とある悪徳オペレーターの音声ログ   作:ロボバトル曇らせメリバ百合風味

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7. 失踪

9月26日

 よしよし、いいぞ。

 

 あの爺さん撃破をカモ子の功績に出来た。戦闘記録を改ざんするのはたいへんだったががんばったぜ。

 

 おかげでカモ子は一躍時の人だ。おいしい仕事がぽこじゃか舞い込んでどれをやるか迷っちゃう。

 

 複数同時に受注して効率よくやっていけば、この前の大赤字は二か月くらいで返済できるはず。

 

 すでに機体の修理はできている。

 

 やってやるぜ。

 

 

 

9月30日

 クソッたれ。

 

 カモ子の調子が悪い。今日は二件しか依頼をこなせなかった。

 

 なんなんだよもう、今が稼ぎ時なのに。

 

『何か悩んでいませんか?』

『いえそういうわけでは……なんかちょっとモヤモヤしてて、よくわかんなくて……すみません』

 

 メンタルケアしようにもこんな感じで要領を得ない。文字通りモヤモヤしていて悩みを言語化できないっぽい。

 

 この状態で仕事を詰め込めばしょうもないミスで死ぬか大けがするかだし、どうすっかな。くよくよしたことあんまりないからよく分かんねえのよな。

 

 

 

10月10日

 カモ子のメンタルケア完了! 私がその気になればこんなもんよ。

 

 まあ何もしてないんだけど、きっと私のありがたい声と言葉で勝手に救われたんだろう。私すごいな。

 

 ぎっちり仕事を詰め込んでがっつり稼いだ。

 

 赤字をどうにかしないことには甘い汁を吸えない。私も鉱山バイトを増やしてちょっとずつ返済にあてないとな。

 

 そしてゆくゆくは、私がカスに横領された十年分の損失も……無理だこれ。

 

 あのカスオペっ、横領の神かよ! 最新型AD一式がダース単位で買える額じゃん! チマチマ十年もくすねやがってよぉ、何に使ったんだよギャンブルか女か!?

 

 このレベルの悪徳ムーブはまだ難しいな。

 

 日々成長だ。一歩ずつコツコツと、悪徳オペレーター道を極めていこう。

 

 

 

10月15日

 さて今日は……痛いっ、いたたたた!?

 

 ふ、古傷がっ、尋常じゃなく痛い!?

 

 ログってる場合じゃない、薬薬ぃ!

 

(ざらざら、と何かを流し込む音)

 

 ……。

 

 ふぅ。

 

 

 

10月20日

『ガイドビーコン設定、撃破優先度マーキング。赤、黄、白の順番に撃破しなさい』

『了解っ! 作戦開始──』

『あー違う違う! そっちは共和国行きです、今掘ってるのは帝国工廠行きだから、こっちのコンテナ!』

『……オペ子さん?』

『こらーっ! そんな掘り方してたら鉱石が粒子化しちゃうでしょ摩擦熱って知らないんですか! 横着せずにLNスロワーを使いながら──』

『副業してますよね? 絶対何かの副業してますよねオペ子さん?』

 

 危ない危ない。危うく鉱山バイトがバレるところだった。

 

『私、最近数学を勉強してまして。債務記録の返済額がどう考えても依頼の報酬より多いんです。これもオペ子さんですよね?』

『ECMです。ざざー、びびー。ビーコンの通りに動くように。オーバー』

『ちょっとぉ!』

 

 とっさの判断で完璧に誤魔化すことができた。

 

 

 

10月31日

 返済完了!

 

 バイトの給料が上がったおかげで想定より早く返せた。

 

 カモ子の名は売れ、腕も上がっている。依頼一回の黒字額はかなりのものだ。

 

 つまり、いよいよ始まる。

 

 傭兵を戦場に放り出し、報酬から分け前を思うさま中抜きする、理想の悪徳オペレーター生活が始まるのだ!

