昼休み。
ことりからメッセージが届いた。
『今日ね、神社で練習するの』
『へえ、頑張れ』
『夜宵くんも来てよ』
『なんで?』
『練習するからだよ』
『理由になってないだろ』
『だめ?』
『……別にいいけど』
そう返すと、すぐに嬉しそうな返事が届いた。
***
放課後。
言われた通り神社まで来た。
境内へ入って少し歩くと、階段の辺りに3人の姿が見える。
どうやら、もう練習は始まっているらしい。
「あ……夜宵くん……」
階段の上で、ことりがこっちに気づいた。
「来て……くれたんだ……」
「来てほしいって言ったの、お前だろ」
「えへへ……そうだけど……」
「夜宵く〜ん……」
今度は穂乃果が、今にも地面に溶けそうな声を出す。
……いや、声だけじゃないな。本人も地面と一体化しかけてる。
「……何してんの?」
「見れば分かるでしょ……休憩……」
「いや、それは分かるんだが」
「なら聞かないでよぉ……」
その地面一体化はなんとかならんか。
「2人とも、休憩は終わりです」
「えぇ〜!?」
「もう少しだけぇ……」
「駄目です」
海未だけは、まだ余裕がありそうだった。
「夜宵くんからも言ってよ〜!」
「俺に言われてもな」
「裏切り者ぉ……」
何に対する裏切りなのかは知らない。
「では、もう1本行きますよ」
「うそぉ……」
「ことり、立ってください」
「はぁい……」
2人がどうにか立ち上がり、海未と一緒にまた階段へ向かっていく。
俺はその場に残って、その後ろ姿を眺めた。
……めっちゃきつそう。
「あの3人、頑張ってるみたいやね」
「……?」
不意に聞こえた声に振り返る。
巫女服を着た女の人が、少し離れたところに立っていた。
「……そうですね。だいぶ疲れてますけど」
「ふふ、それでもちゃんと続けてるやん」
そう言って、彼女は階段を走る3人へ目を向ける。
「君、あの子らの知り合い?」
「幼なじみです」
「へえ、幼なじみなんや」
「あっ自己紹介まだやったね。ウチは東條希。音ノ木坂の3年やよ」
「小鳥遊夜宵、2年です」
「よろしくね、小鳥遊くん」
「こちらこそです。東條さん」
東條さんは、また3人の方を見る。
少しして、こっちへ視線が戻ってきた。
「ところで、小鳥遊くんは一緒にやらへんの?」
「いや、俺は見に来ただけです」
「そうなん?」
「そもそも俺、アイドルじゃないですし」
「う〜ん。いけるんちゃう?」
「なにがいけるんですか」
東條さんが小さく笑う。
その向こうでは、穂乃果がまた地面と一体化しかけていた。
……ことりも一体化しそうになってる。
どうなってんのあれ。
「なあ…あれどうなってるん?」
「……こっちが聞きたいですよ」
「面白い子たちやなあ」
東條さんは、もう一度3人の方を見る。
「じゃあ、ウチはそろそろ行くな〜」
「はい」
「小鳥遊くんも練習、頑張ってな」
「だから俺はやりませんって」
「ふふ。ほな、またね。小鳥遊くん」
「……はい。また」
軽く手を振って、東條さんは歩いていった。
その後も、俺は3人の練習をしばらく眺めていた。
穂乃果とことりは何度も限界を迎えていたけど、それでも最後まで走っていた。
本当に始めたんだな。
そんなことを、改めて思った。
***
練習が終わり、4人で神社を出る。
さっきまであれだけ疲れていた穂乃果とことりも、少しは回復したらしい。
「そういや、練習以外はどうなってんの?」
「練習以外?」
「曲とか衣装とか」
「衣装ならね、もう考えてるよ」
「もう?」
「うん♪ ほら」
ことりが鞄からノートを取り出して、俺の前で開く。
そこには、衣装の案らしい絵がいくつも並んでいた。
「この前言ってたの、これか」
「うん♪ どう?」
「アイドルっぽい」
再度ノートに目を落とす。
思っていたより、ずっと本格的だった。
「それでね」
「ん?」
ことりが楽しそうにページをめくる。
「こっちが夜宵くんの♪」
「…………」
そこには、どう見ても俺が着ることを想定した衣装の案が描かれていた。
「なんであるんだよ」
「ふふっ、冗談だよ〜」
いや、案まで描いてるし。
冗談に聞こえねえ。
「着てくれる〜?」
「……で、他は?」
「…………」
ことりがじっとこっちを見る。
「……歌詞は海未ちゃんが考えてるんだよ」
「海未が?」
「はい」
「ああ、そういや中学の頃も――」
「夜宵」
「はい」
「それ以上は言わなくて結構です」
「まだ何も言ってないけど」
「言おうとしたでしょう」
「何のことやらさっぱり」
横を見ると、穂乃果とことりが揃ってニヤニヤしていた。
「……なんですか、2人とも」
2人はずっとニヤニヤするだけで何も答えない。
海未の顔がさらに険しくなった。
「それで、あとは曲なんだけどね!」
何事もなかったみたいに穂乃果が話を戻す。
「作ってほしい子がいて、お願いしてるんだ」
「へえ」
「1年生の子なの!すっごい歌上手なんだよ!」
「へえ、それで作ってくれそうなの?」
「それが……1回断られちゃって」
「断られたのか」
「うん。でも、もう1回お願いしてみる!」
「そっか。作ってくれるといいな」
「うん!」
そこからも、3人の話はしばらく続いた。
衣装のこと。歌詞のこと。これからの練習のこと。
まだ始まったばかりなのに、話したいことは山ほどあるらしい。
俺はそれを聞きながら、3人と並んで帰った。
次に会う頃には、また何か増えているのかもしれない。
2話です。
読んでくださりありがとうございます。
AIを活用しても、中々上手く作れない自分の力不足をすごく感じています。