儚い系うすほそエルフになったので自由を謳歌する 作:うすほそ~(挨拶)
あの後、ナタリーさんを説得して冒険者になることには成功した。
めちゃくちゃ丁寧に説明されるし、困ったことがあったら言うよう何度も念を押されたが、それは置いておこう。
リンファさんからは冒険者としての仕事の説明をあらかた受けた。
ランクに関しては階級制、最初は七級で一番上は一級だ。
特急もあるらしい、あるかって聞いたら変な顔されたけど。
四級からが一人前で、それまでは戦闘系の依頼を受けられないらしい。
受けるかどうかは……どうなのだろう、私にきちんと戦闘ができるだろうか。
こればっかりはやってみないとわからないな。
それから宿に関しても新人の女性冒険者向けの宿を教えてもらった。
変な男にはついて行かないように、とも口酸っぱく言われたけれど、流石に私も男に狙われるのは勘弁なのでついていくつもりは全くないけれど。
それはそれとして、問題は結構多い。
ナタリーさんと同じ対応を、会う人会う人全員にされるのだ。
魚を売り払った時に対応してくれた人も、宿の女将さんも私を心配してくれた。
次の日にギルドへやってくると、年上のお姉さん冒険者パーティに声をかけられて、そこでも同じように心配されて。
大丈夫です、と何度言っても解放してくれず、リンファさんがやってくるまでずっと抜け出せなかったのだ。
まぁ、私の積極性が低いのが問題なのだけど。
「……こりゃ、まともに仕事をさせてくれるところはないわね」
「です、かぁ」
そりゃそうだ。
一応、冒険者は十二歳からなることができる。
だけど十五歳が成人のこの世界で、成人するまでの三年間はいうなれば見習い期間。
その間にできる仕事は、なんというか中学生の職場体験レベルだという。
賃金はもらえるけど、生活を成り立たせるにはまったく足りない。
そりゃそうだ、その年齢の子は親がいるのだから。
そうでない子も、基本的には孤児院などの施設で面倒を見てもらえるという。
が、私の場合はそうもいかない。
「ギルドには十五歳って届け出出しちゃったし、孤児院に保護を求めたらそのまま協会を通じて他のエルフのところに送られるわよ?」
「自立して、生活できればいいの、ですが」
子どもとして保護されたら、エルフのもとに送られるしかないものの。
ちゃんと一人の大人として生活できていれば、自分の意思でそれを拒絶することもできるだろう。
とにもかくにも、まずはちゃんと仕事をこなして、私が一人の大人であるということを認めてもらわないと。
こんなこと、前世じゃ考えもしなかったな。
就職すれば自然と大人として扱われ、正社員という立場があれば最低限の信用は得られた。
まぁ、実態はドブラック企業の社畜でしかないけども。
「……しょうがないわね。私の知り合いを紹介するから、その人ならちゃんと貴方を一人の大人として扱ってくれるはずよ」
「いいの、ですか!?」
本当に何から何まで、リンファさんには感謝してもしきれない。
こんなにも良くしてくれるなんて、リンファさんは本当にいい人なのだろう。
これで実は悪いことを企んでました、となったら困るけれど、今は頼る以外の選択肢がない。
とはいえ、ちょっと引っかかることもある。
どうして今まで、リンファさんは知り合いを選択肢に上げなかったのか。
何故頭に「しょうがない」とつけるのか。
理由は――
「ただ、あの人はなんていうか……厳しい人なのよ。これまであの人の店で働いた冒険者は……全員逃げたわ」
「ああー……」
それは。
やばい。
どうして異世界に来てまで、パワハラと戦わなくてはならないのか。
なんて考えも頭をよぎる。
まぁでも、うん。
「……多分大丈夫だとおもいます、です」
「……健闘を祈るわ」
――というわけで、私の冒険者人生初の依頼は、若干暗雲立ち込める雰囲気を出しながらもスタートするのだった。
○
――その依頼は、かれこれ一年ちかくずっっっっと依頼ボードに貼り付けられていたらしい。