 

 ここまで長い戦いだった……実に半年。

 

 カモ子が予想をはるかに下回るザコカスだったのを初め、レンタル機の買い取り、ストーカー爺さんの被害……すべての障害を乗り越えついに、私は理想を実現したのだ。

 

 もうバイトもやめよう。

 

 明日からは毎日札束のお風呂に入り、帝国一番街の高級料理店でおいしいごはんをお腹いっぱい食べながら、戦場のカモ子に雑な指示だけ出して悠々自適に暮らすのだ。お金と時間は無限にあるし、病院で古傷治すのもいいな。健康は大事だもんな。

 

 うへへ。

 

 想像するだけで涎が止まらないや。

 

 

 

11月1日

 ふーざーけーるーなー!

 

 あのクソっ……このっ……うにゅああああ!?

 

(言葉にならない絶叫および、重たい打撃音)

 

 ……ふぅ。

 

 ぶっ殺してやる。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 御老公の撃破以来、カモ子の名は一躍有名になった。

 

 元より新人とは思えない勢いで多くの依頼を達成し、帝国との共同でイレギュラー無人機『ラルヴァ』を倒したことで注目されていた。そこに『大戦末期の英雄の単独撃破』という輝かしい戦績が加わり、周囲からの認識は期待の新人から一流の傭兵へと変化したのだ。

 

 そうした評価のみならず、目に見える見返りもあった。御老公撃破の臨時報酬だ。

 

 御老公は半年前のとある依頼を境に消息不明となり、幽鬼のごとくふらりと戦場に現れてはその場の全勢力を叩きのめし、物資を掠めとる被害を出していた。イレギュラー無人機に匹敵する害悪と化していた彼を討伐したことに、組合を通して三大勢力から謝礼金が送られてきたのだ。

 

 カモ子は勢力依頼十数回分に相当するそれを見て、素直に喜んだのだが。

 

『全っ然足りませんよふざけるなぁぁぁ! けちんぼ共がよぉぉぉ! ありがとうの気持ちが伝わってこないんですけどおおお!?』

 

 と、オペ子はたいへん荒ぶっていた。

 

 髪を振り乱しているのが伝わってくる叫びに気が引けつつ、カモ子は気丈に問う。

 

「あの、今回もムイさんに依頼を出してくれたんですよね」

『はぁ? ムイ? 誰それ……あっ、そうそう。そうですよ』

 

 やっぱり、と納得する。

 

 御老公の撃破後、ムイはカモ子を組合に送り届けるといつの間にか姿を消してしまった。お礼を言う暇も、助けに来てくれた経緯を聞く暇もなかったけれど、やはりオペ子が手を回してくれたらしい。

 

「ありがとうございます。オペ子さんとムイさんがいなかったら、私……」

『どういたしまして。仕事ですから、気にしすぎなくていいですよ。ムイもそう言っています』

「ムイさんが?」

『ええ。感謝してるのは分かったから鬼電とメール爆撃をやめろ殺すぞ、とのことです』

「ごめんなさい、つい気が逸って。今度うちに来たとき、直接お礼を言いますね」

『お礼だと? こっちは命の恩人様だぞ。おいしい料理と接待で最大限もてなせ、と言っています』

「そこに居るんですか?」

 

 少し間が空いて、声。

 

『……えーと。私とムイは友だちで……いや違うな……よしこうしよう』

「??」

 

 まるで今設定を思いついたような言い草に首を傾げる。

 

 カモ子の疑念をよそに、オペ子は衝撃の事実を明かした。

 

『私はムイのオペレーターも兼業しています。長年のパートナーなので、ヤツがどう答えるかくらいわかるんです』

「そうなんですか!?」

 

 言われてみれば、オペ子には副業をしている素振りがあった。カモ子に戦術指示を出した直後の間隙にムイの方をオペレートする、といった風に仕事を同時進行していたのだろう。

 

 得心のすぐ後、疑念が湧く。

 

「あれっ、でも依頼したって言ってましたよね? パートナーなのになんで? それに私と契約したとき新人オペと言っていたような……なのに長年の付き合いって?

