儚い系うすほそエルフになったので自由を謳歌する 作:うすほそ~(挨拶)
たしか、残業に次ぐ残業でへとへとに身も心も疲れ切った私は、家に帰り着くと同時にベッドに倒れ込んだはずだ。
しかし、どういうことだろう。
目を覚ました私は、なぜか森の中にいる。
まず真っ先に思ったのが、こんなゴツゴツとした地面で寝ていたら体が大変なことになるだろうという、場違いな感想。
ただすぐに、自分の体がどこもいたんでいないことを自覚する。
アレだけ感じていた疲労も、どこかに行ってしまったのだ。
まるで、疲れを知らない幼い頃へと戻ったかのような――――
いや、
明らかに自分の手足が、機能までと比べるべくもないほど補足なっているのだ。
というか、なんなら自分の子供時代よりも明らかに細い。
不健康とすら言えるガリガリの手足。
そして何より――視界に移る長過ぎる白の髪。
あきらかに、以前の自分とは違う別の何かへと成り果てている。
ちょうど手近にあった池に顔を映すと――そこに映っていたのは驚くべき姿。
あまりにも儚いとしか表現しようのない、うすほそ耳長少女がそこにいた。
エルフ、と表現するべきなのだろう。
透き通るような白い髪の、背丈は百五十と少しはあるだろう少女。
小柄ではあるが、幼いと言うほどではない。
しかし、そんな背丈なんてどうでもよく思えてしまうくらい、顔立ちは儚げでうすほそだった。
儚い系うすほそエルフである。
どうみても、感動系シナリオのヒロインだ。
最終的に世界を救って消滅しそうな見た目だった。
衣服は……白いローブを身にまとっている。
全裸でなくてよかった。
と、状況を認識すると同時。
――異世界転生、あるいは転移。
そんな言葉が、脳裏をよぎる。
直後、私の思考は仕事に意識が奪われていく。
明日の仕事どうするんだ、とか。
仮に戻れたとして、この姿のままだったらどうするだ、とか。
混乱した思考は、そんなことばかりぐるぐると考えてしまう。
ああでもどうしようもないだろう、こうなってしまっては。
だとしたら――
私は、煩わしい前世のあれこれを放り投げることにした。
そもそも、どうしてあんなにも投げ出したかった仕事を実際に投げ出せる状況に陥ってなお、仕事について考えなければならないのか。
理不尽すぎるだろう。
あきらめてこれからの事を考えることにした私が、最初に取り組んだのはチートの確認だ。
元の何の特徴もない社畜だった姿から、今の特別感ありまくりの儚いうすほそに変化したのである。
何かしら、特別な力が宿っていても不思議ではない。
というか宿ってないと最悪死ぬ。
これで完全に見た目通りのひ弱で無力な存在だったら、詰みだ。
森から出られず野垂れ死ぬぞ。
なので、祈りを込めて身体のうちに眠る力を意識し手をかざすと――
――そこから放たれた光線が、池の水を真っ二つにした。
地面も焼き切って、完全に大怪獣の熱線か何かである。
二つに避けた水はそのまま上空へと跳ね上がり、雨のように周囲へ降り注ぐ。
慌てて私は近くの木の下に避難すると、光線を放った自分の手を何度か開閉する。
やばい。
だが、これなら少なくとも、明らかにファンタジーな異世界で生きていけないことはないだろう。
その点にだけは、ほっと胸をなでおろす。
そして――
「い、一体何なのよ、これは……!」
突如としてやってきた少女に、びくりと肩を震わせた。
やばい。
○
現れたのは、今の私と同年代くらいの少女だった。
だいたい十五かそこらくらいで、紫のちょっとクセが強い長髪。
一房だけ髪を束ね、ワンピースの上に胸当てという可愛らしさと冒険者の装いをあわせたような服装。
腰には短剣を佩いていて、雰囲気としては斥候といったところ。
「……つまりアンタは、気がついたらここにいたってわけ」
「……はい、そうなります、です」
若干舌が回らない、というか。
普通に話そうとしても、ちょっと支えてしまう感じがあって、口調は少し変だ。
もしかして、喋っているだけで疲れてしまっている……?
