衛宮士郎がサーヴァントとしてジェラルドを召喚する話。 作:夏目陽光
二〇〇四年、二月。
既に、太陽は地平線に溶けた暮れ頃。
開けっぱなしの扉から月光が差し込む、土蔵の中。四つん這いの俺に近づく青タイツの男が問いかける。
「そら、これで仕舞いだ」
男の持つ赤い槍が迫り、
「うおぉぉ!」
咆哮と共に、強化魔術を施したポスターで、その槍の一撃を防ぐ。しかし、強度が足りずにポスターが貫かれ、男が振るう槍の勢いのまま、壁に吹き飛ばされる。
その衝撃で、俺の口から力無く息が漏れ、床に尻餅をついて、持っていたポスターが手から離れた。
もう一度、ポスターを握ろうとした時、
「今のは少し驚いたぜ。坊主。
お前さん。七人目のマスターだったのかもな」
目の前に立つ男が槍を突き出した。世界がスローモーションに映る。赤い閃光。
死を覚悟して、昔に交わした、じいさんとの約束を思い出し、
「…俺はまだ、こんな所で」
と後悔が漏れた。
それに呼応して思考が引っ張られ、不条理だと怒りが込み上げる。
そうだ、何も成してないのに、こんな終わりは間違っている。
俺の胸を槍が貫く直前、ガギンと音が鳴る。
「え?」
それはきっと、奇跡だった。
「何!?」
俺の背後から現れたそいつは、大男としか分からない。
鈍い金属音が響き、俺の目の前の槍を振り払い、間髪入れずに俺と男の間に挟まり、睨み合う。
「まさか、七人目のサーヴァントだと!?」
弾かれた槍を構える男と右手の片手剣を握る大男。
先程の槍を薙ぎ払った影響なのか、大男の片手剣が欠けた。
瞬間、ブシャッと槍を持った男の腹が裂け、青タイツが血で汚れる。
それを不利と悟ったのか、目にも止まらぬ速さで男は土蔵の外へ、飛び出していった。
撤退する男を警戒しつつも、それは、豪快に振り返える。
風に流され、雲一つ存在しない夜。土蔵に入る月明かりが照らすそいつは、何処かで読んだ本の戦士に似ていた。
大男は、羽の付いた仮面の中の瞳で俺を見据え、
「問おう。貴様が我のマスターか」
力強い声で、そう言った。
「…マスター?」
いきなりの事で、状況が飲み込めず。
彼が何を言っているのか、分からなかった。
大男は逡巡し、
「サーヴァントアーチャー、召喚に応じ参上した!我が名、ジェラルド・ヴァルキリー!
マスターよ、案ずるな!貴様の敵は我が屠ってくれよう!」
上半身の裸を覆う、赤いマントを風ではためかせ、声を張り上げる。
彼の言葉に戸惑っていると、左手に焼きつく痛みが走り、手の甲を右手で押さた。
苦痛に悶える俺の姿を一瞥した後、大男は背を向け、扉に向かう。
「いきなり、何を言ってるんだ」
俺の一言は、ーー彼の背には届かなかった。