『無駄話は終わりです』

 

 オペ子が強引に話を切った。

 

 そのまま通話まで切ろうとするので、慌てて食い下がる。

 

「待って待って! これだけ教えてください! ムイさんって何者なんですか?」

『はぁ?』

「だって強すぎじゃないですか!」

 

 御老公は大戦末期の英雄だ。実際に相対して実力をこれでもかと思い知らされた。

 

 そんな御老公を兵器でもなんでもない作業用重機、WDで瞬殺したムイは、一体何者なのか。

 

 当然の疑問に対し、オペ子は「ああ」と気のない返事。

 

『そのことは考えなくてよろしい。人が歩くように、鳥が飛ぶように、ムイはただ強い。それだけです』

「はぁ?」

 

 オペ子は煙に巻こうとしている。

 

 なおも粘ろうとするが、

 

『今、事後処理の真っ最中なので』

 

 と言われては閉口するしかなかった。

 

 依頼前後に発生する各方面との折衝、財務管理、機体の調整など、オペレーターのやることは多い。今回のように臨時かつ高名な敵の撃破、しかも機体が全損するおまけつきとなれば、途方もない業務量が発生することはカモ子にも想像がついた。

 

 その渦中にいるオペ子は、

 

『しばらくは休んでください。また連絡します』

 

 変わらず事務的にそう言って、通話を切った。

 

 暗くなった携帯端末画面を見つめながら、つぶやく。

 

「忙しそう……」

 

 お礼を言いたいだけではない。相談したいことがあったから連絡した。

 

 けれど頼れるオペ子は忙しくしているし、そもそもそれでいいのか、とも思う。

 

 オペ子は頼りになる。なりすぎると言ってもいい。戦場で迷いが生じれば、ゼロコンマ数秒後には的確な指示と共にガイドビーコンが設置され、カモ子は忠実に従うだけで最大の結果を得られる。戦場でなくとも、悩みを吐露すれば真面目に聞いてくれるだろう。

 

 だから頼りすぎてしまう。オペ子に依存し、自分の頭、自分の力で何かを成すことが難しくなっている。そうした現状にカモ子はぼんやりした危機感を持ち始めていた。

 

「一人でがんばろう!」

 

 危機感に従い、カモ子は決断した。

 

 心中に淀むとある悩み。これをカモ子に頼らず、自分の力だけで解決してみせるのだ、と。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「ダメ! 無理!」

「うわっ、何よ急に」

 

 休暇が始まって三日後。

 

 傭兵組合内、食堂にて。隣に並んで座るPJにカモ子は縋りついた。

 

「一人でくよくよ考えるのしんどい! 話聞いて!」

 

 とりあえず三日は頑張った。朝から晩まで、ごはんを食べるときも、夜寝る前にも、シミュレーターで訓練してる最中にも自分の悩みと向き合って、じっくり考えてみた。

 

 結果、答えは出ない。頭から煙が出そうな様子を見かねてか、妹たちには心配されるし、忙しいオペ子にさえ伝わって「悩み事あります?」と聞かれる始末。

 

 一人で頑張りたい気持ちは本当だが、多忙なオペ子への気遣いも本当だ。結局心配をかけては本末転倒である。

 

 そこまで考えが及んだところで、カモ子は音を上げたのだ。

 

 ちょうどそのとき、シミュレータールームで合流したPJと食事を共にしているところだった。

 

 悩んでいるので助けてほしい。ざっくり事情を説明すると、PJはカモ子の頭にぽんと手を置く。

 

「分かったからちょっと離れて。この姿勢は話しにくいわ」

 

 PJの腰に回していた腕を解き、素直に離れる。

 

 PJは少し顔を赤くしながら、ナプキンで口元を拭い、食器を静かに皿にかけ、カモ子に向き直る。

 

「で、何を悩んでるわけ?」

「うん、えっと……」

 

 どこから話すべきか。

 

 少しの逡巡を経て、言葉を紡ぐ。

 

「記憶について、なんだけど」

「記憶?」

「うん。Pちゃんは知ってると思うけど、私って記憶喪失なんだよね。テックマンの施設から逃げ出したのは覚えてるんだけど、どうやって逃げたのかぼんやりしてて。御老公さんとの戦いで──」

「待って待って情報量多すぎるから、待って」

 

 視線を上に向け、何度か瞬きをしてから、PJはまじまじとカモ子を見やる。

 

