「夜宵くん! 私たち、スクールアイドルを始めます!」
「……はい?」
放課後。
呼び出されたと思ったら、いきなりアイドルを始めると宣言された。
どうも、小鳥遊夜宵です。
……って、誰に挨拶してんだ俺は。
いや、それより。
「……スクールアイドル?」
「そう! スクールアイドル!」
「聞こえてる聞こえてる。店ん中なんだから静かにしろって」
身を乗り出してくる穂乃果の額を押し返す。
「穂乃果。まずは夜宵に事情を説明するべきでしょ
う」
「そうだよ、穂乃果ちゃん。夜宵くんにはまだ何も説明してないんだから」
「お、2人とも流石ー」
「えー! スクールアイドルだよ!? 分かるでしょ!」
「その情報だけで全部分かったら怖いわ」
「むぅ……」
頬を膨らませる穂乃果。
その横でことりがくすくす笑って、海未が小さくため息をつく。
昔から何度見たか分からない光景だった。
違うのは、今日の話題くらいだ。
「で、何があったんだよ」
「実は、音ノ木坂学院が廃校になるかもしれないんです」
「廃校?」
話を聞けば、音ノ木坂は入学希望者が減っていて、このままだと学校を存続させるのは難しいらしい。
「それで、入学希望者を増やすためにスクールアイドルをやろうってこと?」
「うん! 私たちがスクールアイドルになって学校を盛り上げれば、音ノ木坂に興味を持ってくれる人も増えると思うの!」
「なるほどなぁ……」
音ノ木坂、そんなことになってたのか。
「でも、なんでスクールアイドルなの?」
「夜宵くん、スクールアイドル見たことないの!?」
「名前くらいは聞いたことあるけど、ちゃんと見たことはないな」
「じゃあ、これ見て!」
待ってましたと言わんばかりに、穂乃果がスマホを差し出してくる。
画面に映っていたのは3人の女の子。
「A-RISEっていうの。すっごく人気なんだよ!」
「へえ」
高校生が学校でやっているアイドル。
正直、そこまで期待してなかった。
穂乃果が動画を再生する。
「…………」
想像してたのと全然違う。
歌もダンスも、詳しいことは分からない。
それでも、素人目に見てもレベルが高いことくらいは分かる。
気づけば、そのまま最後まで黙って見ていた。
「どう!? すごいでしょ!」
「……すげえな」
「でしょー!」
「これ、本当に高校生?」
「そうだよ!」
「マジか……」
もう一度、止まった画面を見る。
……これを、3人がやるのか。
スマホから顔を上げる。
穂乃果。
ことり。
海未。
「…………」
「何ですか」
「いや、別に」
海未の冷ややかな視線が刺さる。
「なぜ私を見たところで黙るのですか」
「気のせいだろ」
「気のせいではありません」
……誤魔化せそうにない。
「まあ、それは置いといて」
「置かないでください」
やっぱり誤魔化せそうにない。
「ごめん。やっぱ海未がアイドルは想像つかん」
「なっ…夜宵!」
穂乃果が吹き出して、ことりも口元を押さえて笑う。
怒る海未を横目に、俺も笑った。
「でもほんと意外だな。海未なら断ると思ってた」
「私も最初は断ったんですよ?」
「なんかあった?」
「まあ……色々と」
「そっか」
うん、これ以上は何も聞くまい。
「で、穂乃果」
「ん?」
「本気?」
穂乃果がまっすぐ俺を見る。
「うん!」
「そっか」
ほんの少し、間が空く。
「……応援してくれる?」
「当たり前だろ」
「ほんと!?」
「嘘ついてどうすんだよ」
3人が顔を見合わせて、嬉しそうに笑った。
……何より。
まあ、1人だけもう少し静かに喜んでほしいけど。
ここ店内だよ?
***
店を出ると、外は暗くなり始めていた。
「よーし! 明日から頑張るぞー!」
「穂乃果。その前にやるべきことをきちんと考えないといけませんよ」
「分かってるってー!」
「本当に分かっているのですか?」
前を歩く2人を見ながら、ことりがくすくすと笑う。
「練習もだけど、衣装も考えないとね」
「衣装かぁ。どうしよう?」
「私、作ってみたいなって思ってるの」
「ことり、作れるの?」
「うん。やってみたいなって」
「へえ、すげえじゃん」
「えへへ。ありがとう、夜宵くん」
ことりが笑ったまま、こっちを見る。
あ、すっごい嫌な予感がする。
「…………」
「何?」
「夜宵くんのも作ってみようか?」
「なんで?」
「え?」
「いや、なんで?」
「似合うと思うよ?」
「何が」
「アイドル衣装♪」
……やっぱり。
「私も見たい!」
「穂乃果まで乗るな」
「いいじゃん! 1回着てみようよ!」
「着ない」
「全く……穂乃果、ことり」
「う、海未……!」
やっと味方が現れたか……!
「それより、今は自分たちのやるべきことについて考えるべきです」
「それさっきも言ってたじゃん。てか助けてくれないんかい」
ことりが笑って、穂乃果もつられて笑い出す。
海未はそんな2人に呆れたような顔をしていた。
……頼むから、俺の衣装の話は忘れてくれ。
1話です。
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