持っていったら受付のナタリーさんがめちゃくちゃ驚いた。
でも、昨日のうちに説得を済ませていたので、何とか受注に成功。
その後は色々と依頼に関する説明をナタリーさんから受けた後、目的の場所へと向かうことと成った。
目的地は、「グラリエ商店」。
仕事内容は、店の雑務。
こういう依頼は七級の新人向けとして数多く存在し、これもその一つ。
どうも、冒険者っていうのは見習いくんたちの将来的な就職先斡旋も兼ねているみたいだな。
冒険者としての才覚がなければ、見習い時代に作ったコネで就職し、そっちの道に進むのだ。
まぁ、私は自由な冒険者稼業に魅力を感じているし、せっかくのチートボディを活かして暮らしていきたいのだけど。
「――ふぅん、リンファからの紹介かい。ったく、あの子もまた厄介なガキを抱え込んだもんだね」
「よろしくおねがいします、です」
――で、出てきたのはなんというか……どこをどう切り取っても偏屈としか言えない老婆だった。
あまりにもコテコテすぎる雰囲気のグランマである。
確かにこういうタイプは厳しいは厳しいんだろうが……アレだな。
「それで、アンタ文字は読めるかい」
「よめる、です」
正確に言うと、魔力を使って読めるようにした。
最初は読めなかったのだが、集中すると文字が私の視界の中でだけ日本語に置き換わったのだ。
逆に、意識しながら手を動かすと文字がわからないのに勝手に手が動く。
何とも便利極まりない話だ。
「なら、その見てくれでも多少は役に立つかね」
「力仕事もでき、ます」
「ああん?」
うおお、すごい眼力。
だけど、このくらいの圧力じゃ私は折れない。
何しろこの老婆――店の名前と同じグラリエという名の婆さんは、決してこちらを嫌ってはいないのだ。
「まかせてくだ、さい」
「……そこまで言うなら、やってもらおうじゃないか。んじゃあまずは、商品の運び込みだけだよ。わかんないことがあったら、ちゃんと聞きな」
――それから、グラリエ婆さんの言うことを聞きながら、色々と作業をした。
荷物運びは当然のように魔力で身体を強化して、疲れたら都度回復を挟みつつ。
書類仕事は、わからないことを教わりながら。
デスクワークにはそこそこ慣れているつもりだったが、サービス業の事務仕事はなかなか新鮮だ。
無論、パソコンとか使わない紙の仕事だから、というのもあるけれど。
それにしても――
「すいません、ここがわからない、ですが」
「あん、そこかい? そこはね――」
――すごい、聞いたらちゃんと答えてくれる。
私がグラリエ婆さんを恐れないのは単純だ。
前世の話通じないパワハラ上司と比べたら全然怖くないからである。
自分の気分だけで人を嫌って、一方的に理不尽を押し付けてくる御局とも違う。
わからないことはわかるまで教えてくれるし、わかれば不器用に褒めてくれる。
なんというか、一言で言うと――
――仕事って、こんなに楽しいものだったっけ?
無論、基本的に物言いは厳しいし、求められる仕事の水準も七級としては高い方なのだろう。
その分給料はいいのだ。
多分、依頼を受けた冒険者が逃げてしまったのは、このグラリエ婆さんの表面上の厳しさに耐えられなかったのと――彼らにとってこの仕事が逃げてしまえばそれで終わりのものだったから。
だけど私にとっては、ここを逃げたら次がない。
リンファさんの顔に泥を塗ることにもなってしまう。
それだけだと精神的に追い詰められていた社畜時代と何ら変わらないけれど、それだけじゃないのだ。
「――へえ、やればできるじゃないかい」
そうやって、ぶっきらぼうながらも褒めてくれるグラリエさん。
ふってわいたエルフの力とはいえ、自分の力を認められるというのは、とても心地よいのだ。
成功体験、というやつか。
ああ、一体、そんな感情を覚えるのはいつ以来だろう。
もしかしたら、これが初めてなのかもしれない。
異世界に来て良かった。
単純な私は、すぐにそんなことを思い始めるのだった。