儚い系うすほそエルフになったので自由を謳歌する 作:うすほそ~(挨拶)
――かつての私は、狭い世界を生きてきた。
幼い頃は主体性がなく「言うことを聞くいい子」として育ってきた。だんだんと周囲から孤立していったが、いじめられるほど排斥もされていなかった。
親は大学に通わせてくれるほどには自分を気にかけてくれていたが、一度も授業参観には来てくれなかった。
就職することはできたが、社会で成功しているとはとてもじゃないけど言えなかった。
気がつけば、一人暮らしで家族はいない。
一度も故郷の外で暮らすことなく、四十路を越えた。
よく言えば、ありふれた普通の人生。
悪く言えば、価値があるとは到底言えない人生。
そんな人生を、送ってきた。
狭い世界で、居場所もなく。
不幸と呼ぶには恵まれていて、さりとて人生に活力を見出すことは到底出来ない。
それが私という人間の、浅はかでちっぽけな一生だったのだ。
しかし今では――
「これは……なかなかすごい、です」
「そう? ここはイオーニア王国の中でも比較的中規模な都市なんだけど、王都とか西の教国とかすごいらしいわよ?」
「見るもの全てが初めて、です」
「まぁ……それもそうか……」
こうして、異世界の街を誰に縛られることもなく歩いている。
レンガ造りの町並みは、如何にも異世界情緒を掻き立ててくれるものだ。
隣にはここまで私を連れてきてくれたリンファの姿。
このまま冒険者組合まで案内してくれるという。
大変ありがたい話だ。
「でもあんまりキョロキョロするのはおすすめしないわよ」
「そう、ですか?」
「だってアンタ、既に滅茶苦茶目立ってるもの」
ああ、うん。
それは確かに。
先ほどからずいぶんと、視線を感じてはいた。
「見ろよ、エルフだ。何だってラクシオの街にエルフが? 何かここで貴族のお偉方が会議でもするのか?」
「わからん、普通に観光かもしれんぞ。あいつら何考えてるかわからないからな」
とかなんとか、耳が良くなったのか聞こうと思えばいろんなことが聞こえてくる。
「エルフは相当めずらしいの、ですね」
「気にする必要ないわよ。でもまぁ、あんまり煩わしいなら、余裕ができたら耳を隠すローブくらいは買っておくべきね」
「そうし、ます」
目立つのは、あまり得意ではない。
今はまだ自分の容姿が他人のように感じられるから、客観視出来ている。
何より注目している人々も行動を起こすつもりはないようだ。
ただ、実害が出てくれば、すぐにでも用意するべき代物だろう。
考えるのは宿を確保して食費がどれくらいかかるか計算して、冒険者としての収益がどれくらいになるかはっきりしてから、だけど。
「それで、アンタはこれから冒険者になる……で、いいのよね」
「はい、お願いします、です」
「あはは、私にお願いされても困っちゃうわよ。でもまぁ、別にそこまで手間のかかることじゃないしね。魚のお礼ってことで」
魚は、二人で山分けということになった。
私一人なら回収しようとはしなかっただろうし、リンファさん一人ではそもそも採れなかったものだ。
自然とそうなる……と、私は思うのだけどリンファさんはそれじゃ釣り合いがとれないと考えているらしい。
いい人だ、この人に見つけてもらえたのは、本当に幸運だったと思う。
「――というわけで、ついたわよ。ここが冒険者組合。通称はギルド」
「冒険者ギルドとは言わないの、ですね」
「なにそれ、それだと冒険者組合ギルドみたいになっちゃうじゃない、ややこしいわよ」
そういうものか。
ここらへんは自動翻訳の都合かな。
初対面の相手とも問題なく会話できているけれど、なんとなく翻訳の癖みたいなものがある気がするのだ。
なんか、敬語が二重になってる気がする。
しますです、とか。
「じゃあ早速、冒険者登録なんだけど……」
ギルドの中は、私が想像している通りの見た目だった。
酒場、受付、依頼ボード、冒険者ギルドっぽいものがあちこちに満載だ。
人も多い、だいたいが武器を装備し鎧を身にまとっている。
荒くれ者が多いけど、女性の冒険者も案外多そうな感じだ。
これは……ファンタジーの町中を眺めるより、上がる。
「……冒険者にそんな憧れるなんて、田舎から出稼ぎに来た子みたい」