「記憶喪失、だったのね。これはいいわ。受け入れる。その次は?」

「テックマンの施設から逃げ出した……」

「そこ! テックマンってあのテックマン? その施設? どういうこと?」

 

 PJは困惑していた。

 

 カモ子も戸惑う。PJとは大分親しくなったつもりだったので、とっくに話した気になっていた。

 

「私がテックマンの実験動物だった話、しなかったっけ? 妹たちもそうなんだけど」

「初耳よ!?」

 

 目を見開いて詰め寄るPJ。

 

 カモ子は肌触りのいいブラウス──PJとのショッピングで買ったもの──の胸元を開き、バーコードと管理番号を露出させた。

 

「やめなさいはしたない!」

「ぐえ」

 

 直後、首を絞める勢いでボタンを留められてしまう。

 

「けほっ、うぇ」

「ご、ごめん」

「ううん。えっと、今見せた番号で管理されてた実験動物だったの。それでね──」

 

 かつてムイに話したのを同じ内容を語る。

 

 カモ子と妹たちは失敗作の烙印を押され、直に廃棄される予定だったこと。どうにか逃げ出そうとするうち、施設で何らかの騒ぎが起き、混乱に乗じて逃げ出したこと。その末に生活のため傭兵となり、オペ子と出会って今に至ること。

 

 そこまで聞くと、PJはカモ子を抱きしめた。

 

「Pちゃん? 泣いてるの? 大丈夫?」

「ぐすっ……勘違いしないでよね。別に同情なんてしてない。こうしたいからこうしてるだけよ」

 

 話の腰を折られたものの、PJの体のぬくもりと優しい気持ちが伝わってくるようで、カモ子はしばし抱擁を受け入れる。

 

 数分後、PJは険しい顔つきで背筋を伸ばす。

 

「悪かったわね。続けて?」

「うん。どこまで話したっけ……そう、記憶だ」

 

 きおく、と繰り返し呟く。

 

「妹たちを連れて施設を走り回った。それから大きな乗り物にみんなで入って……気が付いたら九番街にいた」

 

 言葉にするとより明確になる大きな欠落。施設を脱出した具体的な方法について。

 

 深く考えたことはなかった。思い出せない過去よりも今を生きる方が忙しいし、何より今が充実していたから。

 

 けれどこの欠落を意識せざるを得ない出来事が起きた。

 

「御老公さんと戦って、少しだけ思い出したの」

 

 機能を停止し、真っ暗な鉄の棺桶と化したADのコックピット。装甲を隔てたすぐそこに明瞭な死が迫っている極限状態が、走馬灯に似たフラッシュバックを引き起こした。

 

 脳裏を駆け巡る情景。

 

 警報の響く無機質な通路。妹たちの体温、息切れの音。

 

 暗闇に佇む巨人。胸にぽっかりと空いた穴に妹たちとなだれ込む。

 

 痛み、破壊、閃光、そして──

 

「何かと戦ったんだと、思う。たぶん、施設のADに乗ったのかな。戦って、振り切って、逃げた……?」

「筋は通るわね」

 

 はっ、と息をのむ。

 

 PJの声で意識が現実に戻ってきた。

 

 おそらく、と前置きしてPJが続ける。

 

「テックマンは三大勢力よ。その施設に防衛用のADの一つや二つはあって当然。管理がずさんなのは『騒ぎ』とやらの影響でしょう。貴女はそれを奪い、追手を振り切って帝国領へ逃げ込んだ、ってとこかしら」

「たぶん」

 

 カモ子が頷く。

 

 断片的な記憶を線でつなげばそうなるだろう。カモ子も同じ意見だ。

 

 けれどどうしようもない矛盾が残る。

 

「でも私、傭兵になってすぐの頃は、ADがほとんど動かせなかった。テックマンの追手と戦っても絶対勝てない」

 

 カモ子のAD操縦技能は、傭兵になった後、オペ子との猛特訓で身に着けたものだ。施設を逃げ出した時点では素人同然であり、戦うどころか歩くこともままならない。これで追手を振り切るのは無理がある。

 

 そしてもう一つ。

 