やはり貧弱うすほそボディなのだろうか、私のこれは。
「それで、何かしようとしたらすごい光線みたいなのが出て、こうなった……と」
「申し訳ない、です」
「別に私に謝らなくてもいいわよ、私はたまたま採取で通りかかっただけなんだから」
そんな話をしてから二人して、めちゃくちゃになった池を眺めた。
地面がえぐられそこに水が流れ込み、光線の被害にあった魚がぷかぁ……と浮いている。
元あった自然な形の池は、完全に失われていた。
「とりあえず……浮いてる魚はもったいないから回収しましょう。大自然の恵みよ、うん」
「そ、そうです、か……」
「いいのよ、上位の化物冒険者か凶悪な魔物が暴れたにしては、まだきれいな状態だから」
こわ……
まぁ、いきなりこの世界に放り出されたうすほそエルフレベル1がこれだけできるんだ。
世の中には、もっとヤバいことができる連中がいてもおかしくない。
「ほら、アンタも手伝って」
「わかりまし、た。ええ、と……貴方、は?」
「私? 私はリンファよ。レイ・リンファ……名字が先なの、この辺りじゃ珍しいでしょ。で、そういう貴方は……名前なんてわかんないわよね」
「そうです、ね」
説明の際に、いきなりこんな場所にいて記憶もない、と少女――リンファには話した。
その方が都合がいいのもあるし、実際にこの世界の知識もないのだから、記憶なんてないのも一緒だからだ。
それにしても、なんとなく中華っぽい名前だな。
言われてみると、ワンピースもスリットが入っていてチャイナっぽく見えなくもない。
西洋と中華風の間の子というか、結構おしゃれなワンピースだ。
そして私が答えると、リンファは少し悩んでからぽん、と手を叩く。
「よし、リリアにしましょう。貴方はリリア、どう、可愛い名前でしょ?」
「……多分、似合っているとは思い、ます?」
「なんで疑問形なのよ! ほら、行くわよ」
「はい」
というわけで二人で池へと入って行って――
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」
「だ、大丈夫? まさか魚を採るだけでそこまで疲れるとは思わなかったわ」
「少し、まって……くだ、さい……」
私は死にかけていた。
貧弱――――
あまりにも体力がなさすぎる。
起きた時の感触からして、常に不健康というわけではない。
ただただ体力がないだけなのだ、おそらく。
いや、実際はちゃんと医者に視てもらったほうがいいのだろうけど――とりあえず、今はこの疲労感をなんとかするのが先決だ。
私は意識を集中して、体の疲労を消し去るように念じる。
すると――即座に元通りの、起きた当初の元気な感じが戻ってきた。
「……ん、お見苦しいところを、お見せしました」
「今なんか光ったわね……魔力? 魔術って、そんなこともできるんだ」
「魔術……なのでしょう、か。ちょっとわかりません、はい」
「まぁいいわ。しかしその虚弱っぷりじゃ、ここから街に戻るのも大変そうね」
「ん……少し考えが、あります」
そう言って、私は再び意識を集中させると、――ふわりとその場で
しばらくその状態でその場をくるりと回ったり、移動してみたりする。
うん、体に負担はない。
「これなら問題ない、かと」
「なんか……エルフっていうより妖精みたいね……」
普通に歩いたら、ちょっと歩くだけで干物みたいになってしまうのだ。
逆に、こうして浮いて移動する分には本当に快適で、これが本来の移動方法だと思ってしまうくらい馴染んでいる。
もしかしたらこのボディは、最初からこうするのが正しい取り扱い方だったのかもしれない。
「……っていうか、町中だと滅茶苦茶目立つわよ、それ」
「…………人目のある、ところでは、常時回復する形で行き、ます」
「それはそれで、すごいこと考えるわね」
……が、それはそれとして変に目立ちたくはなかった。
回復の方は最初光ったけれど、意識すれば光らずに回復できるらしい。
これなら、大変面倒ではあるけれど歩いても疲れはしないだろう。
「それで、どうするの?」
「どうする、とは?」
「これからのことよ! まさか、ここでずっと暮らして池の妖精になりたいわけじゃないでしょ?」
「街に行くのでは、ないの、ですか?」
「行くけど、そりゃ私は街に帰るけど――」
リンファは、びしっと私を指さして、言う。
「――
――!
私は思わず、目を見開いてしまった。
そうか、確かに。
「自由、なのですか。……私は」
「何? そこに疑問があるわけ?」
「あ、いえ……」
まったくもって、そのとおりだ。
自由なのだ、私は。
ちょっと体力が少ないこと以外は、健康極まりない若さを持った体。
何より、その体力不足をどうにかできるチート。
この世界で自由を謳歌するには十分すぎるほどの力を、私は持っている。
なら、そうか――自由に生きていいのか、私は。
「――ふふ、自由なのですね、私は」
そう考えると、自然と笑みが漏れていた。
「――――」
「……リンファさん?」
「ああ、いや……なんというか、色々と大変そうね、アンタも」
そんな私に、一瞬呆けた様子を見せたリンファさんは、すぐに気を取り直すとそう言って歩き出した。
「ほら、行くわよ! 街に行くんでしょ、どうせ!」
「あ、はい、です」
慌てて私はその後を追いかける。
突如として始まった異世界生活、何もかもが変わってしまった自分。
だけど、そんなことよりも何より――私は、自由を謳歌できることが嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。
ままならない系うすほそエルフが、異世界を自由に生きていくお話。
スロー気味ですが冒険もあるよ!