「あ、ごめんなさい、です」
「――いいのよ、私もそうだったから」
あ、からかわれている。
ウインクをされて、冒険者志望は大半がこうなるのだと教えてくれた。
周りもエルフが来たことに驚く者はいても、お上りさん状態の私を訝しむ者はいない。
とはいえ、一つ問題があった。
「――――え、リンファさん、こんな子を冒険者にするつもりなんですか!?」
受付嬢さんに、めちゃくちゃ驚かれたのだ。
「こんな手足ほっそほそで、今にも倒れちゃいそうで、スプーンより重そうなものを持ち上げることもできそうにない子に!?」
言われてみればそうである。
「あ、あーえっと……それに関してはうん、大丈夫だから」
「エルフの子ってことは、魔術師タイプなんでしょうけど……それなら大学につれて行きましょうよ! 知り合いがいるかもしれませんし!」
「それはー、……いやほんと、そうなんだけどー……」
リンファさんは、困惑する私に変わって私のことを擁護してくれている。
しかし、ぶっちゃけリンファさんの方も、私がひ弱であるという意識が頭の隅っこからぬけていたのだろう。
空を浮いたり、池を吹き飛ばしたり、好き勝手した印象が脳裏に焼き付いているようだ。
途中で干からびたけど、まぁ治したし……
「君も、ええとリリアちゃんだっけ……冒険者って本当に危険な職業なんだよ! 命だって落としちゃうかもしれない! 君なら、きっと他にもいい職業があるからさ!」
「もうナタリー、あんまりリリアに詰め寄らないで。……というか、完全に年下扱いしてるけど、彼女が年下な保証はどこにもないからね?」
多分……一応……年上だと思います……
リンファさんが想像してるほどではないと思うけども、もとは限界社畜なので……
とりあえず、リンファからはもう言えることもなさそうだ。
まぁ、私も少し混乱していただけなので、冷静になれば自ずと自分の考えというものはまとまってくる。
具体的に言うと、こうだ。
「――私には、記憶がありま、せん。エルフであるという自覚も薄い、です」
「うんうん、大変だったんだね」
「ここに来るまで、幾つか話を聞きました。エルフは、この街や国で……大きな役割を担っているのではない、でしょうか」
エルフが来たことで、貴族が会議をすることを住人が想起していた。
それくらい、権力とエルフの繋がりはつよいということだ。
具体的にどういう役割を担っているか走らないが、長寿で思慮深い種族がエルフということなら、
加えて受付嬢さん――ナタリーさんは大学に連れて行ったほうがいい、という。
ファンタジー世界の大学だ、おそらく前世ほど気軽に通えるものではないはず。
やはり、これも権力に繋がっているのだろう。
「……そういった束縛は、あまりこのみま、せん。私は……自由にいきたい、です」
「……!!」
もう、あんなブラック社畜生活はいやだ。
政府の高官とか、それこそ前世でもブラックオブブラック、やりがい搾取の地獄みたいなイメージが強い。
金があっても使う時間のない人生とか、どんな拷問だ。
いや、私の場合は金もないし使う時間もない人生だったけど。
であれば、なおのこと思う。
――絶対冒険者のほうが、いい!
なんだけど……
「ご、ごめんね……ごめんねリリアちゃん! 私、リリアちゃんのこと、何も考えてなかった!」
「え、あ、はい」
「そうだよ、当たり前だよ! 誰だって自由に生きたいよね! 私も、自由に生きてる人を見るのが好きでギルドの受付になったんだ!」
がしい、受付のテーブルを乗り出してきたナタリアさんに、腕を掴まれてしまった。
やばい、普通に痛い。
私のエルフボディが貧弱すぎる……!
く、こうなったら手に魔力を込める認識で……あ、楽になった。
「ようこそリリアちゃん、ギルドは貴方の冒険者人生を応援するよ!」
「……何か、変な誤解をあたえてはいません、か?」
「見た目のせいでしょ。ナタリアは思い込みが激しいのよ」
とりあえず、冒険者にはなれそうだ。
リンファさんと二人で、何とも言えない視線を交わしながらも、今後の生活の目処が立って私は一つ胸をなでおろすのだった。
若干受付嬢さんの名前を変更しました。