、新人傭兵の登竜門として認識されていた。
故にカモ子もまた、初めての仕事として『無人機撃破』の依頼を請け負ったのだが──
「きゃーーー!? 死ぬぅううう!?」
『死なないから! ADの装甲なら百回喰らっても平気だし!』
「きゃーー!?」
『聞いてないなぁ! あーもー!』
結果は散々だった。
輸送ヘリから鉄の巨人が切り離され、任務開始。
かと思いきや、着地と同時にカモ子のADは転倒。
立ち上がろうともがくうちに鳥型無人機『コルウス』が群がり、エネルギー弾を集中砲火し始めた。
レンタル品とはいえ、ADは強力な兵器だ。木っ端の無人機程度の攻撃はやすやすと弾く。
それでも初めてづくしのカモ子には怖いのだろう。レバーやフットペダルをめちゃくちゃに操作して、駄々をこねる子供のように暴れている。
「死にたくないよぉー!」
オペ子の声も聞かずに暴れていると、たまたま指が操縦桿のトリガーボタンに触れた。
背部のマルチミサイルのトリガーだ。すでに
ザコ無人機のコルウスは機動力も低い。ミサイルを振り切れず、全滅した。
あとに残されたのは、装甲の一部が溶けたボロボロのレンタルADと、いまだにパニック状態のカモ子。
『カモ子ォ!』
「はい!」
『お疲れ様! 帰ったら話あるから!』
一喝で無理やりパニックを抑え込まれ、周囲を見る。敵の姿はもうなかった。
呆けるうちに機体が揺れた。輸送ヘリのワイヤーウィンチがレンタルADを捉えた衝撃だ。ヘリは悠々と高度を上げ、組合の施設へ回頭。
往来の激しい通路から、傭兵登録をしたエントランスに移動し、ソファに腰を下ろした。
「はい、もしも──」
『ADの操縦経験は?』
機械音声による質問。相手はオペ子だ、
少し迷い、白状する。
「さっきのが初めてです」
『っすぅー……』
「やっぱり未経験はダメですか?」
『……そんなことはありません。最初は誰でも未経験です。これからちょっとずつ戦えるようになってくれたらいい。焦らずにやっていきましょう』
「オペ子さん……はいっ、がんばります!」
今回の依頼がうまくこなせなかったことは、分からないことだらけのカモ子でも分かる。それでも励ましをくれたオペ子の優しさに、胸がじんと熱くなった。
『今日は初めての実戦で疲れたでしょう。がんばるのは明日から。ゆっくり休んでね──ちなみに』
ぽん、と端末が着信の音を立てる。メールのようだ。
『収支報告書を送っておくから、参考にして。また明日』
カモ子は受信したデータを開く。
数字がいっぱい並んでいる。マイナスと赤色がやけに多い。
意味はよく分からないが、ここにある数字の分だけお金を稼いだ、ということだろう。
まさか一度戦いに出ただけでこんなに儲かるなんて、傭兵はいい仕事だ。優しいパートナーにも出会えたし。
「みんなにおみやげ買ってかーえろ!」
オペ子の言外な嫌味と悲鳴にはまるで気づかず、カモ子は軽やかな足取りで帰途に就くのだった。
当作品はフィクションです。実在の人物、団体などとは一切関係ありません。