 カモ子の心中に蟠る悩みのうちで、もっとも大きなしこりがあった。

 

「私は……何かを見た」

 

 施設から逃げるため、必死で戦った。

 

 四方八方から飛び交う戦火。息が詰まるほどの殺意と敵意、緊張感。怯える妹たちの声。青く青く、どこまで突き抜ける空のように青い、青い閃光。

 

 そんな中で、カモ子は何かを見たのだ。

 

「何か、見たの」

「何かって?」

 

 それが分からない。カモ子は力なく首を振った。

 

 大切なものだった気がする。忘れてはいけない気がする。思い出さなければ後悔する確信がある。なのに何も思い出せない。

 

 体のどこかに致命傷があるのは分かるのに、どこが痛むのか分からないような、漠然とした焦燥と危機感だけが燃えているのだ。

 

 すべての悩みを吐露し、カモ子は口を閉じる。

 

 対するPJは腕を組み、空の皿にじっと視線を落としていた。

 

「実験動物と言っていたけれど」

 

 やがて沈黙を破ったのはPJだ。カモ子も俯いていた顔を上げる。

 

「具体的には何の実験?」

「確か、人の革新? 強い人類を作るぞ、みたいな」

「その施設の場所は?」

「北……西? いや南……覚えてない」

「施設に来るより前の記憶は?」

「覚えてない」

「妹さんたちも同じ?」

「うん、聞いてみたけど覚えてないって」

 

 短い問いを重ねるPJ。

 

 そのほとんどに覚えてない、分からないと答えるごとに、解決しようのないことが突きつけられるようで、カモ子は落胆を深めた。

 

 質問が十を数えたところで、PJは満足げに頷く。

 

「よし、手がかりは十分ね」

「えっ」

 

 目を丸くするカモ子に、PJが不敵に笑む。

 

「私はオペレーターよ? 依頼人の身元を洗ったり、依頼達成の政治的影響を予測したりが仕事なの。情報収集はお手の物よ」

「調べてくれるの!?」

 

 PJはそっぽを向いた。それは親切するときの照れ隠しだと、カモ子は十分に知っている。

 

「勘違いしないでよ。会うたび辛気臭い顔見せられたらうっとうしいってだけよ」

「Pちゃぁああん! ありが──」

 

 たまらず抱き着く直前で、カモ子は悟る。

 

 これではいけない。

 

 オペ子に頼らず一人でがんばると決めたのに、結局PJの優しさに甘えている。

 

 話を聞いてもらえるだけで良かった。とはいえ今更「やっぱナシ!」と言い出せるほど図太くはなく、何より自力では解決できないと三日間の煩悶で思い知らされている。

 

 ではどうするか。甘えずにPJの力を借りるには。

 

「──ありがとう、なんだけど! 依頼ってことにしない? 私からの個人的な、情報収集の依頼!」

 

 カモ子の頭が出した答えは『仕事』である。

 

 善意であれ、プロの技能を借りるなら対価を払うべき。半年の傭兵経験でそのくらいの常識は学んでいたのだ。

 

 PJは感心したように目を瞬き、カモ子の頭を撫でた。

 

「意外ときっちりしてるじゃない。えらい、えらい」

「えへへ。というわけで、先に報酬払っちゃうね。えい」

 

 褒められた、嬉しい。

 

 嬉しさのあまり、カモ子は携帯端末を取り出し、さっさとPJの口座に送金した。

 

 端末画面を見るや否や、PJがまなじりを吊り上げる。

 

「依頼内容も決めないうちに全額前払いはやめなさい! あと多すぎ! 書面にまとめるからちょっと待って!」

 

 お小遣い口座の全額送金は拒否されたものの、その場でPJが依頼内容と報酬、期間などを決め、カモ子の過去を探る正式な依頼が受注されたのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 記憶の欠落と、それに伴う謎の焦燥。

 

 悩みの大本は解消できなかったものの、そのために最大限行動した、という自負がカモ子の心を軽くした。

 

 PJの連絡を待ちながら、妹たちと遊び、訓練し、勉強を試みては居眠りして部屋を叩き出される日々を送り、二週間が経った頃。

 

 PJが失踪した。

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